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55話 シェリーとノエルと

前回のあらすじ


 ノエルの魔法の師ルーカスに出会ったシェリー。

 ルーカスの悪ノリのせいで、シェリーはノエルとルーカスが付き合っているものと勘違いする。

 ルーカスが悪い。



「今までお姉ちゃんの事バカにしててゴメン!」


「えっ、どうしたのシェリー?」


 姉ノエルに会うやいなや、謝罪の言葉を投げつける妹シェリー。

 今までバカにしていたという衝撃発言が飛び出すぐらいだ。ルーカスの存在は妹にかなりの混乱をもたらしていることだろう。

 つーか恋人できなかったらバカにされるのか……俺、バカ歴そろそろ20年だな。

 ノエルがルーカスと付き合っていると、シェリーはそう思い込んでいるけど、二人はただの師弟関係である。シェリーがそのことを知った時にどんな反応を示すだろうか。恥ずかしさのあまりにのたうち回ったりしないだろうか。心配で心配でタマラナイナー。

 まあ、ノエルと話していればすぐに誤解も解けるだろう。俺が心配すべきは、真相を知ったシェリーがルーカスを刺しに行くのを防げるかどうか、それだけだ。


「ルーカスさんに会ったよ」


「ルーカスさんに? へえ、初対面?」


「そう。それで、お姉ちゃんが今日、ルーカスさんに会いに行くって聞いたんだけど本当?」


「えっ、なんで知っているの!? お母さんには内緒にしてね!」


 あれ? まさかノエルまで悪ふざけを始めた……ようには見えないな。

 間違ったことは言っていないのだけど、シェリーの誤解はよりいっそう深まっている。


「お母さんには知らせてないんだ…… やっぱ恥ずかしい?」


「恥ずかしいっていうか、バレたらマズイ」


「バレたらマズイ!? どんな関係してんの!?」


 ああ、そういえばノエルは、魔法の特訓をしていることはおかみさんにひた隠しにしていたな。おかみさんはノエルにもっとおしとやかに生きてほしいと言ってたから、そのことにも関連しているんだろう。

 だけどシェリーはぜんぜん違う受け止め方をしている。バレたらマズイ恋をしているみたいな言い方をされたことで、脳内に色とりどりの花が咲き乱れ始めたようだ。

 少し鼻息を荒めて、シェリーはノエルからさらに情報を聞き出そうとする。


「まさかお姉ちゃんが、あんなかっこいい人を捕まえるなんて、ホントびっくりだよ」


「え、見た目は関係ないでしょ。たしかにルーカスさんはかっこいいけど」


「前半の台詞はいいのに、後半のせいでイヤミにしか聞こえないよ……ってことは、中身で選んだわけ?」


「見た目か中身かで行ったらそりゃ中身でしょ。ヘッポコな私に付き合ってくれるのはこの人しかいないって思ったわけだよ」


 シェリーはフンフンと頷いているけど、二人の間には大きな隔たりがあるぞ。ノエルは先生の選び方について説明しているのに、シェリーは恋人の選び方だと思っている。


「なるほど、てっきりお姉ちゃんは見た目で選んだんだと思ったけど、そうじゃなかったんだ……」


「まあ、ぶっちゃけて言うと消去法だね。このあたりで他に頼めそうな人もいなかったし」


「消去法!? 謝れ! ルーカスさんと、このあたりの男たちと、ウチに謝れ!」


「うわっ、ゴ、ゴメン?」


 なんだか奇跡的に会話が噛み合っているぞ。いや、微妙に噛み合っていないか?

 意外な展開になってきたけど、部外者が見ている分には面白いな。さあ、シェリーの勘違いはいつまで続くのだろうか。


「ハァハァ、お姉ちゃん、間違ってもルーカスさんには消去法で選んだとか言っちゃいけないよ」


「はーい、でもルーカスさんはかなりいい人だよ。あの人で本当に良かったと思ってるから」


「そりゃあ良かったねお姉ちゃん。具体的にはどんな感じの人なの?」


「そうだね、私がうまくできないときも優しく教えてくれるし、終わった後は私の体のこと心配してくれるし」


「ストォーーーップ! そんな話は聞いとらんわ!」


 助走をつけて姉に掌底をかますシェリー。見るとその顔は赤く染まっている。

 ノエルは魔法の特訓のことについて言っているのに、何を勘違いしているんでしょうね。 というか早く気付けや。

 どうやらノエルも本当にふざけているわけではなく、ルーカスがすごい師匠だということをシェリーに伝えたいだけみたいなのだが……いかんせん言葉足らずなのとシェリーの勘違いが深すぎて全く伝わっていない。


「うぐぇ、 ケホケホッ、いきなり何すんの!」


「ゴメンお姉ちゃん! もう3発殴らせて!」


「なんで!? それと、どうして泣いてるのシェリー!?」



 つかみ合いの喧嘩になりかけたけれど、俺がレフェリーとして入ることによってなんとかその場を丸く収めた。

 未だにシェリーの勘違いは解けていないわけだが。意外と長く続くものだな。


「お姉ちゃん、時間の方は大丈夫なの?」


「そろそろかな。何ならシェリーも一緒に来ない?」


「妹を連れてくの!? 何の意味が!?」


「んー、最近うまくいってるから、その様子を見せてあげようかと思って」


「これ以上ウチのメンタルを攻撃するなぁ!」


「どうするの? ルーカスさんは特にそういうの気にしないと思うけど……」


「わっ……私も行くからね! 別にキョーミなんかないけど、お姉ちゃんが心配だから!」


 キャラ崩壊が起きてないか、シェリー。君は最近登場したばっかりなんだから、まずはもうちょっとキャラ固めないといけないよ。

 まあ、色恋沙汰に振り回されている様子はいかにも女の子って感じだ。それが全て勘違いなのは残念だが。

 さて、シェリーの誤解が解けていないけれど、ノエルとルーカスの魔法特訓の時間は刻々と迫っている。シェリーもなぜかついてくることになったが、俺もこのすれ違いの顛末を見届けることにしようっと。


 当然だけど、単に面白がっているのではない、こともない。




「ルーカスさん、今日もよろしくお願いします」


 ノエル、シェリー、そしてロボット掃除機の俺で一緒にしばらく歩き、ルーカスの家にたどり着いた。いつも通りにノエルが元気よくあいさつをする。

 ルーカスは玄関から出てくると、おまけで付いてきた俺達を見てからノエルに言葉を返した。


「おや? 今日はポルカに、妹さんも一緒ですか、大所帯ですねえ」


「どうも、妹です……」


 シェリーはというと、勢いに任せて着いてきたはいいものの、何を喋ればいいのかわからずに固まっている感じだ。そもそもなんでついてきてしまったのか、自分でもよくわかってなさそうだ。

 期待半分、気まずさ半分ってところかな。それでもここまでついてくるってことは、好奇心に勝てなかったのだろう。

 さあ、とりあえず今の状況を簡単にまとめてみよう。


・ノエル これから魔法の特訓をする。シェリーが勘違いしていることには気づいていない。


・シェリー ノエルとルーカスが付き合っているものと勘違いしている。


・ルーカス 黒幕。シェリーの勘違いはこいつのせい。これからノエルに魔法の特訓をつける。


・俺 ヤジ馬



 ……あれ、こうしてまとめてみると、俺って邪魔者でしかなくね……? ま、まあ気にしないでいこう。

 気を取り直してルーカスの歩みに着いていこうとすると、意を決したのかシェリーが息を深く吸い込み、まくし立てるようにルーカスに向かって声を出した。


「ルーカスさん、お姉ちゃんのこと、よろしくお願いしますっ」


 ただならぬ雰囲気を感じたルーカスが、あれ? って顔をする。ルーカスもまさか未だにシェリーの勘違いが続いているとは思っていなかったのだろう。

 ノエルはというと、そんなにかしこまったものじゃないといってシェリーをなだめていた。


「いやいやシェリー、気持ちは嬉しいけどそこまでしなくてもいいって」


「ダメだよお姉ちゃん、お姉ちゃんがこんな人と付き合ってもらえるチャンスは二度とないんだから。真剣にいかないと」


「えっ、そりゃ真剣は真剣だけど」


 噛み合いそうで噛み合わない、そんな二人の会話を聞いていたルーカスの顔からはだんだん笑顔が消えていった。

 普段の行動からはあまり知性を感じさせないけど、ルーカスはかなりの頭脳派だからな。こんな会話の断片からも今の状況を理解できたのかもしれない。


「とにかく、お姉ちゃんは絶対にこの人逃しちゃダメだよ。逃したらお姉ちゃんを刺すから」


「脅しが怖いんだけど……」


 ある意味ではかなり危ない状況になっていることに気づいたっぽいな。ルーカスは慌てて弁明にかかっていた。


「あの、ちょっと謝らなきゃいけないことが」


「ルーカスさん、姉はアホですけど、いいところはたくさんあるので」


「いや、だからですね」


「できるだけそっちを見てあげてくださいっ」


「僕はノエルさんに魔法を教えているだけですよ。今日の予定もそれだけです」


「……え?」



 幻に溺れたシェリーに突然として襲いかかった、現実の槌。

 言われた言葉の意味を理解しようと、必死で頭をフル回転させているようだが…… そのたびにシェリーの顔がじわじわと赤く染まっていく。


「お姉ちゃん、ルーカスさんとはどういう関係なの?」


「魔法の特訓をつけてもらっているんだよ」


「付き合っているんじゃなかったの?」


「え? だから言ってるじゃん。『特訓に』付き合ってもらっているよ?」


 今までの会話が全て勘違いだということに気づいてしまったシェリーは、これ以上ないぐらいに顔を真っ赤に染めると。


「お姉ちゃんのアホオオォォ!」


 ポケットにはいっていた短剣(のレプリカ)を投げつけて、逃げるように帰ってしまった。

 彼女が走り去ったあとに舞う砂埃が、哀愁を誘う。


「シェリー、急にどうしたんだろう……」


「……えーと、急に体調でも悪くなったんじゃないですかね。きっとそうです」


 本気で心配そうに喋るノエルと、全てをわかっているくせにしらばっくれているルーカスだった。

 結局、ノエルはというと最後まで状況を理解できていなかったな。シェリーがアホと言いたくなる気持ちもわからんでもない。

異世界ものの欠点、言葉遊びがしづらい。

前回の「水商売」今回の「付き合っている」……どうなんでしょうね。


ポイントカードはお餅ですか みたいなネタは絶対無理なんですけれど。

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