彼女は泣き笑い
「・・・」
彼女は泣き笑いの顔になった。
「時の流れを超えて・・・・へへ、・・・「うそ」」
ナナは舌をだして笑った。
「いままでいったこと、全部、うそなの」
「うそ?」
ツムラ氏は、ぽかんと口をあけた。
「あたしも、演劇やってるの。あたしのお芝居、どうだった?」
「・・・・」
「上手だったかな?きまってたよね。おじさん、本気になってるもんね」
「・・・全部、うそ?」
スローモーションに、ツムラ氏はつぶやいた。まさに間が抜けていた。
「へへへ。さあ、行きましょう。あたし、先に行ってるからね」
ナナは、ラブホテルの玄関門に手をかけた。そのラブホテルは、ネオンは毒々しいが、立派なつくりの建物で、石塀に囲まれており、その塀に玄関門があったのだ。古くからある洋館を改造したものらしい。
玄関門の数メートル奥に建物の入口がある。黄色い光が玄関口に灯っていた。
そこに、不意に人影が現われた。
「・・・」
目を細め、あれ?という顔をして、ナナは立ち止まった。
銃声。
一瞬、鋭く耳をつんざくような、しかし少し冴えない、「パン!」という音だった。派手な花火の音だと言われればそんな気もする一瞬の音・・・
ナナは、ぼうっと立っていた。かろうじて立っていた。そして、よろりと、くずおれた。
「!」
ツムラ氏は思わずナナに駆け寄った。反射的に。鋭い動きだった。次の一発がどこからか撃たれるかもしれないなんてことは頭になかった。
「しっかり!」
ツムラ氏はひざまづいてナナを抱き起こし、全身で彼女をかばった。ここではじめて、今度は自分が撃たれるのではないかという考えがよぎったのだが、体は流れるように動いてしまった。大事なものを守ろうとする本能がはたらいた。
ナナは腹のあたりをやられていた。
「大丈夫か!?」
思わず叫ぶと、ナナは薄く目をあけた。そして小さく鋭く叫んだ。
「痛い」
「すぐ、救急車を呼ぶ」
言いながら、携帯をとりだしながら、周囲を見る。彼女を撃った賊はどこにも見えなかった。
「いいの。呼ばないで。きっともうだめだ」
彼女は首を振りながらつぶやく。
「いいの。だめになりたいんだ。死なせてよ。もう絶望なんだから。女優になんかなれないんだから。・・・あの人、ヤクザだけど、あんなに愛してくれたのに、私、結局、普通の奥さんは嫌だったから、女優の夢捨てないで、あの人捨てたから、あの人、怒ったのよ。きっと、あたし、撃たれてもしかたないんでしょ・・・冗談じゃないと思うけど・・・あの人、傷ついたのよ・・・」
「・・・・・」