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6話 始まりを告げる出会い

 か、階段の方から人の声が聞こえてきたぞ!

 えっと、日本語じゃないな。英語でもない……何語かわからないや。

 とりあえず、マルチリンガルを起動する……ソデウム語?聞いたこともない言語が最後のほうに追加されていた。まあ、ネコのパターンから考えるに、このソデウム語があの人の言語なんだろう。

 とにかく、このチャンスを絶対に無駄にしてなる物か!俺は洞窟を抜けるぞ!


「砂が消えてるし、死骸も全然落ちてないな。それに……なんだろこの車輪が通ったみたいな跡?この洞窟に馬車なんか入ってくるわけないし……」


 まだ相手の姿は見えないが、洞窟の中というだけあって声が響く。

 声から推測するに、若い女性だろうか。


「ああそうだ、苔集めなきゃ。お守りも探さなきゃいけないし、急がないと……なにこの音?」


 気付かれたか?

 いや、まあ、むしろ気づいてほしいぐらいだけど、さすがにいきなりモーター音を発したら無用な警戒心を植え付けそうだ。

 そう思って、あえて掃除をせずに静かに移動していたのだが、掃除をしなくても多少は音が発生するのだ。そして洞窟の中なのでかなり響く。

 隠れていても意味はないなと思い、サクッと階段前に登場した。


「へうっ!?なななな何!?ネズミ……じゃなくて……なにこれ!?」


 おお、面白い驚きっぷりだ。よし、ソデウム語で自己紹介しよう。


「私はポルカ、床の掃除はまかせてください」


「きゃあああぁぁぁ!?」


 驚きすぎじゃないか。後ろに飛びのこうとして、足がもつれて転んでいた。

 この視点からだと転んだ拍子に足の付け根を守る布地が見えてしまう。べ、別に見ようと思ってたわけじゃないんだからね!事故なんだからね!

 ていうか、この体になってからどうも食欲とか睡眠欲とか、生理的な欲求が薄れている気がする。今だってパンツ見えたけど特に何も思うことはなかった。


「な、何者よ!新種の魔物!?」


「私はポルカ、床の掃除はまかせてください」


 これしか喋れないんだよなあ……これで何とか伝わってくれるといいんだけど。


「ポルカ?聞いたこともないけど……掃除するってことは、この洞窟がやけにきれいなのって、あなたのおかげなの?」


 おお、ちゃんと伝わったみたいだ。

 だけど、その質問に答えるのはできないな……言葉では。

 よし、暇をきわめて習得した新技を見せてやることにするか!


「ピンポン♪」


「えっ、今の音もあなたが出したの?」


「ピンポン♪」


 なんてことはない。ただの電子音でミ・ドと出しただけだ。

 一昔前のクイズ番組みたいだが、ほかの方法は思いつかないんで、これを肯定の言葉代わりにしよう。


「えっと……もしかして、私の言葉がわかるのかな?もしわかるなら、もう一度さっきの音を出してほしいんだけど」


「ピンポン♪」


 女の子は本気で驚いたように目を見張っている。よしよし。これで俺との意思疎通が可能であることを示すことができた。

 あとは……どうやって俺が階段を上りたいことを表すかだな……

 とりあえず階段に向かって体当たりすればいいだろうか。


「どこからやってきたのかしら……ポルカくん?ちゃん?どこから来たの?」


 日本から……といっても信じてもらえるわけないよな。そもそも、ここで生まれたと表現しても差し支えないのだ。

 まあ、どちらにしても伝える手段なんてないのだが。


「ここに住んでるのかな?だとしたらゴメンね。勝手に踏み荒らしちゃって」


 あっ、この流れマズいぞ。俺はここの住民じゃない。いや、今はその通りかもしれないが、永住するつもりはさらさらない。


「ペポー」


 今度は1オクターブ低い音で、レ,♯ドーと発音する。さっきに比べればだいぶへんてこな音だ。これで通じてくれればいいのだが。


「あれ、違うのかな?ここに住んでるわけじゃないの?」


「ピンポン♪」


 よかった、通じたみたいだ。

 そして、これで俺は「はい」「いいえ」を伝えられるようになった。この二つが伝えられるだけでもだいぶ変わってくるだろう。


「じゃあどこから来たの?」


 ……早速、はいいいえでは答えられない質問が来るか。


「私はポルカ、床の掃除はまかせてください」


「えっ、どういう意味?」


「私はポルカ、床の掃除はまかせてください」


「もしかして、それしか喋れないの?」


「ピンポン♪」


 何とか状況を分かってくれたみたいだ。女の子は俺の言葉に返答する。


「そうなんだ。時間があったらもっといろいろ聞きたいけど……苔を集めなきゃいけないし、お守りも探さなきゃいけないし。忙しいんだ。また今度ね」


 そうか……忙しいのか……とりあえず階段前で待機して、帰り際に上りたいアピールでもするか。

 っていうか、お守りを探している?

 最近、銀色のネックレスを見つけたよな?

 物は試しと、俺はゴミ箱からネックレスを取り出し、吸い込み口からペッと吐き出した。

 そのネックレスを見た女の子の顔が急に輝く。


「あっ、私のお守りじゃん!見つけてくれたの!?ありがとう!」


 おお、見事に正解のようだ。落とし主が見つかってよかった。

 よし、この隙を逃してなるものか。すかさず階段に向かってガンガンと体当たりを仕掛ける。


「どうしたの?もしかしてその階段を上りたいとか?」


「ピンポン♪」


「そうか!じゃあ、帰るときに持ち上げてってあげるから、少し待ってもらってもいいかな?」


「ピンポン♪」


 心の中でガッツポーズを掲げる。

 よし、これでごみが足りなくなって餓死ルートは回避できた。

 はああぁぁ、安心したら涙が出てきそうだ。ポルカにそんな機能はないけど。

 あ、でも新機能を追加すれば水の噴射とかもできるんだよな。うまく組み合わせて感情表現とかできないかな?まあ、今考えても仕方がない。ゴミが十分に集まってから考えることにしよう。



 することもないので、やってきた女の子の観察をしている。

 年は10代後半ってところだろうか。ナイフを使って壁に生えた苔を削ぎ落し、袋の中に貯めている。何に使うのだろうか?まあ、光る苔が珍しいから集めてるって線もあるか……あるか?

 髪の色はブロンド。日本人ではないな。まあ、聞いたこともない言語を話している時点で日本人の可能性は捨てたが。

 やたらと髪がもじゃもじゃしているのは天然パーマか。もしかしてここはアフリカ?アフリカなら自分の知らない言語がいくらでもありそうだし、アフリカの人って髪の毛もじゃもじゃしてるイメージあるし。

 アフリカで掃除機の需要がどのくらいあるのだろうか……熱帯雨林に連れていかれたら体が錆びそうだ。砂漠だったら砂吸いたい放題のイージーモードかなあ。あまり砂漠にはいきたくないけど。

 服装も何というか日本じゃあまり見ないものだ。なんというか、ハリ〇ポッターの制服みたいだな……魔法とか似合いそうだ。

そのとき、女の子の腕が通路の奥の方を指さした。


「火炎よ敵を燃やし尽くせ 炎球(ファイアーボール)


 え?今なんか詠唱しませんでした?

 その瞬間、どこからともなく現れていたオオヘビが、一瞬で火だるまになった……って、うおい!

 まじかよ、え、アフリカとかじゃないよなこれ?ええと、そうだ異世界だ!

 剣と魔法の世界、異世界転生だ!ひゃっほう!


 はぁ……わかった。これはもう受け入れるしかないわ。

 俺は日本で交通事故で死に、異世界でロボット掃除機として転生したみたいだ。

 普通だったらもっと取り乱していただろうけど、自分がポルカだったという衝撃のほうが大きかったので、思った以上に冷静な状態を保てていた。むしろ今までなんで異世界転生の可能性を無視していたのか。

 異世界転生ものの小説は読んだことはあるが、主人公が掃除機だったことなんて一度もない。参考となる情報は0だ。ポルカとしてやっていけるのだろうか?

 ネガティブになっても仕方ないな。せっかくこれから洞窟を抜けて外へ出られるんだ。こんなきれいな洞窟はいらない。ゴミだらけの外の世界を求めて、気分を上げていこうじゃないか。


 この世界のゴミを、吸い尽くしてやるのだ!

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