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勇者の親友はつらいよ  作者: シール
8/19

誓いを果たす

 ()()は冷静に状況を観察していた。

 面白い。

 言葉ではないところでそう呟いた。

 バレることのない安全な場所で、ぬくぬくと休んでとり憑いた人間の様子を眺めて楽しんでいた。

 休むことが第一だが、ただじっとしてるだけではつまらない。楽しいことは好きなのだ。

 人間の様子を眺めて笑っていようくらいの気持ちでいたが、なかなかに楽しませてくれるコイツの事が好ましく感じるようになってきた。

 最初は勇者の気配を感じて離れようとした。

 だが虫けらのように逃げ去るだけなのは悔しくて、なにか報復できないかと考えた。

 そして丁度良く虫けらのような弱い男を勇者が連れて来たので、男を取り上げることにした。予想以上に慌てふためく勇者は実に可笑しかった。

 慌てるほど大事な人間なのかと興味をもって好き勝手に男の記憶を覗けば、この人物は勇者と深い縁があるとわかった。

 特別な力など何もない、そこらに埋もれる程度のやつなのに勇者からの信頼がとても高いのが記憶からわかった。

 面白い。ずいぶんと面白い奴を捕まえたらしい。

 器にするために先に捕まえていたもう一人の方がこの先過ごすにあたって格段に好物件なのだが、成長途上にある体では構造変化が激しすぎて落ち着く事が出来ない。それなら今はこっちで丁度いい。勇者への嫌がらせにもなりそうだ。

 しばらくはコイツの人生を笑って過ごそう。非力がどこまで頑張るか、見物だ。

 ソレは愉快にそう考えた。捕まえた人間が、どこまで自分を楽しませるか。

 だがどんなことにもアクシデントは起こる。

 逃げられなければそれでいいと雑に作った囲いに別の何かが紛れ込んで眷属を勝手に動かし出したのだ。

 人間たちを殺すための変貌を遂げた眷属はソレが連れてきた人間たちを襲った。上手く操れなくてすぐ思う通りには動けないようだが、動かせるようになれば確実に殺せるだろう。

 危機に気づいて人間たちが逃げても殺されるのは時間の問題だ。

 まあそれもまた一興か、とソレは助けることはしなかった。

 逃げて囲まれて、さっさと覚悟を決めてしまった人間に、もう終わるのかとつまらない気持ちが湧いて、全く助けようとも思わないままここから離れる準備をした。こんなことで死ぬようなやつに興味はない。

 だが、やはりこの人間は面白かった。

 幸運なことに逃げ切れたのだ、もう一人の暴発に近い力によって。

 突出した力が無いのに、運には恵まれているらしい。

 面白い。

 まだもう少し、コイツの中で観察していようと思った。

 側のもう一人はいずれ良い器になる、ついでに成長するのを眺めて楽しめそうだ。

 あとは勇者にバレないように、奥深く潜って隠れながら楽しむとしよう。また器に入って暴れることの出来る日まで。

 時間はたっぷりあるのだ、何度でも復活して、繰り返して、いくつもの悲鳴と血肉を楽しもう。

 それまでは、一人の人間の人生でも眺めて楽しもうじゃないか。

 この男の幸運がどこまで続くのか。



 実に愉快そうに、ソレは嗤って深く沈んでいった。



 ――――――――――――――――――――――










「ぅ……」


 やっと視界が回復してきたと感じ、ルークは瞼をそっと開き、瞬きを繰り返して周囲を確認した。

 気を失ってしまっていたようで、しゃがんでいたはずの体勢から倒れフレッサを抱えた形で眠っていた。

 腕の中で健やかに眠る少女の無事を確かめる。


「ここは……逃げられたのか?」


 二人が倒れていたのは轍が左右へ続くどこかの街道の端だった。フレッサを起こさないようにそっと離れ、立ち上がって轍のそばまで行き似たような場所が記憶になかったか探るが、ルークに見覚えはなかった、知っている町の近くではないらしい。

 さっきとは違って風もあれば陽の光の温かさも感じることに、場所はわからずともあの不可思議空間からは脱出できたことが確信できる。

 いったいどうやって出られたのかはわからないが、出られたことには心底ほっとするルーク。

 寝息をたてる少女の隣へ座り、そのまま倒れて仰向けに寝転んだ。

 もう考えるのも嫌なくらいに疲れきった。


「もう、なんなんだよ……」


 思わず漏れた愚痴を聞く者はいない、が口にせずにはいられなかった。

 しばらくそのままでじっと空を眺めて頭を空っぽにした。

 ひとつの雲がゆっくりと二人を通り過ぎて影も去ったころに起き上がり、ぐっと伸びた。


「…………ーー…ぃ」


「ん?」


 ふと、人の声が聞こえた気がしてあたりを見回した。

 微かだったが、聞き覚えのある声に聞こえたのだが……。

 そう思い人の影を探すが特に目につく者はいない。


「…ぉーーーい……」


 だが再び声は聞こえた。それもさっきより近い。

 諦めかけた気持ちを持ち直してもう一度周囲を探す。しかし姿はない。


「おおーいっ!! ルーク上ぇえーーーーーーーっ!!!」


「うえ?」


 サッと影が射したこともあり言われるままに空に視線を移せば、視界に飛び込んできたのは焦った様子で大口を開けたバカ面のアランの顔。


「は?」


「あぶ…………!!?」


 それ以上言葉が続くことはなかった。

 文字通り降って来たアランに押しつぶされたルークは衝撃に一瞬意識が遠のいた。


「……ててて、ルーク、大丈夫か? …ルーク? え、気絶してる? うわすまん!」


「……」


 痛み、驚き、怒り、疑問などなど……。

 いろんな感情が混ざりあって言葉にできないルーク。それを気絶したと勘違いしたアランは勝手に焦って謝罪をくり返す。


(こいつ、成長した方が人の巻き込み方酷くなってねえか…? 空から降ってくるとか信じらんねぇし……、第一どんな状況で空から降るような事に…。ああもう、疲れる)


 ごめんの言葉がただうるさくしか感じない、いっそ口も利きたくないと思ったがそうにもいかないので思いっきり不機嫌な表情を顔に貼り付けて起き上がり、アランと対面した。


「良かった! ルー………」


 起き上がったことでぱぁっと明るい表情になったアランだが、自分のように喜びに満ちているわけではなくむしろ過去に幾度も見た怒った時に現れる雰囲気と不機嫌極まりないという表情に、それまでの勢いが瞬時に消える。


「ああ、また会えて嬉しいぜ。ア・ラ・ン」


 やけにゆっくりと発音する名前に、アランの冷や汗が噴き出る。


「あ、あの、ルーク。あの後、へいきだ…………」


「大丈夫だったか聞くなら全部こう答えるぞ。死ぬかと思ったよ! ああ、本当に死ぬかと思った‼ マジで恐かったわ! てめえに関わったばっかりに、なんで俺があんな目に遭わなきゃいけねえんだよっ、ふざけんな‼‼」


「ちょ!? おちつ」


「俺は勇者じゃねえんだよっ、あんな気持ち悪い触手に囲まれてどうにかできると思うのか!? できるわけねえだろがっ‼ なんで友人に会っただけで死に目に遭わなきゃなんねんだよ! ガキはいるわ変な場所に飛ばされるわ変な依頼は出されるわ、俺をどうしたいんだよ! くそ勇者!」


 たじたじのアランに構わず、ルークは今までの鬱憤を全部吐き出した。


「ひ、ひでえ言い草………」


 息が切れてハアハア言っているルークにアランは涙目でそれだけ返した。

 依頼を頼んだのは確かにアランだが、その後のことは完全にイレギュラーで関係ないのにルークのいい様は全部アランの所為になっていた。

 まあ、勇者に関わらなければ来なかっただろうアクシデントなのには変わりないのであながち間違ってはいないのだが、アランにそこまでの頭は回らない。


「二人共平気ー?」


 そこにタイミングよくロズとレグルスが――――こちらも空から――――現れた。


(ああ、これも魔法か)


 ロズがいることでなぜアランが空から降って来たのかという理由がストンと腑に落ちた。本当に魔法というのはなんでもありなようだ。

 それでいくらか冷静さを取り戻せたので、後の二人にはお互い無事なことを喜びあった。


「おい! 俺と対応違い過ぎねえ!? 労いは? 無事を喜ぶハグは!?」


「うるさい。ハグなんかするか気持ち悪ぃ、妄想膨らませてんじゃねえぞ顔だけ勇者」


「途中途中で悪口挟んで会話すんのやめようぜ! 泣くぞっ!」


 冷ややかなルークに耐えきれず叫ぶアラン。


「泣けば?」


 さらに冷ややかにルークは返した。

 とことん冷たい対応に心折れそうになるアラン。俺が何をしたと呟いて泣く振りをしだす。

 それがさらにルークをイラッとさせた。


(あ)


 静まりかけた怒りがふつふつと昇ってくる感覚を感じるなか、ふとあることを思い出した。あれだけ誓ったのだが、すっかり忘れていた。

 危ない危ないと一人頷いて、無言でアランの側に寄った。


「な、なんだ?」


 急に近づいてきた友に訝しみつつ、ちょっと期待をちらつかせるアラン。

 それには何も言わず、ルークは不機嫌顔を伏せてから再び上げる。それはそれは喜ばしいという笑顔を浮かべて。


「無事に会えてよかったよ、アラン」


 そう口にすれば、アランはみるみる顔を緩ませて満面の笑みになった。


「そう来なくっちゃなあー! 無事でよかったぜしんゆッ……!」


 喜びのあまり抱き着こうと広げた腕はしかしルークが体を伏せたことで何も抱えることなく空を切り、代わりに腹部へ思い切り力のこもった拳がめり込んだ。


「な…………んで…………」


 完璧に不意打ちをくらったことでアランの身体は傾ぎ、そのままドシャッと地面へ崩れた。

 何が起きたのかわからない他はただ茫然とその光景を見つめている。

 笑顔が一瞬にして真顔になったルークはしばし無言で足元にうずくまる勇者を見下ろした後、見ている側がびっくりするほど頬を緩ませて長く深く息を吐いた。


「ああ…、すっっっきりした~~」


 念願の「一発殴る」を叶えられたルークは晴れやかな表情になって先程までの不機嫌など忘れ去ったかのような爽やかさでアランへと声をかけた。


「アラン、聞きたいことがかなりあるんで教えてもらうぞ。あとロズとレグルスも。あ、でもまずここってどこなんだ?」


「あ、ええっ…と? ケンカ、してたってことでいいのかしら?」


「さ、さあ?」


「………て、めえ……るー、く。覚え…てろっ…。つか、なぜ……に…」


「ものすっごく意味不明なことに俺を巻き込んだことへの恨みだ」


「ん~~…、おかあさん? おはよぅー」


 丁度フレッサも目覚め、現状の把握ができないそれぞれのカオスな状態を収束させるのには暫くかかった。

 腹部への一発が止めを刺し、アランはとうとう泣いた。

前回の投稿から大分経っていたのに最近気づいて焦ったぁ。

少なめですが何とかまとまりました。


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