3話 新機能について
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部屋を出て、まずは周りを見渡す。結構入り組んだ構造の洞窟だな。
岩肌はむき出し、苔が生えていて、かなり薄暗いが……苔が発光しているので、全く見えないということはない。
天井にはコウモリがぶら下がっているし、ちょくちょくネズミのような動物が走っている。色々な生物がいるということは、ゴミも期待できるだろうか。
さて、とりあえずは進んでみるとするか。
「ガーーーー」
静かな洞窟の中に、モーター音が鳴り響いた。
天井にいたコウモリや近くにいたネズミどもが一斉に逃げ出す。
明らかに自然の音じゃないもんな。警戒するのも仕方ないか。
そんな時に、自分の体内に何かが入り込んだ感覚を覚える。
(小石だな)
先ほどは小石を吸い込んで故障しないだろうかなんて思ったが、ネズミを生きたまま吸い込めるなら小石なんてどうってことないだろ。
よし、ゴミの量も0.01kgになった。何でもゴミとして扱えるというのはかなりいいな。それこそ、水辺に突っ込んで水をゴミとして扱えばほぼ無限にゴミを集められないか?
まあ、その案は機械の体が壊れそうだから冗談として……あ、空気だって重さがあるよな?空気をゴミとして扱えないだろうか?
よし、空気はゴミだ!こちらで処分する!おとなしく吸われろー!
無理だった。まあ、できたらいいなぐらいのアイディアだったので、別にいいか。
ちなみに、ちょっとした水たまりを発見したので、水を壊れない程度に吸い込んでみたのだが、こちらもごみとしてはカウントしてもらえなかった。
単なる予想だが、固形物でないとゴミとしては扱われないのだろうか。
本来の掃除機だって空気や水をゴミとして扱うもんじゃないと言われればそれまでなんだが。
とまあ、いろいろ考察している一方で、ただ歩いているだけでゴミは体内に吸い込まれていく。歩いてさえいれば意識しなくても勝手に体が掃除をしてくれる。
掃除せずに歩くとか、逆に歩かずにその場で掃除するというのもできないことはないが、基本的には「歩く=掃除開始」「止まる=掃除終了」という構図が成り立っている。ほら、もうゴミが0.1kgたまった。
小石や砂利がほとんどだが、中にはコウモリの糞とかもある……うん、考え事しながら歩いてたらいつの間にか吸い込んでしまったっぽい。気分的な問題はあるが、普通にゴミとして吸い込めるなら、これからも吸い込ませていただきます。
関係ないが、コウモリって逆立ちの状態でどうやって排泄するんだろう?鳥みたいに飛んでいるときに出すのかな?
あ、そうだ。マッピング機能を確認しておこう。
頭の中で「マッピング」と念じると、地図が浮かび上がる……よし、最初にいた部屋から、この場所に至るまでの道がちゃんと表示されている。ひたすら走り回ればこの洞窟の地図を完成させることもできそうだな。
しかし、洞窟ってのはなんかこう神秘的な雰囲気があるな。周りに光る苔が生えているのも幻想的だし。掃除機に生まれ変わるなんて運命も、こんな光景を見れるのなら案外悪くないかもと思った。
……いやいや、普通に人間に転生させろよ。掃除機になんかならなくてもこの光景は見られるだろうが。
一人ノリ突っ込みをこなしていると、視界の中に変な塊が入ってきた。
黒っぽくて羽が生えていて、地面にぐったりと横たわっている……コウモリだな。
試しに軽くつついてみるが、ピクリとも反応しない。どうやら死んでいるようだ。寿命で死んだのか、天敵に襲われたのか、はたまた別の要因があるのかはわからないけど。
まあ、この状況で自分が試してみることは一つだけだ。
頑張ってコウモリの上にその体を乗り上げ、吸引を開始する。普通のポルカだったらコウモリの死骸なんて吸い込めるわけないが、こちとら生きたネズミを吸い込めるという高性能ポルカだ。コウモリの死骸ぐらい吸い込めない道理はない……だろう。多分。
で、吸引を続けるが……おお?なんかだんだんコウモリの存在が希薄になってきて……
たっぷり十秒ぐらいだろうか。コウモリの死骸を吸い込むことに成功した。
ゴミの量を見ても、今のコウモリだけで0.08kgぐらい一気に増えた。
……増えたとはいっても、大したことないな。小石や砂利よりは効率がいいが、コウモリの体重って思ったよりも軽いみたいだ。結構大きなコウモリに見えたのにな。
まあ、吸い込めたんだし、その辺を気にしてもしょうがない。どんどん進もう。
お、向こうの地面にまた何か塊が落ちてるぞ、あれは何だろうか……
「シャー!?」
うおっ、動いた。
薄暗い中で離れてたからわからなかったけど、あれはヘビだな。
今までのコウモリとかネズミとかよりはだいぶ大きい。死骸だったら吸い込んだのにな……まあ、無理に殺してまで吸い込むつもりはない。
具体的にどのくらいの大きさかというと……あの胴体は3mはありそうだな……でけええええ!?
や、やべえぞこれ。いや、こっちは機械の体だ。いくらヘビとはいえ食いついてくることはないだろう。
ほらほら、おいしくないですよー。食べたら腹壊しますよー。そもそも丸呑みできるサイズじゃないですよー。
「ガーーーー!」
全力でモーター音を立てて、相手のヘビを威嚇するも、まったくお構いないというようにこちらによって来る。
速度的に逃げられるわけもない。とりあえずモーター音を止めよう。刺激しなければ、そのうちどっかへ行ってくれるだろうか。もう手遅れかもしれないが。
オオヘビは、見たこともないであろう謎の円盤に向かって、キシャーキシャーと威嚇を続けている。いや、こちとらただのロボット掃除機なので。敵対はしませんよ。ただ掃除しているだけなんです。
だから、そんなに牙を見せて威嚇しないでください。その口でこちらに噛みつかないでくださっ!?
[エネルギーが1減少しました]
痛みは感じなかったが、ヘビの牙が体に刺さった瞬間に頭の中にメッセージが流れた。
なるほど、エネルギーには活力以外にも生命力という側面があるのか。無機物なのに生命力とはこれいかに。
って、冷静になってる場合じゃない。今もオオヘビは俺の体にかじりついている。
[エネルギーが1減少しました]
ああ、まあ減少した。モーター音や電子音で威嚇したり、全力で動いたりしているが、ヘビのアゴがおれの体から離れようとする気配はない。
くそ、人間の体だったら、腕で掴んで引き離すとか、脚を使って踏みつぶすとか、そんなことができただろうに!
できないことを嘆いてもしょうがない。できることは何かないのか!?
[ゴミを消費することで、新機能を追加することができます]
そうなのか?新機能って何があるんだ!?
そう尋ねた俺の脳内に、様々な単語が浮かび上がってくる。
[水拭き モップ ワックスがけ クレンザー……
掃除機能が追加されるだけじゃねーか!
い、いや、そんなことに文句言ってる場合じゃない。ヘビを撃退できるような機能……それこそ、焼き払え!みたいな機能はないのか!?あれだって掃除といえるだろ!
[完全焼却 はゴミ100000kgで取得できます]
あるのかよ!よし、取得……って、100000kgもごみ集めてるわけねーだろが!
だ、ダメだ。そもそも今はゴミ何kgなんだ?ええと、0.31kgか!よし、そのゴミで取得できる新機能はないか!?
[ありません。出直してください]
そうですよね!はい、終了!
ふざけんなちくしょうが!いつかゴミ貯めて取得してやるからな!
って、そんなことしてる場合じゃない。ああくそ、どんどんエネルギーが減っていく。
何か、何か逆転の手はないか?ヘビなんだから、三すくみの要領でナメクジでも与えれば撃退できるんじゃないか?
ナメクジナメクジ……いねえ。洞窟なんだからいてくれてもいいだろうに!
この状況を何とかするものを求めて周りを見ていると、突然こちらの方へと向かってくる影が目に入った。
いきなりヘビが「シャアーー!」と声を上げて、俺から牙を離す。
転がるようにもんどりうって、いきなり現れた影を睨みつけた。
俺よりもいくらか大きいぐらいのサイズだ。鋭い爪をもつ4本の足、ぴんと立った三角形の耳、かわいらしいつぶらな瞳、白黒茶色が入り混じった体毛。
ネコだ。それも三毛猫だな。
威嚇するヘビに跳びかかったかと思うと、その爪をヘビの体に突き立てる。反撃の牙をさらりとかわして、頭の方も軽くひっかいた。
それでもしぶとく生き残るヘビだったが、最後にはなんと鋭い爪がヘビの頭を切り取ってしまった。
さすがのオオヘビも頭が切り離されたら生きていられないだろう。そのままぐったりとしてしまったヘビを、ネコががつがつと食べる。
うん、かわいらしいネコだけど、野性味あふれてるな。
今のうちに、離れたところにあるヘビの頭を吸い込んでおくか。……おし、0.05kgゴミが増えた。減らされたエネルギーに比べればだいぶ赤字だが、何ももらえないよりはいいだろう。
しかし、かわいいネコだな。命の恩人というのも相まって、しばらく眺めていたくなる……はあ、煮干しでもあったら迷わずあげていただろうになあ……
しばらくしてヘビを食べ終わった三毛猫は、こちらの方をのぞき込んで、短く鳴いた。
「何だこれ?」
シャベッタアアアア!?