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暗黒と少年  作者: みんとす。
第五章 闇黒ノ章
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第百六十七話 黒ノ紡ト繋ニ、白キ陽ヲ

 

 〈暗黒者-デッド-〉は、俺の前に現れて、俺は意識の中で全ての話を耳にする。

 一つずつ答えよう、と言った言葉通り、彼は、俺の問いからだとすぐに話を切り出した。





「……お前たちも、聞いていた通りの問いだ。鋼槍で能力が使えていた仕組み。制御は制御として、俺の能力を持っていた。己を止めるのは己、そういう原理で、能力のつまみがあの友人に備わっていた。だから鋼槍という第二の武具を扱い、主には劣るものの、力を出せていたわけだ。そもそも、鋼槍も分裂に合わせて俺が用意したものだよ」


 他者の口が挟まらないよう、纏めて話を終える彼は、「次の質問に移る」と言って俺へと語り掛けてきた。

 他にも問いがあることを初めから分かっていた辺り、恐らく、俺の内でずっと全てを見ていたのだろう。


「……じゃあ、次の質問だ。ガネさん……屋敷にいる教育師の、あの特殊な眼。あの人にのみ許された、〈暗黒〉に実体無き者として入り込む方法がある。何で、ガネさんはそんな眼を持っているのに、〈暗黒者-デッド-〉じゃなかったの」


 それを聞いて、彼はまた表へ向けて話す。怪異の言葉がいくつか聞こえる中、彼の言葉は鮮明に聞こえる。

 直接響いてきているのだから、当然といえば当然だ。




『……ザイヴは何と言っておる』


「ああ、次の質問だ。ガネという教育師の眼のこと。彼がどうしてその眼を持ちながら、〈暗黒〉に関わる者ではなかったのかって。……まあ、当然辿り着く疑問だ。自身の眼が、彼のそれと同類になっていたら尚更ね」


『何だ、ザイヴも同様に思っておったか。我の方から尋ねようと思っていたことだが……そういうことなら、ザイヴへの説明も省ける。答えてくれ』


 どうやら、穏慈も同じことを考えていたらしい。こちらに属する身としては、確かに納得できる理由も欲しいところだろう。

 実体無くして存在するなんて、傍から見れば不可解現象ポルターガイストを体験しているようなもの。それでも、怪異にとっては心霊も何もないだろうが、外からの無闇な接触は避けたいはずだ。


「ううん……実はこれに関して言えば、俺にも分からないんだよ。俺が彼をそうしたわけでもない、まして、〈暗黒〉に関わらせようとしたわけでもない。だとすれば、残った可能性は、世の干渉だ」


 願った答えは返ってこなかったが、想像の斜め上の言葉だった。世の干渉、と言われても、規模が大きくて全く想像がつかない。〈暗黒者-デッド-〉が図ったことではないということが分かっただけに留まる。


「と、言ってもなかなか分かりづらいよね。生まれもった眼、ってことは、それだけ“世”に求められたってこと。つまり、……何と言えば良いのかな。……そう、“世”にとってあの存在が必要だった。この、表裏のある世界では、時に予め苦難を強いられて生を持つ者もいる。俺は多分、そうだと思うよ」


『……ト、スレバ……アノ眼ノ者ハ、以前ニモ、イタノカ……』


『そうだろうな、書に記述があったのがその証拠だろう。だが分からぬ、どこの誰が、そんなものを残したのか』


「それは残念だけど、俺にも分からないよ。……まあ、君たちの問いには答えられたんじゃないかな?」


 表にいる俺は、少し難しい話をしている。

 俺が理解できたのは、その存在がガネさんでなければならなかった、という理由には至らないものの、きっと偶然、俺たちと近かったから手を貸せただけのことなのだろう。という、憶測にしかならないことだった。

 それから、もう一つだけ。()()()に〈暗黒者-デッド-〉が使った方法。


「……あぁ、それか」


『まだあるのか?』


「俺が、神石に触れて黒幕の招待を炙り出したことがあっただろ? それができたのは、向こうで魔石が()()()()()()()()だ。何者かの手が加えられたことで、神石からあの魔石を介して、欠片へ繋ぐことができた。ちなみに、奴は欠片を使って神石をコントロールしようとしてたから、危なかったね」


 ラオの一言で、その行動を促したわけだが、どうやらお陰で危機を逃れることができていたらしい。

 なるほど、俺を必要ないと言って切り捨てようとしたのも、その欠片を利用する算段がたったからだったかもしれない。


「こんなところかな。それで?」


『……いや、もう良い。そろそろザイヴを返してもらおう。言ったはずだ、ザイヴはお前を良くは思わんだろうと』


「そうだったね。……じゃあ、最後に確認しておく。今、繋の状態は万全だ。今の空間と、能力の状態であれば、スムーズにいくだろう。……武具が繋を断てば、表裏は直接の繋がりを失くす。つまり、人と怪異が干渉できなくなる。この体は、限界を迎えれば表へ帰るだろう。それで、終わりだよ」


『ああ……』


 穏慈の低い声が、耳に入った。そんな悲しそうに言うのは、ずるいのではないかと。

 〈暗黒者-デッド-〉が言った“終わり”という言葉は、確かに重いけれど、怪異が人に絆されなくても良いのだと。何となく、心に引っかかった。


「返そう。後は、任せたよ。俺を存分に使え」


 そう言うと、今度は俺に直接話しかけてくる。声でしか存在を取ることができないそれに対して、俺は、目を閉じた。


 ─鎌が応えてくれる。もう目の前だ。神石が示す光を追っていけ。


 分かっている。全部、この眼を見た時に、察した。

 必要な繋を切ることで、不必要な干渉がなくなり、双方が安定することを。誰に言われたわけでもない、恐らく、〈暗黒者-デッド-〉の本質が見せたものだろう。




 瞼を上げれば、目の前には怪異が並んでいた。穏慈は、あんな声色をしていたくせに、まっすぐに俺を見ている。

 怪異が人に絆されたのではない、俺の方が、そうだったのかもしれない。


「……穏慈」


『何だ』


「俺は、今でも怪異が怖いよ」


『……ああ、当然だ』


 闇に佇む大きな体。数多く存在する能力。妖気。気まぐれすぎる性格。一度(ひとたび)争えば命を落とす。挙げればきりがない脅威なのに、俺を守ってくれていただけの、そんな怪異の類に、心を許している。


「……そんな俺自身が、一番怖い」


『……ふん、別れ話には少々早い。我らを恐れているお前が、お前を恐れるか。ならばその恐れをもってして、我を使え! ……最後までな』


「言ったな。吟、秀蛾、顔擬。行ってくる。……()()()


 俺を見て、吟はゆっくりと首を下げる。『気を付けて』と、そう言うように。顔擬は、秀蛾の様子を窺いながら、狼狽える。

 そんな秀蛾は、顔擬の上に乗ったまま、小さな体で俺を見上げた。


『また……? だって、きったら』


 俺の言葉に、違和感を覚えたらしい。けれど、俺が伝えたいのは、その先の言葉。


「“いつか、また会える気がするお別れの言葉だよ”。……って、言ったら、寂しくないだろ」


『!! ……うん!! でっど、やっぱりやさしい。ひい、すき!』


「うん、ありがと。……穏慈、行くよ」


 鎌を解化し、手に持つ。あの時よりも、いくらか大きく感じるその鎌は、異様に禍々しさを持っている。それなのに、温かくて、優しい感じもした。


『乗れ、すぐに向かう』





 神石が俺たちを導く。いや、俺の鎌も、それに加わっている。溢れてくる能力に、俺たちは誘われる。

 穏慈と俺、移動しているのは俺たちだけのはずなのに、どこからかざわめきが聞こえてくる。追って来る。

 吟が言っていた正念場、というやつだろう。


『気付いているな』


「うん、この感じ……」


『ああ……繋のある辺りは気も強いらしいな……。弱い怪異であれば気に圧されて毒される。お前の静闇でも使えば解放されるだろうな』


「……やれってことだろ?」


 その問いに、穏慈はにやりと大きな口を更に引き延ばして、俺を見た。


「怪異の動き、できるだけ緩めてくれ!」


『任せろ』


 その背から、飛ぶように降りた俺は、前方に鎌を出して構える。毒されただけの怪異ならば、以前、怪異(ガク)糸舵(ドール)が襲ってきた時と同様で、そもそも無害な怪異だろう。


 俺の行動を読み取ったのか、鎌は白く光った。以前に使用した時よりも、遥かに強い。普段なら瞼を下ろすところだが、今の俺は、その痛いほどの光にも動じなかった。


『ザイヴ、やれ!』


「っあああああ!」


 数体の怪異を前に、その光を遠くへ打つように、鎌を地と水平に振り切る。踏ん張った足に余計な力が入りながらも、その重心は鎌で動かされる。やはり、鎌そのものの存在感が変わったように思える。

 踏み切って着地した足を即座に切り返しながら、何度も怪異と衝突する。


「っ、ふうぅ」


 上方から、左右から、怪異は俺に構うことなく飛びかかる。それを横から支援し、次から次へと怪異を止めていく穏慈の動きは、骨を折った数日後とは思えないものだった。


「穏慈、あとどれくらいいる!?」


『割合で言えば六割は削った。へばってないだろうな』


「はっ、こんなんでへばってやるかよ!」


 鎌の大きさと重さを利用して、俺は自由に体を動かす。思ったよりも、俺自身も鎌も操れることに、今更ながら異常感を感じた。

 大きな覚悟だ。それなりに、頭で納得できていたからこその決断だった。でも、だからこそ、後ろ髪を引かれる思いもあった。それでも、俺は俺としてここにいなければならない。

 全てを背負って、こんなにも体が軽いだなんて。


「……ほんっと、変な話だよなあ!!」


『ザイヴ、最後だ!』


 白い軌道ができる。それを、俺は目で追った。その先で、毒を抜かれた怪異たちが、ふらふらと立ち去っていく。

 ああ、俺でも救えるものがこんなにあるのだと、その目で確認した。


 最後だと言った穏慈の言葉通り、そのひと振りで、怪異の異常な荒々しさは消えた。

 その怪異が、先の怪異たちと同様に去って行くのを見て、俺は一度、鎌の刃先を地につけた。


「……静闇を使っといてなんだけど、こんな大鎌で斬って、傷がつかないって不思議だな」


『まあ、そうかもしれんな』


「……っふう、よし。穏慈、追うよ」


 鎌を手に、それでも軽々と持ち上げて、再び穏慈の背を借りる。俺がしっかりと乗ったことを確認すると、怪異はすぐに場を発った。




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