25話 悪食ピグの討伐2
そこにあったのは、木々の生い茂るうっそうとした森であった。
ボズがつらつらと注意事項を述べると、前衛の先頭集団がマジックアイテムらしきライトを持ってその中に入っていく。
それに続いて、全員がその中へと入っていく。昼間だっていうのに相当に薄暗い。
入った瞬間に悪食ピグとエンカウントするなんてことはなかったみたいだな。
それでも、見通しが悪くなったというのは少し不安だ……実戦経験豊富そうな護衛に守られているとはいえ、ちょっとした音にも反射的に身構えそうになる。掃除機の体で身構えるなんて不可能だけど。
今回が初めての遠征という騎士や魔導士も何人かいるようで、緊張しているのか動きがぎこちない。
そのとき、俺の右にいたミーナが声を上げた。
「1時の方角100歩先に、一匹の魔物の気配を感知しましたわ!」
「了解!」
前衛の方から声が飛ぶと、数人が隊列から飛び出して魔物がいる方向へと向かっていった。
隊列に緊張が走る……というほどでもない。
数十秒後に、何かが暴れる音がしたかと思うと、再び森の静寂が戻ってきた。
「ほかにはいないか?」
「いませんわ。はぐれた魔物のようでしたわね」
あっという間に終わってしまったが、前衛の方で1匹の悪食ピグを仕留めたようだ。
まあ、こんだけ大量の戦力があれば、1匹の魔物ぐらいは余裕だろう。むしろそうでなくては、この世界の魔物はどんだけ化け物だって話だ。
おっと、こんな時にゴミを発見。見つけ次第吸い込んでくれって言われてるしな。
この森の中で拾った最初のゴミはタバコか。誰だか知らないが、森にタバコを捨ててんじゃねえよ。山火事になったらどうするんだ。
ポイ捨てするだけならともかく(よくないが)、場所によってはとんでもない事故を招くことは忘れてはいけない。運転中に窓から空き缶をポイ捨てして、それをかわそうとした車が交通事故を起こしたなんて例もある。
……というか、俺自身がポイ捨てしてあったバナナの皮を拾おうとして死んだ身だからな。
たかがポイ捨てと侮ることなかれ、時には人命に関わることさえあるのだ。
話が脱線してしまった。森の中に落ちているゴミはなかなか多い。
やはり、分解されない紙ごみというのは曲者だ。何かのメモらしきものだったり、謎の紙袋だったり、種類はいろいろあるけど拾ったごみの大半は紙ごみである。
本当に豚がこんなもんを食べるのか謎だが、せっせと吸い込んでいこう。
それからしばらくは、時々ミーナが声を張り上げて、そのたびに何人かが飛び出してあっさり退治するという流れが続いた。俺?そんなことに関与するわけないじゃないですか。一生懸命ゴミを拾ってます。
てか、予想以上に広大な森だ。ルーカスがゴミを一掃してほしいといってたけど、改めて言わせてもらおう。できるわけがない。
トスネの街の火山灰を片付けるのにもそれなりに日数がかかっているのに、おそらくはそれより広い森を一回の遠征でキレイにできると本気で思ってるのか?
まあ、文句言ってもしょうがない。ゴミ拾イストなんだから、どんな状況でもゴミ拾いを楽しもうじゃないか。
さあ、そんなわけでやってまいりました。『拾っていいとも!』の時間です。
えー。今回拾ったごみはですね、なんと!紙でできたロープみたいですねー。この世界の紙は本当に万能ですねー。紙というより、これは繊維の塊といったほうがいいのかもしれませんが。
ん?これは……おっと!久々に紙ではないゴミが出てきました。これはナイフの柄みたいです。刃のほうが折れてしまったんでしょうか。もう使えないので、そのままポイ捨てされたんでしょう。
「正面100歩先に魔物がいますわ!1匹……いや、2,3……5!5匹の魔物の気配を感知しましたわ!こちらに向かってきますわ!」
うおっ、驚かせるんじゃない。
そんなミーナの声が発せられた瞬間、場の雰囲気が変わった。ここからが本番ということか。
今までは数人が隊列から離れて、はぐれた魔物を個別に撃破していたようだけど、今度は誰も飛び出さない。迎え撃つということか。
前方から何かが走ってくる音が聞こえたかと思うと、打撃や斬撃の音が聞こえ始めた。前の方で本格的な戦闘に突入したようだ。
「ブォオオオオオ!!」
「やっちまええぇぇ!」
うわ、バトル風景は人の壁に阻まれて見えないけど、怒号だけで既に迫力満点だ。
今のところ後衛までは悪食ピグの影響は及んでいない。必死に戦っている人がいる中で、のんきにゴミ拾いをしているのは何となく申し訳ないが、これが俺の仕事なので仕方ないです。
まあ、だんだんと豚の鳴き声が弱くなっている。悪食ピグがある程度群れを成していたところで、前衛を突破することもできないということか。
もし俺が襲われたところで万に一つも勝ち目はないだろうから、前衛が十分に強いという情報はありがたい。
「またですわ!今度は9時の方向と2時の方向から、それぞれ4匹、3匹来ますわ!」
まさかの横からの挟み撃ちか。
ボズが素早く指示を飛ばし、手練れの騎士が何人か後衛に移ってきた。
お、そこで戦ってくれるのなら人の壁が薄い。戦闘風景を間近で見るチャンスか。
ん?ルーカスが何やら本を構えているぞ。
「吹雪よ集い敵を穿て『雪槍』」
その言葉を唱え終えるや、ルーカスの手元から一本の氷柱が飛び出して、悪食ピグの脳天に突き刺さる。そういえばルーカスも魔法が使えたっけな。確か水属性を使うとか言ってた気がするが、あれは水属性か?それとも氷属性?
あたりを見渡すと、騎士以外の戦闘員もいて、それぞれ個性的な方法で悪食ピグを討伐している。
「おらぁ!獣なんかに後れを取るかよ!」
徒手空拳で悪食ピグを圧倒するやつ。
「豚即ちこれ的なり。矢を避けること能わず……ふっ、復たつまらぬものを射てしまった。」
何だか不気味にぶつぶつ呟いて、弓矢で射殺す人。
「ホラホラ、打たれて鳴き叫ぶがいい!」
鞭を振るって……見なかったことにしよう。
とりあえず、この程度の群れを相手に後れを取ることはないみたいだな。
隊の足が止まることもなく、順調に森の中を進んでいく。
だが、進軍するにつれて、やってくるピグの数やもどんどん増えてくる。
いつの間にかボズも後衛のサポートに回っており、戦いながらルーカスとの会話に興じていた。
「ちっ、きりがないですね」
「よほど強力な魔物陣が発動したみたいだな」
「しかし、俺も結構長いこと騎士団やってるけど、一種類の魔物がここまで大量に出てくるなんて初めてだ。」
「それだけ今回の魔物陣が規格外だってことでしょう。でもそれならミーナさんの力で簡単に察知できそうですね。どうでしょうか……あれ?ミーナさん?」
「…………」
話しかけられたミーナだけど、なぜかボーっとした感じで突っ立っている。
その隙をついて1匹の悪食ピグが突っ込んでくるものの、振り向きざまに放たれたボズの剣の一閃であっさりと返り討ちにされる。おう、騎士団長様さすがだ。
ルーカスが遠慮がちに、ミーナの頬をぺちぺちと叩くと、我に返ったようで再び進軍に沿って歩き始めた。
「ボーっとされてたようですけど、何かあったんですか?」
「私にもよくわからないのですが、本来感じられるはずのないものをなぜか感じましたわ!」
「どういうことなんでしょう?」
「11時半の方向10000歩先に、ぼやーっとした気配を感じるのですわ!普段は調子が良くても100歩先が限界でしたのに!こんな事初めてですわ!」
なんでそんな嫌な予感しかしない情報を、嬉しそうに報告するんだこの子は。
ミーナからその気配がどんなものかをひとしきり聞いた後に、ルーカスとボズが話し合いを始めた。
「ミーナの察知に従いましょうか?」
「そうだな。悪食ピグを生む魔物陣があればよし。そうでなくともミーナが10000歩先から感じる気配というものが何かは大いに気になる」
どうやら、魔物陣のありそうな場所を見つけたようだ。この広い森の中で魔物陣を探すところから始めると聞いたときは、何日かかるんだよと思ったものだが、ミーナのおかげでその日程はだいぶ短縮されたみたいである。
そこへ向かって魔物陣を停止できれば今回の作戦は成功なのだろう。気合入れていこう。まあ、俺はゴミ拾いしかできないんだけどな。




