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戸塚の夜   作者: 新庄知慧
5/10

少女ナナの、母はマイ?

 ナナが指差す水面は、妙に膨らんだり、へこんだりの動きをしている。コンクリで固められた川の岸辺に駆け寄って、ナナが水の中を真剣に観察した。


 そこにいたのは、鯉の群れだった。真っ黒な、かなり大きくたくましい、うねるような魚の群れであった。


 こんな川に、こんなに魚がいるなんて・・・。ナナは目をまるくした。


・・・しかし似ている。

 

 ツムラ氏は、目を閉じて、二十五年前の、純真少女の顔を思い出し、それが鮮明になるにつれ、どうしてもナナがマイに思えてきた。


「似すぎだよ」

 そうつぶやいて、目を開けて遠くをみると、「●●ホテル」という毒々しい原色のネオンがみえた。


「あそこに行く?」   

 急に声をかけられて、ツムラ氏はびくっとした。


 振り返ると、いつのまにか、ナナがすぐ背後にいて、いたずらっぽく笑っていた。


 まただ。この顔。このいたずらっぽい笑顔。カーテンの陰から、顔をのぞかせて笑った顔を思い出した。そうだ、あれは、高級住宅の展示場に、純真少女と散歩に行ったときのことだ。


 場所は新宿の近く。「チューダーヒルズの家」という高級住宅。その部屋の中のカーテンの陰にいったん隠れ、顔のぞかせて笑顔をくれた。それが、当時のツムラ氏を救ったのだ。


「どうしたのよ!」

 彼女は、さも愉快そうに、ははは、と笑った。びびってんの?面白いなあ。純情ね。おじさんのくせにい!


 そして、彼女はふっと真顔になった。


「その、マイって人、ひょっとして、私のお母さんかな?」


「・・・」


「おじさん、あたしのお母さんのこと好きだったんじゃないの?」


 電車の轟音。東海道線の電車だ。川を渡る鉄橋は、かなり遠いはずなのに、大きく耳に響いた。  


 ・・・つづく



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