説明(と言う名の釈明)
ちょっと説明が長くなりました
「あ、あの」
鳥羽は目の前の、初めて見る美人に困惑しつつも声をかけた
「どちら様で?」
金髪美女はばっと顔を上げると涙目で鳥羽ににじり寄った
「本当すみませんでした!私女神やってますアリアと申します。今回はあの、手違いでして。」
女神?手違い?事故は?社長は?損害賠償は?
頭を様々なハテナマークに占領されて鳥羽は固まってしまった。
その後
アリアにゆっくりと一から説明を受けて
ここが地球の日本ではなく、別の世界であること
高速の事故の際にバイクの若者が死亡して、それを横取りする形で異世界での勇者として転移させようとしたのだが、その際に間違えてトラック側を転移させてしまったとのこと
最終的にトラックが転移>一瞬その場から消える>バイクは轢かれる事なくギリギリで事故回避
人死にが出なかったことに鳥羽は安堵した。
しかしそうなると次は仕事の事だ
そう大きくも無い会社が積荷とトラックを丸ごと失ったとあれば経済的にも信用的にもかなりの損害だ。
ところが
「今回の転移に際して、意図せずトラックを転移法儀式に載せてしまったので、発動直前にキャンセルを試みたのですが…間に合いませんで」
「でもキャンセルに伴う現象の払い戻しは出来てしまったのです」
だめだ、アリアの言う事が理解できない
「つまりどういうことでしょう?」
「トラックが転移したのと同時にキャンセルしたので、前の世界とこちらの世界どちらにもトラックが存在します」
「前の世界のトラックはびっくりしながらも事故等を起こさず、予定通りの行き先に荷物を届けてる最中です」
「ああ、それは良かった」
「いやそれがその…あまり良くもないのです」
「どういうことでしょうか?」
「これはいわゆるバグ技でアイテムをコピーしたのと同じでして」
「あんたゲーマーか」
「前の世界にトラックも鳥羽さんもきちんと存在する以上は」
「今こちらに居る貴方は前の世界に戻る事は不可能です」
愕然とした
今までまじめに生きてきて
職場の業績も上がってきて
これから
これから順調な人生を歩んで
幸せになれると思ったのに
こんな世界に飛ばされて戻れないなんて
こんな
こんな
どんな?
「あの、ここは一体どんなとこなんでしょうか」
「はい、さっきも少し説明しましたが、地球の日本ではなく、異世界です」
「最近流行のラノベとかでいうところの異世界ですか?」
「そうそう、それです。ご理解いただけてるなら助かります」
聞けば人間同士の王国が群雄割拠している最中に魔の者と呼ばれる勢力が急速に勢力を拡大。
周辺国に無差別に戦争をふっかけてきな臭い状態だという。
「ええええぇええ、そんな危ないとこに放り出されるんですか?」
「すみません、そもそもこちらの住民の請願に応えて勇者を顕現させるという案件でしたので」
「勇者って言ってもおれなにもできないよ?ケンカも弱いし」
「そこは大丈夫です。転移に伴って勇者ポイントでばっちり強化されてますから」
「勇者ポイントって別に実感ないんだけど」
「大丈夫です!ちゃんとステータスとか上がって・・・上がって・・・あれ?」
突然手元でなにやら板状の物を覗きこんでいたアリアがいぶかしげに首を捻った
「ステータスってRPGみたいな?」
「…はい…そうなのですが…あれおかしいな」
「どうしました?」
「あまり…というか普通のままですねこれ」
「普通」
「はい…この世界の一般人よりは大分強いですけど、私が設定した勇者はもっとこう…」
むむむとうなるアリアをちょっと可愛いなと想い始めたころ
「ああっ!」
いきなりアリアが叫びだした
「ど、どうした?何かありました?」
「トラック!トラックのステータス!!」
「トラックのステータスって……そんなのもあるんですか?」
何でも異世界に転移させるにあたり燃料切れや故障でバイクが動かなくなってはダメだろうと
あれこれチート能力を授けたそうで
バイクのサイズならまだ影響も小さいだろうと思ったのが、
間違えて大型トラックを指定してしまったので物凄い負荷がかかったとのこと
その所為で勇者本人である鳥羽への恩恵が殆ど食われてしまったとのことだった
「えとつまりおれは勇者というよりは…」
「その…聖なるトラックのおまけ、程度ですね」
「ひっでぇなおい!」
「すみませんほんとすみません!」
「それで、結局トラックどうなっちゃたの?」
「はい、えーとですねステータス、と」
むーん
「まず現時点で、絶対不壊と無限稼動がついてます」
「なんかすごそうだけど」
「どんな武器や魔法でも傷一つつきません。無敵です。後、燃料補給とか全く無しで無限に動きます。」
「まじすげえんですけど」
「後は走行能力も強化されてますね。まず馬力が5000馬力になってます」
「あほか!?ノーマルで380馬力だぞ!?そんなのタイヤがもつか!!」
「絶対不壊ですのでタイヤも大丈夫です。無限に新品常態ですのでタイヤ交換も要りません。」
「このトラックで元の世界に戻ったら運送会社ボロ儲けだな」
「極安定性があるので崖から落ちても横転しません」
「それもすごいけど荷物とかひっくり返るだろさすがに」
「荷台は極安定と不壊がダブルで働きますのでシャンパンタワー乗せてジムカーナとかダウンヒルとかしても一滴たりともこぼしませんよ」
「開いた口がふさがらない……」
「後は成長とクラスチェンジですね」
「なんだそれは。RPGらしいけどもトラックだろ」
「はい、トラックです。ですので他のトラックにチェンジできます」
「ん?チェンジしてもトラックだろ?意味あるのか?」
「えーとですね…積荷も込みでのクラスチェンジですので…」
「…消防車やタンクローリーになれるとでも?」
「まさにそれですね。他にもですね」
「怖いから止めて」
「成長については」
「馬力まだあがるとか?」
「上がりますねたぶん。後は登坂能力とか最高速とか」
「その内空飛びそうだな」
「空は飛びませんよう。何言ってるんですか」
「ははは、そうだよな」
「海はいけますけどね」
「え?」
「水陸両用バスとかあるらしいですね」
「うわまじか」
「でも戦争中だと運送業ってのも難しそうだなぁ」
「何言ってるんですか、大活躍ですよ」
「トラックで?どうやって?」
「さっき既にやったじゃないですか」
「さっきって…あぁああああぁああああああああああああ!!!」
「絶対不壊の20t強の鉄の塊が時速120kmで敵陣のど真ん中を激走したんですよ?大戦果あがってますよぅ」
「いやぁぁああああああああおれ人殺しに!!!!!?????」
「大丈夫です、相手は魔の物どもなので全く問題ありません」
「問題ないってそんな!」
「やつらからすれば敵になりますけども、お陰で大勢の人を助けられたんですよ?救世主ですよ?」
「いやだからってそんな事言われても人身事故起こしたら」
「もう、騎兵の密集陣で轢殺が当たり前のこの世界で、車で魔の者撥ねたって何が問題なんですか。」
「いやあの…そうなの?」
「そうです。褒められる事をされたんですよ?」
「褒めるっていったい誰が?」
「そこの皆さんです」
「え?そこの?」
「はい、私はそろそろ戻りますね。また要所要所でアドバイスとフォローに参りますので」
「えっちょっと待ってそこの皆さんって誰!?」
フォンっと真っ白な空間が揺らいで
鳥羽が慣れ親しんだ運転席に戻った頃
トラックは何百の兵士達に囲まれていた。
「ふぉぉおおお!?」