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勇者の親友はつらいよ  作者: シール
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拉致、からの依頼2


 仕事を引き受けたルークは仕事モードに切り替え、仕事内容についてをてきぱきと聞き出していった。

 引き受けてもらえたことで三人は安堵して、さっきよりも接しやすいほがらかな空気になってレグルスが質問に答えていった。引き受けただけで安堵とは、三人は相当まいっていたらしいと察するルーク。


「……じゃあ基本的に俺の家で寝泊まりさせていいんだな?」


「ええ、あの子の家はだいぶ山奥で往復には不便でしょうから。事前に確認して了承ももらってますし問題ありません」


「なら楽だな。あとは……ああ、預かる期間は長いんだよな? だったら何か連絡手段とかないのか? 何かあった時のために」


「そうですね………誰に連絡するかにもよりますが、これを使ってください」


 差し出されたのは、何枚かの手紙と封筒、それに判子と瓶に入ったインクをひとつずつ。

 紙は質が良く黄味がかった表面はさらりとしていて字が書きやすそうだ。だが封筒はそこらに売ってる安物と変わりないざらっとしたもの。判子は名前ではなく円の中に丸や四角や文字、何本もの線が入ったよくわからない模様が刻まれていた。インクは緑がかった瓶に入っているせいでよくわからないが、紫っぽい色をしている。


「手紙か。…この判子と瓶は?」


「これはロズお手製の判子です。魔力が込められていて魔法が使えない人でも簡易的な魔法を使うことができます。宛先を書いた封筒にこの特殊なインクでこの印を押すと、魔法が発動して自動的に本人のもとへ運んでくれるんです」


「へえ、すごいな! 魔法ってそんなこともできるのか」


 未知の魔法のすごさに子供のように瞳を輝かせるルーク。勘違いを起こされないよう、一応ロズが補足を入れる。


「言っとくけど全員じゃないわよ、あたしだから作れてるの。人には見せないようにしてね、これ人数分しか作ってないから魔道具としては高い価値が付くんだから」


「いっ!?」


 手の平で転がしていた判子を慌ててテーブルに戻し恐る恐る見つめると、それを見ていたロズが噴き出した。


「あはは、大げさ。べつにそこまで慎重にしなくたっていいわよ。たくさん作っちゃえば価値なんか低くなるんだから。今は必要分しか作ってないから高価になっちゃってるだけよ」


「でもあんたしか作れないんだろう?」


「お師様は作れるわよ。あと宮廷魔法師も何人かは作れるんじゃないかしら、思いつかないだけで」


 つまりは思いついて作成できているロズがやっぱりすごいのだ。

 大事に使おうとルークは決めた。


「なにか気がかりがあったりしたら手紙を書いてその判子を押して送ってください。インクは筆で塗ってもいいですが、朱肉の器に染み込ませてつけたほうが楽ですよ」


「わかった、後で買うとするよ。俺からはあと無いが、そっちからはなにかあるか? 要望とか、注意点とか」


「そうですね………、一番の気がかりが引き受けてくれるかだったのであまりそういったことは考えていませんでした。………あ、癇癪を起したときは注意してください、普通の子より大分激しいので」


「そんなにか。ああ、わかった。じゃあこれで話は終わりだな。なら俺は帰って準備を……、あ…」


 ひと段落ついて椅子から立ち上がろうとしたところで、思いだした。

 現在ここはルークの知らぬ土地で、魔法によって移動したからもどり方がわからないのだった。


「おい、引き受けたんだから家に帰してくれないか? こっちだって準備があるんだ」


「あ、そうね。転移してるから一人じゃ帰れないものね。ちょっと待ってて、今説明の準備するから」


 説明? と首を傾げるルーク。よくわからないが彼女の協力がないと帰れないので大人しく待っていた。

 その後ろから、今まで話に入ってこなかったアランがバンッと勢いよく背を叩いて肩を組んできた。


「いっ……!!?」


 不意打ち同然で、しかも恐ろしく強い衝撃が背を襲ってきて火傷を負った時のように皮膚が悲鳴をあげた。心臓が呼吸を忘れてしまうほどの衝撃に暫く呼吸を止めるルーク。

 そんなことに気付かないアランは晴れやかな笑顔で組んだ肩を揺する。


「よかったああ~! さすがルーク、お前昔から子守慣れてたもんなあ。何でも屋っていうからひょっとして…と思って提案した甲斐があったぜ! 本当に困っててさあ~」


「……っは………く………!」


「これで俺達も気兼ねなく行動できる。こっちもそろそろ限界だったから本当に助かった……て、おい、話聞いてる?」


「おま………力、強………い……」


 じんじんズキズキと、背中の熱と刺すような痛みに苦しみながら抗議する。

 涙目になって顔を上げ、じろっと恨みがましい視線を向ける。


「なんだ、その(ちから)……ゲホッ ゲホッ、ハァ……。息詰まって殺されるかと思った」


「大袈裟な。そんな力加減で叩いてるわけ……あ、そうだった」


 はたと気づいたアラン。側ではあ〜、とレグルスのため息が漏れる。


「アラン…あなた何度言えば分かるんですか、あなたの力は修行の結果もあってもう常人を超えてしまってるんですよ。普段から手加減しないと勇者でなくて誰彼構わず吹き飛ばす危険人物になりますよ?」


「どういう……? う、げっほ…っ」


「わ、わかってるよ! 悪いルーク! 感覚ないからまだ慣れてなくて。背中大丈夫か? これ握っててくれ、楽になるぜ」


 自分の失態に気づき慌ててルークの背中を気遣い、アランは自分の腰に吊るしていた球を取り外しルークの手に握らせた。

 きれいな透明色をしたその玉は金糸のように輝く編み紐で取れないように固定され、持ちやすくされている。ルークが握ると玉が淡く発光し、それに合わせていくように背中の痛みが徐々に引いていくのを感じた。


「痛みが引いてく……、これは?」


「旅立つ前にディオネスからもらった『(いやし)水玉(すいぎょく)』だ。手にしてる人の怪我や状態異常を治してくれる。病気とかは流石に無理だけど。完全に痛みがなくなるまで持ってていいからな」


「すごいな。こんなすごい道具くれるのか、そのディオネ…ス、さん?」


 なんか聞いたことのある名前だなと思ってん?と首を傾げると、気づいたレグルスがさらっと言った。


「アランが言っている方は女神ディオネスのことですよ」


「え?」


「それはアランが修行を終わらせたときに女神様から直接受け取った代物なんです。国宝級、いえ世界規模で珍しい道具ですよ」


 女神から直接というののも驚いたが、世界規模で貴重な品だということにぎょっとして持っているのが怖くなり急いで放そうとした。が、玉は吸盤でもあるように手からまったく離れなかった。

 持っていないのに離れない理屈がわからず「え!?」と声を上げて、驚きを上書きされて掌を上下逆にしたり、振ってみたりしてなにをやっても離れないと理解すると、せめて何かの拍子に落ちないようルークは不可思議な珠をまた握った。これ以上心臓を驚かせないでほしいと内心願ったりしながら。


「奇妙で貴重なのはわかったよ」


 もう驚くのに疲れたルーク。

 そこで準備が整ったらしいロズが何かの道具を抱えて戻ってきた。


「おまたせ~……て、何、どうしたの?」


 さっきより疲れた様子でうなだれているルークと、申し訳なさそうに隣に座っているアラン、それを諦観しているレグルスと、ほんの少しの間に様変わりしている様子に首を傾げるロズ。


「何も。あんたたちの偉大さに驚いただけだよ」


「なにそれ」


 話がつかめないロズは道具をテーブルに置いて説明を始めた。


「じゃ、転移魔法について説明するわよ」


「転移魔法?」


「そ。あんたを連れてくるためにやったあれね。またやるために知っておいてもらいたいことを今から説明するの」


 連れてくるためにと聞いて、ここに来た時の状態を思い出す。

 無理やり不思議な円の中に入れられて、知らないうちに気を失っていて目覚めたことを。


「……あれか。またやるのか」


「怖がらないで、って言っても無駄でしょう。だから少しでも不安が消えるようにするために説明するのよ。あの時は緊急だったし、アランが話したものだと思ってて急いで発動させた。ごめんなさいね」


 説明を始めたロズがまず伝えたのは、転移魔法はアランたちと旅を続けている途中で編み出した移動方法だということ。

 したがってまだ不安定な部分があり、緊急性があるとき以外には滅多に使ってはいない。


「一見便利な魔法なんだけど、波長が合わないとどうも危険性が高まるのよね。その波長の良し悪しをまず見てから相手を連れていくんだけど、その間もなくルークは連れてこられたでしょう? だからだと思う、気を失ったのはたぶんあなたの魔力波長が移動魔法の波長とあまり合わないからだわ」


 慣れてもらえば気を失わずには済むだろう、がやはり気分が悪くなったり眩暈がしたりはあるかもしれない。だが地道に慣れてもらうにしても時間は足りない。ということだった。


「じゃあどうするんだ?」


「慣れてもらうしかないわよ。というか気絶覚悟で発動するわ。こうやってゆっくりしてるけどあんまり時間はないし」


「マジかよ……」


 不安は多少晴れた、しかし恐怖は変わらずある。それを踏まえたうえでの答えがさあ行きましょうとは…。 腹をくくらなければいけないか、と自分を奮い立たせるルーク。

 その後じゃあ行くわよという合図に集まって、魔法は発動された。

 1度目よりは恐怖は薄らいだので落ち着いて円に挟まれていくのを見届ける。

 ゆっくりと降りてくる陣に、まだルークは平静を保てていた。


「え…………待って、なんで!?」


 ロズの焦った声が聞こえなければ、ルークはまだ耐えきれた。


「どうした?」


「嘘でしょ! 魔法の制御を誰かに奪われてる!」


 アランの質問に答えるというより、信じられない事態に一人ごとをこぼしているロズの言葉に周りも驚愕する。


「はあ!? そんなことあり得るのか?」


「知らないわよ! 今までこんなことなかったし! でも現に、今奪われそうな……きゃっ!?」


「うおっ、なんだ!?」


 不意にルークの身体が傾いでロズの方へ倒れてしまった。


「悪い! だいじょう……」


「ルーク、足!!」


 ロズに謝って手を貸そうと伸ばしたところで、ルークを見たロズがぎょっとした顔で叫んだ。

 同時に何かに引っ張られている感覚が足や腕に感じ、ルークは手足を広げた状態から身動きが取れなくなった。


「なんだ!? 動かない!」


 拘束感に抵抗しようともがくルークだが、まったく自由が利かない体に不安と警戒心が跳ね上がる。


(なにも引っかかったりしているわけではないのに、何で動けないんだ!?)


 まるで糸が絡まり合って動けなくなったような感覚だ。ところどころに感じる圧迫感がそれを強調する。


「おい、これ転移魔法のせいじゃないよな!?」


「だったらとっくに解除してるわよ! そんな黒い触手知らないっ」


「触手!!?」


 ルークには見えていないが、他の三人にはルークの手足に黒いうねうねとした蔦のような触手が絡みついているのが見えていた。それをロズが教えてやれば、ルークはざあっと顔を青くさせた。

 当人が見えていないためルークは自分に何がくっついているのかわからない。そんな状況で「黒い触手」なんて情報が伝わったらどんな気持ちか。

 泣きたくなる恐怖に耐えながら勇者に視線だけで助けを求める。

 そんなルークの気持ちなど知らず、本人が見たら絶叫しそうだな、と他人事のアランは思う。

 全身にまきついてルークを縛っている黒い謎の触手の姿はとても不気味だ。

 しかしそんなことはアランにとっては些細で、今何よりも重大なのは親友が危険だということだ。


「ルークに何するてめえっ!」


 その触手に向かって、臆することなくアランは剣を構え斬り払った。

 抵抗感もなく切れた触手。もちろんルークには傷一つつけていない。

 しかし切られた先が消えることはなく、ずっとルークの腕に絡みついて、おまけに斬った先が新しく生えてきてさらに巻きつき始めた。


「なっ!? 斬っても離れないぞこいつ! どんだけルークが好きなんだよっ」


 つい気を紛らわせるためにふざけたセリフを言うと、向こうも混乱しているらしくまともな返答が返ってきた。


「俺が知るかよ! どうにかしてくれよ勇者だろ!!」


 敵が見えてすらいない当人は周りの緊迫した様子と自分の状況を把握するだけでいっぱいだ。

 切り離そうと職種を掴んで鋸のように剣をひく様子も、ルークからしたら空中で剣を揺らして遊んでいるようにしか見えない。自分でも何とか逃げようと手足に力を入れているのにびくともしない。


「ルーク、踏ん張ってくださいね! 触手に引きちぎられたりしないように!」


 素手で掴んで剥がそうとしているらしいレグルスがそんなことを叫んだ。


「さりげなくえげつない想像させんなよ!」


 そんなアドバイスらしき言葉についツッコミを入れ、想像してしまった自分の行く末に行かないようがむしゃらに抵抗するルーク。

 そうこうしているうちにも魔法陣は頭へ近づいてきているし、徐々に体が上へと引っ張られてきているのも感じる。

 やばい、と本能的に感じた。


「う、お………引っ張られる。くそっ……おあっ!?」


「ルーク!」


 体勢を低めて耐えていたが、抵抗虚しくルークは足をすくわれてそのまま空中に引っ張り上げられてしまった。そのまま上部の陣に消えるのを、3人は掴めずに伸びたままの手の先から見届けていた。


「くそっ、待て!」


「ダメッ、ここまで来たらもう動けない!」


 焦るアランが後を追おうとするが、魔法陣がもう頭に近づき侵食し始めたため動けなくなる。

 やがて全員が転移陣に挟まれて姿を消し、森の中から消えてしまった。




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