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10話 町役場

 今日も今日とて音楽を流しつつ、掃除に励んでみる。

 ポップスからクラッシック、アニソンにいたるまでいろいろやってみたけど、明るい曲のほうがウケがいいな。

 どんな曲でも口笛感覚で演奏できるから楽だ。前世ではリコーダーですらまともに吹けないほどだったのに、今ではショパンの幻想即興曲すらも自由に演奏できる。うろ覚えだが。

 何にせよ、異世界のメロディを次々披露できるので、周りの人たちにとっては娯楽ぐらいにはなるだろう。

 そもそも電子音が珍しいみたいだ。住民の間で俺は、「演奏もできる掃除用マジックアイテム」か、「掃除もできる演奏用マジックアイテム」かの二大論争が起きている。マジックアイテムなのは確定してしまったっぽい。

 そもそもマジックアイテムが何なのかよくわからないが……


 昨日は宿屋の前しか掃除していないので、今日は観光もかねて町全体を掃除してみようか。

 それともわかりやすいように東から西へ順番に掃除していった方がいいかな?

 どちらにしても、マッピング機能さえあれば迷うことはないし、掃除していない範囲もすぐに見つけられる。それに加えて、俺が迷子にならない理由がもう一つできたのだ。

 ここでステータスを見てみようか。



ステータス


廣瀬聡介(ひろせそうすけ) [ポルカ]


エネルギー 93/100

攻撃力 0

防御力 0

機動力 10

吸引力 10


ゴミ 4kg


スキル

マッピングLv1 マルチリンガルLv1 ホームベースLv1 ゴミ箱 水拭き 床ワックス



 お分かりいただけただろうか。

 そう!あの、??????がついに解放されたのだ!

 ホームベースって最初見たときは(なんで野球?)なんて思ったものだが、思い出してみればポルカの付属品だ。

 掃除が終わったポルカは自動的にホームベースに戻って、自動的に充電されるという親切設計。ただし、ホームベース周辺が丁寧に掃除できなくなるという欠点もあるけど。

 で、そのホームベースがスキルになって、どんな機能が追加されたかというと……えいっ


「うわあっ!?ポ、ポルカくん!?なにいきなり入ってきてんの!今寝ぐせ直しているんだから!あ、もしかして部屋の掃除に来た?それならまだお客さん帰ってないから、後でまた来て」


 ぐねぐねの髪に悪戦苦闘するノエルを発見。失礼いたしました。

 寝ぐせを直しているって言ったけど、どれが寝ぐせでどれが天然パーマなのだろうか?普段と全く変わらないようにしか見えない。


 話を戻そう。

 ホームベースを使うことで、宿屋の従業員ルームまで瞬間移動できるようになった。

 あくまで一方通行、しかし、どこからでも一瞬で宿屋に戻れる。

 例えば、急いで帰りたい時以外にも、急な雨とかヘビに襲われたときとかに逃げる手段として活用できそうだ。

 効果範囲があるのかとか、使用回数に制限がないかとか、気になることはあるけど、ひとまずは強力な機能が手に入ったことを喜んでおこう。

 あ、それに加えて、宿屋の中にいる間はエネルギーの消費がかなり抑えられるっぽい。これもホームベースの効果だろうか。

 今後この宿屋での活動がメインになるなら、願ってもないスキルだ。思いっきり活用させてもらおう。


 ちなみに、マッピング機能に比べればこの機能の存在はほかの人に簡単に伝えられる。

 どこからでも帰れるので、道に迷っても大丈夫ですよアピールをしてたら、ノエルも渋々ながら俺への同行を諦めてくれた……ノエル、単に宿屋の仕事が面倒くさいだけじゃないのか?

 とにかく、自由に街中の火山灰を吸い込むことができるのだ。昨日も言った通り、住民の笑顔を取り戻すための掃除、それができるのが今の俺なのだから。

 ただ、一方で異世界を楽しみたいという気分も割とある。命の危険は当分過ぎ去っただろうし……よし、今日は観光とマッピングを兼ねて、この街全体を広く浅く掃除しよう。

 思い立ったら即実行が俺のスタイル。宿屋の入り口を抜けて、異世界の街へと飛び出した。



 火山灰のせいか雰囲気が暗いけど、街自体の規模はそんなに小さくはない。

 ところどころで店が開いており、客と店主が値引き交渉を繰り広げている。

 おお、いかにも異世界って感じだ。道行く人が腰に剣を刺していたり、昨日のノエルが来ていたようなローブを身にまとったりしている。そんな中で自分だけが文明の利器であるロボット掃除機。浮きっぷりが半端ない。

 今も、まだ俺の事を聞いてないであろう兵士のような人が、俺を見るなりその剣に手をかけた……あぶねえなあ。あの人の後ろには立たないようにしよう。反射的に殴られるかもしれないしな。

 そういえば、おかみさんが今の俺の体に、「火山灰を掃除するマジックアイテムです」と書かれた紙を張ってくれた。俺を不審そうに眺めていたさっきの兵士も、その紙を見るなりどこか納得したように剣から手を放して、俺の掃除する様子を見始める。

 電子音歌をピポピポ鳴らしながら、踊るように掃除をする、こちらの世界には存在しないお掃除ロボット。

 驚きと興味と感心を一気にかっさらう存在だ。でも、注目されて悪い気はしない。このままどんどん進もうじゃないか。



 さて、まだマッピングは半分も終わってないだろうけど、ここは何となくこの街の中心地って感じがするな。

 この街の構造は、内側から何本かの円状道路と、それらを横切って繋ぐ道路で構成されている。まるで蜘蛛の巣みたいだ。高校の地理で習った気がするな……放射路型だったか。

 何でここが中心地だと思ったかというと、円の中心がここに収束し、このあたりから四方八方に道が伸びているってのもあるけど……なにより、この街で一番でかい建物がここにあるからだ。

 時折、いかにも冒険者って服装をした人が中に入っていく……もしかして冒険者ギルドか!?

 せっかく異世界に来たんだから、こういうのにも登録してみたかったりはするけど……俺、掃除機なんだよな……登録できるかなあ……無理だろうな……

 あ、子供連れのお母さんが中に入っていった。冒険者ギルドじゃないのか?いや、依頼者って線もあるだろう。

 試しに入ってみるとするか。なんか危ない目に遭ったらホームベースで即離脱できるしな。


 扉があけられたタイミングを見計らって、建物の中に入り込む。ちょうど出てきた人がぎょっとした目で俺を見てきた。

 建物の中の人も、「なんだこいつ!?」といった感じだ。あ、でもさっき道ですれ違った人もいることだし、誰も俺を知らないってことはないだろう。

 建物の中はいくつかの受け付けと、広い待合室で構成されている。例えるならやたらとでかい郵便局みたいだ。

 階段があるってことは二階もあるのだろう。喧噪と、「キノコのソテー入りましたー!」という声から察するに二階は飲食店か。

 一階は何なのだろうか?とりあえず、一番近い受け付けによってみる。


「ピンポン♪」


「え?な、なに?せんぱぁい、こういう場合はどうすればいいんでしょぉ」


「私に聞かないでよ、あなたが何とかしなさい」


「そ、そんなあぁぁ」


 言葉も話せないマジックアイテムが話しかけてきた! 受付の女は混乱した!

 とりあえず、ここがどこだか知りたいんだけどな。


「私はポルカ、床の掃除はまかせてください」


「え?はぃ、わたしはトスネ町役場の受け付けをしていますぅ」


 よっしゃ、成功。ここは町役場か。あと、この街はトスネって名前なのか。

 で、これからどうする?


「何か御用があるのでしょうかぁ、なければお帰りくださいませぇ」


 あ、先輩からひっぱたかれた。

 まあ、受付としてあるまじき態度だしな。もうちょい語尾をしゃんとしなさい。

 御用か……ないよな。ここが何の建物なのか知りたかっただけだし。それが達成できたならここにいる意味はない。

 回れ右をして出口へ向かって歩き出す……先輩が受け付けの机を飛び越えて俺の前に立ちふさがった。


「すみませんでした。気分を害されたなら謝罪いたします」


 う、うーん。別にあの程度で気分を害されるほど心が狭いつもりはないけど。

 むしろ用もないのに話しかけてきた俺のほうが悪い気がする。


「ペポー」


「?」


 通じないか。まあ仕方ない。

 そのまま先輩をかわして役場の外へと向かう。さすがにもう止めてくることはなかった。

 また来ることがあるかはわからないけど、何となく来づらい場所になってしまったな……

 あんなところで受付に向かって騒いでる人もいるし。さっさと帰ろう。


「どうにもならないの!?悪臭のせいで窓も空けられないんだけど!」


「それはそのゴミを溜め込んでる本人に言ってくださいませんか……?」


「言ったわよ!でも全く聞かないのよ!住民が迷惑してるから何とかしてちょうだい!あのゴミ屋敷を!」


 ……前言撤回、もう一度回れ右。

 ゴミのにおいだ!ゴミの匂いがプンプンするぜぇーー!

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