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暗黒と少年  作者: みんとす。
第二章 〈暗黒〉ノ章
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第五十一話 黒ノ共鳴ト了得ノ形跡

 

 鋼槍探しを続ける道中、らしきものの気配を感じたという怪異と遭遇し、その情報を頼りに来てみたものの、結局見当たらずにふりだしに戻っていた。その怪異は『気配は移動した』とも言っていたため、今いる場所を起点として探すことになった。

 まだこの付近にはあるかもしれないが、武具を察知する能力は今いる怪異は持っていないという。

 さっきの怪異についてきてもらえば良かったと、少し後悔している。


「……はあ。うまくいかないなあ。ラオ何か思いつかねーの?」


「何かもっと効率が良い方法ないのかな。鋼槍の特性を活かすような感じの……」


『……ああ、そういえばザイヴの鎌を使うことができるかもしれんな。共鳴させる、というやり方だ』


「そういえば、前に陰と戦った時……やる価値はありそうだけど」


 あの時、共鳴とまではいかなかったかもしれないが、確かに何か、ただならぬものは感じた。薫も賛成しているようだし、効率化を図れそうだ。

 一方のついてきているだけとなっている秀蛾と顔擬は何も言わないどころか、秀蛾が顔擬で遊んでいる。俺たちがどうしていようが、あまり関係ないらしい。本当に気まぐれな怪異だ。


『よし、やれ』


「うん。【解化】」


 解化した鎌が現れると、顔擬に夢中だった秀蛾がそれを見て目を輝かせた。

 〈暗黒〉の武具は〈暗黒者-デッド-〉にしか扱えないというくらいだから、怪異であっても触れないはず。目の前にある力に興味津々だった。


『なにあれなにあれ。つよいちから』


『小僧に斬られたら消えるぞ。万が一にも敵に回すなよ』


 後ろでそういう怪異たちの前で、ラオと並ぶ。ただ、共鳴させようにもどうすれば良いのか。しばらく鎌をじっと見つめていた。その時、歪ができた時に吟が言っていた『鎌が知っている』という言葉をふと思い出した。俺に応えてくれるならと、鎌を持つ手に力を入れた。


「……やってみるよ」


「ああ、頼む」


 俺は集中し、ラオの鋼槍と共鳴するために、鋼槍の存在を鎌に託す。その後、静かに鎌が応じるのを待ったが、しばらく経っても反応がない。一度手を緩めようとしたその時、ラオが俺の手の上から、鎌の柄を持った。


「ラオ?」


「……何だろう。何か、感じた」


 それだけ言うと、ラオは手に力を入れる。すると、応えるように俺たちを包むほどの光が溢れた。


「ザイ、そのままな」


 目が眩みそうになるのを必死に耐え、反発するように細く瞼を開いて反応を見守った。


『やるな、共鳴したようだ』


『がんぎ、みてみて! すごいね!』


『ガ……ガ……』


 目の奥に響く光を前に、俺はついに目を閉じる。片手で光を遮るように目の前を覆いながら鎌を見ると、相変わらずラオの手がしっかりとその柄を握っていた。


「……何か不思議な感じ」


「鎌が応えてくれてるんだと思う。不思議と分かる」


「鋼槍の場所?」


「うん。近くはないけど、遠くもない。ちゃんとあるみたいだ。……ザイ、もういいよ。ありがとう」


 俺にはそんなこと分からないのに、ラオには分かるらしい。これも、持ち主だということだろうか。大体の位置を把握したようで、素直にラオの言葉に従い、封化した。


『大丈夫か、ザイヴ』


「うん、平気。ちょっと疲れたけど……うわっ」


 穏慈が口で銜えて、投げるように背に乗せた。目が回った俺は、背中で寝転ぶ。一方の薫はそんな素振りを全く見せないため、ラオが気にしろと言いながらその背に跨っていた。


『穏慈は過保護なだけだ。さっさと武具を追え』


 薫は悪びれずあっさりとしている。穏慈の過保護感は俺も何となく感じている。ラオはそれ以上の追及はしないながらも、「もー」と言って納得はしていないようだった。


『おんじ、かますごい』


『我のものだからやらんぞ』


『だいじょーぶ、とらないよ』


 そんな会話を穏慈の背で聞いていた俺は、今度こそ穏慈に答えを求めて、再度尋ねた。

 秀蛾の存在のあり方を。姿は怪異で間違いないのに、どうしても怪異として見ることができずにいる。穏慈は仕方がない、というようにため息を吐いて、秀蛾が顔擬の上に乗って戯れ始めるのを確認してから、俺に『耳を貸せ』と言った。穏慈の顔付近に近付くと、穏慈はぼそりと言った。


 ─……秀蛾は元々人間だ、と。


「元々……人……?」


「ザイー? どうした?」


「あっいや……何でもない。で、どっち?」


 俺の様子を伺うラオの言葉で、秀蛾のことは一先ず置いておくことに。ラオの案内を頼りに、早速その方向に向かって進んでいく。しかし、遠くない距離だ、と言ったのに、ラオの顔は一向に晴れない。実際、全く辿り着く気配がなかった。


「ザイの鎌と共鳴して、僅かな気配は何となく分かったけど、それが動いてんだから仕方ないか」


「そっか、移動してるんだったね。……てことは」


 怪異が、持っているのだろうか。考えにくいが、そうとしか考えられなかった。


『確かに、この先に一体いるな』


『しかし狂暴な気配はないだろう。安心しろ小僧』


 どうやら、方向としては間違っていないようだ。けれど、仮に怪異が持っているとして、故意にそうしているのなら、簡単に返してくれるものだろうか。


「狂暴だったら、俺死ぬな。武具ねぇんだし」


「お前死んだら殺すよ」


「え、二回死ななきゃだめ……?」


「ブラックジョーク」


『ここまで来ればこの怪異の臭いを追えば良いだろう。行くぞ』


 俺たちの会話を気に止めることはなく、怪異たちは先へと急いだ。


 ......


 落ち着きを取り戻している屋敷では、通常通り講技が行われていた。その中でも、応用クラスは厳しい指導になっている。その理由は、もちろんホゼが動き出したからだ。基本クラスは防御を主とし、まだ戦闘には不慣れな人たちばかりであるために、とにかく安全な戦い方を重点的においていた。


 ─そもそも、剣術屋敷はアーバンアングランドには何カ所かある。その中でも強力な屋敷は、銘郡ここと、北に位置する埜都やとの屋敷。何故こんな、剣術などに特化した屋敷が存在しているのか。

 その理由の一つは、魔物の存在だ。

 裏の世界にいる怪異とは別の、この世に存在する、人に危害を加える魔物、人。そのようなモノに対抗するために、身を守る術を身に付けていく。また、他の理由の一つに、アーバンアングランドの教育師試験の管理者からの支持がある。

 有力な教育師候補を合格させ、地方地方で、アーバンアングランドを破壊に導かないようにすることが目的とされている。

 現に、裏の世界の存在理由を知っていながら、世界を変えようとしているホゼがいる。教育師試験のパス者というだけあり相当手強いが、そうである以上、アーバンアングランドを壊滅しかねない。そのことから、指名手配として追われているのだ。

 つまり、アーバンアングランドが認める剣術屋敷は、裏の世界こそ知られてはいないが、元々魔物や殺戮者から身を守るために作られたものというわけだ。




「こんな時、ザイヴが起きてたらどうなってたか……」


 みんなを巻き込むわけには、とか言って飛び出して行きそうだ。そんな想像ができてしまうと、口角が上がる。不謹慎だということは分かっている。しかし、単純な屋敷生だから、何かと苦労しそうだと勝手に推測を立てていた。


「こんな時に何故笑ってられる? 凄い神経だな」


「おーオミ。いやな、ザイヴだったら飛び出して行くだろうなって思ってよ。手に取るように分かるっつーの? 悪ぃけど面白くてよ」


「悪い、意味が分からん。……それにしても、少年は息が保つのだろうか」


「さぁな、ちょっと頑張りすぎるみてーだからな。けどその辺りは大丈夫だろ。本当にやべーって時は、横の怪異も然り、ガネが止めると思うぜ」


 止める手があるという答えに、少々安心した様子。気にかけてくれる相手が多いと、得なこともあるものだ。


「……あぁ、そういえば。ソムから伝言を預かっている」


「あん?」


 わざわざソムが俺に頼むということは、きっと今後に関わる重要な件だろう。オミの言葉を逃すまいと、俺はオミに目線を合わせた。


「危なくなったら地下へ逃がす。鍵を一つ外しておいてほしい、だそうだ」


「あー。そーか、地下んとこは二重施錠だったな。分かったすぐ行く」


 机の中をあさって鍵を取り出し、引き出しを閉めようとしたところ、ある紙が目に入った。ごたついていてすっかり忘れていたが、ザイヴが青郡に行く前に調べてほしいと言って俺に頼んできた案件がある。それを見ていると、オミが横から覗き込んできた。


「どうした」


「ザイヴから頼まれたことをまとめたもんだ。結構知らねーこともあったぜ。けどまあ……」


 少年が、知りたかったことの真実は。母であるリーアの全貌と、死。そして、自身の血。その答えは、明白に出ている。ずっと分からないと言っていた、己の名も。


「……何だ、良い報告ができそうだな」


「あぁ。お前の名は、ちゃんとあるぜ。ザイヴ=ラスター」




△ ▼ △ ▼


 ソムの頼み通りに地下の鍵を一つ開け、医療室に戻った俺とオミは暇を持て余していた。

 オミはソムについていても良さそうなものだが、本気になっているソムを見ていると恐ろしかったとの答えが返ってきたため、それなりの講技なのだろうと踏む。


「そういやぁ、嬢ちゃんは大丈夫そうか?」


「今のところ、広間には行っていないようだ」


「そか。でも油断はならねぇ。嬢ちゃんだけじゃねぇかもしんねぇからな」


 無意識というのが、一番怖い。何をするか分からないし、何が起こるか予測不能だからだ。そこまではこちらも止める術を持ち合わせていないのだから、できるだけ無意識に行動してほしくはない。


「ところで、ホゼのことに進展はあったのか?」


「昨日の今日だからな。まだ何もない。ただ、ホゼは確実にここに近づいてきている。地下の設備を整えた方が良いかもしれないな」


 ホゼを近付けまいとするなら、一瞬でも扉の開く隙を見せてはならない。ホゼの侵入に気付いて、すぐに対処できなければ無意味だ。恐らく、屋敷生たちは身を守ることで精一杯になるはず。はっきり言って、こちら側の対処の速さにかかっている。


「じゃあ、取り敢えず救急用具を運んどくか。オミ、手伝え」


「あぁ」



 ......


「穏慈、どうにかしてよ……」


 鋼槍を探す中で、ある問題が発生した。俺が穏慈にせがんでいる理由は、目の前にいる一体の怪異にある。


『契約をしておるラオガが説得しろ。我に頼るな。(ダン)は悪い怪異ではないし、こいつの能力は【無効化】だ。だから武具を持てたんだろう』


 鋼槍を見つけ出せたまでは良かった。しかし、状況が悪い。何と言っても、肝心の鋼槍は、歪な形の、眼が大きな一つ目の怪異、灘が持っていたのだから。おまけに、なかなかこちらに手渡してくれない。


「その怪異に苦戦してるんだけど……」


『……デッドは、フタリいるとキイタ……。そのニンゲンが、そうか……?』


(ダン)、悪いことは言わん。ラオガに返せ。私の契約主だ』


 先程からこう繰り返しているのだが、その後は、必ず拒否の言葉を返される。怪異に扱えるものではないのに、何故〈暗黒者-デッド-〉の物を返そうとしないのか。


『……デッドともあろうモノが、そのブグをオトシタ。ナゼだ』


「それは……、変なのに取り憑かれて」


 〈暗黒者-デッド-〉は、ここで最も力のある存在。特別扱いをされる人間であるという認識が、ここの怪異は高いようなのだ。それなのに、取り憑かれた挙げ句に、武具を落とす始末。どうやら、灘にはこれが納得できないらしい。


「俺よりもザイの方が力が強いから、ザイに憑かなかった。これでどうだ」


『もうヒトリの、ニンゲンか……。ならば、ナゼフタツにブンレツしておる』


「それは俺たちに聞かれても……困ったなあ」


『ねえねえ、おんじとくんがいっしょ。だん、てきになるの?』


 俺たちも分からないことだし、むしろ分かっていたら苦労していないという問いに答えられずにいると、緊張状態にいる中で秀蛾が高い声で俺たちに味方する言葉を発した。そのお陰もあり、引きつる空気は少し和らいだものの、返してくれる素振りは見せてくれない。


『ヒイガ……、ナゼそんなモノにテをかす?』


『だって、ころしちゃうより、たのしい。みんないいひと。ね、がんぎ』


『ガ……グァ』


 顔擬の声を聞くと、秀蛾は満足そうに背中の羽をパタパタと動かした。


「俺からも頼む。ここを救うには、俺の鎌と、ラオの槍が必要なんだ」


『……ここをコワサナイように、ウゴイテいるとイウことか』


 裏を返せば、アーバンアングランドを失くさないため。俺は、素直に首を縦に振った。


『……ワカッタ。ヒイガにメンジ、カエソウ』


「あー! 交渉成立! 怪異にも色々いるなぁ……」


 ラオが一歩前に出て、手を伸ばす。説得の甲斐もあり、今度は難なくラオの手に鋼槍が戻った。それを合図にするように俺の鎌が解化し、慌てて柄を握る。恐らく、お互いに持ち主のところにある状態になり、無理矢理共鳴させた反応が、今来ているのだろう。その反応が収まったのを見届け、双方を封化させたところで、ようやく胸を撫で下ろした。


「ありがとう、灘。じゃあ、俺たちは帰るか、ザイ」


「時間かかっちゃったね。さっさと帰ろ」



 ......


 念の為と穏慈も一緒に屋敷に戻ったは良いが、部屋の外があまりにも静かであることに違和感を覚える。時間は恒の一時、講技の休憩時間であってもおかしくないはずが、それらしいざわつきが聞こえてこないのだ。


「あれ、何かしてるのかな」


『……待ってろ、見てくる』


 穏慈が自ら、部屋の扉を開けに行った。その扉には、かけた覚えのない鍵がかかっていた。ちなみに屋敷にある部屋の鍵は、外からも内からも鍵を挿さなければならない。ラオに鍵を出してもらって開けると、ノブが回る音がして普通に扉が開いた。偶然にその目の前を通ったのは、ゲランさんとオミだった。


「おっ!? 戻ったか。朝から忙しくてよ」


 ゲランさんが朝から忙しいなんて珍しいこともあるものだと思いながら扉の外に出ると、やはり人の気配はそれ以外にはない。


「お前らも時間できてんなら、今講技やってっから行け」


「え? ちょ、そんな急かさなくても……」


 オミが俺たちの背中を押して部屋から遠ざけていく。何か様子がおかしいとオミに聞いてみたが、とにかく今は講技に行けと言われ、渋々広間へ向かった。






 応用クラスの広間に行くと、いつにもまして真剣そうなガネさんがいた。その彼は、俺たちに気付くと、直ぐにこちらに向かってきた。


「良かった、戻ってきたんですね」


「何、どうしたのこの空気」


 広間では、屋敷生同士で試合(ゲーム)をさせているようで、端では各自練習をしていた。

 その屋敷生たちの目も、以前とは違って真剣そのもので、焦りすら見えていた。その理由は、次いで聞こえるガネさんの言葉で納得できた。


「真剣に聞いてください、ザイ君に関わることなんです」


「え、俺……?」


「君を狙っている人物が、昨日ここに現れた形跡が見つかりました。分かりますね?」


 俺を狙っている人物、そんなの、一人しか思い付かない。以前の恐怖は、思い起こすたびに突き刺さって来るのだから。





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