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58話 降り続く雨

「あれ、ポルカくん、このあたり掃除できてないよ」


『ピンポン♪ ありがとうございます』


 出勤するだけでかなり疲れてしまった。掃除に集中できてないのは自分でもわかるが、ノエルに指摘されるほどに雑な掃除だったか。

 今の俺はロボット掃除機だし、掃除しかできないのだから、それぐらいはちゃんとやらないと。

 アクアコンタムの発言は気に留めるが、そのせいで掃除をおろそかにするのは間違っていると思う。


 雨は相変わらず降り続いている。心なしかさっきよりも雨音が強くなっているみたいだし、少なくとも今日いっぱいは止むことがなさそうだ。

 帰りは[ホームベース]使えば一瞬で帰れるから濡れる心配しなくていいんだけど、もう一度ここに来るためにはまた外を通らなければならないからな……臨時のワープ先をもう1個設定できればいいんだけどなあ。


 掃除をしつつ、何度か心のなかでソイルコンタムを呼んでみたものの、特に何も起こることはなかった。アイツはもう俺に干渉しないって言ってたけど、だからといってあのままじゃあまりにも消化不良すぎる。

 いつ、何が起きるのか、ソイルコンタムは俺をどうするつもりなのか、あのアクアコンタムとは戦うことになるのか。それがわからないと対策の立てようがない。

 ソイルコンタムは、敵か味方かわからない、どちらかと言うと敵対的? な感じだったけど、アクアコンタムは明らかに敵対することになりそうだな。

 あの水弾を見たときは、絶対に戦っちゃいけない相手だと思ったけど、よく考えてみれば俺には[魔法吸引]がある。もしかしたら、近くにいる人ぐらいは守れるかもしれない。戦いたくないのは確かだけど。

 いかんな。思考が袋小路に陥っている。ちょっと視点を変えて考えることにしよう。


 水の砲弾を無数にぶつける魔法を軽々と使ってたし、あの魔法を使えば人間ぐらい簡単に殺せるはずだ。それをしてこないってことはできないってことなんだろう。

 別の次元に居ながらにして、こっちに干渉することはできない……いや、そう仮定してしまうとそもそも人を殺せるはずがないか。


「やっぱり今日のポルカくんおかしいよ、いつものポルカくんだったらもっとテキパキ掃除するのに、どうかしたでしょ?」


 ノエルの声が遠くに聞こえたので、何を言っているのか聞いてなかったけど適当に返事をしておく。今は思考の海に沈んでいるところなのだ。


 そういえば、ソイルコンタムは悪食ピグを使ってトスネを攻撃したんだっけ。この情報も本人(本豚)が言っていただけで、裏を取ることはできないのだけれど。

 他に情報もないし、アクアコンタムも同じような方法で人間を襲うと仮定してみよう。そうなると、2つの可能性が出てくる。


・どこかで魔物を大量発生させて、ある程度の群れができたところで一気にトスネに仕掛ける可能性。

・それを防ぐためにこちらが遠征を組んだ時、トスネの警備が手薄になることを狙って町中で魔物を生み出す可能性。


 この2つの可能性を抑えておきたい。いや、抑えると言ってもその方法なんて思いつかないんだけど。

 今できることといったら……騎士団の動きをよく見ておくことにしようか。また遠征に行くようなことがあれば、今回は参加しないでトスネに留まっておこう。


「あーもー! ポルカくん! 無視するなっての!」


『プゥン?』


 考えのまとめが一段落ついたところで、ドアの方からノエルの荒々しい声が聞こえてきた。なんかお怒りのようだけど、どうかしたのかな。


「ぷぅん? じゃないよ! 何度も何度も呼びかけてんのに反応しないしさあ、本当にどうかしたでしょポルカくん?」


 言い始めのほうは苛立ちの混ざった強めの口調だったが、終わりの方では心配するような不安げな声となっている。

 絶対に守ろうと決めたノエルに心配されるのは少し情けないが、一方でその心配りが嬉しくもあった。


『ありがとうございます』


「むぅ、何かごまかされているような気がする……」


 ごまかしもするさ。ノエルにはあんまり首を突っ込んでもらいたくないからね。

 本当にベストなのは、俺達のあずかり知らないところで計画が勝手に終わってくれることだけど、そんな都合のいい話は期待しない方がいいかな。どんなに嫌でも、巻き込まれたことに対処しない訳にはいかない。

 水を使った計画なら、怪しいのはやっぱり川とか用水路とかだな。後は井戸も確認すべきだ。今日はさすがに厳しいけど、雨が上がったらもう一回見に行ってみるか……


「あー、すまん、帽子を忘れたみたいなんだが、この宿屋にあるか?」


 そんな時に玄関の方から声が聴こえた。見てみると、昨日泊まっていた客だ。昨日見たときは、ありえないぐらいにつばの広い帽子を被っていて、ムチを腰につけており、まるでカウボーイな格好だった。

 その場にいたおかみさんが、ちょうど受付の後ろにおいてあった忘れ物を差し出した。マジででかいなあの帽子。サイズ的にはマンホールぐらいの大きさがありそうだ。

 帽子を返してもらった男の人は申し訳なさそうに頭を下げる。


「いやー、やたらと服が濡れると思ったら、帽子をかぶってなかったとは、自分でも驚きだよ」


「いえいえ、無事に見つかったようで何よりです。それにしてもひどい雨ですよね」


 あの帽子、雨具かよ? まあ傘と比べてみると、両手が空くから便利……なのか? どう考えても普段の収納には不便そうだが。

 当然というかなんというか、雨具を持たずに外に出た男の服はずぶ濡れになっていた。特に足元のあたりなんか、小川に足を突っ込んだのかと聞きたくなるぐらいだ。

 ってことはつまり、トスネの道が小川になっているってことだよな。そうなると俺だけで外を移動するのがほとんど不可能になってくるぞ。

 もとよりそんな気はなかったけど、外に出るのはやめようと改めて心に誓っておく。


「こんなひどい雨は初めてかもしれんな。川も濁って水面が溢れそうになっていたし、畑は池みたいになってるところがあるし」


「まあ、お百姓さんも大変でしょうね。ところで、本日はどのようご予定ですか?」


「依頼があったけど、こんな大雨じゃやりようがない。雨が上がるまで連泊させてもらうよ。幸いにしてここはなかなか泊まり心地の良い宿屋みたいだからね」


「それはありがとうございます。部屋は昨日と同じでよろしいでしょうか……」


 その後のおかみさんは、いつもどおりの事務仕事に戻っていた。

 天気は豪雨、道は小川、畑は池、川は濁流。 ……何か引っかかる。

 水を使った計画というなら、まさに今の状況こそが計画の実行にふさわしいのではないか。

 例えば、今ここで町中にピラニアでも放てば多少の混乱は招けるかもしれない。そんなしょぼい計画、一周回って驚きだけど。

 ピラニアじゃなくてホオジロザメだったらマズイかもしれないな。え? ホオジロザメは海水魚だから川に放ってもすぐ死ぬだろうって? ものの例えだよ。

 どっちにせよ、町の中を巨大魚が泳げるほどになったら、もうそれだけで大災害だからな。ホオジロザメとか関係なしに人が死にそうだ。そうなったら俺にはどうしようもないから、そうならないことを祈るしかないのだけれど。


 ふとノエルを見ると、俺と同じように客との会話を盗み聞きしていたのだろうか、俺に向かってニヤリと笑い、悪巧みをしているような顔でささやく。


「ポルカくん、川が溢れそうって本当かな、一緒に見に行かな」


『ペポー!!』


「じょ、冗談だって。危険だよね、わかってるよ」


 農家でもないのに死亡フラグ立ててんじゃねえよ!



 死亡フラグを立てかけたノエルが心配なので、彼女が勝手に川の様子を見に行かないか気を配りながら掃除していた。おかげで普段の倍の時間がかかっているが、どうせ今日はゴミ拾いもできないのだ。他にすることもないし、これくらいでいい。

 部屋の10%を掃除するたびにノエルがどこにいるかを確認、ノエルを見つけたら掃除を再開し、少ししたらまたノエルの姿を確認。


「なんか付きまとわれてるカンジがするけど、気のせいかな、ポルカくん」


 なんと、ノエルにストーカーが? それは大変だ! 監視を強化しないと! ……はい、俺ですね。ちょっと過保護になりすぎたかな。


「寂しいのかな、大丈夫だよ、ポルカくんを置いてどこかに行くなんてことはしないから」


 俺の監視を、寂しさからやっているものだと勘違いしてくれたみたいである。ストーカーだと思われるよりはマシだが、なんだこのモヤモヤ感。

 寂しいというよりは心配なんだけど、とりあえずこの調子なら多分大丈夫かな。大丈夫かもしれないな。大丈夫だよね? 川の様子を見に行かないよね?


「でも、畑が池みたいってのもホントかなあ。 ちょっと畑の様子を見てみたいなあ」


 前言撤回。

 やっぱり心配だ、ノエルだもの。

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