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54話 シェリーとルーカスと

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お礼と言っては何ですが、あとがきの方にちょっとした裏話を書いてみたので、ぜひ読んでみてください。

 道端に落ちている吸い殻とか紙くずとか拾いつつ、コトラが向かっていった方角へとタイヤを転がす。その後ろには、することもなくて暇を持て余しているシェリーが追従していた。


 さすがにどこへ行ったかわからないネコを探せるほど、俺の捜索能力は高くない。コトラに会うのは常に偶然に任せるぐらいで、探したからといって会えるようなものではないんだよな。

 案の定と言うか、しばらく走るもコトラの影すら掴むことができず、時間だけがむなしく経過していった。うーん、やっぱりコトラに会うには運しかないわけか……? 煮干しやまたたびを出せる機能でもあればな。

 無い物ねだりをしてもしょうがないか。[マッピング]発動、どのへんが怪しいかな……うん、わかんねえや。怪しいところはあらかた探したけど、関係ない野良ネコが何匹かいるぐらいでコトラもモモも発見できなかった。


 あれ、でもここってルーカスの家の近くじゃん。

 せっかくだしちょっとだけ様子を見に行ってこようかな。アイツまた部屋を汚していないか心配といえば心配だし。ていうか、ほぼ100%の確率で汚部屋になってると確信できるし。

 庭にまでゴミが溢れているようなら、近隣住民の迷惑にもなるからな。そうなることを事前に防ぐためにも、ネコ探しは一旦中断、たまにはルーカスの家を訪ねておくか。


 そんなことを考えて目的地まで走ること数分。ルーカスの家にまでたどり着いた。窓からゴミは……うん、溢れてないな。まだセーフ。

 だけど、窓からゴミが溢れている以上に不自然なことがルーカスの家におきているんだけど。


「あれ、なんでこの家に人が並んでるの? 知ってる?」


「ペポー」


 長蛇の列とまではいかないが、数人がルーカスの家の前で列をなしている。みんな手元にバケツか瓶か紙袋を持っているな。

 何かのお店というわけでもないのに、何があったんだろうか?

 そんなことを考えていると、玄関先にいた女の声が聞こえてきた


「ありがとうございます。まさか井戸水がハクリの原因だったなんて驚きですよ……今後もよろしくおねがいします」


 どこぞの主婦、ハクリ騒動のときに見たような気もするけれど、手に持っていた耐水紙袋に水を並々と入れた状態でルーカスにお礼を言って帰っていった。

 なるほど、水魔法で生じた水を分けているのか。

 ここに並んでいる人おそらく全員が、ルーカスの水魔法を求めてやってきたのだろう。井戸水が怖いので、他の水を求めた結果ルーカスに行き着いたのかもしれないな。

 列に並んでいた二人の男が、話をしていたのでこっそりと聞き耳を立ててみる


「魔法で作った水は美味しくないよな。洗濯や水浴びに使う程度にしておいた方がいいかねえ」


「ああ、たしかにそのまま飲むと不味い。カミさんは果汁をまぜてから飲んでいる」


 へえ、魔法で作った水は不味いのか。どうでもいい事実判明……え、水が不味いってどういうこっちゃ。


「あ、でも高級料理店の茶は、水魔法の水を使って入れてるなんて噂もあるぜ。井戸水より美味しく出来上がるとか行ってたけど……本当かは知らんがな」


「ただの噂だろう、水魔法使いだって普段は井戸水飲んでいるって聞いた。術者も飲まぬ、水魔法っていうぐらいだ」


 と、そんなことを話していたところで彼らの順番が来たようだ。玄関先に立っているルーカスに金を払って、持っている瓶の中身を水魔法でいっぱいにしてもらっていた。


「せっかくだし聞いてみるか、おいルーカスくん、あんた普段水魔法飲むか?」


「飲みませんね。あなた達の言うとおり井戸水のほうが美味しいですから」


「だよなあ、やっぱり味は井戸水のほうがいいよな」


 水魔法の使い手ルーカスが肯定するぐらいだし、水魔法は飲むものではないってのはこの世界での常識なのかな。本当に水が不味い……あ、もしかするとあれかな。ミネラル濃度のこと言っているのかな。

 水の味はたしか微量に溶けているミネラルが関係していたはずだ。日本はミネラルをあんまり含まない軟水、ヨーロッパはミネラルをたくさん含む硬水が多いんだっけ。

 多すぎても少なすぎても水は不味くなるっていうな。水魔法の原理は知らないけど、空気中の水分を凝集するみたいな技だったら、ミネラルなんて全く含まない水になるだろう。

 いうなれば超軟水か? いや、純水っていうべきか。


「あのー、ここは何かのお店ですか?」


 俺の後ろにいたシェリーは、そもそも状況があんまりわかっていなかったらしい。そういえば来たばっかりだし、ハクリの顛末もちゃんとわかってはいないはずだ。

 尋ねられたルーカスはというと、見知らぬ人と俺が一緒にいることに興味を惹かれたのか、シェリーに向かって言葉を返す。


「水商売ですよ」


 いや、[マルチリンガル]さん、あなたの翻訳間違ってませんか?



「へぇー、ノエルさんに妹がいたんですね。僕はルーカスです。本職はマジックアイテムの研究、副職として水魔法水の販売をしています」


 シェリーが軽く自己紹介をして、ルーカスが軽く驚いた素振りを見せた。

 っていうか何してるんだルーカス。井戸水のどさくさに紛れて水の販売? 見損なったぞ、見限るぞ、見失ったぞ!

 ……とは言うものの、需要があるからこその客入りだろう。見たところボッタクっているわけでもなさそうだし、とりあえず今は様子見に回ろうか。


「水魔法水って売れるんですか? 買う人がいるようには思えませんけど」


 無料で使える公共の井戸があるのに、水魔法水を売るなんて商売がなりたつのか。そんなシェリーの疑問を聞いたルーカスはというと、軽く首をひねりながらこういうのだった。


「一旦井戸水にマイナスイメージが着いてしまうと、なかなか払拭できないものなんですかね。今では隣の地区からも水魔法を求める人が来るぐらいで」


「え、井戸水がどうかしたんですか?」


「あ、知りませんか? ハクリの原因が井戸水だったってことで、もう大丈夫だっていってるのに何故か頑なに信じない人まで出る始末で」


「はぁ、そんなことがあったんですか」


 ルーカスがやれやれと言った感じで肩をすくめる。ついでにその辺にあった容器に水魔法を放って、中身を一杯にしてからシェリーに差し出した。

 何の意味があるのか理解できてないけれど、とりあえず受け取るシェリー。それに対してルーカスがオマケの説明をした。


「サービスですよ。材料費なんてほとんどタダですからね。そのまま飲むのはおすすめしませんが、僕は洗濯の時にはいつも水魔法を使ってますよ」


「なんか違いがあるんですか? 水魔法のほうが汚れがよく落ちるとか?」


「僕はそんな気がします。気のせいかもしれませんがね」


 案外気のせいではないかもな。

 ミネラルを多く含む硬水よりも、ほとんど含まない軟水、もしかしたら全く含まない水魔法水のほうが、ちゃんと服の汚れを落とせる可能性は十分にあるな。


 この世界に合成洗剤なんて便利なものはないけれど、何かの茹で汁とか灰とか、そんなものを使って汚れを落とす様子をたまに見ている。

 無理やり例えるなら、灰の中には重曹っぽいものが含まれていているのだ。そして、俺が巣ごもり亭で床を掃除したときのように、重曹は油汚れをセッケンに変える事ができる。

 だけどこの時、水中にミネラル分が多く含まれていると、せっかくできたセッケンが固まってしまい、汚れを落とすことができなくなる。

 ルーカスの水魔法で洗濯をすると、ミネラルが全然含まれてないからセッケンがちゃんとはたらく。だから井戸水で洗濯したときよりも汚れがよく落ちるのかもしれない……と考えてみたけど、そこまで難しい話でもないかな。

 綺麗な水を使えば、汚れは落ちる! これはさすがに極端だけど、そのぐらいの認識でいいかもしれない。

 そんな水を無料でくれるとは、なかなか太っ腹なルーカスじゃないか。ちょっと見直したぞ。


「じゃあありがたく頂きます」


 一方のシェリーはというと、めっちゃ社交辞令的なお礼を言うだけだった。

 口元はほほえんでいるけど、全ッ然嬉しそうじゃない。まあいくら綺麗だとは言え、水は水だもんな。そんなもの貰ったところで荷物が増えるだけだというのが率直な感想だろう。


「ノエルさんにもよろしく伝えておいてください。あっそうだ、ノエルさん、一人で勝手に炎魔法の練習したりはしてないですよね?」


「いや、そんなことはさすがのお姉ちゃんでもしてませんけど……え、お姉ちゃんとはどんな関係なんですか?」


「まあ、最近色々とね」


「も、もしかして?」


 驚くような目でルーカスを見つめているシェリーだが、期待するようなことは何もないぞ。魔法を教える生徒と教師の関係、それ以上でもそれ以下でもない……よな? ちょっと不安になってきた。

 ルーカスも、シェリーがなにか変な誤解をしているということに気づいたのだろうか、口を手のひらで押さえてククッと笑ったが、すぐに元の姿勢に戻ってシェリーに返答する。


「そうですね、今日もノエルさんと会う約束をしているので、もし忘れているようだったらせっついてあげてくださいね」


 ちょっとちょっと、ルーカスなに誤解を深めてんの!? たしかに今日はこのあと魔法の練習するらしいけど、言い方おかしいって!

 今の一言で完全に勘違いが固まってしまったのだろう。シェリーはというと、じわじわと顔を赤らめてから慌てて踵を返し、来た道を戻り始めた。ああもう、馬鹿なことやってんじゃねえよルーカス。

 俺も慌ててその後を追う。後ろから『あれー、掃除してくれないんですかー?』って声が聴こえてきたけど、無視だ。

 この世界の人達、どいつもこいつも人が良すぎる。悪いことじゃないけど、信じられるかどうかをもうちょっと自分の頭で考えてほしいものだ。

 この小説の前身として、「主人公の持っているロボット掃除機に、女の子の魂が乗り移るラブコメ」みたいなのを考えてました。

 ヒロインのロボット掃除機は喋りますが、擬人化はしていません。自分で言うのも何ですがカオスな出来栄えになりました。

 数話書いたところであっという間に行き詰まり、投稿することなく廃棄しちゃいましたけど。


「ロボット掃除機に人の魂が入る」「ゴミをエネルギーに変換する」「掃除機能を使った戦闘」など、いろいろな設定をここから引き継いでいます。

 二度と続きを書くことはないでしょうが、この没ネタがあったからこそ、今書いている『ゴミ拾イストは掃除機に生まれ変わる』を作れたことは忘れないようにしています。

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