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17話 オオカミと魔法陣

返信が来ました。

「If you are an iRobot customer in need of support and live outside of the U.S. or Canada, please visit iRobot International Support for worldwide sales and support information. Click on your specific region for telephone numbers and email addresses for your country.以下略(意訳:北米外に住んでんなら、おまえの国のオンラインサポートに問い合わせろや)」


詰んだ\(^o^)/ (2016.9.28)

 宿泊客が帰っていったので、日課の掃除を開始する。

 フローリングに土足の文化だと、ワックスの痛みが激しいな。既に剥がれてしまった部分もあるので、そういうのは見つけるたびにもう一度ワックスを塗っておく。

 ワックスはフローリングに汚れが付くのを防ぐけど、代わりにワックス自体が汚れていくからな。月に1回ぐらいのペースで塗りなおしたほうがいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、不意に窓の外から何やら話し声が聞こえた。


「いきなり街にオオカミが出たって?どういうことなの?」


「門番が仕事してなかったんでしょうよ、居眠りでもしてたのかね」


「でも、誰も気が付かないまま街の中心にまでオオカミが来るなんて、ありえるの?」


「確かに、誰かのいたずらって可能性もあるわね。見つかったときにはすでに死んでいたみたいだし」


「え、死んでたって初耳なんだけど。どういうこと?」


「私も直接見たわけじゃないけど、頭と、脚の一本がなかったみたいよ」


 へえ、街の中にオオカミが出たのか。

 見つかったときにすでに死んでいたというのなら、けが人はいないと思うけど……なんか引っかかるな。

 頭と、脚の一本がない? つい最近、そんなオオカミの絵を見たような。

 掃除が終わったら、コトラの寝床に向かうことにしてみるか。

 話し声が遠ざかっていったので、そのまま床の掃除を続けていく。

 何も関係なければいいのだけど……何となく、嫌な予感が心の中に芽生え始めていた。



「ポルカくん!オオカミが出たらしいわよ!」


「ピンポン♪」


 掃除を終えた俺を出迎えたのは、今日も頭がボンバーなノエルである。オオカミが出たというのに、怖がるどころかむしろ面白がっている感じだ。

 すでに危険は去っているならば、こういった反応になるのも仕方ないか。

 そういえば忘れてたけど、ノエルって魔法が使えたよな。最近……というか、初めて会った時以来一度も使ってないのだが。

 もしかしたらオオカミぐらいは簡単に倒せるぐらいの力があるのかな?本気を出したら実は強いとかあるのだろうか?


「そんなわけで、私は現場に向かうわ!ポルカくんもついてくる?」


「ピンポン♪」


 子どもかよって苦笑したが、10代中盤~後半なんだから、少しぐらい子どもっぽさが残っていてもいいだろう。

 そうでなくてもあまり大人っぽくはないのだが。なんだろうね、あのもじゃもじゃヘアをストレートヘアーにすれば大人っぽくなるかな……関係ないか。



 俺はオオカミが出た場所を知らない……まあ、心当たりはないことはないが、確実ではない。

 それに対して、ノエルはオオカミが出た場所を聞いているようなので、おとなしくノエルの後をついていくことにした。

 ……ノエル、今日の宿屋の仕事は終わったのかな?サボってるわけじゃないよね?

 普段は真面目におかみさんのお手伝いをしているだけに、それは無用な心配だと信じたいが……


「そういえば、こうやってポルカくんと一緒に街を歩くのも久しぶりだね」


「ピンポン♪」


「いい街でしょ。みんな優しいし」


「ピンポン♪」


 確かに、人間どころか生き物ですらない俺なのに、丁寧に接してくれた人たちばかりだ。

 この世界にきて、最初は生き延びることで精いっぱいだったのに、いつの間にか人との関わりの中で幸せを感じられるようになってきている。

 掃除機になった時には、こんな生き方ができるなんて想像もしていなかったよ。


「でもポルカくんがトスネに来てくれて本当に助かってるのは確かなんだからね。私の仕事が減った……のはともかくとして、火山灰が減ったおかげでのどの痛みが消えたとか、洗濯物が干せるようになったとか、みんな感謝してるみたいだよ。えっと……ああもう、なんて言ったらいいかわからないけど、とにかくありがとう。これからもよろしくね」


「ピンポン♪」


 みんなから認めてもらえているというのは、なんだかぐっとくるものがある。前世でゴミ拾いをしているときに、名前も知らない近所のお兄さんに労われて、お互い笑いあった思い出がふとよみがえってきた。

 こういうのがあるから、ゴミ拾いはやめられないのだ。街をきれいにするだけがゴミ拾いじゃない。


 それで……ノエルが向かっている先で、何やら人が集まっているな。

 予想通り、コトラの寝床あたりだ。コトラはいないようだけれど、一人見知った顔がいるぞ。


「とりあえず簡単な調査は大体終わりました」


「それで、何かわかったのかねルーカス君?」


「はい。魔法陣が描かれた跡がありますが、部分的に消された跡があります。このせいで召喚が不完全になったのでしょう。書いた人も消した人も、この魔法陣を見ただけではわかりません」


 ゴミ屋敷のルーカスじゃないか。

 初めて会った時のヘタれた感じではない。きりっとした目つきで何だかインテリなことを言っているぞ。


「あ、カッコいい! ねえポルカくん、あのお兄さん、イケメンじゃない?」


「ピンポン……」


「だよね!……って、なんでそんなに自信なさそうな肯定なの?」


 そうだな、確かに今の姿はイケメンだが、裏の姿を知っている自分としては完全に同意はしたくない。

 ルーカス、またゴミを溜めこんではいないだろうな……何度も片づけに行くのは流石に嫌だぞ。


 で、今のルーカスはというと、その手になにやら見たこともない機械のようなものをもって、真剣な表情で地面を調べている。オオカミ自体はすでに片付けられてしまったようだが、今ルーカスさんがいるところは紛れもなく、昨日オオカミの絵が描かれていたところだ。

 魔法陣といっていたな。魔法陣といったら丸のイメージだけど……イメージなんてあてにならないしな。オオカミを形どった魔法陣があったとしても不思議じゃないか。

 というか、俺って勝手に魔法陣を消しちゃったのか……書き手の人には悪いことをしたな。

 しかし、俺のそんな考えは、次のルーカスの一言によってかき消された。


「今回召喚されたのは、かなり強力なオオカミみたいです。もしこの魔法陣が消されずに、ちゃんと召喚に成功していたら、犠牲者が出たとしてもおかしくありませんでした」


 その言葉を聞いた周囲の人々の間に、緊張が走る。

 当然だ。自分たちの街にいつのまにかそんなものが書かれていたなんて、驚くしかないだろう。

 しかも、コトラがそれに偶然気が付いて、俺が偶然消していなかったならば、殺人オオカミは生きた状態で召喚されていたのだ。

 何たる偶然の重なり。諦めずに消しておいてよかったと、昨日の自分を思いっきりほめておいた。

 しかし、わからないことがある。誰が、何のためにそんなものを書いたのか?ルーカスもそのことに関しては分からないといっているし……


「大至急、魔法陣がほかの場所にもないか確認しましょう」


「え?これだけじゃないのか?」


「わかりませんが、何か目的があるとするならば、この魔法陣だけではない可能性が高いです。捜査範囲はこの町全域、私の予想が正しければ、タイムリミットは早くければ今日の夕方までです」


 なんだって?これ以外にも魔法陣があるかも?

 眺めていた人も、その言葉を聞いて不穏そうにざわざわし始めた。


「ちょっと待って、詳しく説明してほしいんだが。どういうことだ?」


「この魔法陣は、空気中の魔力を吸って、魔力がたまり切ったときに自動的に発動するタイプの魔法陣です。今回、頭と足1本が無くなったので、必要な魔力が少なくなり、予定よりも早く召喚されてしまったのでしょう」


「つまり、完全な状態の魔法陣は、まだ魔力が足りてないから発動しないと?」


「ええ、あくまで私の予想ですし、もしかしたら書かれている魔法陣はこれだけかもしれませんが。警戒はしておかないと危険ですよ」


「わ、わかった。急いで対策を練ることにしよう」


 うーんと、俺はよくわからなかった。この世界の魔法のシステムとか全然知らないもんな……知りたいけど、知る方法もないな、人に聞けないし、文字も読めないし……


「お願いします。それでは僕はこれで」


 ルーカスの仕事は終わったのか、路地裏から離れて表通りに向かって歩いてくる。


「って、ポルカじゃないですか。なんでこんなところにいるんですか?」


 おっと、ルーカスがこっちに話しかけてきた。

 俺は普段から街中を歩き回ってるから、どこにいても不思議じゃないと思うけど。

 まるで既知の仲のように……まあ既知なのだけど、親し気に話しかけてきたことに、ノエルが反応してきた。


「え、ポルカくんこのお兄さんと知り合い?」


「ピンポン♪」


「そ、そうなんだ。え、えーとですね。オオカミが出たっていうから、一緒に現場を見に来たんです」


「お、あなたはポルカの持ち主でしょうか?」


「そうですね、そうなるんでしょうか。どう思うポルカくん?」


「…………ピンポン?」


「だ、そうです」


「どっちですか?」


「それより、さっき言ってた、ほかにも魔法陣があるかもって話は本当ですか?大丈夫なんでしょうか?」


 そうだ。それが聞きたかった。

 いざとなったらもう一度クレンザーで磨かなければならないかもしれないし。


「それですよね、魔法陣って消したり無効化したりするのが難しいので……今回の魔法陣の無効化のしかたは驚きでした。あんな強引に消すなんて普通はできないんですが、誰の仕業なんでしょう?僕としては誰が魔法陣を書いたかより、誰が消したかのほうが気になります」


 え?そうなの?

 消したのって……俺だよな。確かに強引っちゃあ強引かもしれないけど、そんなにすごいことだったか?


「ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪」


「ど、どうしたのポルカくん?何か伝えたいことでもあるの?」


「ピンポン♪ 床の掃除はまかせてください」


 よくわからないが、魔法陣を消さなければならないなら、俺の力が必要になるかもしれない。

 街の人たちを守るためにも、ここは魔法陣を消せるということを何としてでも示さないと。

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