40話 特訓の時間
今にも土下座しそうなほどの勢いで頼み込むノエルと、困惑した様子のルーカス。
ノエル……君の決意はそこまで硬かったのか……! ……とか言ってみたい。
「えーっと、まあ、うん、それがポルカの希望だというなら、応えるのもやぶさかではないですよ」
「ありがとうございますっ!」
気前がいいと言うか、半分はノエルの熱意に抵抗する間もなく押し切られたって感じだな。
でも、断られなくてよかった。ノエルがこれをきっかけに望みどおり成長できるなら、ルーカスへの貸し1つを消費することぐらいなんてことはない。
で、ルーカスとノエルと俺は、川の堤防に移動した。
一番近い家からもそこそこ離れており、砂利だらけで周囲に燃えるものはほとんどない。いざとなればルーカスの水魔法で消火もできる。ノエルが火魔法を練習するのに理想的な環境だと、説明をしてもらった。
俺は別にいてもいなくてもいいだろうけど、せっかくだしノエルがちゃんとした魔法を使うところを一度ぐらいは見ておきたいなあ、と思って着いてきた。
何か起きた場合はホームベースで戻って、おかみさんやキアレおばさんに助けを求めるという仕事が発生するかもしれないしね。
「では、まずは水面に向かってなんか魔法を打ってみてください」
「はい!」
ノエルは息を吸い込んで、川の水面に向かって詠唱を始める。
「火炎よ敵を燃やしつくせ 炎球」
発生したのは、以前の俺も見たことのある火の玉である。一瞬にして水面に飛び込んだ炎は、ボゴボゴと気味の悪い音を立てたかと思うと、向こう岸が見えなくなるほどの大量の湯気を生み出した……うわ、なんだこれ。ちょっと温泉ができてんじゃねえか。温泉というか、源泉?
水面を見てみると、急激な温度変化に耐えきれなかったのか、川魚や小さなカニと思われる生き物、カワウソっぽい生物がプカプカと浮かんでいる。あの魚にいたっては表面が黒焦げなんだけど。ねえ、どうすれば水中で魚が焼けるの?
「強すぎますね、威力の制御が苦手なんですかね?」
そんな光景を前にしても、ルーカスは冷静に分析をしていた。さすが研究者。
ノエルには悪いけど、遠征に来ないでくれなくてよかった。森の中でこんな威力の魔法を撃たれたらどうなっていたことか。
「でも、ファイアーボールでその威力が出せる人はなかなかいませんからね。どうにかその威力を活かしつつ、周囲への被害を抑えるとしたら……ファイアーアローとか習得されてみてはいかがですか?」
「あっ、それだったらもう習得してますよ。鋭き炎よ敵を穿て 炎矢」
その言葉とともに、水面に向かって炎の矢が放たれた。
そして、水面に穴が空いた。比喩じゃなくて本当に水面に穴が開いているのだ。何あれ、まさか矢の周りの水が一瞬で蒸発してんの?
さらに言えば、地面に刺さったはずの矢が止まらずに、そのままズブズブと沈んでいく。よく見ると水底の石を溶かしながら進んでいるようだ。
「……すごい素質だとは思いますよ、うん。僕が教えられることは何もありそうにありません」
「そんなこと言わないで!どうにかして私の魔法を使いやすい威力まで落としてほしいんです!」
なんのお願いだこれ。
でも、たしかにこの威力はあまりにも使いづらいよな。もう敵を倒すだけじゃなくて建物とか森とか根こそぎ破壊できてもおかしくないレベルだもんな。
そういえば以前、上級魔法を使えるとかいう情報を仕入れたこともあったっけ。見たいような、見たくないような。
「それじゃあ、範囲パターンの設定について、説明します」
ノエルの魔法がなぜここまで強力なのかは、ルーカスにもよくわかってないようだが、とにかく打ったり放ったりするタイプの魔法は使わないようにとの金言をもらった。
その代わりに、予め決められたルートを炎が走るような魔法をおすすめされたのだが。
「もっと範囲を狭めて!炎が大きすぎる……ああ!そっちの方向には行かせないで!」
全然うまくいってないな。まずは基本形として炎を『∞』の字に動かそうと言われたようだが、その基本形でさえまともにできる気配を見せない。
今のノエルは、例えるとするならば湯豆腐を箸でつまんでいる外国人みたいな感じだ。ちょっとでも力の入れどころを間違えたとたんに全てを崩してしまう。
「水よ壁となりて弱きを守れ水盾ぉっ!」
ああ、また火の渦が明後日の方向へ飛んでいって、ルーカスがすんでのところで消し去っている。これで7回目か。
「すみませんっ!」
「どうすればできるようになるんでしょうね。僕は最初からできたから、どう教えればいいかよくわからないんですよ」
おい講師。生徒のやる気を削ぐような発言をするんじゃない。
「でもなんとなくコツは掴みました!次はできるような気がします!」
幸いというか、ノエルはルーカスの天然イヤミ発言にショックを受ける様子もなく再び詠唱を始める。そして、より一層生き生きとした様子で魔法を操り始めた。
まあ、その結果はというと、ものの数秒で8回目の失敗となるわけだが。
それにもしょげることなく、9回目、10回目と順調に失敗を重ねていく。ノエルを放ってゴミ拾いに行くこともできるはずだが、そんな気にはなれなかった。
11回目、12回目……あ、今炎が円を描いたみたいだ。何も手伝うことはできない俺だが、心のなかでガンバレ、ガンバレと応援をし続けることにしよう。
「すみません、今日はこのあたりで勘弁してください……」
∞ループの特訓を始めてから1時間ほど経ったところで、ノエルよりも先にルーカスのほうがギブアップした。
いつ暴発するともしれない炎に対して常に注意し、何か起きたら直ぐに対処しなければいけなかったもんな。そりゃ大変だっただろう。お疲れ様。
ノエルも、最初は火の玉超加速や火柱生成など色々やらかしていたけど、最後の方は俺の目にもわかるぐらいの成長を見せてくれた。特に最後なんか、∞ループが15秒続けられたのだ!
それまでの最高記録だった9秒を一気に上回る大記録に、俺も思わずファンファーレを鳴らして祝福すると、ノエルは俺のところまで駆け寄ってきて『今の見た!? 私もやればできるんだよ!』とわざわざ報告しに来てくれた。ハグもハイタッチもできなかったけど、その喜びを間違いなく分かち合えた気がする。
『100秒耐久までの道のりは長いなあ……』とルーカスが呟いていたような気もするが、聞こえなかったことにしよう。
「最後にもう一回だけ!今の感じを忘れないうちにもう一回お願いします!」
「こっちが限界なん」
「火炎よ螺旋の監獄となれ 炎渦 範囲パターン1!」
「話を聞いて!ください!って、威力抑えて!」
感情の高まりのままに魔法を使ったのが原因なのか、今までの特訓で何してきたんだと突っ込みたくなるような、乱暴きわまりない炎の渦が生成される。
ルーカスも急いでその魔法を消そうと詠唱を開始したが、それより先に俺が動き始めていた。一つ、試したいことを思い出したのだ。
「水盾……あれ?」
ルーカスが呪文を唱え終わるよりも早く、炎が消える。
初めて使ってみたけど、使い勝手は悪くないぞ。ただしある程度近づかないと発動はできないのかな。
「ちょっと待って、私の炎がポルカくんに吸い込まれたように見えたんだけど、気のせいじゃないよね?」
『ピンポン♪』
習得したはいいものの、今まで全く使いどころのなかったスキル[魔法吸引]
極悪食ピグを吸い込んだ時に習得したスキルが、ここでようやく日の目を見たか。
想像していたのとはちょっと違ったな。魔法を食らっても一切ダメージを受けず、むしろ体力が回復するようなものだと勝手に考えていたけど、実際のところは近くにある魔法を無理やり吸い込むような能力だった。
エネルギーもゴミも増えてないし、本当にただ吸引するだけ。掃除機らしいといえば掃除機らしいか?
「本当に!? それ、何度でも使えるの!?」
『ピンポン♪』
「ですってルーカスさん!ポルカくんに見てもらうから、もうしばらく練習続けますね!」
えっ、あ、しまった。とんでもないヤブヘビだったか!
つーか魔法も使えないロボット掃除機に練習をみてもらおうだなんて、この子頭大丈夫か!?
「……本当に大丈夫なのかを確認するまではやめといたほうが」
「火炎よ螺旋の監獄となれ 炎渦 範囲パターン1!」
「……」
おい!なに諦めたような顔で座り込んでこっち見てんだ!あぁっと、魔法吸引!
結局その後、4回目だったか5回目だったか。俺が吸引に失敗した炎が空の彼方に消えていくのを見たルーカスが、全力で止めてくれるまでノエルの魔法特訓は続いたのだった。
次話から、自分の中でしばらく温めていたストーリーを始める予定です。
全7~10話ぐらいを予定、そこまで長くはしませんが、色々と詰め込んだ濃密な話となっているので、ぜひ読んでくれるとうれしいです。




