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勇者の親友はつらいよ  作者: シール
9/19

第一回勇者会議 その1

 自分の書いたあらすじが気に入らなくてちょこちょこ変えてますが気づいた方がいても気にしないでください。何回書き直してもたぶん気に入らないだろうと思うんで(笑)

 

 

 宿の一室を借りて向き合った五人の中で、一人が口を開いた。


「………全員、落ち着きましたね?」


 円になってお互いの顔が見えるようにし、レグルスが様子を窺いながらした問いに全員から頷きが返った。

 謎の拉致に遭い消息を消したルークは、状況把握ができないままに謎の空間で少女と共に気持ち悪い触手から逃げ仰せ、親友ーーのはずのーーアランにやっと再会したというのに会って早々感動もなく勇者を罵倒した果てに腹部に拳を打ち込むという、周りが反応に困る状態で再会を果たした。

 その怒りの理由も聞きたいし、どうしてか人数も増えている謎も聞きたいので、ロズとレグルスの二人がかりで溜飲が下がっているルークを宥めてゆっくり話が出来るように魔法で近くの街まで移動してきた。

 空腹を訴えるフレッサとルークのために食堂に入り、腹を満たしてから宿の個室で話し合いが始まったのだ。

 全員床に尻を預け、誰かが切り出すのを待っていた。


「えーーー…と、まずはあの後どうなったのか、お互いに話ましょうか。こっちもいろいろと気になりますし」


「ああ、そうだな」


 時間が惜しいのもあり、レグルスは最初に語り始めた。

 ルークが消えた後、三人も元からの魔法が働き目的地に到着はしたのだがすぐに知り合いの家へと走って手掛かりを見つけてもらいに行ったとのことだった。


「旅で出会った占い師なんですが、よく当たるのでそこで居場所の手掛かりだけでも掴めないかと思いまして」


「それであんなに(いろんな意味で)タイミングよく現れたのか」


 いくらか経過していたとはいえ、まるでそこに現れるのがわかっていたように飛んできた三人に、ルークは少しだけだが疑いの目を持っていた。あの触手とグルなのでは?と。


「あんたにとっては短い時間で会えたと思うだろうけど、あたしたちからしたらいくつもそれらしい場所探してやっと見つけたんだからね。だからアランだってあんなに嬉しそうに落ちていったんだから」


「ああ……、なるほど…」


 やけにテンションが高かった理由がわかった。

 自分のために頑張ってくれていたんだと理解し、腹パンしたことを少し申し訳なく思ったルーク。今度なにか奢ってやろうと頭の隅に記憶しておく。


「アランも私たちも、自分たちじゃなくルークが攫われたことに大分混乱しました。みつかって本当に良かった」


 本心からの安堵に、疑っていたことへの罪悪感が湧く。


「私たちの行動はそんなところですね。ルークの方はどうでしたか? その、見るからに何かはあったようですが…………」


 言いながら、レグルスだけでなく他の二人の視線も、ルークの隣で大人しく座るフレッサへと向いている。

 三人の疑問符が浮かんでいるとわかる表情に、当然だなとルークも思う。

 隠す気はさらさらないが、まずはフレッサのことから紹介しておく。


「この子が気になるよな。名前はフレッサだ、俺が攫われた場所に先に居て、母親を探してるって彷徨ってたから一緒に行動してたんだ。逃げる時にも一緒に居たんだ」


「は、あ…。その、一緒に逃げたというのはどういうことですか?」


「ああ。最初から話そう。あの後俺は気絶してたみたいで、どこかに落ちてから気づいたんだ。で、そっから状況しるためにいろいろ動いてたらこの子をみつけて…」


 自分が遭遇したことを話していき、眩しい光に包まれて街道側に転がっていたところまでを語ったルーク。

 聞いているうちに険しい顔つきになっていく三人の様子がこちらにも不安を漂わせるが、子供の前で恐がるわけにはいかないと虚勢を張って冷静を装う。

 聞き終わった三人がそれぞれに俯き、難しい顔で考え込んで一向に喋り出す気配がないので、ルークは自分から尋ねた。


「俺は、勇者の仲間と間違えられたのか? それで連れ去られたのか?」


「……わからない。そうともとれるけど、それにしてと手段があり得ない。でも予想通りなら…」


 質問へ口を開いたのは意外にもアランだった。

 子供のままというほど馬鹿にはしていないが、難しい話題はいつも耳をすり抜けていた彼が真面目に聞いて意見を述べる姿に、ルークは一種の感動を覚えた。

 ちゃんと大人だったんだと失礼なことで一人しみじみしているのに首を傾げられたが、何でもないといって続きを聞いた。


「予想通りなら?」


「厄介な事になってるのは間違いない」


 アランはフレッサに目を向け、ビクビクしている少女に困った表情になる。

 やっぱりダメか…と呟いてからルークへ向き直った。


「なあ、最初に話した時、俺たちから子守りの依頼したよな」


「ん? ああ、そうだな」


 未だ本人に会えてないが、ちゃんと仕事のことは忘れずにいる。

 だがなぜ今それを出すのだろうか。

 アランは困った表情で頬をかきながら言った。


「その子なんだ」


「…は?」


 意味がわからずポカンとするルークに、アランはゆっくりと言い聞かせる。


「その子…フレッサが、ルークに預かってほしいって言ってた子供なんだよ」


「はあ⁉︎」


 愕然とアランとフレッサを交互に見る。

 攫われた先で会ったこの子供が依頼の子供とは思いもしなかった。でもそれはつまり…。


「じゃあなにか? 俺たちのいない間に依頼の子供が連れ去られてたってのか? で、俺と会って不気味な場所から一緒に帰ってこれたと?」


「そうなるわね、情けないことに」


 勇者たちにも衝撃だったようで、三人とも落ち込んだ様子をみせた。

 親と一緒にいたこともあって守りは万全を期してから出発したのだが、フレッサがここにいる事実にそれが破られたのだとわからされる。

 もしルークと一緒になっていなければ少女は一体どうなっていたのか。考えたくない。

 勇者一行は守る約束を果たせなかったことに落ち込む。

 ルークもルークで拾った少女がただの少女ではないことに戸惑っていた。


「待て待て待ってくれ! てことは理由も知らずに攫われるような子を俺は預かるのか⁉︎」


 痛いところを突く言葉に勇者一行は黙り込んだ。

 黙られるとルークも困る。自分の身に降りかかっている事態が把握できていない分、彼らより余計に不安にかられる。


「いろいろ起こりすぎだ。何がどうなってる⁉︎ 頼むから説明してくれよ、お前ら俺を何に巻き込んだ⁉︎」


 三人に詰め寄る。

 アランの胸ぐらを掴んでやりたいが、流石にそこまでするのは自重し、やはり何か騙したのかと睨んだ。

 目が合ったアランはルークの睨みに申し訳ないと頭を下げる。


「悪い、ただ世話してもらえればよかったんだけど、そうもいかなくなった…かも」


「だから、理由を教えろよ! 俺は何に巻き込まれてるんだっ⁉︎」


 再度強く詰め寄れば、観念したアランが口を割った。


「その子、フレッサの奪い合い…に」


「う、奪い合い?」


 ぴんとこない表現に頭が傾く。

 ちゃんと説明するからと落ち着くよう言われたルークは元の位置に戻った。

 それを確認して、アランが口を開いた。


「本当はちゃんとした所で紹介するつもりだったんだけど、ルークに預かってほしいと言ってた子供はこのフレッサだ」


「だから、それはなんでか…」


「言うから! 静かに聞いてろ! …えっと、なんて説明すりゃいいかな。俺たちは魔王を倒しに行ったよな?」


「ああ」


 何を今更と思ったが頷いた。


「そんで国にも報告して、もう平和だってみんな喜んでるよな?」


「…ああ」


 話が進むごとに勇者一行の表情が曇る。

 そして実に言いづらいと顔に書いてあるアランがゆっくりと答える。


「その、実はまだ居るんだ。魔王……」


「??」


「あ、でも元々の奴はちゃんと倒したんだぜ! これからのがどうするかってことで…」


「………???」


 何を言われたのかわからなかった。

 先程よりも傾くルークの頭に、うん、そりゃそうだよねと言わんばかりに三人もいたたまれないという空気になる。


「…俺をからかってる訳じゃない、んだよな?」


「「「もちろん!」」」


 同時に頷く三人から本気なのは伝わってきた。


「魔王が? いる?」


「おう」


「なんで?」


「…なんか特殊な仕組みで」


「はあ?」


 素っ頓狂な声をあげてあんぐりと口を開ける。

 全く意味がわからない。アランの頭がおかしいんじゃないのか?と疑ってしまう。

 でも絶対にルークのような一般人に言っていい内容じゃないのは伝わってきた。

 聞きたくない、と本能が警告するが、隣の少女の関係することだと思うとそれも選べない。

 危機を救ってくれたのだろうという恩と、あの短い間でルークは隣の少女に大分情をかけていた。この子が関わる事態だというのに自分だけ知らん顔するというのはもう自分ができなかった。

 う~と数秒考えた後、ひとつため息を吐いて呟いた。


「時間かかってもいいから、一から説明してくれないか。今の説明じゃさっぱりだ。俺にも分かるように、詳しく頼む」


 嫌がるのかと思いきや詳細を求めるルークに、三人はえっ⁉︎と揃って驚きの声を上げた。


「なんだよ、聞いちゃ悪いのか?」


 不機嫌に尋ねればまた三人揃って否定を返す。


「い、いや、意外で……。いいのか? 本当に?」


「うるさい。うだうだ言うならもう知らん、帰る」


 わざと不機嫌なまま睨んでやれば、アランは何も言わなくなった。これ以上余計なことを言って断られても不味い。


「い、いや、なんでもない。じゃあ話すけど、たぶん聞いたらもう逃げられないぞ。いいんだな?」


「くどい。何も知らずに巻き込まれるよりマシだ。それに親しくなったガキ置いて一人帰れるかよ。いいから言え!」


「わ、わかったわかった! 話すって!」


 さっさと話せと催促するルークに負けて、アランは語り始めた。


「じゃあ言う。これは俺たちが魔王を倒した後に判明したことなんだが、魔王っていうのは常に生まれ変わるらしいんだ」


 のっけから爆弾発言を落としたアラン。

 始まって数秒でルークの頭脳は理解するのを拒否した。脳内で常識が勇者へパンチをくりだしている。


(いやいやいや、落ち着け俺。相手は勇者、勇者だ。俺の知らないことがいくらでも飛び出してくるようなやつだ。馬鹿と罵ってパンチ繰り出すのは我慢だ)


「待て。サラッととんでもないこと言ってるぞ! 魔王がなに?!」


「アラン、いきなり過ぎ! あたしが話す。あのね、今回魔王を倒したことで、誰も知らなかった事実を私たちは見つけちゃったの」


 それは過去の文献にも載っていなかった事実だった。

 研究している者達なら幾分か理解を示すだろう、しかし国民には全く嬉しくない発見だ。


「それがとんでもないことだったわけ、『魔王は常に生まれ変わる』っていう」


「私たちとしても、知りたくない事実でしたね……」


「…………………。」


 驚きのあまり言葉もでないルークを置き去りに、話は進んでいった。

 曰く、魔王自体は破壊の化身のように狂暴で会話を試みるも問答無用で襲い掛かって来たため戦いが始まったこと。

 やっと倒して消滅を見届けた際に、ある現象が起こったこと。

 魔王が消滅した時、魔王の持っていた膨大な魔力が霧散せずに塊となってどこかへと飛んでいったこと。

 そして魔王とはその膨大な魔力に憑りつかれた者が制御できずに行き着く成れの果てだったということ。

 その普通とは違う霧散しない魔力自体をどうにかしない限り、時間が経てば何度でも魔力は人に憑りつき、魔王という存在は生まれるということ。

 これらを知り国に報告したことで現在その魔力の居場所を特定する術を国が探っていることなどなど…機密情報ぽいことを含めてどんどん勇者たちが代わる代わる説明した。

 ショートしそうな脳みそをフル回転させてなんとか彼らの話を理解し記憶したルーク。

 正直寝込みたかったが話が話だけにそれも叶わない。


「つまり、また魔王は現れて人間たちを襲う、と……?」


 驚き疲れて核心だけ尋ねれば、その通りだと頷かれた。


「そうね。いずれは。でもそれは100年単位の話なのよ、今日倒して明日復活するっていう早急なものじゃないわ。だから今回――私達が生きている時代はもう大丈夫なばすなのよ」


 国王から伝えられた伝承でも、魔王の復活には少なくとも100年の間が空いていた。今回倒したことで次の最低100年先までは魔王が現れることはないだろう。

 これは国の最高機密にも匹敵する情報なのだが、アランたちにそれを隠す気は今さらなかった。

 ルークも聞いてるうちに話題の重大性には気づいていたが、もう今更だと気にしないことにしていた。でないと胃が痛くなる。

 そしてこれからがもっと胃が痛くなりそうな話だった。


「魔王に関してはわかった。で、なんでその理解が必要なんだ?」


「預かってもらうフレッサちゃんがこの事に関係しているから。説明したでしょう、魔王の魔力は宿主(ひと)を探して憑りつくって」


 魔王になってしまうような魔力が、次の器を探してどこかを漂っている。

 その状況を知ったうえで少女が重要視される、その理由は―――。


「…………私たちが現魔王を倒した時、膨大な魔力が抜けて抜け殻みたいになった魔王だった人(・・・・・・)と少しの間話せたの。その時に、彼が教えてくれたの」


 生命力もなにもかも食いつぶされて骨と皮だけの枯れ木のような身体から血があふれ息も絶え絶えといった助かりようのない悲惨な姿だったが、残酷なほど意識はしっかりしていて、会話が可能だった。

 三十分もなかった時間の中で理性の戻った元魔王(・・・)は血溜まりの中で三人と会話し、勇者たちは苦い思いながらもできるだけ情報をもらった。


「その中でね、次に魔王になる可能性がある人を割りだせる条件もいくつか教わったの」


 宿主とは誰でもいいわけじゃないらしい。

 たとえ魔力を抑えきれずに暴走する結果であったとしても、それだけの魔力を宿しても壊れない肉体強度は必要なのだ。

 そして魔力に耐えられる体とは、もともと多く魔力を持っている者を指す。


「その子はね、突然変異なの」


 目を向ければ、難しい話について行けなくてカクリ、カクリと夢うつつに首が傾いている少女が映りつい苦笑する。

 どこにでもいる年相応な普通の少女の光景だ。とても可愛らしい。

 だがそれだけでは終わらないのも事実。

 ルークの中に刻み込むように、ロズは言う。


「その歳じゃあり得ない量……ううん、人間としてあり得ない量の魔力がその小さい体に宿ってるの。それは、あの魔王の魔力を受け止めることも可能だということ」


 破壊をもたらす魔力が探すのは、その力に耐えられる器。

 そしてここにいるのは、耐えられる可能性を秘めた少女。

 ここまでくればルークもわかる。


「もう、狙われてるの」


 目を合わせたロズは、さっきの苦笑などどこにもない苦々しい表情になっていた。

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