黄色とシェルター
目がさめると錆びた黄色の天井が構えていた。
自分が硬い床の上で寝ているのを背中で感じる。
寝転がった状態ではどの程度の高さがあるのか腕を伸ばしても測りきれない。伸ばした腕を下ろし、ゆっくりと考える。
どこだろう?
起き上がって見るとこの部屋は自分の学校の教室の半分もないことがわかった。
見回すとこの全ては濃淡がある山吹き色で塗りたくられてる。不思議なことに出入り口がない代わりに、謎の金属製のロボットが立っていた。
ん?ロボット?
扉がないことも異様なことだが、このロボットが何よりも異様さを醸し出している。
怪しげなロボットののっぺりとした顔のパーツのないディスプレイの顔をじっと見てたいたら、いきなりロボットはウィーーーンという古い機械が起動する時のように大きな音を立てて動き始める。
こっちに向かってくるみたいだ。
たまらず一歩だけ後ずさりしたが、ロボットはそんな僕の行動は意に介さないというようにずんずんと前に進んできた。
そうしてロボットは僕との距離を後一歩まで縮めた。そこまで来て僕に何かするでもなく、停止した。するとディスプレイが光り始め、画面内に砂嵐が吹き荒れる。
砂嵐が止まるとブラックの背景に(O_O)こんな顔文字が浮かび上がった。
なぜ顔文字。
そして、ロボットは僕に対してこう言った。
「おはようございますキズキくん。今日はとてもいい天気ですね。」
ロボットは上を向いて(⌒▽⌒)こんな顔文字を表示した。まるでSFみたいな状況とロボットから流れたロボットらしからぬ挨拶に戸惑う。
というか、全面くすんだ山吹き色だというのに何がいい天気なのだろう。
「……あの、ここから出たいんですが。」
能天気なロボットにこんなこと言うのは少し恥ずかしいが、この立方体の空間から出るヒントとなるなら仕方ない。
「あれが扉です。」
(O_O)。真顔だ。
マジックアームのついたブリキな腕をまっすぐと僕の方に向けてきた。
「ぼ、僕?」
「違います。後ろです。」
ここから出る扉は君の心の中です、みたいな。そんなことを言われてると思った自分がとても恥ずかしい。
f^_^;
やめて!そんな顔文字うつさないで!
「気を取り直してください、キズキくん。」
ロボットに慰められるだなんて……
それにしても何で僕の名前知っているんだこのロボット。気になるが、それは一旦置いといて後ろを振り返る。扉らしきものが全くない。やっぱりあるのはのっぺりした山吹き色の壁。
しかし、よくよく見てみると小さな四角いくぼみが空いてる。
「……これ?」
「そうです。」
僕がくぼみを指差すと、そうですそうですとロボットは2度頷いた。このロボット感情表現が豊かだな。普通に考えたら、中に人がいるかどこかから操っているんだろうと思う。
夢のない話だけれど。
「ここからどうやって出るっていうの。」
「鍵を使えば開きます。」
鍵?もしかしてそれはこのくぼみにはめる鍵だろうか。そう考えるとこの四角いくぼみにはめる何かがあるはずなのだが、どこか見逃しているのだろうか。
「キズキくん。ここから出るのはお勧めしません。外は危険がいっぱいです。」
ロボットは>_<こんな顔文字を表示させた。ここのほうが危険だと思うのだけれど、だいたい酸素とか食料とか大丈夫なのだろうか。完全に密閉されてるらしく、穴の一つも見つからないし、これが誘拐だとしたらかなりスケールのでかい誘拐犯だと思う。
その可能性は低いだろうと自分の頭の中で答えたが、ちょっとだけ不安が残った。
「……外に出たいから鍵をくれない?」
「鍵はキズキくんが持ってます。」
どういうことだろう?
僕が持ってる?ポッケの中を探してみるもやっぱり鍵らしきものはない。落としたのかもしれないと床に這いつくばって探したが欠片もない。
「ないじゃないか。」
「あります。ですが、出ないみたいですね。だからまだ出れません。」
ロボットは>_<の顔文字を継続して表示し続ける。何が出ないんだ?僕か?何を言っているかわからないので、他のことを聞こう。
「一体外には何があるのさ。」
「何もないです。家族も友達も家も地球も全て消えて無くなりました。」
???
こんな壮大なSF映画みたいなことを普通の人間に言われたのだったら一笑に付していたが、まさにSF映画なロボットの合成ボイスで言われれば途端現実味が溢れる。直後に誘拐犯かもしれないという不安よりも大きな塊が僕の胸を圧迫した。
「消えて無くなったってどういうこと?」
「20XX年、地球は核の炎に飲み込まれました。全ての生物の約9割が死滅したにもかかわらず人類の争いは途絶えませんでした。それで何やかんやあって地球は消えたのでした。おしまい。」
何だその適当なあらすじは。
大雑把だが、やけにしっくりくる。しかしじゃあこの部屋は何なんだ。どこにある?
「ここはシェルター。キズキくんを守るための施設、私は超合金ロボットのレモン1号です。」
シェルター。宇宙空間のどこかを漂っているシェルターだろうか。そしたら、このロボットーーレモン1号は何の役目があるんだ?僕のお世話がかりとか?食事とか準備してくれるんだろうか。
「レモン1号は何のためにここにいるの?」
「はい。私はキズキくんが退屈しないための友達係です。」
友達係?滑稽な役職だな。このロボットは一緒に遊んでくれるとでもいうのか。
「遊びましょう。私はオセロ、将棋、しりとり、チェス、検索など多種多様な遊び道具が内蔵されています。」
ラインナップがどうもインドア。そんなブリキの人型の体裁なのにかくれんぼや鬼ごっこはできないなんて。いや、こんな狭い部屋でやっても無駄か。
「キズキくんーー
何して遊びます?」
あれから何日が過ぎただろう。
いろいろなことをやった。レモン1号の顔である画面にいろいろなゲームを映し出してきた。手始めに将棋をやってみたが、レモン1号は打ち間違いや待ったがひどかった。何度もやって少しずつ強くなっていったが、勝つことはなかった。
チェスは将棋のデータを基にしてか少しだけ強く感じたが、やっぱり勝つことはなかった。
そんな中、レモン1号はオセロで圧倒的な強さを見せた。五分五分で負けるかが僕だった。
検索能力を使ってみれば、レモン1号の画面に某サーチエンジン的な文字でLEMONとタイトルロゴが打たれていた。何が検索できるだろうか、色々と実験してみた。
【超合金ロボットレモン1号】
→シェルターの中にいるキズキくんの遊び相手。そのボディは超合金で出来ていて、とても優秀なロボット。
【キズキ】
→13歳。シェルターの中で安全に生活している男の子。
【シェルター】
→地球が消え、ただ一人キズキくんだけを守っている箱。無の空間を遊泳中。鍵はキズキくんが持っている。
シェルター内のもの全てを検索してみた。
その説明は簡単で短いものばかりだった。レモン1号の記述が多かったのは本人が書き換える、又は書いているからととることもできる。
僕の記述は少なかった。ここに来るより以前のことも書かれていない。今ここに閉じ込められてるという情報だけ。それとーー
鍵を持っているのは僕。
全て探したはずだ。どこにある?
まさか、頭の中に埋め込みましたなんていう、エイリアン的な何かか?このロボットも空間もエイリアンが作った実験施設、なんてのもありえそうな話だ。もし本当に地球がなくなったというのなら。
【鍵】
→??????????
つかえない。
いや、鍵を見つけてどうする。
もしこの外が本当に宇宙だったら、何にもなかったら、意味がないじゃないか。
「ここから出る意味も、希望もない。」
心の底から出た冷え切った声だった。
少し何か嫌なものを思い出してきた。それを拭おうと必死で忘却しようとしているとレモン1号は僕の前に仁王立ちした。
「そんなことはありません。外に出る意味も希望もあります。」
ぽつりとつぶやいた一言にレモン1号はかぶせるように言った。しかしその被さった声は確かに明瞭だった、それが僕の何かのトリガーを引くほどには。
「外は何にもない宇宙なんだろ?そしたら外に出る意味も何もないじゃないか!!」
突然怒りが溢れた。
何にもない。誰もいない。外にあるのは関係のないものだけ。僕の関係は部屋の中だけなんだ。それなのに希望なんてあるわけない。
「あなたから宇宙に出て行けば、宇宙の中に希望は見つかるはずです。本当に外に出たいという思いが、この部屋からの出る鍵です。」
「外の何が僕の希望なんだ!?みんないなくなった!親も友達も全て消えた。もう僕の希望もありはしない。これからは何を頼ればいいんだ………」
「それでも外には希望はあります。」
「それでもあなたをきっと導いてくれる希望はあります。」
(*`へ´*)レモン1号は怒るように優しく告げた。真っ暗な宇宙にも星があるように、何もない世界にも希望はあるだろうか。
僕は何かに会えるか?僕にとっての希望はこのシェルターの外に、宇宙の外に……
手の中に黄金の四角いピースが現れた。
金色のピース。これが鍵なのか?
壁に寄りくぼみに触れる。間違いなくこのピースが鍵だ。
「本当のところは出ないほうがいいと私も思いました。ですが、キズキくんの決心がついた今、私の判断など無意味なのです。他人を頼るだけでなく、自分で決めるのです。」
「だから、胸を張って外に出てください。」
レモン1号はヾ(@⌒ー⌒@)ノこんな顔を浮かべている。
僕はレモン1号の顔を見た後、壁にピースをはめ込んだ。部屋はいきなり金色に光り出した、目がくらむほど眩しい光が僕を覆った時。レモン1号の声が聞こえた気がした。
朝目覚める。
何か夢を見ていた気がするが、よく覚えていない。母が地震で死んで、父が地下鉄で行方不明になって、友達も何もいない田舎のお爺ちゃんの家に住むことになったけれど、不思議と今はもう不安じゃない。
今はもう。
希望があるから。
夏休みが終わって、いざ学校が始まる時緊張することがありませんでしたか?
友達にどのツラを下げて合えばいいのかわからなくなる現象。
アレのことを私は勝手に長期疎遠症と勝手に名付けています。ああいうのも一種の鬱病認定されるんですかね?小さすぎてカウンセラーさんも毛細血管に針を通すような感じでしょうね。
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