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第2話—貴族の養子になりました—

 俺のこれまでの人生はこれと言って悪いものではなかった、では充実していたのか?と言われれば答えはノーだった。友人は居るが多く居るわけではない、彼女は勿論のこと生まれてこの方いた事がない、頭脳も運動神経も普通、ただ人間関係の不運が強くいくつものバイトを転々としてきた、ということ以外は普通のフリーターである。

 そんな俺でも一応願望はある、それは『異世界に行ってみたい』という大体のオタクの人が一度は夢見ているであろうロマンの塊、そしてそれは絶対に叶わない夢に俺も憧れていた。

 

 なんでいきなり自分の生い立ち回想みたいなことしているかって?だってこうでもしてないと頭がパニックになってなんか泣きそうだからだよ!いくら俺が異世界に憧れてるからって言っても半ば強引に異世界に連れてこられ、挙句の果てには転送装置が壊れて一生元の世界に帰れません、なんて島流しならぬ異世界流しみたいなこと急に言われたら恐らく誰でも混乱して泣きたくもなるだろう。

 あぁなんか泣くを通り越して笑いが出てきそう…。


 「昨晩見た時には何ともなかったんだが今朝テーブルを見たら粉々に砕けていた…原因は恐らく長年使ってたから寿命尽きたのだろうな」


 いやそんな「うちの家電製品ついに寿命か~」みたいなノリで言わないでくれ余計に泣きたくなる…。そう心の中で思っていると魔王さんが「そこで、だ」と言い椅子から立ち上がりこちらに向かって歩きながら懐から一枚の紙を出して俺の前に置いた。その紙には謎の文字がぎっしり書かれていて、俺はそれを手に取りながら疑問に首を傾げていると魔王さんが「あぁこちらの文字が読めないか」と言いながら眼鏡を渡してきた。どっから出てきたんだその眼鏡…と疑問に思いながら受け取り眼鏡をかけた、そしたらなんとまぁ!紙に書かれていた謎の文字が日本語になっていた。


 「その眼鏡はかけた者が普段認識している文字に変換してくれる魔法物マジックアイテムだ、それならその契約書も読めるだろう」


 そういや魔王さんが秋葉原で漫画の試し読みとかしてるときだけ眼鏡かけてたな、あれはこちらの文字に変換して読んでいたのか…ん?今さらっと言ってなかったか??聞き間違いでなければ契約書って言ってた気がするんだが…。


 「契約書?」

 「そうだ、お前には元の世界に帰れないという取り返しのつかない事をしてしまったからな、その責任として俺がお前を養おう!…と言いたいのだが魔王が人間を養う、そんな事をしたら他の魔族の者たちに示しがつかないからやめてくれと言われてな、ならばせめてと俺が最も信頼している貴族にお前を養子として受け入れてもらえないかと頼んでみたが…」

 「駄目でしたか」

 「いや、了承を得られたから後はお前がここに指印を押すだけで成立だ」

 「…ちなみにこれ断ったらどうなります?」

 「その時は、すまないがこの国を出てもらって一人でなんとかしてもらうしかないな、そうしないとこの国の者ほとんどが人間に対しては敵対心しかないから上位族の名が無い状態でバルート街に長居してたら恐らく殺されるぞ」


 極端!そして物騒!そんなの選択肢一個しかないのと変わらんやん…この世界の知識皆無で一文無し、文字も読めなければ魔物と戦う力さえない、そんな俺が街の外に放り出されたらどのみち死しか待ち受けていない。それならこの契約を受け入れて生活した方が断然良いと思い改めて契約書を再確認して置かれていた朱肉に指を浸け他の字より少し大きく書かれているハルアキ・イクティノスという文字の横に印を押した。


 「うむ!確かに印を確認した、ではこれからはイクティノス家の長男ハルアキ・イクティノスとして歓迎しよう!」


 なんか用意周到すぎて新手の詐欺にかかっている気分がしたが何となく魔王さんは仲間や親友を騙さない謎の信頼感を感じてたのでその直感を信じた、それに何もせずに野垂れ死ぬのは嫌なので俺は今日から『イクティノス家長男ハルアキ・イクティノス』として魔国バルートで生活することになった。

 

 「では早速だがイクティノス家の屋敷に案内するか、ハルアキついて来い」

 「ラインハルト様!?そのような雑用は私達がいたしますのでラインハルト様は謁見の間でこの後の準備をしていてください!」

 「あいつが来るのは昼過ぎだろ!その間の三~四時間謁見の間に居ても退屈すぎるから別にいいだろうが」

 「しかしお言葉ですが異世界から来たとはいえ、何の力も無いただの人間を王自らが案内するのはいけません!」


 若めの執事がそう発言した瞬間、場の空気が一瞬で変わった、周りのメイドや執事さんたちが「こいつなんて事やらかしてるんだ」というオーラを出しながら顔を少し俯き若干怯え、いった本人も発言した後はッと顔を青ざめていた。魔王さんの隣にいた俺も急に気まずくなって胃が痛くなってきた…。


 「ほう?お前は昨日オレが言った事を忘れてるのか?」

 「い、いえ!『俺の大親友ハルアキが遊びに来た、丁重にもてなしてやれ』と一言一句覚えております!」

 「ではお前はそれを知っていて俺の親友を馬鹿にしたわけだな?それを看過するほどオレは愚かではないと知っているはずだが?」

 「ひっ!ままままま誠に申し訳ありません!!」


 なんかもう今にも失禁して倒れそうな程に顔が真っ青になって震えてるのを見て流石にいたたまれなくなって魔王さんをなだめた。俺もまだ怖いけど…


 「ま、まぁまぁ魔王さん落ち着いて、彼はあなたを心配して言っただけだから怒るのはそれぐらいにして屋敷への案内お願いしますよ魔王さん」

 「むぅ、お前がそこまで言うのなら今回は許そう、だが二度目はないからな、決して俺の大親友を侮辱するなよ、分かったか?」


 そう言うと若め執事が「は、はいぃ!肝に深く命じておきます!!」と言いながら頭を勢い良く下げた、その時ブォンと音が少し鳴った事に俺はビックリした。魔王さんが部屋を出たので俺も近くにいたメイドさん達に「ご、ご馳走様です…」と一言言い食堂を後にした。


 「先ほどはすまん、どうもオレが信用してる奴を無下にされると許せなくてな、魔王は常に冷酷で部下や他人を道具として扱えと意識しているのだがどうも割り切れない悪い癖だ、しかも奴は蝶ネクタイが青色だったからどうやら新人だったみたいだし少しやりすぎてしてしまったな…」

 「仲間思いなのは良いことですよ、そういう人には部下とか自然に集まってきますからね」

 「うーむ、そういうものか…」

 「あと質問なんですけどメイドや執事にも位があるんです?」

 「ん?あぁあるぞ、さっき言った青色が新人、赤色が一般、黒色が長だ、それがどうしたんだ?」


 ていうことはマリーナさんのリボンは黒色だったからまさかのメイド長だったのか、どうりでオーラがあったわけだ。

 そんなやり取りをしながら大きな玄関口から外へ出て「実は…」と言いかけた時だった。

 ガシャーン!とガラスが割れた音が庭先で聞こえてきて何事だと思って割れた音がした方を見ると、黒髪のメイドが居てその足元には割れた花瓶が転がっていた。

 その黒髪メイドはあわあわしながら後処理をしようとしていたら近くにいた他のメイドに「あんた何回やらかせば済むんだよ!これだから奴隷人は…」と怒鳴っていて、黒髪メイドは「ごめんなさい、ごめんなさい!」と謝罪ロボットのように謝り続けていた、魔王さんが「騒がしくすまないな」と言いそのまま門へ歩いて行き城を隔てる門を開けた、その黒髪メイドが気になっていたが魔王さんがそのまま門をくぐってしまったので急いで後を追うしかなかった。

 さっき奴隷って言ってたけどやはりこの世界は奴隷制度あるんだなぁ、そう思いながら俺も門をくぐり城の外へと出た。

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