水色と水族館
今は夜の何時だろうか。
月明かりだけが照らす寂れた公園。俺の他に誰もいないから見渡せる範囲は期間限定で俺の支配地だ。ブランコは何十年も前に作られたようで、俺の足場を支えている滑り台は錆び付いてザラザラとしている。砂の城のようにいつ崩れてもおかしくないように思わせるが、何度蹴ったってちょっとばかり揺れるだけ俺の足裏の方がダメージを受けるほどだ。つまり砂でもなければ城でもない。
そのことはわかっているはずなのに何度も確認してしまう。心配性すぎて石橋を叩いて渡るを実践してしまうわけだ。
しかし、展示品を設置し終わったばかりの叩いて渡ろうとすると返って台無しになってしまうだろう。何しろ俺の作った展示品は水族館だからだ。
水棲生物でなくても全ての生物の必需品、それも水族館となればその神聖な【水】を失うわけにはいかない。
しかし、そう思うと余計に手のひらでそれを触れてしまう。失うまいと身体が反射的に右手の五指でその全てを包もうとするが、もちろん収まるわけもなく水槽についた液体でキュッと音を立てて滑るだけだった。
勢いよく滑らせたせいで少しだけこぼしてしまった。昔からの癖で水族館に行くと手をついて見入ってしまう。そのせいで最初はよく展示品を台無しにしてしまった。
僕が作り上げた大衆の目を引くためだけの水族館
雲の合間に隠れていた月が不意に表に出てきた。明るい舞台に出てきた水族館はキラキラと輝いた。いつもの水槽は血煙が漂っていかにも公園という平和の象徴には似合わない色を醸し出している。そしてメダマの動物はーーー
猫だ。
水槽の中に首をばっくりと口裂け女のように裂かれた猫が少し赤くなっている水に浮かんでいる。猫の死体はまだ新しく腐敗の兆候は匂い以外では見て取れない。インパクトがあるだろう、決してただの猫の死体単体ではニュースになるほど大衆の目や心を引かないだろう、それが俺の用意した完璧な舞台とともに飾られることによって初めて世間は事件として大いに注目してくれる。最初の頃は猫や鳩の死体がぎゅうぎゅうにならないよう適切な大きさの水槽を探し出すのに手間がかかった。しかし、今となってはこのサイズでよかった。狭いように見えて一番収まりがよくバランスがいいまさにベストな水槽だ。
さて、顔を見られる可能性のないうちに帰るか。
やっと照らされ、一時的にも準最高状態になった水族館を独り占めできたのはある種背徳感があるが別にそれが一番ではないのだ。例え、明日には撤去され2度と目にできない今生の別となろうとも。俺の目的は大衆の目に長く触れることの一点だけだ。
とはいえ今生の別、惜しみながら手が離れる直前まで水族館に触れ続けた。滑り台を降り、手を近くの水道で洗ってその冷えきった手をポケットに入れながらそのまま家に帰った。
一時。さすがにこの時間に堂々と家に帰ることはできない。完全に門限を過ぎているが、みんなは俺を先に寝たと思っているだろうが念には念を入れて忍び足でリビングに向かう。匂いが染み付いてしまったコートを丸めながらドアを開ける。
「ーーーー?!」
ドアを開けると、なんと弟がリビングでマグカップ片手にテレビを見ていた。
なぜこんな時間まで起きているのか?
なぜおれはきずかなかったのか?
そんな疑問をぶつりと断ち切った俺は必死になってどうして俺がこんな時間にコートを着て、外に出ていたかの理由を僅か数秒にも満たない間に脳が焼ききれそうになる程模索した。その結果出てきたのは――――歯切れの悪い苦笑いだった。
「おかえり。……別に僕何にも知らないし、なにも見てないよ。なんか、コーヒーでも淹れてあげようか?」
物分りのいい弟というか単純に優しい弟だ。全てをいいように解釈してくれたらしく、見なかったことにしてくれるらしい。しかし、これで貸しができるのは少々厄介だったかもしれない。
「?ねぇ、コーヒーいるの?いらないの?」
「ーーーあ、あぁいるいる。コーヒーじゃなくて紅茶はないか?ミルクと砂糖いっぱいで。」
ついつい深く考えすぎたらしく、ワンテンポ遅れて返したことを不満気にこっちを見てる。そして、ムスッとした顔で弟はこう言った。
「ないよ、コーヒーしかない。」
驚いた事に買いだめしていた紅茶パックは切れていたらしい、スティックタイプの方もだろうか。そういえば最近はまだあるから大丈夫だと思って買い足してなかったような気もする。
驚きで固まっていた俺が弟の方を見るとなぜか目を逸らされた。
「じゃあ、ホワイトコーヒーで。」
「コーヒー牛乳でも作れっていうのか?砂糖とミルクは入れとけばいいのね。」
なんやかんや要望に応えてくれる弟のことが俺は普通に好きだ。しかし、今度からはあまり夜更かししないように注意しないとな。弟の健康にも悪いし、俺も毎回居られたら心臓がもたない。
袖に染み付いた黒っぽいシミを隠すように腕組みして待っているといつもより手こずっていたようだが、少しして出てきた。
「はい、どーぞ。」
機嫌が悪いのか、苦虫を噛み潰した顔をしている。いや、あれは自分の嫌いな食べ物がレストランで出てきた時の顔だ。さすがに残せず、今みたいな顔してもぐもぐ食べる弟を笑いをこらえながら見るのが好きだ。
「……いただきまーす。」
グイッと一気に飲めたらカッコイイのだろうが、そんなことしたらさっきまで100度を超えていた今も灼熱であろう水溶液によって軽度の火傷を起こすのは目にも舌にも見えているので、猫のようにちびちびとコーヒーを飲む……いやこの表現はコーヒーを飲むときにはあまり適さないな。展示したばかりで記憶も鮮明だからな、思い出しながら飲むだけであの異臭がフラッシュバックして不快感を与える。苦い。
「ーーーー?」
なんだろうか、眠くなって、きた。
睡魔を感じると同時に視界がまるで魚眼レンズで覗いたかのように歪んで行き、水色っぽく視界が染まっていく。だんだんとモノは形を失っていき全ての輪郭が消えて文字通り水色一色の水の世界となった。
なんだこれは……なんて思う暇もなく水の世界は深海に沈むように暗くなっていった。その時、一瞬暗闇の中に巨大なサメがこっちに向かってきているような錯覚を起こした。
明転。どのくらい深海のような闇の中にいたのだろうかはわからない。一瞬だったのかもしれないし、1日くらいかもしれない。意識を失っていたのだろう。その原因を突き止めるすべがないことをひとまず確認したが、大体察しはつく。
疲労だろう。
このところ朝は学校やらピアノの練習やらでてんてこ舞いなのに対し、夜は展示品の創作のやら展示やらだ。倒れても無理はない。
無理はない。
無理はないのだが
「さすがにこれはおかしい……」
目の前に広がっていたのは巨大な水槽。ビル2階分くらいある水槽が俺の目の前にどっしりと構えているのだ。
そう、ここは完全に、
「水族館……?」
である。
ここで疑問符をつけたのには理由があった。広さと高さを兼ね備えたこの巨大なアクリルガラスの向こうには魚一匹、貝一枚、烏賊一杯も泳いでいなかったのだ。アクリルガラスに両手をついて右に左に止めを動かして探すが展示されてる生物は0匹のようだった。0匹なのには理由があるようだが、いかに奇抜な水族館とはいえコンサートホールの緞帳と【準備中】と表示している電光掲示板が設置されているだなんて。大掛かりだな。
水中のコンサートホールだなんて趣味の悪い
正直、自分の好みではないが金の小魚群が優雅に緞帳の裏に存在しうるステージの上で渦巻くように泳ぐ姿はさぞ優美だろうと思う。
しかし、思うだけで小魚1匹もいないわけだ。これは水族館の展示品ではなくただの前衛的なアートだろう。癪に触るものだ。
いないものはしょうがないと、久しぶりの自分で手がけていない水族館に落胆しつつ、次のコーナーはないか館内を歩き回る。
マップを探したが、特にそれらしきものはあらず柱には絵だけの広告が載っていた。それもさっきの大水槽のコンサートホールにピアノが置かれているだけの絵。伴奏者のいないその絵も広告でもなければ水族館に似つかわしくない前衛的なアートだ。ただそんなアートにもどこか悲しいものを感じてしまった。
きみの悪い広告から目をそらしながら、見つけたドアを開き中に入ると、その中は薄暗いトンネルのような構造になっており、両脇に小さな丸い窓のような水槽が何個もシンメトリーに並べられていた。それらひとつひとつがテレビのように青白い光を放っているため、遠目では目に悪そうな水槽に見える。
それでもひとつひとつに好奇心をそそられ、右から見ようか左から見ようかうずうずする。水族館の醍醐味は大水槽でも、イルカショーでもなくこういった小出しの小さくも展覧会のように説明の書かれた二品三品だろう。
というわけでいつまでも迷っている自分に嫌気がさし、右から回ることにした。
まず最初の一個目。
表札に書かれた名前はオヤノキタイ
なまこのようにのっそりとした黒いぶよぶよとした塊だが、キラキラとしたクリスタルのような棘が生えてる。
二個目。
表札に書かれた名前はオトウトタンジョウ
手のひらサイズの赤紫色のタコにカバの耳を生やしたような生物。説明によるといつも攻撃的に振舞うがとても臆病な性格らしい。
三個目。
表札に書かれた名前はボウリョクマミレ
赤や黄色などの警戒色のシマシマ模様が二、三匹目が同じ水槽に入れられて一定の間隔を保ちながら泳いでる。お互いに敵対し合う習性のようだ。
四個目。
表札に書かれた名前はピアノノサイノウ
真ん中でくるくると淡いピンク色のドレスを回せている美しい観賞魚がいた。とても親近感を覚える可愛らしい魚だ。
五個目。
表札に書かれた名前はオトウトノザセツ
悲しそうに見える顔と嬉しそうに見える顔があるように見えるが、悲しそうに見える顔は擬態による偽物ようだ。
ここから折り返し地点。今度は左側の展示にUターンする。
六個目。
表札に書かれた名前はタイシュウノメ
どす黒い砂埃みたいな塊の中から仄暗い赤い眼光がいくつもある。それらが俺を見た瞬間人間のような歯を見せてアクリルガラスに向かって体当たりしてきた。とても不気味できみが悪い。
七個目。
表札に書かれた名前はユウカイ
残念ながらこの展示品は現在飾ることができないらしい。館長らしき人のの手書きで【まだ早い】とのメッセージ。
八個目。
表札に書かれた名前は黒く塗りつぶされて読み上げることができない。残念だ。
九個目。
表札に書かれた名前はスイゾクカン
2匹の大きさの違う魚が寄り添っている。大きな方は弱ってるのかあまり動いていないように見える。小さい方は大きい方に色々しているようだ。何故か胸が熱くなる。
十個目。
表札に書かれた名前はマダラスイゾクカン
さっきの大きい方の魚に似た赤黒い魚がエサをバラバラに噛みちぎっているようだ。ろくに食べず吐き捨て、その一部をアクリルガラスの周りに置いて見やすくしているようだ。
……あまり見たことのない生物たちだ。でもどこかで確かにこいつらを見た。忘れない。今日見たことは忘れないでいよう。
どうやらこれは夢らしい。記憶にある海の生き物図鑑を開いても似たような生物なんていなかった。いきなり目が覚めたら、水族館という時点で夢のような話だ。これが夢ならば楽しむだけ、それ以上でもそれ以下でもない。
そう思った一瞬、展示品が水槽から飛び抜けて空中を泳ぎだした。一斉に俺の方に襲いかかって来た。入ってきた入り口に戻ることはもうできない。反対方面に走ると扉があった。体当たりする勢いでバンッ!と開けると中には大勢の人がいた。
すごい!ニンゲンショー
飛び込んできたカラフルなライトでできた文字はそんなキテレツ極まりないショーだということを物語っていた。それも混乱させたのだが、もっと混乱させたのは人間だと思っていたモノの頭部をよく見ると灰色がかった青色をしていてツルツルとした肉質な表面が照明を反射して光っている。口が鳥のくちばしのように伸びて、その口の中には小さな歯がチラついて見えた。
それはニンゲンの胴体にイルカの頭を繋げたイルカニンゲンだった。
その日常では見たことのない不気味な生物を見てしまった俺は竦み上がって、その場で立ち尽くしてしまった。そのままショーは始まってしまい、茫然と見るしかなくなった。イルカショー……ではなくニンゲンショーの舞台の上手から這いずるように現れたのは、ニンゲンの上半身にイルカのような尻尾を取ってつけたような……名付けるならニンゲンイルカだった。
イルカニンゲン達は立ち上がろうとして後ろにひっくり返ったニンゲンイルカをキュイキュイと鳴き声を上げる。笑っているようだ。ニンゲンイルカはそんな嘲笑を受けながらもヒレや手を使って立ち上がろうとする。やっとの事で両手でバランスをとりながら立ち上がる―ほぼほぼひざ立ちみたいになっているが―すると、やっぱりイルカニンゲンはムネビレを手のように使って拍手しながらキュイキュイと笑っている。
ニンゲンイルカもそのどこか俺と似ている顔で少し笑っている。しかし、どこかのイルカニンゲンが空き缶をニンゲンイルカに向かって投げ、ニンゲンイルカはボーリングのピンのように派手にずっこけた。それを見た他のイルカニンゲンは面白がって色々な物を投げつけていく。
イジメに似たそれを見るに耐えなくなった俺は耳と目を塞ぎながら走って逃げた。
走って走って走っていった。
やがて、膝から崩れ落ちるようにして地面に手を着くとそこはさっきの大水槽の前だった。水中のコンサートホールに目を向けるとあと30秒とカウントダウンが始まっていた。
館内にノイズが走り、不明瞭な男性の声でアナウンスが流れる。
『間も無く1階の大水槽で本日のメインイベント、ピアニスト・清水 魁さんによる水中コンサートが行われます。皆様、是非ご覧ください。』
ザザーッ、とテレビの砂嵐のようにして消えたアナウンスに放心状態となった。清水 魁は俺の名前だ。
どういうことだ…水中コンサート?そんなの俺は事前に聞いてないし、だいたいあんな水槽の中に入れない。
カウントダウンも残り10秒を切った。周りを見るとさっきのイルカニンゲンやタコ頭の人間、色々な水棲生物の頭部を持った人間らしい何かで溢れていた。いくら夢でも怖くなった俺は逃げ出そうと後ろを振り返ったが、そこには光のない暗い目に血に餓えた大きな口を持つ二体のサメ頭の警備員にガッチリと両脇から拘束され、逃げれなくなってしまった。
「やめろ!離せ!嫌だ!もうたくさんだ!やめてくれッ!!」
カウントダウンは残り5秒。
どんなに力を振り絞っても、振り解ける気がしない。だが、絶対に逃げなくてはいけない。本能的にそう思った。
4……3………
頼む!俺が悪かった!やめてくれ!止めてくれ!
2……1……
水棲生物達が拍手とともに今か今かとコンサートが始まるのを待ち望んでいる。俺はすでにその水槽の中に見えない巨大生物がいることに気づいた。体は透明だが、目だけは透明じゃなかった。それは俺を捕まえてる両脇の警備員と同じ目をしていた。
開演のブザーが水槽内から大音量で響いた。タコのような頭部を持った悪魔の絵が描かれた緞帳がゆっくりと上っていき、ステージが案の定あった。そのステージには柱の広告で見たようなピアノが置いてあったが、やはり伴奏者はいないようだ。
俺はその風景を体を凍てつかせながら見てるしかなかった。
いきなりあそこまでガッチリと捕まえてきた警備員達が俺から離れる。他の観客も一斉に俺から二、三歩下がり、表情は読みにくいがニヤニヤしてるように見える。観客達が途端に笑い出す。嫌な予感がして水槽のほうに振り返ると、いきなり車にひかれたかのような衝撃が俺の体を襲った。アクリルガラスに叩きつけられ、全身が痛む。
血の気が引く。
突き飛ばされたというより、引っ張られているんだ。この水槽内から見えない力で俺は引き摺り込まれようとしている。それがそこにいるであろう巨大な透明鮫なのか何なのかはわからないが、説明のつかない混沌とした力だということは分かった。
突如として俺が張り付いている辺りのアクリルガラスが水たまりに出来る波紋のように波打つ。次第に波は大きくなっていった。
恐ろしいことにこのアクリルガラスすらトンネルのように穴を開けて俺を引きずり込もうというらしい。
まずい。怖い。俺が何をしたというんだ。あれらの水族館を作ったことに対する祟りだとでもいうのか?ごめんなさい。もう許してください。俺が悪かった。お願いいたしますもうやめてください。
心の中で何度も殺した猫や動物達に謝った。もうやめてくれ、やめてくださいと。
すると、次第にアクリルガラスは波打つのをやめていった。
助かった。
全身から恐怖が抜け、安堵の息が漏れた。
しかし、アクリルガラスにはまだ貼り付け状態だった。
バシャァァアンン!!
何が起こったのか理解ができなかったが、全身を冷たい水に囲まれたことだけは分かってしまった。凄い勢いでステージ上まで運ばれていく。俺はもう何が起こったか確かめる術を持っていなかった。
息ができない。
苦しい。
それでも、見えない力は俺をステージ上にあるピアノに座らせ、弾くように命じた。
息も苦しく前も見えない水の中でピアノを弾くことなんてできないだろう。それなのに俺の体は操り人形のように鍵盤を叩き始めた。どんな曲がひかれているのかは全くわからない。
息ができないせいでだんだんと心臓の音だけが、俺の脳内に響いた。冷たい水の感覚と心臓の音で作られた暗い世界に閉じ込められた。そこはとても苦しい地獄のような世界だったが、だんだんと全てが終わっていくのを俺に伝え、何故か俺も安らかな気持ちになった。
死にたくないという脳のストッパーが外されたからかどうかはわからないが、全てがどうでもよくなっていった。終わらせてくれ。
苦しいだけのこの世界を終わらせてくれ。
見世物にされるのはもう嫌なんだ。
俺は見世物なんかじゃなかったはずなのに。
遠のいていく意識の中、そんな自分の声が泡の弾ける音ともに暗い世界に反響した。全てを後悔した。
そして俺は死んだ。
「あ、アァァァアア!!!」
騒がしい。この声は弟の声だ。というか、目の前にいるのだから声で判断しなくてもいいと思うが………ん?
熱い、猛烈に熱い!火にあぶられているかのような熱を腹部に感じた。
「アッツ!あっちい!服にコーヒーがッ!」
事の発端は何故か弟が俺の飲もうとしていたコーヒーに右腕で華麗なアッパーを繰り出したからだ。ということは腹部だけじゃなく、頭部も熱いな。
「水!脱ぐ!」
アギャァアア!!と深海生物が陸に上がるような進化を遂げたらこんな鳴き声選手権堂々の一位を取れそうな叫び声と上裸の兄に弟はだいぶドン引き。
ていっても、お前のせいだからな?
「何すんだよ!」
「いや、手が滑っちゃって。」
あの華麗なフォームが手が滑っちゃっうだけで出るなら、お前もうボクシングとかできるじゃないのかよ。という言葉をグッと飲み込んでパジャマを持ってくるように頼む。
「分かった!すぐ持ってくるから!」
…….??やけに上機嫌なような気がするが気のせいか?ドタドタと軽快に踏まれる階段の音を聞きながら、俺は外に着ていったコートの処分を考える。
もういらないかな。そんな考えが頭に浮かんだ。俺は俺が作った水族館よりも普通に、家族でいった水族館にまた行きたいと思った。別にあの水族館達は……なんの目的で作っていたんだったか。
途端俺自身が怖くなる。正当な理由があるからやっていたと思っていたのに、その理由すら忘れるってのはとうとうやばいな。これはもうやめよう。
さて、もう俺の水族館に興味はない。明日発見されるであろうあれを最後に俺の水族館創作は終わりを告げる。水族館は崩壊する。
一瞬フラッシュバックのように水中にあるコンサートホールのような記憶が出てきたが、多分前にもらった美術の教材で見たのだろうと思い納得した。
さて、明日は休みだしたまの休日弟でも誘って水族館でも行きますかな。
目覚ましは何時にかけとこうかな。
そんなことを考えながら不意に窓を見ると、巨大な鮫の目玉がこちらを覗いていた。
水族館
私は水族館で怖いものといえばやっぱりアクリルガラスの水槽でした。何故だかわからないのですが巨大な水槽が本当に怖くて嫌いでした。広い水槽ならいいんですが、深い水槽は怖くて見てられませんでした。あと奥行きのある水槽も。サメや深海に住む大きな鯨と同じくらい怖かったです。