プロローグ2―異世界訪問も突然に—
魔王?マオと聞き間違えたか?そう思いもう一度確認をしてみた。
「えーっとマオラインハルトさんですか?」
「違う!マオではなく魔王だ」
聞き間違いではなかった、まぁ世の中には色々なハンドルネームがあるから魔王ラインハルトさんがいたっておかしくはないか、そう半ば強制的に自分に納得をさせた。
「すいません、魔王なんて珍しいハンドルネームだったので聞き間違いかと思ってしました」
「ハンドルネーム?まぁ魔王と聞いて確認してしまうのも仕方ないか!」
ハッハッハッ!と笑いながら背中を叩いてくる魔王さん、てか叩く力が強くて普通に痛いんだが!?
でもきっと魔王が大好きな人なんだろうなぁ、だから外見すらそれっぽく真似して口調すら似せているその徹底ぶりに正直尊敬すらしてしまう。
「それでは魔王さん、改めてよろしく」
そう言い握手をするために手を差し出すと
「魔王なのにまったく恐れないどころか気安く握手まで求めてくるとは度胸のある男だなお前…だがそういう男は嫌いではない、こちらこそ今日はよろしく頼むぞ」
そう言うと快く握手に応じてくれた、さっきみたいに力強く来るかと構えていたが握られた手から痛みはこなかったので少し安心した。
こうしてお互いの自己紹介を終え、改めて魔王さんに秋葉原を案内を始めたのであったがそこからの魔王さんはとても大変だった、行く店行く店の漫画やグッズ、店頭用PVを見るたびに興味津々に眺めたり漫画試し読みを手に取り食い入るように読んだりと1つの店に1時間以上居るほど熱心に見て回っていた、その時の俺はというと少しでも目を離すと勝手にいなくなって大変な目にあったので常に隣に居て「これはなんだ?」と聞かれる物を説明する係に任命されていた。
中でも一番に魔王さんが驚いていたのはサイリウムだった、お試しのサイリウムを見て魔王さんが
「この棒は何に使うんだ?魔術の杖にしては少し太いが」
と聞いてきたので、ほんと役に徹底してるなぁと思いつつサイリウムの電源を入れて説明してあげた。
「このボタンを押すと電源がついて光るんです、これを振ってアイドルとか好きな歌手を応援したり盛り上げたりするんですよ」
そう説明し光っているサイリウムを渡すと魔王さんが興奮気味に俺に詰め寄り
「お前魔術が使えるのか!?というかこの世界にも魔法があったことに驚きだ!」
「俺は魔法なんて使えませんし、残念ですがこの世界に魔法は存在すらしてないです」
「そうなのかそれは残念だ、もし魔術が使えるなら是非ともこの街をゲートに繋げていつでも行き来したかったのがな…」
なんかよくわからん事をがっかりしながら呟いていた。でも魔法かぁ、もし本当に魔法なんて使えたら俺の人生もう少しまともな物になっていただろうなぁ、そんなネガティブ思考をしていたら魔王さんがこんなことを聞いてきた。
「魔法ではないのに光るこのサイリウム、気に入ったから是非手に入れたいんだがいくらなんだ?」
そんなに気に入ったのかサイリウム…でも魔王さんが持ってると本当に魔法が出そうな雰囲気があるな、そんなこと思いつつ、それなら三千円ぐらいで買えますよと言ったら
「円?この世界ではそんな通貨なのか、銀貨とかは使えないのか?」
「え?あっはい銀貨とか一切使えないですね」
嘘だろ?まさかお金すら持ってないのかこの人は…普段どうやって暮らしてるんだよ魔王さん、と思っていると少し残念がりながら魔王さんが
「そうか、こちらの硬貨類が使えないなら仕方ない諦めるか…」
そう言い名残惜しそうにサイリウム売り場から去ろうとしていた。その背中がまるで本気で欲しかった物が買えなかった人の哀愁漂う背中に見えてしまってこっちまで虚しくなってきた、仕方がないので買ってあげるか、幸いにも昨日バイトの給料入ったばかりだからまだ余裕あるし折角秋葉原デビューしたのに金がなくて虚しい思い出にさせたくはないし。
「魔王さん、このサイリウム代俺が出しますよ、秋葉原デビューのお祝いって事でプレゼントします」
そう言うと魔王さんが勢いよくこちらに振り向き、良いのか!?と聞いてきたのでいいですよと、サイリウムの箱を手に取りレジで会計しそれを魔王さんに渡したらまるで国宝でも貰ったかのように喜んでいた、サイリウム一つでそこまで喜べる人初めて見たわ。
そんなこんなで俺が行く店を回り終えたころには夕陽がほぼ沈み終えていて寒さも少し増してきた。魔王さんも満足した様子で買ってあげたサイリウムをずっと小刻みに振っていて隣に居た俺は恥ずかしいから少し止めてほしい気持ちがあった。
「いやー今日はとても有意義な時間を過ごせた、改めて礼を言うハルアキ!」
「いえいえ買い物ついでなので大した事ではないですよ、それに魔王さんがあんな楽しそうにしていたら案内した甲斐がありましたよ」
「それでだ、お前にサイリウムを買ってもらった恩もあるから是非お礼をさせてほしい、何か欲しい物、もしくは願望はないか?俺が1つそれを叶えてやる」
なんか急にそんなこと言われた。欲しい物?願望?そんなのありすぎて選べないし、そもそもそんなの叶えられるはずがないからきっと魔王役になりきった言い回しなのだろう。でも今日初めて会った、というより強制的に引き留められた相手に何をお願いすればいいんだ?と考えてふと思った、逆に相手のノリに乗ればいいんじゃないかと、そうすれば相手もそれっぽい対応するだろうと。
「それでしたら今度は魔王さんの世界に行ってみたいですね、どういう世界か気になりますし」
後から思い返してみればそんなはずあるわけない、この時は若干の寝不足と魔王さんに振り回されて思考が低下してたので謎のノリと勢いでいける理論でいける気になっていたのだ。
すると魔王さんが目を見開き嬉しそうにこう言った。
「本当か!ならば今から俺の世界に連れて行って俺の城で盛大にもてなしてやるぞ!!今この異世界転送装置を設定しているから数秒待て」
そう言い魔王さんが懐からスマホサイズの真ん中には赤い水晶みたいなのが嵌まっている
石板に手をかざし何かを唱えている。
「え、何してるの魔王さん?なんで魔王さんと俺の足元赤く光ってるの?なんで魔王さんと俺少し浮いてるの!?」
突然の出来事に半分混乱していると魔王さんが俺の腕を掴んだ瞬間目の前の景色がタクシーが並ぶ駅前から急にまるで高い建物から見る夜景に変わっていた。俺は急な変化に驚き隣にいた魔王さんの方に無言でゆっくり振り向くと魔王さんがこう言った。
「ようこそ俺の住む『世界』、そして我が魔王城へ!」
こうして俺は本当に魔王さんの世界、『異世界』へ来てしまった。
これにてプロローグ編が終わり次回から異世界での物語が始まります。
至らない部分が多いと思いますがどうか温かい目で見守ってもらえるとありがたいです、では今後ともよろしくお願い致します。