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ホーン 第一章  作者: 忍 嶺胤
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疾走する狙撃手

3.疾走する狙撃手



 水底に深く深く沈んで、水面を見上げる。

 肺の動きを止めて身動ぎもせず、口からも鼻からも気泡が溢れ出さないようにする。心穏やかに、重く濃密に揺らめく水の彼方に、朧に存在する光。身体は酸素を欲して、血液が駆け巡る。欲求を意志の力で撥ね退け、只管水の外の世界を内側からじっと睨みつける。温かく揺蕩うのは羊水の如く想える。守られた緩い感覚を何れは手放さなくてはならないと知りつつ、刹那を悲しむとも楽しむとも判らぬ感情を敢えて探索せず、傍らに置いたままにする。耳に聴こえるゴボゴボという音は胎盤の外の母の唄声だろうか。視界の先の光は位置を変えず、光量も色彩も変化しない。永遠不変の法則の如く、交代せず、何時もそこに在るというのか。息を吐き出し浮上し、ここから出れば手に掴むことが叶うのか。答えはすぐそこにあるのに、手に入れるには生まれるという痛みを負うしかないのか。何を犠牲にしても手に入れる程の価値がその先には在るというのか。

 ボコッと一つ気泡を零す。零れ出た空気は真球形にはならず、歪んで絶えず形を乱しながら水面へ釣り上げられてゆき、消えてしまった。鰓で水中から酸素を摂取できる魚でもなく、長時間水底に潜むことができる海獣でもなく、単なる人間である者にとって限界はすぐにやってくる。このまま無理に続ければ酸素欠乏で脳が機能を奪われるだろうか。美那斗は水底を手の平で押し、背中を、尻を引き剥がし、軽く足裏で蹴って浮上した。水深五メートル余りを登るのは、存外に長い時を要すると感じた。黒髪、額に次いで鼻梁と唇が外気に触れると、呼吸器官が蘇生する。目は朧げだった光の正体がプールの天井の照明だったと告げられ落胆したのか、そっと閉ざされる。

「おかえりなさい」

 小さな呟きに美那斗の自嘲が混在した。



 長月を迎えた。近年長月は秋の初めではなく、夏の延長にすぎなくなってきている。

 大気は常に熱を帯び、淀んだ空気を捕縛し、街中へ支配の肢体を広げて放さない。

 そういう噂はあった。ネッシーやツチノコみたいなUMAの目撃情報は取るに足りない子供じみた都市伝説であり、話のネタとして口に登らせる者がいることは居た。が、今では噂の域を脱しようとしている。

 確かに何かがいるらしい。

 噂は恐怖の片鱗を覗かせて、熱帯夜の暑苦しい空気に似た人々の苦しみの枷になる。

 怪人の目撃談は後を絶たなかった。それでも当初は目撃したという情報にすぎなかったのだが、不可思議な現象を伴っていたり、物的な被害へ波及し、人がその対象となるのも時間の問題だと言い出す者が現れた。

 正体不明、それは間違いない。正体が何かを知る者はいない。だが、存在を知っているものはいる。月崎の館ではそれが日常であった。とはいえ・・・

 月崎美那斗が濡れた髪を乾かす時間も惜しむように応接室で客と逢っていた。

 相手は月崎家お抱えの会計士で、対怪人用の研究開発費の捻出に関する書類の確認やら、サイン、委託の件での打ち合わせであった。本来の契約者は父である月崎護であるが、現在は失踪者扱いであったので、代理人として娘の美那斗を立てるにあたって、事が煩雑になってしまっている。致し方ないこととはいえ、事務処理の全てを把握、理解する暇は彼女の持ち合わせにない。会計士を全面的に信頼しているので一任し、放り出したい所だが、そういうわけにもいかず、ぐっと堪えている。もう自分一人のことではない。スタッフの今後にも関ってくる問題なのだ。弱冠二十歳そこそこの彼女の肩の荷は大きな岩石のように重く硬質だった。

「それでは海外ファンドの解約でよろしいのですね。私としては一も二もなく反対ですし、せめて全てとは言わずーーーー」

「瀬川さん。可能な限り早急に、しかも多額の資金が要るのです。どうかご理解ください。手続きも大変でしょうけれども、よろしくお願いします」

 会計士の言葉を途中で遮る形ではあったが、丁寧で礼儀正しく頭を下げる美那斗の所作は優雅ですらあった。タンクトップのシャツにスパッツ、スニーカーという、今にも走り出そうという服装ではなく、ドレスとまではいかないまでも、普段着ているワンピースであったら、まるで晩餐会に招かれたのかと錯覚してしまいそうだ。そんな風に瀬川は想い、大きな溜息を漏らした。

「解りました。では明日から渡航してきます。まずは台湾になります」

 海外ファンドの契約や解約には実際にそこを訪れる必要がある。運用しているファンドは何件もあるので瀬川は想像するだけで目がまわりそうだった。

 豪奢な彫刻のある椅子から立ち上がり、軽く瀬川に手を握らせて挨拶し見送ると、続けて美那斗自身も館から屋外へ出る。膨大な光量にいきなり晒されると、皮膚と視野がヒリヒリと痛むようだ。それでも心はようやく訓練を始められることを悦んでいた。

 軽いストレッチをしながら玄関前でロータリーを形成する舗道を西側に在る門扉に向かって歩き出す。遠くで鉄製の門が閉ざされる方向へ動いているのが見える。瀬川が出て行ったところなのだろう。足首をくるくると回してほぐすと、勢い込んで走り出そうとする美那斗へ

「おーいっ、美那斗ちゃーん」

 と、呼ぶ声が聞こえてくる。

「こっちこっち」

 小さく溜息を漏らしてから、声の方へ九十度向きを変える。手招きされているのが解った。

「お茶の時間ですか、紙戯さん」

 月崎邸の西側棟の前庭に丈の低い草木が植栽されているが、目隠しと言うよりも通路を蛇行させるための意図がある。美那斗はくねった小径を歩いた。西棟の庭にはテラスがあり、大きく張り出した屋根が涼しい日陰をつくっている。床はターコイズブルーとホワイトの市松模様のタイル貼りで、所々に猫脚の丸テーブルと椅子が配してあって、その一つに向浜紙戯が脚を組んで座っている。

「コーヒー。美那斗ちゃんもどう?」

「いえ、私は結構です」

 テーブルを挟んだ向かい側に美那斗が腰を下ろす。

「あぁ、アスリートにカフェインは勧めちゃ駄目だったかしら。私はカフェイン切れ。コーヒーがないと生きていけないわ。もう完全に中毒ね」

「今日も奇抜なファッションですね。紙戯さんらしくていいけど」

「んーっ。そう?」

 お気に入りのタンブラーに口をつけて甘めのラテを口にする。服装については一切頓着しないようで、相手が誰であっても歯牙にもかけない。

「この季節にマフラーはアツいでしょう」

「ああ、そういえば。それで暑いのかぁ」

「ふふ」

 目元を綻ばせて笑いを口に刷く様子を、満足そうに紙戯が見つめる。

「やっぱり美那斗ちゃんは笑った方がかわいいね。勿論素材がいいから黙っていたって、怒ってたって美人には変わりないんだけど、笑ってたほうが周りの人の心まで明るくしてしまうもの。ねぇ、私達が初めて逢った日のこと覚えてる? 私が大学生だったから、ちょうど今の美那斗ちゃん位の頃だったわ」

「うん、覚えてる」

「チーフが大学の講師をしていて、私の鋭い質問にタジタジで、是非にと請われて在学の身ながら、ここのスタッフになったのだけれどーーーー」

 紙戯の口調は自慢するでも鼻にかけるでもなく、単に事実を客観的に語るだけの淡々としたものだったが、実際、月崎護が彼女の思考力の高さ、発想の独自性を高く評価したし、又、紙戯を加える事でチームの研究も年単位で先行するような変化をもたらした。

「この屋敷の凄さに私は目を丸くしたけど、美那斗ちゃんをチーフに紹介されて名乗ると、変わった名前だってあなたも目を丸くして、急にどこかに飛んで行くと手に鳥類図鑑を持って来て、指差して、これのことかって訊くから、そうだと答えると、とても素敵だって。嘴と脚が細長くて恰好が良いって。私は地味な鳥だからあまり好きにはなれなかったから、嫌味で言ってるのだろうと思ったのだけれど、でも目の前の笑顔は本当に屈託がなくて、あぁ、これは本心なんだな、人によって感受がこんなにも違うものなんだな、って、そう感じたわ。そして、私は美那斗ちゃんのことが一遍で大好きになってしまったのよ。女ばかりの姉妹の一番下だったから、妹ができたみたいで嬉しかった」

 少し珍しいことに、紙戯の言葉はいつもよりゆったりとしていた。思い出を噛み締めているかにも見えたが、表情は普段と何ら変わらない。研究している時も食事をしている時も、いつも同じようだった。

 一方、美那斗は昔を思い出し、懐かしんでいるのが表情で解った。あの日以来、こんなふうに昔を振り返ったのは初めてかも知れない。

「私だってお姉さんが出来たみたいだったわ。そういえば、本当のお姉さん方も鳥の名前なのよね」

「そう。上から芽城(めじろ)継実(つぐみ)絵永(えなが)渡綺(とき)、そして紙戯(しぎ)。もしもう一人生まれてたら鍔瑪(つばめ)だったって。漢字なんかいい加減なんだから、あの親父。小さい頃に訊いたのよ。シギはいいとして、どうして紙に戯れる、なのかって。そしたらあの人「だってお前、小さい頃から折り紙遊び大好きだったじゃないか」ですって。いい加減なんだから。だって、出生届は生まれて二週間以内に提出しなくちゃいけないのに、そんな赤ちゃんが折り紙なんてするわけないでしょ。いつもそうなの。口からでまかせで人を煙に巻いて、しらっとした顔して。ズボラで、怠け者で、行き当たりばったりで。考え無しで・・・」

 紙戯は別段怒っている様子ではない。どうしてこんな話をするのかと、美那斗はその意図を探ってみた。きっと私を笑わせようとしているのだろう。いつも眉間に皺を寄せていたかもしれない。顔を合わせても忙しそうにしていたかもしれない。そんな自分に気遣ってくれているのだろう。本当はトレーニングに行かなくてはいけないのだが、たまにはゆっくり話すのもいいかもしれない。

 だが、美那斗は紙戯の口から余りにも予想外の言葉を聴くことになる。

「紙戯さんのお家はいつも賑やかそう。羨ましいわ」

「賑やかというか、騒がしいというか。ゆっくり感傷に浸る余裕はないから、美那斗ちゃんのように思い詰めなくていいかもしれないわね。静かだと色々考えてしまうから」

 やっぱり思い詰めているように見られているようだ。それを悪いことだとか、直そうとかは思わない美那斗だが、心配をかけてしまっている点は申し訳ないと感じた。

「時々はお家に戻っているの? 確かそんなに遠くない所に住んでいると記憶しているのだけれど」

「そう、すぐ近く。すぐ・・・」

 一瞬言い淀むかに見えたが、口は閉ざされず、次の言葉が溢れてくる。

「あの人、父は車を運転していたんだって。買い物だったかなぁ、信号待ちしている時、事故に遭ったんだって。車の屋根に突然大きな岩みたいなものが落ちてきて、車ごとペシャンコ。でも、周りにはそんな岩落っこちてない。けど、車は丸く凹んでいる。最近流行の奇怪現象ってやつ。何かが走り去ったっていう目撃情報もあるらしいけど、警察も原因不明としか言い様がないって」

「紙戯さんーーーー」

 大変なことを淡々と、さらっと喋り続ける紙戯を美那斗は止めようとした。

 頭の中を整理しないと、上手く意味が飲み込めない状況だ。だが、紙戯は言葉を止めなかった。そうして思い出や出来事を口にすることが鎮魂歌を捧げることと同義だとでも言うように。

「車内の遺体は身元を確認する術すら無い程の潰れ方で、でも車のナンバーは破損してないから、間違いなく父よ。幸いというか、同乗者はいなかったし、こう言っては美那斗ちゃんを傷つけてしまうかもしれないけど、チーフの様に怪人にされた訳でもないから、多少はマシなのかもしれないって、そう思うことにしたの。したのに、やっぱり唐突すぎるし、頭では理解できても、心の方は私に従って来てくれなくて。思えば私、学業や研究には頭脳を活用して、発達もさせてきたけど、こういう感情の処し方は学んでこなかったわ。案外、辛いものなのね」

 タンブラーを持つ紙戯の手の上に美那斗の手が重ねられる。紙戯が感情を吐露できないのなら、代理になろうというのか、美那斗が大粒の涙を幾つも幾つも溢れ出させる。夏さながらの熱気もたちまち蒸発させることは出来ず、涙は頬を伝い流れる。

「奴等と闘う武器の試作品が出来上がってきたの。銃なんだけど、超硬の板を貫通させる弾を数種類鍛造したけれど、どれが有効かも解らないし、私の見解だとどれも歯が立たないかもしれない。数少ない事件、事故から破壊力、しいては耐久力を概算した結果だと行けるかもしれないけれど、計算だけではない何か不可思議な力も在るように思えて。つまり、テストが必要なの」

「それよりも、お家に帰らなくちゃ。紙戯さんのお母様やお姉さん方もさぞお心を痛めてらっしゃるでしょう。こっちの事はーーーー」

「美那斗ちゃんーーーー」

 紙戯は数瞬間正面を見据え、静かに重く首を横に振った。

「検証方法は未だ模索中だけど、何れにしてもラスツイーターと闘いうる力を得なくてはならないわ。酷なお願いになるけれど、美那斗ちゃんに手伝ってほしいの」

「私ならどんなことだってするわ。その覚悟はもうできてる。でも、ラスツイーターって?」

「奴等の総称。チーフのデータの中に有ったの。怪人は人間の煩悩が極大化されたものだって。社会生活を営む上で自制されている欲望や欲求を抑えられず、開放しようとする、これが怪人の基本的行動の一つ。もう一つ重用なファクターが有って、マザーを守ろうと行動する。怪人の思考形態はこの二つによって成立しているそうよ。つまり、怪人は煩悩を食らう」

 あの夜、怪人が奇妙な声を発していたのを、誰かが「イート」と聞き取っていた事を思い出して、あの鳴き声が耳に蘇ってくるようだった。

「マザーと言うのは、あの最初の怪人のこと? 怪人は己の欲と母親のために生きている・・・」

「生きているかどうかは判らないけど、そういう事ね。その上で考えると、チーフの取った行為は、美那斗ちゃんを守るためのものと言えるわね。それがチーフの欲求ということ。あなたは愛されているのよ」

 慰めの言葉を探していたのに、逆に慰められることになって、美那斗は自分がやはり未熟な子供なのだと恥じた。父親を失って一年近く経つのに、父親を失ったばかりの紙戯に投げる言葉も見出だせないし、涙も止められない。

 それでもラスツイーターが忌むべき存在だということは共通の認識だ。

「このまま野放しにしてはおけない。これ以上悲しむ人を増やさない」

 これまでに何度も心を決め、意志を固くしてきたが、それでも繰り返しそう決意せずにはいられない。怪人どもを屠ること、父の仇を討つこと。

「紙戯って、いい名前よね」

「ああ、すごくいい名だ」

 美那斗が笑いかけるとつられるように紙戯も笑うのだった。

 研究施設である西館のテラスへと続くドアが静かに開かれ、執事である辺見が二人の邪魔をせぬように気遣いながら出て来ると少し離れて立ち、タイミングを見計らって声を掛けてきた。

「お嬢様、お客様です。こちら警察庁の方が御用がおありとのことでございます」

 辺見の後方に二人の男女が立っている。二十代半ば、スーツに身を包んでいても良く判るほど肩が細く、パンツも細いので黒い革靴が異様に大きく見える男。もう一人は四十代前半か、噛みを結い上げて、同じような黒いスーツを着こなしている。

 二人の視線は真っ直ぐに美那斗に向けられているが、遮るように辺見が近づいてきて、そっとハンカチを渡す。涙に乱れた顔を見せまいとの配慮だ。

「今日はお客様の多い日ね」

 辺見の白いハンカチで涙を拭って返すと、椅子から立ち上がって一歩横へ移動し、両手をお腹の辺りで重ね、肘をやわらかく張り気味にして、

「月崎美那斗です」

と、大きくはないけれど明瞭に耳に入ってくる声で名乗り、一礼する。

 初めに動いたのは女性の方だった。気持ちのいいくらいツカツカと大股で歩み寄り、

「八橋警視です。こちらは平山警視。警察庁から来ました。名刺は先程、執事の方に」

 言われると辺見は胸ポケットから名刺を取り出し、テーブルの上に乗せる。

「何かお飲み物でもお持ちしましょうか」

「いえ、お構い無く」

 八橋が言うが、辺見は会釈して用意のために退る。

「じゃあ私はこれで。例のテスト計画についてはもう少し詰めて、また相談するわね」

 こんな時、身内に不幸があった人へ何と声をかけるべきか言い倦ねている内に紙戯は椅子を立ち、軽く二人に頭を下げてから、ついさっき二人が出てきた扉へと歩いて行く。

 その紙戯の姿を平山はじっと見つめ、目だけで追いきれなくなると首を回し、次いで体の向きを変えて見送る。

「あ、あの方は?」

「向浜です。うちのスタッフの一人で」

「何というか、その、奇抜なファッションですよね」

 頬を緩ませ見続ける平山を、大きな咳払いで八橋が窘める。

 八橋の目は明らかに冷ややかだ。そうと気付いて、平山は慌てて何か言い訳を探そうとする。

「だって、アレはないですよ。白衣にマフラーでしょ。それにその下ときたらーーーー、うわぁっ」

 突飛な叫び声はおよそ成人男性には不釣り合いに裏返っていたが、話題の向浜がタンブラーを置き忘れていたと取りに戻ってきたのだから、平山としては堪らない。しかも、小走りでテーブルの方へ平山のすぐ側を通り抜けてゆくものだから、夏に不似合いなマフラーが揺れて、その下にあった豊かな両の乳房の間の艶やかな隆起が鮮明に観察できてしまう。不審な挙動を現しながら、何とか視線を外そうと意識したのが逆効果だったのか、余計詳細に紙戯の恰好を凝視する結果となる。

 紙戯の後ろ姿が室内に飲み込まれるのを待って

「あれ下着ですよーーーー」

「バカっ。もういいからお前は口を開くな」

 顔を少し赤らめるやら、しどろもどろするやらの平山に、八橋の叱責は鋭かった。

 睨みつけられ、まるで怯えた子犬のよう首を引っ込める平山は、見ようによっては滑稽な道化のようでもあったが、それで笑いを誘われるようなことはなく、八橋も美那斗も冷ややかであった。

「ーーーーどうぞ、お掛け下さい」

 言うと、まずは先にテーブルの前の椅子に腰掛ける。さっき紙戯と話していた時とは打って変わった優雅な佇まいで、浅く尻をかけ、背はまっすぐ伸ばされ、背凭れに触れない。足は両方揃えて傾けている。

「それでご用件はどういったことでしょうか」

 向かい側の椅子に八橋が座る直前、美那斗が平山に視線を投げたのは、つい数分前まで紙戯が座っていた所へ座ろうとはしないだろうかと牽制する意味だろうか。当の平山は何事もなかったかのように黙って八橋の後方に直立し、両足をやや開き気味にして前で両手を組む。

 美那斗が改めて辺見が置いていった二枚の名刺を見る。警察庁、警視、という文字が印刷されているが、彼女は警察関連の詳しい知識を持ってはおらず、単純に階級が高そうという雰囲気を感じ取ることは出来たが、それにしても奇妙な名刺で、所属部署や住所は一切記されていない。電話番号の記載はあるが、二人共別の番号で、携帯ではなく固定電話のようだ。

 そうしたことには触れず、

「えっと、やつはしかぜ・・・?」

八橋風火(やはしふうか)と読みます。気にしないで下さい。よく間違われます。京都の生八ツ橋みたいだと誂われることも多いです」

「苗字もですけれど、お名前も珍しいですよね」

「ええ、母が今で言う歴女の走りみたいなもので、武田信玄の風林火山からとったんです。子供の頃は男みたいだと。名前では昔も今も苦労してます」

 彼女は二児の母親で、八橋とは婚姻後の姓だが、幼い頃の記憶から子供には平凡な名前をつけたそうだ。

 八橋という女性の口調は堅い。二十才近く年若い美那斗に対してくだける所がないのは、近寄りがたい面もあるが、誠実さの現れとして美那斗は好感を持った。

「それで、今日伺ったのは、一年前にこちらであった事件についてです」

「事件、ですか?」

 美那斗の眉根が曇るのがはっきりと判る。おそらく彼女がこの様に相貌に意志を表すのは相手が何の遠慮もいらない家族か親友の場合か、さもなくば意図された場合かのいずれかだろうけれども、今回は後者だ。事件のことを訊かれることに不快感を示しているのだ。

「警察の方には、あれは失踪届を受理してやるから、生きて発見されることを神様にお願いしているようにと、その様な内容のことを言われました。それを今になって事件という言葉を使うのですか?」

 口調は先までと何ら変わらず穏やかであったが、かなりきつい言い方であった。彼女にしては珍しいことに嫌味すら含んでいる。

「お気持ちはごもっともですが、私共は警察庁です。当時対応にあたった地方警察とは全く別の組織です。この所奇怪な事件が多発しているのは、テレビ等でも報道がされているので、ご存知だとは思いますが」

 美那斗が首を横に振る。

「テレビは見ませんので、存じません」

 多発する怪奇現象。その内の一つが紙戯の父親が遭遇したという事件であり、美那斗の父親が失踪した事件、ということなのだろう。ただ二人が月崎邸を訪れたのは、紙戯の件とは関係ないようだ。

「月崎護氏の身に起きた事、聴かせてもらえませんか」

「どうしてですか。今更そんな事を話させて、一体何の意味があるのでしょう。辛くなるだけです」

 辺見が戻って来て、客人二人には程よく冷えた緑茶と、美那斗には水を配る。グラスの縁に唇を当て、ほんの少量口腔に含むと、喉を湿らせていく。ゆっくりと水を飲んでいるように見せながら、頭の中では素早く考えを巡らせている。何を、どこまで話すべきなのか。話さないべきなのか。

 真実を語るのは容易だ。怪人が襲来し、父を怪人に変え、連れ去っていった。

 しばし考えた後、その部分だけは八橋に告げることに決めた。ある程度人知の及ぶ範囲を超越した内容を知らせることで、相手方の反応を確かめようとしたのだ。

「その怪人というのは、当然ながら人ではない、のですね。その、何かの比喩ではなく」

「そうです。見るからに人間とは体の構造も、大きさも違います。父を片手でやすやすと引きずって行ったので、力もすごいと思います」

「大勢の目撃者がいた。その中で怪人はどうして護氏を選んだのでしょう。目的があった、そんな感じでしたか」

「えっ」

 八橋に問われて、美那斗は戸惑いから言葉がすぐには出てこなかった。人から情報を引き出すための話の流れの組み立てや心理的な駆け引きに長けたのが警察という職業人の特色かもしれない。驚嘆し、警戒する美那斗に対し、八橋はスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出した。

「実は見ていただきたい写真があるのですがーーーー」



 5ヶ月前のこと。

 八橋風火は柳課長に呼ばれ、褐色を基調とした課長室にいた。いかにもそれらしい大きなデスクと革張りの肘掛け椅子。黒革のソファーと四角いテーブル。壁には額に入れられた賞状が等間隔で並べられている。飾り棚には勿論盾も。

 階位や実績をひけらかすのは指揮系統を明確にする意味もあるが、古来からの風習に拠る所が大きい。柳本人は賞の数々を自慢することもなかったし、実際の執務に効果があるとも考えていなかった。

 ソファーの後方に八橋は直立不動、所謂「気をつけ」の姿勢で居る。目上の人物への敬意を表しているが、彼女のそれは微動だにせず、日々の鍛錬を如実に語っている。

「八橋君、楽にしたまえ」

「はっ」

 足を肩幅に開き、両手を腰の後ろで組む。その様を視界の端にとらえながら柳も又立ち上がると、腕組みしたまま近寄る。室内には二人以外いないが、内密の話をするように声を低くする。

「最近、奇妙な事象が発生しているが、その案件は耳に入れているか」

 還暦が手に届きそうな範疇の年齢にしては滑舌よく、聴く者に嫌悪感を抱かせない声音には、それでも憂いが含まれていた。

「申し訳ございません。詳細は把握しておりません」

「いや、それで当然だ。警戒しなくてよろしい。公な捜査も行われてはおらんのだが、暗には進められている。昨日までの所、この案件による被害件数は十六件。負傷者は重傷軽傷合わせて五名。そして、内一名の死亡が確認された」

 八橋にようやく視線を向けた柳の渋面に、彼女は驚きを禁じ得なかった。一体どんな事案が発生しているというのか。この様に険しい面持ちの課長をこれまで見たことがない。地元警察の管轄ではなく警視庁へ来る話であるからには、重大性は高いはずだが心当たりが浮かばない。

 柳課長が再度デスクへ戻り、机上から一つのファイルを取り上げる。持ち上げる動きの軽さから、中に挟まれた資料が極僅かだと推測される。

「まだまだ公表は控える。極秘裏に動かねばならない。よって呼称もない。あえて言うならケースNN(Case Not Named)。この懸案を八橋君に担当してもらう」

 差し出されたファイルを受け取ると脇に抱えて敬礼をする。疑問は多くあるが、ともかく命令は絶対だ。例えこれが煙たい人物に対する厄介払いだろうとも、暗に辞職を促しているにしても、八橋は異論を抱きもせず拝命した。

「まずは事実を突き詰めて欲しい。噂の域を出ないが、何か正体不明のものがあるらしい。おおよそ大型の野生動物か何かが潜んでいるのだろうが、捕獲にしろ射殺にしろ、その前段階までを君にやってもらう」

「はっ」

 話はそこまでだった。課長室を退出し、大部屋の自分のデスクに座っても、しばらくは机の端の山積みの書類の一番上にカーキ色の表紙のファイルが置かれたままだった。「警察庁ファイル」「SECRET」という二つの文字が掠れた黒インクのスタンプで押されている。

「課長直々の話って、これですか?」

 物思いに沈んでいたので言葉は耳に入らなかったが、ひょいと覗きこむ無遠慮な平山の顔が八橋の目に飛び込んできた。

「見ていいですか」

(私はまだ見てない)

 言い返すのを待たずに平山はファイルを広げていく。およそ年上に対する態度とは思えない気安さに、平山が八橋を同じ階位の同僚とみなしているとしか思えない。二人は共に警視だが、年齢は格段に平山が下だ。いわゆるキャリア組というやつで、将来の幹部として経験を積んでいる最中の平山に対して、八橋はノンキャリア組ではあるものの、四十歳そこそこでの昇進は異例であり、特例でもある。

 彼女は一年四ヶ月、SASへの入隊研修の実績がある。SASはイギリス陸軍の特殊空挺部隊のことで、対テロ戦術の構築の一環として派遣され、実戦を想定した実務訓練を積んできた。当初八ヶ月を予定していたが、半年間の延長を彼女自ら申請し、受理され、長期の研修になった。日本の特殊急襲部隊、通称SATへの女性入隊の可能性と問題点を抽出し、検討するための報告書の提出が目的であり、また実戦部隊の指揮任務の可能の是非もそこに含まれていた。

 レポート作成に当たり、八橋は英国男子に混ざって訓練メニューをこなしていったわけで、当国民男性ですら逃げ出す過酷な試練をやり遂げた事自体かなりの賞賛に値する。そんな稀有な経験の持ち主で、学歴の割に若くして警視へ昇った八橋に対して、だが与えられる事案は皆無であった。

 警察庁にとって八橋レポートはある意味衝撃であった。熾烈で過酷な訓務に耐え抜いた女性警察官であり、地球上で最強の戦闘集団と称えられるSASに戦闘員として認められた八橋風火が、女性のSAT参入を否と報告したのだ。更に指揮系統への参画にさえ異を唱えている。

 その理由、真意はどうあれ、警察庁にとってこれは僥倖であり、詳細を明確に理論付け、実体験を伴うレポートの存在は一種の免罪符になる。今後男女均等雇用法の観点から問題視する声が上がろうとも正当な理由で拒否する事ができるからだ。

 警視昇格は、建前上は長期の海外研修の成果報酬であるが、ある意味の謝礼でもあった。が、異例の特進を心良く思わない輩は、八橋レポートを女性が昇進するためのマニュアルだと揶揄した。すると今度は手柄の上げられそうな事案を与えられなくなった。仮に何か優れた働きを見せようとも、これ以上彼女が昇進することは上層部が許さないだろう。皮肉な結果だが、庁内での八橋の存在は微妙なものになった。

「何っすか、これ。未確認生命体の調査? 我らツチノコ探検隊っすか!」

 道化て平山が言う。

「定時だから上がるわ。お先に」

 八橋の反応は冷めていた。厄介払いとして与えられるのは残務処理ばかり。そうかと思えば、訳の分からない事案の、コレだ。それでも生活していくために、今の仕事を離れる訳にはいかない。

 翌日から、仕方なく調査を始めた。目撃情報を一つ一つ聴取し、裏付けを取っていく。関連する噂があれば確認へ動く。だが、何を探せばいいのか解らないというのが本音だし、探りを入れていくほど、胡散臭い人物やオカルト好きな趣向者との接点が増え、辟易させられる。それでも、四角いビルの生温かいコンクリート壁の中で二酸化炭素濃度の高い腐敗臭混じりの空気を吸い続けるよりは大分マシだと、八橋の外回りの日々が始まった。



 月崎の者が怪人と遭遇したという情報を入手したとしても不思議はない。月崎邸での件には箝口令がひかれたわけでもないし、恐怖が耐え難く辞職したものも多い。話を漏れ聞いた八橋が真相の程を調べに来たのも当然のように美那斗には思えたが、実際はそうではなかった。月崎にまつわる数々の事象をかなり捜査してからの訪問であったのだ。

 そのことを物語っているのが八橋が差し出した写真であったが、すぐには見せない。

 美那斗に透視能力があるのならまだしも、真っ白い裏面だけ見せられても、焦らされる不愉快さが増していくばかりだ。

「原因不明の事件が発生件数を増加させています。元凶は未確認の大型生物と推測されます。今日の時点で死傷者数がおよそ六十二名。事件の性質上曖昧な数字になってしまいますが、これは間違いないだろうとほぼ断定できる件数だけを累計したもので、把握しきれないもの、他の原因として処理されてしまっているものも、他に多数あると考えています」

 あまりにも想像を絶する数字に、美那斗は動けなくなった。少なくとも六十二名もの人が怪人の被害にあっている。ただ自動車を運転していただけの紙戯の父親のように、いつもと同じ様に過ごしていただけなのに、何の理由もないのに、突然生活を崩壊させられてしまう。怪我を負わされるだけでも大変な事態なのに、命まで落としている人達がいる。その家族や友達、関係者までを合わせたら、どれほどの数の哀しみが派生しているのだろう。

 話を遮ることも、水を飲むことも、耳を閉ざすことも、心を閉ざすことも、美那斗には出来なくなった。哀しみや恐怖故ではない。後悔や自責故だ。

 八橋は美那斗の様子を詳細に観察しながら続ける。後ろに立つ平山の眼光も鋭利だ。

「目撃証言を集め、時系列にまとめていくと、色々と見えてきます。警察の捜査というのは大概この様なものですが、徐々に始点が見えてきました」

 ここで八橋はようやく写真の表側を上にしてテーブルに乗せた。暗くぼんやりした写真だ。モノクロかと思えるが、光量が少ないからだろう。

「ここからおよそ百キロメートル北上した国道沿いに設置された監視カメラが偶然撮影したものです」

 目を大きく見開き、そこに何かを見出そうとするが、暗い影ばかりではっきり判らない。こんな写真をもったいぶって見せずにいた真意を疑いたくなる。

「何が映っているかよく判らないでしょう。でも運良くこのカメラは高解像度の最新式で、コンピュータの画像処理を施すとーーーー」

 もう1枚の写真を取り出すと先程の写真の上に重ねる。

 そこに、怪人の姿があった。それも、あの、

「マ・・・・・・」

 美那斗の驚きは大きく、それに続くはずの言葉は喉の奥に張り付き、声にならなかった。そうでなければ本の何分か前に向浜紙戯から教えられた名前を口に登らせていただろう。「マザー」と。

 まさしくその姿は、あの満月の夜、月崎邸に出現した怪人のものであった。逆三角形の仮面を被ったような頭部、大きく左右に突き出た肩、ずしりと太い二本脚に尻尾のような腹部。上方から見下ろすアングルではあるが、見間違えるはずがない。

「このように実際の姿をとらえたケースは非常に少ないけれど、目撃者は少なからずいて、どうやらこの怪生物は北から南下してきたと思われます。目撃情報の集計から移動速度と方角を計算すると、始点らしきものが見えてきます」

 再び始点という言葉を八橋は使った。口腔が大きく拡張され、奥から不快な塊が吐瀉物のようにこみ上げて喉を詰まらせ、呼吸が出来なくなる。美那斗の心は空気を求めて喘ぎ続ける。その様を警察という組織の四個の冷たい眼が見据えている。全ての秘密を、全ての罪を暴こうとするように。

 美那斗は瞳孔を彷徨させ、救いを求めた。こんな時助けの手を伸べてくれるとすれば今となっては唯一、執事の辺見だけだろうが、その姿はどこにも見当たらなかった。

「怪生物が来た方向には越海山という麗峰が有り、未確認生命体が活動を開始したと思しき時期に、その山はご存知のように噴火しています。これは単なる偶然でしょうか。もう一つ、越海山の麓で考古学の発掘をしていた調査団が噴火に巻き込まれ、消息不明になってますが、メンバーの一人、というか発起人があなたの母親、月崎環汽さん。これも偶然でしょうか。話によると、怪生物はこの屋敷に来て、あなたの父親、月崎護さんを拉致した。これも偶然、なのでしょうか」

 ゆっくりと畳み掛けるように問いかける八橋。

 人間の心には拒絶する機能が備わっている。八橋の言葉をここまで聴いた時、ようやく美那斗の心はその役目を全うする方向へ働いた。背中が仰け反り、長い黒髪が揺れ、両腕が力を失い、椅子の背凭れに寄りかかるようにして彼女は意識を失った。これ以上の事実には耐えられない。命を救うためにはこうするしかない。心は、悲痛の叫びをあげていた。



 罪悪感を抱くようではこんな仕事やっていられない。理解しているが、折り合いを付けること、気持ちを切り替えることが上手にできないこともある。こんな荒んだ気分で家に帰って、二人の子供達の母親に戻れるだろうか。携帯の画面には三人で一緒に撮った写真が載っている。メールの確認をするフリをしてそっと見る八橋に、平山が声をかけてくる。

「彼女、なんだか八橋さんと似てますね」

「彼女って…」

 下から睨み上げる八橋の視線は軽蔑したような淀みを孕み、その意味を察した平山は、

「ち、違いますって。向浜さんのことじゃなくーーーー」

 弁解の言葉を口に出しながらも、彼の若い視線が八橋の顔から数十センチ下方へ移動し、黒いスーツの襟の合わせ目辺りを彷徨う。何を比較しているのか、あるいは想い出しているのか、口元が歪んでいく。

「ホント、バカ」

 八橋は携帯をしまうとスタスタと歩き出した。外歩きが多いからヒールははかないのは解るが、彼女の愛用はサバイバルブーツであった。パンツの裾で隠されて靴の先の部分しか見えないが、歩くとコツコツと小気味のよう音がする。

「月崎美那斗さんですよ」

「あの娘は大金持ちのお嬢様よ。気品も知性もあって、美人だし、どこが似てるって…」

 そこまで言ってから、先程の平山の視線の意味を推測するに、

「あっ、お前はまた。ったく、胸のことしか頭にないのか。サイテーだな」

 八橋の顔は完全に軽蔑に彩られた。

「ちっ、違いますって。本当に、そんな意味じゃなくて」

 足を速める八橋に付いて行くのもやっとの体で、平山も小走りになりながら誤解を解こうと必死に弁明に奔走する。

「ストイックな感じがそっくりだなって」

 月崎美那斗という人物について事前に調査を行っていたので、人柄について漠然とどういうタイプか予測していたのだが、話している間はそれをすっかり忘れ、全くの初対面だったようだと、今振り返って思い出すと、自然と歩く足の速度が下がった。

「きっと、まじめなんですよ。二人とも」

 平山の似ているという発言で八橋は、では自分だったらどうするだろうと想像してみるのだった。実の母親が実の父親を殺害したとしたら。

 美那斗の反応は一連の怪生物事件に母親の環汽が、何らかの関与をしていることを八橋に確信させた。越海山の発掘の際、未知の生命体と遭遇した。偶然にしろ意図的にしろ、その謎の力を利用することを思いついた。目的は夫の殺害だ。もともと夫婦仲が悪いことは調査済みであったので、安直な思考ではあったが、そう繋げるのが自然に見える。

 それは事実ではなかったが、怪異を正確に推し量る能力は常識人には持ち得ない。ただ、当事者の気持ちを想像することはできる。美那斗は苦しんでいるだろう。母が父を殺害するなど、子供にとってどれほど酷い事実か。

「ああ、もう」

短い言葉を吐き出すと、汗で額に貼り付く解れ髪を撫で上げながら首を振る。仮定の話をしても始まらない。では、本日詳らかになった事実は何だ。真実への手がかりはあったのか。例え、一欠片であろうとも、三日月のようにか細い光だろうとも、指標は見いだせたのか。

 怪現象の正体を知ろうと動く警察庁担当八橋であったが、月崎家へのアプローチによって真意には一歩近づけたが、社会の恐怖への対応の点では好機を逃したと言わざるをえない。事件に父のみならず母までもが関与していると知り、美那斗の心は固く閉ざされ、もう真相を語られることはないだろう。八橋がこれに気づくのはもっと後のことだった。

 無防備に失神した美那斗の姿を思い浮かべながら、とんでもない間違いを犯したような不安に苛まれ、焦燥感に駆られた。もっと優しさを持って接するべきだったのだろうか。女性警視として求められる素養が、SASの地獄のような訓練によって喪失してしまったのかもしれない。

「あっ・・・」

 我知らず嘆息を零しながら、八橋は先程の平山の言葉に同調する面を見出した。女性らしさに欠けている。躰や見た目ではない、心が女性らしさを失っていると感じた。二人に共通点があるとすれば、まさにそれであろう。

 欠如した理由、それは自分にはある。

 では、美那斗の理由とは両親の事はそうとして、それだけなのだろうか。

「真面目で、ストイックで、笑わないんですよね。あんなに笑わせようと頑張ったのになぁ」

 平山の声を後頭部に受けながら敢えて聞き流しつつ、暑い陽射しの中を歩いた。

 底知れぬ闇が街中に蔓延し始めている。得体の知れぬ者が潜んで、人々の幸せな営みを窺っている。未知なるものへの不安に押し潰されないようにする術を経験上八橋は身につけたが、目に見えざる大きな手に簡単に二つに折られてしまう小枝のような細い体の美那斗に、その術を教示する気はなかった。

 それは何故だろう。

 答えのない自問をしながら、八橋は歩いた。



 美那斗は走っている。

 まだ若い痩身に、今そこから見える空気全てがのしかかる重荷であり、全速力で走ることで振り切ろうとしているように。

 十月に入って熱波は猛威とまでは言えない位には勢力を弱めていたが、彼女の全身黒ずくめの出で立ちはやや季節的には尚早であろうが、見栄えや趣で選択したわけではなく、対怪人戦を考慮した機能最重視の風体になっている。

 膝下まであるコートは装備している武器を一般人から隠すために必要だし、タンクトップやスパッツ、グローブ、ブーツ等、身に着けているもの全てが耐衝撃性のある繊維や素材で造られた特殊な防護服の役割を果たす。開発担当は月崎研究チームの一人、追分臨(おいわけりん)で、デザイン性においては一部趣味的要素が旁魄してしまったのは止むを得ない所ではあった。

 およそ一年余りの間に、月崎美那斗の荷重は多岐に増殖し、絡み合い、濃密なものへ変貌し、不快であっても振り切ることも投げ捨てることも出来ない宿怨となった。怪人に父を奪われ、命を落とした父の復讐を誓うものの、怪異を屠る力を発動できない苦しみと悩みを抱えた日々が続いている。

 月崎という名も大きな重圧である。使用人やスタッフの生活を支え、守る義務を手放すことが出来ない。怪異は拡大を見せ、もはや個人的な事象ではない。多くの人が犠牲に会い、死者も出ている。その日まで普通に毎日を過ごし、夢を見、当然のように今日の続きの明日が来ると思っていたのが、突然奪い取られてしまう。彼らも又怪人を憎悪し、恨みを晴らして欲しいと熱望している。怨念は濃く黒い塊となって街中に蔓延っていき、美那斗の四肢に絡みついてぶら下がり、腕を、脚を、重く動けなくしていくし、首に巻き付いて呼吸さえ出来なくなってしまう。

 黒い闇の魂体は長い尾を引き摺って、それは一つの元、付け根へとつながっている。そこには平たい逆三角形の顔の怪人がいて美那斗の前に立ちはだかり、板状の面具の下には母、環汽の相貌があるのかもしれない。そうだという確たる証拠は未だ提示されていないが、越海山での噴火と発掘調査時期の符合、そこからまっすぐに怪人が訪れたのが月崎邸であった理由、この両方を鑑みれば、どうしても答えは一所にたどり着いてしまう。

 国中に広がり続ける哀しみを生み出す元凶が自分の母親だという苦悩、それを斃すために自らの命に変えて力となった父親への懐疑。何故母は怪人になってまで、この憎んでいるはずの月崎邸に戻って来たのだろう。何故父は妻であろう怪人を斃す知恵と力を残して世を去ったのだろう。美那斗に複雑な想いはあるものの、根本的には両親への愛情は存在する。なのに、その愛情すら拒絶するように強要されているように思えて仕方ない。

 歯を食いしばり、美那斗は疾走する。

「その角を曲がるといるわ」

 左耳に装着したハンズフリーヘッドセットイヤホンから向浜紙戯の指示が聞こえてくる。向浜他三名のスタッフを乗せたワゴン車が美那斗を追跡している。

 曲がり角のビル壁に躰を押し当てると、向こう側を覗き込みながら、左上腿に渡して締めたホルダーの留め具を外し、銃を取り出す。

「いた」

 美那斗の発する声はマイクを通して辺見の運転するワゴン車に伝わる。

 日中の明るい陽射しがあからさまに怪人の姿をさらけ出している。両手が異様に大きく、重さに耐えられないという様子で、ダラリと垂れ下げて地面を擦っている。その所為か背中が曲がり、蟹股で、狗のように前方へ首を突き出している。灰色の濃淡でできた紋様が全身を覆っている。

「目標まで二十八メートル。距離オッケーよ」

 怪人から一瞬たりと視線を外さないようにするのは恐怖と怒りとの葛藤であるが、瞬きさえせぬまま銃の安全装置を外す。操作には熟練している。目を瞑っていても、弾倉の交換も容易にこなせる。

 壁から一歩横に飛び出すと、銃を両手に構える。指をトリガーガードからトリガーの上へと滑らせ、照準を定め、引く。

 パン、パン。

 二射が基本だ。そして一撃離脱。

 壁の向うに身を戻すと、全速で疾走する。

 銃は一瞬にしてホルダーに差し込み、後ろを振り返りもしない。弾が怪人に命中したのかも今はまだ考慮しない。兎に角怪人に攻撃した人物を悟られない様に距離を取り、身を潜める。

 角を幾つか無意識に曲がってビルの影に入ると、呼吸を整えながらようやく思考が回ってくる。先程の弾射のシーンが映像として脳裏によみがえる。弾は二発共当ったようだ。だが、的である怪人の背後に逃げ惑う人の姿が見えた。

「紙戯さん、どうでした」

 急に美那斗は戦慄し、声が震えた。怪人との間に人がいないことは確認したのに、周囲への配慮が足りていなかった。もしも弾が外れていたら後方に被害者がいたかもしれない。それは、怪人が傷つけたのではなく、美那斗の銃弾が傷つけることになる。端的に言えば、人を殺していたかもしれないのだ。

 銃身から爆発的に弾が飛び出す痺れは掌にあったが、それとは別種の震えが脚に去来する。

「二射命中。でも効果は見られないわ。ラスツイーターは同じ場所よ」

 いつも冷静に状況を分析する紙戯の声に悔しさや焦りは感じられない。今の美那斗にとって、その落ち着いた声は唯一の頼みの綱であった。

「怪人の周囲の状況は分かりますか。人がいると危険です」

「ちょっと待って」

 セットフォン越しに機器を操作している物音が聞こえる。紙戯の指示で他のスタッフが動いている様だ。少なくとも自分一人ではないという気持ちが、ほんの一握りの勇気を美那斗にくれている。

 ラスツイーターは固有の周波数の信号を発している。これはコアを解析して気づいた事実だが、常に波動を放出しているのではない。陽のコアを太陽にかざして光を受け、光り輝いている間だけその特殊な波動が発生する。これを衛星から検知する実験が行われた。人工衛星は月崎家個人で有するもので、勿論公表はされていない。研究目的で打ち上げられ、太陽エネルギーを宇宙空間でパルス化して地上へ送信する旨を研究対象にしていたが、他にも気象データ採取の能力も装備されているので、地上の観察も行える。

 探査カメラの設定変更によって、衛星カメラからコアの発動を観測することが出来た。このカメラが怪人のシグナルを捕えたのだ。コアが太陽に翳されて力を得るのと同じに、怪人の姿も常に判別できるわけではなく、何か切っ掛けがあって力を発現させるらしい。その時に備えて準備し、後は待つだけであった。その間美那斗は実験を想定した訓練を続けた。武器を装備しての走行、武器の使用、怪人と相対しても慌てないよう精神面での鍛錬。

 何をすれば良いのか答えはどこにもない。暗中模索の状態は心が晴れることを拒み続け、美那斗を取り巻く暗い塊はいや増すばかりだった。

「大丈夫。人はもういないわ。今よ」

「解りました」

 美那斗が再び走り出す。

「弾丸は全部で十種類、二弾ずつ用意してあって、何れが効果があるか計測します。コアを射って試験するわけにもいかないので、どの弾が有効か全く予想が立ってなくて、中には銀の弾もあるわ。狼男じゃないけど、逸話にも縋りたい気分ってわけよ」

 作戦前に紙戯が話していたのを思い出しながら、先程のビルの前へ躍り出る。オフィスビルが多く立ち並ぶこの周辺は、直接車道とは面しておらず、まばらに街路樹が植えられている。周囲を見やる余裕もなかった一撃目とは違い、幾らか状況把握もできるようになり、目の前の高層ビルが一面藍色のガラス張りのモダンな建築物だということにようやく気付いた。

 この場所にとどまって、ラスツイーターは何をしているのだろう。

 美那斗が恐怖を噛み殺しながら観察すると、大きな拳で何かを夢中で殴打していることに気付いた。石碑らしい。殴りつける度に少しずつ欠け、壊されていく石の造形物。人間を襲っているわけではないようで、辺りに居合わせた人々は被害に合うこともなく逃げられたようだ。

「射つわ」

 美那斗が再び銃を構える。

 発砲する。

 肩から胸にかけた辺りに命中し、一瞬火花が散る。

 その更に一瞬後、ビルのガラスが砕け散る。跳弾だ。

 ラスツイーターの方は全く意に介した風でもない。気付いてさえいないのかもしれない。

 続けて次の二射。更にもう二射を放つ。

「気付かれてるわ。一度離れて」

 耳に入り込む声の他に、内なる声が響いてきて、周りの音をかき消す。

 こいつ等が父を、紙戯さんのお父さんを、大勢の人達を殺してしまった。復讐してやるんだ。美那斗は憎悪に我を失ってしまいそうだった。

 更に二弾を射つと、弾倉が空になった。

 銃の留め具を外してマガジンを抜き取ると、防護スーツの内側に仕舞っていた弾丸入りのマガジンを取り出しセットする。

 そんな美那斗の様子をじっと見つめる瞳があった。

「見つかった」

 ラスツイーターが動きを止め、じっとこちらを見ている。両者の目と目が合い、視線同様、躰が凍りついたように動けなくなる。

「逃げてっ」

 紙戯の声が一気に氷を溶かすように、美那斗が弾き飛ばされるように後方に跳ねる。敵の死角を求めるようにビルの角を曲がり、走り、また角を曲がる。

 どの位距離が開いたのか、首を回して振り返るなり、視界の端に灰色の巨軀が入る。はっと息を飲む時には躰が素早く反応してくれた。側方へ倒れるように身を投げ出す。路面を回転して起き上がると、状況を視認しようとするが、ふらつく視界にも鮮明に映し出してるラスツイーターの姿はすぐそこにあった。

 拳が地面にめり込んだ状態で首を捻り、真っ直ぐに美那斗を睨む怪人。両者の距離は十メートルとない。そんな距離、ひょいと怪人が腕を伸ばしただけで体を丸ごと掴み取られてしまうと錯覚するほど、間近に見る怪人は大きい。

 今にも震えだしそうな自分を抑え、ブーツの底を地に着けると、美那斗の両手が銃を構え、射つ。

 パン、パン。

 乾いた大きな音を放つと、足は地を蹴って身体を後方へ飛ばす。

 銃口が吹き出した二発の弾丸は、一発は怪人の腹部に命中したが、もう一発は空へそれた。後方へ飛翔して空を粗迷った足が再び地上の感触を得ると、美那斗はくるりと踵を返し、疾走に入る。

 数千時間を越える美那斗の鍛錬など鼻で軽くあしらうように、ラスツイーターの走力は美那斗のそれを遥かに凌駕していて、一呼吸、二呼吸と、空気が肺の中に入った時には怪人はすでに美那斗に追いつき、伸ばした手で横から薙ぐように細い体を引っ掴もうとする。

 濃灰色でざらざらした表面の掌だ。

 躱しきれない。一瞬にして状況を読み取った脳は、彼女の肢体に逃げるように警告を発する。だが、躰はそれに逆らって、右手を水平に向けると、片手で銃のトリガーを絞った。

 わずか数メートルという近距離から撃たれた特殊弾は怪人の掌に当り、続く一発が耳元を掠めた。その途端、まるで電流に触れたかのように、掌が引っ込められる。

 口からは

「イーーーーッ」

 という苦悶に似た奇怪な音が溢れ出す。耳朶から侵入し脳髄に爪を立てる様な不快極まりないラスツイーターの叫び声。

 数瞬、美那斗が嘔吐感のこみあげる不快な音と引き換えに得た猶予は、たったのそれだけであったが、その間に街路樹の幹に身をぴったりと寄せ、どうするか思考を巡らせた。

 残り弾数すら覚えていない。恐慌に陥る寸前だと自覚しているが、心も頭も冷やす間もない。

 街路樹の鼓動が背中越しに伝わってくる。

 そんな事があるのだろうか。いや、美那斗が感じ取ったのは殺気に他ならなかった。

 太い樹の幹の向こう側にラスツイーターが居る。

 そう察した時には、大木を岩が砕き折る音が起きる。爆音に耳を弄されながら、四肢は衝撃で前方へ投げ出される。

 続いて樹の倒れる音。

 強い日差しに燻された枯れるにはまだ早すぎる葉の青臭い匂いが、風圧とともに吹き荒れる。

 偶然にも倒木の下敷きになることは免れたものの、胸を打ち、息が詰まった。

 瞼は開いているつもりだが、白光しか見えない。眼窩が補足した色彩の情報を脳が処理しきれないのだ。

 ラスツイーターは自分が倒壊させた樹木が邪魔をして美那斗を見失い、捜している。今の内に逃げなくては。己に急かされて、ただ闇雲に脚を奮い立たせる。

 緑の葉の群れの向こう側によろめきながら立つ人間の姿に、「みーつけた」とでも言いたげに口元を緩めると、怪人の固く握りしめた拳が再度美那斗を強襲する。

 靄に包まれたような視界に怪人が入り込む。躰が反応するが、完全には躱しきれず、美那斗の右肩を熱風が掠めた。防護用の特殊素材コートを着ていなかったら肉がそげ落とされ、骨が砕けていただろう。掠っただけで吹き飛ばされた美那斗は激痛に端正な顔を歪め、右手に握った銃の握把を離してしまった。

 手に力が入らない。地に膝をつき、右腕をダラリと下ろしたまま、左手をコートの内側に差し入れる。銃を失った今、唯一残された武器の柄を握りしめる。

 怪人がゆっくりと歩みをすすめる。

 美那斗が退きつつ、剣を抜いた。

 サバイバルナイフを一回り大型化した形状で、刀身は比較的厚みを有する。グリップ付近にスイッチがあって、押すとブレードが低く底響く唸りを上げ始める。刃が超高速で振動している音だが、呻き声とも唄声とも聴こえる。

 果たしてこの剣が怪人に通用するだろうか。銃が効果を発揮しなかった以上、剣への期待も至極薄い。となれば、どうすればいいのだろう。

 逡巡は美那斗に今更ながらに恐怖心を爆発させた。恐ろしくてたまらない。

 目の前で巨大な灰色の化け物が腕を振り上げてくる。

 この腕で殴られ、殺されてしまう。

「たすけーーーー」

 美那斗のか弱い悲嘆を叩き潰すように、ラスツイーターは拳を打ち降ろした。

 だが、狙いは彼女の柔らかな肉ではなく、彼女の落とした塊であった。

 儚げに濡れたように見える黒光りする銃が、怪人の両足の間に転がっている。その形や色が怪人の欲望を唆るのか、そうせずには居られないというように、拳が銃を殴る。

 すると、けたたましい爆音と伴に爆煙が上がる。銃倉内の弾丸が薬莢毎圧せられ、爆発したのだ。

「イーーーーッ、イーーーーッ」

 ラスツイーターの悲鳴が上がる。

 狂乱しそうになりながらも美那斗の瞳が事態を把握しようと激しく動く。白煙と土埃の隙間から見える怪人は、打ち降ろした手を反対の手でおさえてのた打っている。怪我をして泣いているのだろうか。顔は天を向き、口腔が大きく開かれる。

 そのまま、怪人は去っていく。

 美那斗は動けなかった。二つの足の裏に太い根が生えたように、追いかけて剣で斬りつけて、父の仇を討つという発想が思いつかないほど、恐怖に怯えた魂がガクガクと震えるばかりだった。

 呻き声を上げる剣を宥めるように右太腿のホルダーに収めるのがやっとで、その後は両の脚が縺れ、立っていられなかった。

「消えた。ラスツイーターのシグナルが消滅したわ」

 紙戯の声が聴こえる。

 探知していた周波数が変化したのか、衛星カメラは怪人を捕捉できなくなった。

 アスファルトに抱きつくように倒れ、美那斗の喉が嗚咽を漏らす。安堵と恐怖が渾然と全身を包みこむ。右肩がズキズキと痛む。

「うぅ・・・うぅ・・・」

 こんな無様で情けない状態で、怪人と闘えるはずがない。

 このままじゃ駄目だ。何とかしないと。

 頭の中では恐れと悲しみと悔しさがせめぎ合っていた。

 


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