世界は平和に。一人は拉致に遭いました。
セレヴィナ王国の中心より山を挟んで西に離れた小さな町、ヴァリエ。
そこにルークは住んでいた。
国内ならどこにでもいる日に焼けて浅黒い肌と、派手な髪色があちこちにいるというのに土のような焦げ茶の短髪、ほりが深めの平凡な顔、平均より少し高いと思われる背という容姿の、どこからみてもごくごく普通の一般人。
雇われ傭兵………というよりは個人経営の何でも屋に近い。ちょっとした手伝いや力仕事、たまに護衛などの大きい仕事を請け負いながら日々を送っていた。
8年前からこの町に移り住み、現在25歳。
仕事に関しての人気は上々。くいっぱぐれない程度に稼いでいる。
鍛えてきた腕っぷしにもそこそこ自信があるので、賃金は安くとも依頼が途切れなくあるおかげで仕事には困らない。
朝食をすませて愛用している剣の状態も確認し、ルークは外へ出る。
今日も朝から仕事が入っていた。
隣町までの荷物の護送で、他の傭兵と協力して運ぶ仕事だ。
戸締りを確認して雇い主の家まで歩いていく。
途中すれ違うご近所さんとあいさつを交わし、他愛ない話を2,3、話しては進むということをくりかえして雇い主の家までたどり着いた。
仕事は単純。周りと協力して荷物を荷車に積み、ここから一日ほど進んだところにある隣町まで無事に運ぶこと。この町で雑貨を扱ってる商人が雇い主だ。彼は儲けているだけあって金があるようで、ルークのほかに10人ほど雇っていた。単独もいればグループもいる。紹介されたときに言葉を交わし、険悪な空気などをつくらないように相手とのコミュニケーションをはかっていく。
商人の挨拶が合図となり、積み込みが終わり次第護送へと移った。
声がけで連携して、役割分担で交代しつつ丸一日かけて隣町までの運搬を終える。
途中野生の大型獣と遭遇した以外は危険な出来事がなかったので、ルークとその他傭兵たちも一安心で役目を終えた。
大体がこんな日々だった。
報酬を渡されたルークは帰る前に町の商店をねり歩いた。
歩いてきた疲労はあるがへとへとなわけではないので普段寄らない店を見たかった。
懐に入った収入に心弾ませて使い道を考えながら、なにか変わったものでもないかとぷらぷら店を冷やかしていく。
ふと女性に人気だという動物をあしらった置物が目に入る。
(おばさんへの土産に………いや、それなら邪魔にならない物の方がいいか。無駄が嫌いな人だし)
自分が渡す物への反応を思い浮かべながら、ルークは世話になった小母への土産を物色し始めた。
小母といっても、ルークとの血の繋がりはない。
ルークの両親はまだ彼が幼い頃に流行り病で亡くなってしまった。なので成人するまでは幼馴染とその母と一緒に生活し、本当の家族のように過ごしていた。
小母は一人立ちすると決めたルークのために一般家事から礼儀の知識まで教え込み、実の息子同然にルークを育ててくれた。ルークにとってもうひとりの母だ。
そんな小母へのお土産は毎回悩みどころで、送った後日正直な感想が届くために、渡すと決めたらかなり真剣に選ぶ必要がある。
二時間ほどかけて選んだ品に満足して、もう宿に戻ろうとした途中、道の真ん中に大勢が集まっているのを見つけた。
露店もないだだっ広いだけの場所だったが、みんな集まった中心に目をやっており、何か始まるのかと興味深々で近づいたルーク。
見ると、木箱に乗って一人だけ身長が高くなっていた男が何かを力説していた。
「……うなんだ。俺の友人の記者が貴族から聞いた確かな話だ。『勇者』は『魔王』を打ち倒したって! この国はもう安全なんだ、平和になったんだっ!」
声を張り上げる男のセリフに周りはざわめきだす。
ルークも男の話には大いに動揺した。
『勇者』
それは数百年に一度目覚め、世界を脅かす『魔王』を倒すために選ばれる存在だ。
男女を問わず選ばれた『勇者』は一定期間、神官以外は誰も知らない場所で修行を積んだ後、集められた仲間達と共に旅に出るという。
そして魔王が倒された世界には再び安寧が約束される――――――という伝説だった。
実際に起こるまでは。
3年前、人知れず魔王が生まれた。
魔王は「瘴魔」という魔物を生み出し、世界中に被害を与えた。
魔王がどんなやつなのか、ほとんどの国民はわからなかったが世界中に突如瘴魔が現れ国民を襲った日から、本能でみな魔王の存在の意味を知り、事態に混乱し、恐怖した。
ろくな対策も情報もないまま、家族を守るために各々が必死になって身を守った。
あっという間に国は廃れ、人は弱り、あちこちに得体の知れぬものは全部殺す対象になるような殺気漂う不穏な町ができあがった。
そんな状態が3年の間続き、やっと救ってくれたのが勇者だ。
神より庇護され、教会で力を得た勇者は四人がかりでやっと倒せる瘴魔をたった一人で次々と倒していき、あちこちの街や都市、村へ助けに向かい、瘴魔を倒して人々を救った。
打倒魔王を掲げ、か弱き国民たちを助けながら各地を旅する勇者の存在は、世界中に希望をもたらした。
新聞や人づてに勇者がどこにいるのか、何をしているのか常に世界中で話が飛び交い、つい最近はようやく魔王との直接対決にまでたどり着いたという情報が世界を駆けていた。
勇者が魔王を倒す、それは世界中が願ってやまないことだ。
そんな一大事をもし騙すために語っているのなら、彼がこの先に受けるのは大勢の拳だ。
しかし男が嘘を言っている様子はなかった、心からの喜びに満ちている表情がみている者たちにも本当のことなどだと伝えてくる。
つまり、彼の言葉通り勇者は魔王のもとにたどり着き、決着がついたのか。
理解してくると彼の言は嘘ではないのかと戸惑い始め、先ほどよりもざわめきが大きくなった。
「瘴魔は、魔王は去ったんだ! もう怯えて生活する必要はないんだ!」
そこに最後の一声というように、男はひときわ大きい声を張り上げ両手を天にあげてやったあー!と叫び、泣き始めた。
それが引き金となり、周囲からも同じような状態になった人が続々と現れる。もう恐怖や苦しみを味わわなくていいんだという安堵と喜びに、広場は流す者たちであふれた。
ルークはそんな集団の輪からそっと抜けて宿に戻った。
周りが『勇者』報道に驚いて喜びに騒ぐなか、一人門を抜けて町の外へと出た。
道中、淡々と歩きながらさっきの男の話を思い出す。
『勇者』が城へ帰っている。
国を、世界を怯えさせた魔王を倒して。
それは本当に嬉しい、ルークだってそう思った。
だが彼にとっては魔王よりも、別のことのほうが頭を占めていた。
(ちゃんと帰ってきたな、アラン)
もうだいぶ前に会わなくなった友人に向けて、ルークは心の中でだけ声をあげた。
幼い頃からともに遊び、誰よりも信頼していた親友…アラン。
国が称える女神ディオネスより選ばれた『勇者』として、今代に選ばれたのはアランなのだ。
ルークは過去の記憶を振り返る。突然訪れた、絵本の物語のようだった光景を。
〇〇〇
ある日アランは思い切った顔で告げてきた。「俺、勇者らしいんだ」と。
馬鹿が突き抜けたのかと最初は呆れた視線を送ったルークだが、神の使いだと紹介された神官がアランの後ろから話かけてきたことで現実味がでた。
前日に出発の話まで纏まっていたらしく、ルークと別れの挨拶がしたいというアランの願いで今日まで待ったという。
ろくに神官の説明を聞かずアランがどこかへ行ってしまう事態に恐怖したルークだったが、すでに決意を秘めた瞳と向き合い、止められないとわかってからは「絶対に戻って来いよ!」とだけ涙目で伝えた。
そのまま神官に連れられて行くのを、小母と二人で静かに見送った。
〇〇〇
以来10年近く、アランと会えないまま月日は流れていった。
短くない時間が経過したなか、成人しあの暗黒の日々を生き抜いて今、届いた懐かしい人物の話を聞いたら、嬉しくなるに決まっている。
身体は無事だろうか。姿だけでも見れるだろうか。心配なことはどんどん出てくる。
だが雲の上の存在になってしまったことで簡単には会えなくなってしまった。
国王なんかと真正面から会話するような位置に行ってしまったのだ。そんなやつとまともに会うことはできないだろう。
記事でしかわからなかったアランの消息、それを心配しなくてよくなったのが自分と小母にとっての最高な報せだ。
アランの母にも教えなくてはと速度を上げるーク。
突然舞い込んだ報せに心弾み、ルークの帰る足取りは鳥のように速く、軽かった。
一日をかけて戻ってきたヴァリエは、隣町で聞いた話題が回っていたようで魔王の消滅と勇者の帰還に町中が喜びの声を上げ、活気づいていた。
そこに遅れたように記者たちが刷った報道紙がばらまかれ、人々の話と同じ内容が大々的に載せられていたことで、事実となって国中世界中に広がった。
翌日にはもはや誰かれ構わずのお祭り騒ぎになっていた。
ルークも嬉しくなり、すれ違う人々に笑顔であいさつを交わしながら共に喜んだ。
故郷にも帰り、アラン母や知り合いたちと平和と友の無事を祝って飲み明かした。
魔王消滅から半月ほど経ち、人々も興奮が抜けて落ち着いてきたころ、ルークも仕事を再開した。
そして、その日の夕刻に騒動は始まった。
「よっ! ひさしぶりルーク!」
仕事帰りの見慣れた我が家にほっと一息ついて中に入ろうとしたら、中からドアが開いた。当然だが中には誰も入れていなかったのに、だ。
そして出てきたのは金髪が印象的な、見覚えのない男。片手をあげて気安い掛け声でルークを迎える。
ルークは自分の家から出迎えてきた見知らぬ男に、ドアノブへ伸ばしていた手を方向転換。そいつの顔面へと振りぬいた。
「わっ! あっぶね、何考えてんだよっ!?」
しかしあっさりと避けられ、当てることは叶わなかった。
舌打ちが漏れる。
「誰だ、この盗人め。俺の家から何盗みやがった!」
警戒心たっぷりに盗人を睨むと、盗人呼ばわりされた男は心外だと慌てて弁明を叫んだ。
「泥棒じゃねえって! 俺だよルーク、オレオレッ!」
しきりに自分を指さす男を見ながら、ルークはハッと気づく。
(そうか。これがうわさのオレオレ詐欺か。なるほど、なんて図々しさだ)
一人納得し、ルークは自分のなすべきことを理解する。
「ああ、思い出したよ! ひっさしぶりだなあ、本当にお前か?」
やっと思い出したと笑うと、男は嬉しそうにルークへと近づいた。
「やっとかよ! いきなり殴りかかられたときはどうしようかと……」
「せいっ!」
不用意に近づいてきた盗人もとい(推定)オレオレ詐欺師の胸倉を掴み、ルークは思い切り背負い投げで地面へ叩きつけた。
「ぐっ…はあ………っ!??!?」
油断していた男はもろに受け、衝撃に息が詰まる。
うまく呼吸ができずに倒れたままの男をルークは見下ろす。
「騙すならもう少しマシな嘘をつくんだな、詐欺師め」
「だ……か、どろぼうじゃ、ね………て………! 詐欺師でもねえわ、どアホッ!」
「うおっ!?」
詐欺師を放って家に入るが、突然起き上がって大声をだした男に驚く。
振り返ってて詐欺師のほうを向くと、怒りも露わに男は叫んだ。
「親友の顔を忘れやがったかこのバカ野郎ーーーっ!」
「…はあ? 親友って……」
そう叫んだ詐欺師の顔をルークはやっとまじまじと見た。
女性に好まれそうな色っぽさのある整った顔立ちに、短く切られて跳ねた金髪、怒りで今は吊り上っている宝石のごとく赤い瞳。
目や髪色は確かに覚えはあるが、それは遠い昔の記憶だ。当てはまる人物を思い出すが今は関係ないので横に置いた。
それ以外にはとくにどこかで会った記憶はない、というか知り合いなら嫉妬で十発ほど殴りかかっていそうなくらいむかつくイケメンだと思った。
「俺はお前みたいなイケメンと知り合った覚えはないが?」
じっくりと観察させてもらったところで結論を出すと、詐欺師は声にならない声で地団太を踏んだ。
「くっそ、ずっと会わないとこうなるもんなのか!? だからってこんなきれいさっぱり忘れるもんか!? 信じらんねえ! ちょっと来いっ」
「っ!? おい!?」
なんの説明もなく詐欺師はルークを家の中に引きずりこんだ。
腕っぷしには多少の自信があったというのに、詐欺師の拘束から全く逃れることができなかった。そのことに驚く暇もなく拘束が解かれ、急に離されたせいでルークは盛大に床に倒れた。
「ってぇ……お前なあ、いい加減本気で警備隊呼ぶ……………」
「アランだ、ルーク!」
怒りが頂点に達しそうなところで、詐欺師から意外な言葉が出た。
「………は?」
聞き間違いか?とルークは首を傾げる。
だが詐欺師はもう一度ゆっくりと告げた。
「おれは、アランだ。子供の時に別れたお前の親友の、アラン、だ!」
「なにを………そんなわけ……」
信じられないルークは否定しようとするが、もう一度、アランの顔をじっと観察した。
色男だが除外した顔と目の前の顔を重ねて、確かに懐かしい面影があると発見する。
「アラン………? お前、アランか!」
「だから、最初からそうだって言ってるだろ。……久しぶり、ルーク」
やっとわかってくれた友にアランは疲れた溜息を吐いて挨拶する。
ルークはため息どころではなかった。
「おっ前! どんだけ長く、家開けたら………っ…!!」
気が済むんだと続けたかったが、いろいろとこみあげてきた感情を押し込めるのでいっぱいになり言えなかった。
「……………………小母さんのとこ、帰ったのか?」
聞けたのはそれくらいだった。
アランは小さく首をふる。
「まだ会ってない。今ちょっと困ってて、会うと迷惑かかりそうだから。……元気だったか?」
「俺が送ったお土産に一つずつ意見を述べるくらいには元気だよ」
ルークの返しにアランはプッと噴き出した。
「そっか、よかった」
「お前が遠慮しなきゃ喜んでその迷惑に手を貸すぞ、小母さんなら」
「知ってる、でもこれは話せない。お前にしか」
「なんだよ、いったい?」
「ルーク、頼みがあるんだ」
アランは膝をつきルークと目線を合わせ、まっすぐな瞳で向き合った。
旅立つと言った時のような真剣なまなざしにルークもふざけた受け答えはできないと悟り、立ち上がる。
またこうなるのか、と友の頼みを断れない自分に内心で愚痴って。口では違うことを言う。
「リビングで聞こう。いつまでも床の上じゃ肩が凝る」
「あ、すまん」
自分で床に引き倒したことをすっかり忘れていたらしく、立ち上がったルークにアランは申し負けなさそうに謝罪した。
やれやれ、と昔とちっとも変わっていない性格にルークは嬉しいやらイラつくやら。しょうのないやつだと溜息で終わらせ中のテーブルへ案内する。
(今日は何なんだ、ラッキーデーとかなのか?)
飲み物の準備をしながら、嬉しいこと続きに舞い上がってしまいそうだった。
魔王は消えた。友人は戻ってきた。まだ親友だと思ってくれていた。
とてもいいこと続きだ。
大人げないと自分でも思うが、それでも嬉しさはこみあげてくる。
茶を淹れながら小躍りしたい体をぐっと抑えて、ルークは落ち着いた表情を取り繕ってテーブルへと向き直った。散々心配したアランにこちらが喜んでいる姿を見られるのはなんだか癪だ。
もう疑ってないが、連絡もせずにずっと心配させた仕返しに暫く疑いの視線を向けてやろう。
ルークはそんな意地の悪いことを考えた。
「もう一度聞くが、お前は本当にアランなんだな? 俺の家を買収すべく親友のふりしてる悪徳商とかでもなく?」
「だから、そうだって言ってんじゃんか! いい加減疑うのやめろよ、この家買収されるような買い方したのか!?」
茶をだして落ち着いてから、疑り深く眉根を寄せてルークは対面へ問いかける。
そんなルークにアランは半ばキレ気味に反論していた。
だがわかりきっていて尋ねているルークは平然と答えた。
「してない。ふ~ん、本当にアランなんだな……」
「~~~っの、やろう……!!!」
マイペースにからかい、半ば面白がっているのが見え見えなので怒りが込みあがっているアラン、しかし家宅侵入した自分も怒らせているため必死に我慢しようとしている姿はルークから見て本当に面白かった。いつまで続けようかと悩むくらいには。
そんな態度の友人に、アランは焦った様子で目的を告げた。
「ふざけてる暇はないんだよっ、大事な話があるって言ってんじゃんか。そのためにお前を探してたんだぞ。それを聞いてから俺をいじるなりなんなりしてくれ」
「聞いたらいじっていいのか?」
「駄目に決まってんだろ」
ぴしゃりと断って、アランはカップのお茶を一気に飲み干し喉を潤した。
その様子に少しムッとするルーク。
依頼の内容を聞いたりするときに客を家にあげることだってあるのだ、だから客用の茶は少し高めの茶葉を買っている。それを出してやっているのに一気飲みするなど……ちゃんと味わってほしいものだ。再会の喜びも薄まってしまった。
「………それで、盗人の疑いをかけられるような行動とってまで俺を探してた理由ってのは?」
いじるのも飽きてきたので本題にはいってやると、それまでのイライラしていたアランの表情がひき締まり、真剣なものになった。
「お前子供好きか?」
「は? まあ、好きか嫌いかなら好きだが……聞いて意味あんのか?」
「まあな。お前に協力してほしいことがあるって言っただろ、それに関係してる。だから力を貸してくれ」
「あ~……? まったく話が見えてこないぞ」
ルークは阿呆のような声をあげた。
そもそも、英雄が一般人を頼るなんて何事だ。
親友だったとはいえ今やアランができないことなど数えるほどだろうに、何を自分に期待しているのか。おまけに内容もさっぱりだ。
その反応を予想してたのか、アランは話を進める。
「理由はちゃんと話す、けどまずは今すぐに来てほしいんだ。だからついて来てくれ」
「ちょっと待て、だから何が何だか……おまえは昔から主語を抜くからわけわかんねえ会話になってだな……」
一方的に話を進めるアランが立ち上がりかけるのをルークは腕を掴んで止める。
しかしアランにはここで説明する気はないようで、はぐらかすでもなくただ頼み込んできた。
「ここじゃ言えない。だから今は一緒に来てくれルーク。頼む、お前しかいないんだ」
「いや言えないって、お前何しでかしたんだよ。理由を言えって………」
「ちょっとアラン! いつまでかかって……誰っ!?」
「は!? あんたこそ誰!?」
自宅のはずなのに、言い争っていた二人の隣に突如女が現れた。
ルークにはわけがわからず、唯一理解しているらしい友にどういうことか問う。
「おいこいつ誰てかどうやってここにドア鍵なんでお前の知り合いか!?」
大分支離滅裂な文章の質問にアランは何も答えず、女に向かって話した。
「ロズ、こいつが説明した男だ。ついでに一緒に連れて行ってくれ、このまま戻ろう」
「え、一緒でいいの? う~ん、まああんたが言うなら信じてやるわよ」
女は返事を返すとどこからか杖を取り出し、ルークには聞き取れない言葉をつぶやき始めた。
「は? なにを………嘘だろっ!?」
「黙ってろ」
意味不明な女の言葉が終わると、部屋の床に見たこともない複雑な模様が描かれた光の円が浮かび、三人をその中に入れた。
青く光り輝く円は天井にも同じ模様を映し出し、天井の円は紙が剥がれたように天井と離れた。そして三人を上下で挟むようにして円と円の距離を徐々に縮めていった。
黙ってろと言われたルークは声を上げかけるのをこらえながら迫ってくる円に目を向ける。ほかの二人は微動だにせず円を見つめているが、何が起こるのかわからないルークからすれば恐怖でしかない。
さっきからアランの方を向き腕を何度も引いて気を引こうとしているのに、彼は円を見つめる以外に何も反応しない。
(せめて説明しろおぉぉおおおおーーー!)
一発ぶん殴って気づかせようかと思い至ったころには、もう頭に触れるくらい近くまで下がってきていた円。
もはやどうしようもなく、ルークは何が起こるのかもわからずぎゅっと目を閉じて事の成り行きに任せた。
なんの説明もなく巻き込んだ友にどんな報復をしてやろうかと頭の隅で怒りながら。