5話 初めての新機能
ポルカです。
ただいま、広大な敷地を独りぼっちで掃除しております。
コトラがいなくなって、またヘビに襲われるんじゃないかと少し怯えていたのだが、意外にも誰も襲ってこない。もしかしてコトラの仲間だとか思われているんだろうか。
あー、コトラのにおいが体に染みついたと考える方が自然かな。まあ、その辺はどうでもいいや。
安全に掃除ができるというならば、それに越したことはない。
今はゴミを集めながら、このフロアのマッピングを終わらせて全容を明らかにするのが目標だ。
上り階段があったけど、下り階段はあるのか?もしかして出口があったりはしないか?隠し部屋はないか?
そんなことを考えながら掃除をするが、代わり映えのしない光景が続くだけである。正直、飽きてきた。
マッピングが終わったら、何か目標みたいなのを作った方がいいかな……ヘビと戦う手段とか手に入れたい。いつまでも襲われずにいる保証はないんだし。ゴミ5kg貯めて洗剤を取得しようか……それとも100kgの高圧水噴射を取得しようか……
そんな考え事をしながら走る俺の視界に、何やらきらりと光るものがあった。なんだあれ?
近づいてみると、どうやら銀色のネックレスのようだ。チェーンの部分が切れている。誰かの落とし物だろうか。
じっと目を凝らしてみると、何やら文字のようなものが書かれているけど、読めない。日本語ではないし、アルファベットでもなさそうだ。
ただ、少なくともこの洞窟に以前人が来てる可能性があるということは分かった。もしかしたらこれから誰かくるかもしれないな。
ここがどこの国の洞窟だか知らないけど、猫語すら聞き取れる「マルチリンガル」があるのだから、何語でも大丈夫なはずだ。さあ、いつでも来い。
それはそれとして。このネックレスどうしようか。さすがにゴミとして吸い込んでしまうのは気が引ける……でも、この辺に放っておくのも気分が悪いよな。うーん。
ちょっと実験してみるか。その辺から1個小石を見つけてきて、その上に乗っかる。
(この小石は俺のもの、この小石は俺のもの、この小石は俺のもの……)
だめだった。普通に吸い込まれてゴミになってしまった。
うーん、何かいい新機能ないかなー。
あ、そういえばあれがあったな。
[ゴミ箱 取得に必要とするゴミ消費量 3kg 捨ててもいいか判断がつかないときに、一時的に保管します]
普通ゴミ箱に捨てたらゴミ確定だと思うが、俺の場合は違うようだ。
それともあれか?パソコンやe-mailのゴミ箱みたいなものか?まずはゴミ箱に捨てる。本当に要らなければ、完全に削除するみたいな感じだろうか?
アイテムボックスみたいなかっこいい名前だったらよかったんだけどな……ゴミ箱か……まあ、名称なんてどうでもいいか。
ゴミの消費量も3kgと安めだ。最初に取得する新機能は[ゴミ箱]にしておこう。まあ、まだ3kgもごみ集めてないんだけどね。
ゴミ3kgを目指して、薄暗い洞窟の中でひたすら掃除を続ける。
洞窟の中は時間間隔が狂う。
ポルカに時計機能があることは分かっているが、時間設定がされていないようで、今が本当に何時なのかはわからない。昼なのか、夜なのか。それすらもわからない。
とはいってもこの体は疲れも眠さも感じないようだ。その気になれば1日24時間働き続けられるかもしれない。掃除機に睡眠なんてものは必要ないみたいである。
そういえばエネルギー残量はどうなったのか……ふむ、80を切ったということは、それなりに長時間稼働し続けていたということだろう。ゴミの量は……よしよし、あと少しで3kgだ。
時々、ヘビやカエルが遠巻きにこちらをちらりと見る以外に、これといって特筆すべきこともないな……あ、今できた。
このフロアのマッピング、終了である。
予想してたよりもだいぶ広い。もしかしたら単に自分の体が小さくなったので広く感じているだけかもしれないが。
上り階段はあったけれど、下り階段は存在しないようだ。もちろん出口もない。この洞窟から出るためには、あの上り階段を上らなければならないのだろう。もちろん、自力で上る方法なんて思いつかない。
うーん、マッピングにも表示されない隠し通路とかないかな?ゲームだと見えないところで壁に穴が空いていたりするもんだが。
せっかく生まれ変わったのだから、この洞窟の中で一生を過ごすとかは勘弁してほしいんだけどな……ゴミを吸い尽くしちまうよ。
さて、ゴミが3kgたまったみたいだ。もう一度脳内で(ゴミ箱)と呼びかける。
[ゴミ3kgを消費して ゴミ箱 を取得しますか?]
もちろん、心の中で(はい)を選択する。自分の体の中に何か新しい機能が目覚めた……感覚はないが、ステータスを見ると確かにゴミ箱が追加されている。
ステータス
廣瀬聡介 [ポルカ]
エネルギー 78/100
攻撃力 0
防御力 0
機動力 10
吸引力 10
ゴミ 0kg
スキル
マッピングLv1 マルチリンガルLv1 ??????Lv1 ゴミ箱
あれ?ゴミ箱にはレベルが存在しないのか。最初からある機能と新機能とでまた違うのかな?
??????は相変わらず未開放か。まあ、早速ゴミ箱を試してみることにしよう。
また適当に小石を見繕ってきて、その上に覆いかぶさる。そのうえで吸引を開始した。
(この小石はゴミじゃない……あれ?ゴミ箱に入れるのにゴミじゃないじゃなくね?なんて考えればいいんだ?まあいいや、とりあえずゴミ箱に入れ!)
成功した。体内に小石が入った感覚はあるが、ゴミの量は増えていない。
試しに吐き出そうとすると、吸入口からペッという感じで小石が吐き出される。なるほど、これは便利な機能だ。
よし、そうと決まったらあのネックレスを回収しに行くとするか。
完全に埋めきったマッピングを頼りにしながら、俺はネックレスのもとへ向かうことにした。
ネックレスはゴミ箱の中に。
怒られそうだが、ごみとして捨てるわけじゃないんです。持ち主の方すみません。もし会えたら必ずお返ししますから。
あれから、数日が過ぎた。
コトラは毎日のように来て俺の上でくつろぎ、階段を上って去っていく。
寝ころんだままで移動できるのが楽しいのだろうか。時折、進路を指定してくることもある。
コトラに階段を上りたいとジェスチャーで伝えようとするが、まったく伝わらないのが残念である。伝わったところで手伝ってくれるのかはわからないけど。ああ、今日もさっさと帰ってしまった。少しぐらいゆっくりしていけばいいのに。いや、十分ゆっくりしてたか。俺の上で。
はあ……掃除再開するか。
最近、ごみが全然ない。頑張って集めなければ基本的なエネルギー消費量すらも補えなくなってしまう。
くそう……あの階段さえ登れば、ごみがいっぱいあるだろうに!
なんでこのフロアはこんなにもきれいになってしまったんだ!?
俺のせいですよね!すみません!
しかし、ゴミがないというのは割と死活問題だ。生きたネズミを何とか吸い込めればまた違ってくるのだろうが……コトラの匂いのせいか、ネズミどころか生物一匹として近寄らない。
このままゴミを取り尽して、俺は死ぬのかな……悲しい人生……ポルカ生だったな……
あー、せめて人に感謝される掃除がしたかった。こんな人の住んでもいないところを一生懸命掃除しても、誰にも感謝されないのだ。
ポルカとして生まれ変わったことはもう受け入れたけど……こんな寂しい生き方は望んでいない。
他人との触れ合いが、恋しいのだ。
誰か、誰でもいいから、人間プリィーズ!
「うわっ、なんかきれいになってる?何があったんだろ?」