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もういちど君は水になって

作者: 雨皿茅端

 昨日君が死んだことを作品の題材にした。その事は他の人には黙っているが、いずれ、ばれてしまうことになるかもしれないだろう。それほどまでに僕は臆病だが、どうしても君の死を作品の一部として使いたい。だからこうして手紙を書いている。だから、こうして君はこれから水に生まれ変わる。君はこれから水の比喩になって僕作品の中で生き続ける。この書簡は後で燃やしてしまうから、もし僕の遺した作品が他の誰かの手によってバラバラに分解される日が、幸福に訪れたとして、その事実が決してバレないように、全ての読みが誤読で終わってしまうように、この真実は燃やしてしまおうと思う。というか君の棺桶の中に入れる。だから、君の死を使わせて欲しい。





 地上から送られてきた手紙の内容は最悪だった。死ぬまで連れ立った物書きの親友にこんな仕打ちを受けると思わなかった。だってさ、これおかしいだろ。( ゜д゜)ですよ。なんで死んだらまた死ななきゃいけないんですかね。マジ意味わかんない。むしろそっちが死ねよ。少しは悲しんで欲しかったけど、いや、流石私の友人だ。物書きの思考はやっぱ違うよね。あーあ、しかもこっちから手紙は返せないしさ。あいつが弔辞読んだってまじかい? なんかもうあいつに今迄尽くしてきたこととか色々思い出してきちゃったぞーマジ腹立つわーなんやねんあいつ。私に喧嘩でも売ってるのか? あ?…ってな具合で、死んで起きて裁判に掛けられて、天国に送られ、遺留品と大量の花束を渡されて、自分は死んだのか、なんで死んだんじゃ、つーかここどことか、ボーゼンとする中その菊の花束の中に紛れ込んでいた封筒の中の手紙を読んだ私は、自分が親友の書物のネタになりながら死んで、閻魔大王に裁かれて、天国に放り出されて、そこで親友のネタにされた事を即座に理解して怒り心頭だった。あの野郎は昔からそうだった、人の不幸をネタにするやつだった。


 一番最悪なのは家で家事が起きた時だ。となりに住んでたあいつは物珍しさに「火事やー!火事やー!」と騒ぎ立てて、バケツリレーをしながら「ああ、煙は窓からこんな感じで吹き出て、火はこんな風に回るのか!」とかほざきやがったので、一年くらいまともに口をきかなかった。


 仲直りしたのは、そう、家で火事が起きてから丁度一年後にあいつは家の火事を題材にして書いた本が、何かの賞に間に合って、なんかのヘボい賞をとったからだった。私はそれを読んで、最後に、主人公であるところの私があいつに告白されているシーンが書いてあったから、恥ずかしくなってあいつを家に呼び出してボコボコにした。なんだこれはって。そいしたらあいつプロポーズだって。付き合ってくださいって。そういえば火事が起きた日から毎日あいつ家に着て私の為に弁当を作ってくれていたことを思い出す。私は気持ち悪くて最初から半年くらい拒絶していたのを思い出す。帰り道一緒に帰ろうとあいつが待ち合わせてたのを無理矢理先輩と付き合ってふっきろうとしていたのを思い出す。それでもあいつはいつもしつこかったことを思い出して。私はいつの間にかあいつが私の手を握ることを許していた。高校二年の冬。三年になる前の春休みの途中で。


 その次の日に私は死んだのだった。


 「あ…」


 手紙に水たまりが出来た、インクが滲んで、あいつが父親が出て行く前に置き土産として買って置いていった万年筆のインクが涙で滲んで、そこに灰色の水たまりが出来た。そうだアタシはあの日、死んだのだった。手紙に皺が増えるくらいに私は強く手紙を、いつの間にか握りしめていた。そしてそのまま丸めた。丸めて近くのお花畑に向かってなげた。転がった紙はくるくる転がってそのままなだらかな花の咲き誇る下り坂をコロコロ下っていった。そのまま丸い石が沢山転がる川原まで落ちていって「あ」と手を伸ばした時には遅く「待って」と追いかけた時にその手紙は川に落ちて流れていった。「待って!」といっても手紙は流れていった、おいかけていっても人間の足じゃおいつけなかった。それがわかっててもずっと走りつづけて、こけるまで走って、こけても立ち上がって走った。どうせ取ることができないと分かっていても入った。おして息が切れてもうダメだ、と思っても走った。そのまま私もまた坂を転げ落ちた。でも川に入ることは出来なかった。それはどうしても出来なかったから。私はそこで泣いたのだ。






 そこまで書き終えたところで、僕はそこまで書いた原稿用紙を持って家を飛び出した。夜遅く、ジャージ姿で、通りを歩く人は誰もおらず、点々と行く道を標す、街灯の灯にそって走った、どこに向かっているのかはわからない。吐く息は白く、走る自分の足取りはボロボロで、それでも走った。あの子のように、僕も走らなければならなかった。どこいけばいいのか、本当はわかっていた。昔二つの家族で行った夏祭りの帰りで、花火を見るために立ち寄ったあの橋だ、あの橋の向こう側で、あの子が泣いている気がした。






 頭に丸まった紙が落ちてきた。私は最初、それで涙を拭こうとしたから、端っこがびしょ濡れになってしまったのだけれど、ちゃんと広げたらちゃんとあいつの書いた小説というか私そのものが書いてあってびっくりした。あたりをマジでキョロキョロみて確認した。どこかにあいつの目があんじゃねぇの?とか色々まじで勘ぐったが空のどこにもあいつの目は付いていないっぽかった。のに、かいてあるのはさっきまでの私の行動そのものだった…なんだこれ…

さっきまで泣いて感動していた感情に冷水を被せられたような寒さと怖さが全身を駆け巡った。おおさむ。寒いというか、自分の行動や思考をそのままくっきり、ちょっと詩的な文章で綴られてみ? ちょっとキモイぞ。キモイどころかまじでちょっとやばくないですか。幽霊のストーカーというかなんというか。ちょっとこれやばくないですか。


 


 というわけで僕は家に帰ってきた。手紙は川に丸めて投げ捨ててきた、こうすればきっと届くと思ったからだ。水は鏡。月は穴。というやつである。(語呂悪いな)水面に映った月めがけてなんか投げればなんとかなるものというものだ。というかあれが果たして小説になったのかは分からないが、そうあれがなんとなく自分の…そう好きだった人に対する供養になると思った。なんでだがは知らない。ただ、自分にはこれしか方法がないからだと思う。そう不器用な自分にはこれしか方法がない。方法がないからこうするしかなかった。それが結果的にどうであれ。どうであれとは何の意味を持たなくてもということだ。


 ただ、あの子が亡くなった日に浮かんだ主題で、どうでも書かなければいけないことがあた。それが社会一般的に見て、どうみたって不謹慎なことでも。あの火事の日にみたいに。今度はそれが水になって、僕に書かせたのだ。


 

ビチョ



 と、頭の上に何か濡れた紙が落ちてきた。最初は雑巾かと思ったが、手にとって広げてみると、なんと紙だった。なんか汚い文字で書かれた紙っぽかった。「バーカ。キモイ。死ね」と三単語、ブルブル震えた筆文字で書かれた紙っぽかった。そして隅の方に小さく「ありがと」と書いてあった。


「あーそうか、これちゃんと、届いたんだ」


 ふと急に笑いがこみ上げてきた。


「あは、あははははははははははははは」


 声は小さいものから段々大きくなっていって仕舞いには腹を抱えて、文字通り腹を抱えて笑った。そんな自分を邪魔する人はいなかった。母親もこなかった。


 それから初めて泣いた。紙がまた余計にぐじゃぐじゃになって破けてしまった。というか破り捨てた。なんだこいつ。人が死んでも色々心配して色々書いてたりすんのにさ! なんだよこの反応とかさ! そう、思ったらまた万年筆がブルブル震えきたではないか。 ああ、なんと神様はまだ続きを書けというではないか。


 ならかいてやろうじゃないか。この筆が収まるまで。なんせ自分は作家の卵だ。これぐらいなら朝飯前だぜ! 





「うーん川に放り投げたけどこれで良かったのかなぁ」


 と呟く自分が今したこの行為が後々自分を苦しめることになるとは思わない私だった。だって、あいつは私の未来を読み取ってそれを小説風の手紙によこすってことですよね。tまり霊界での未来予知っていうのがガンガンこれから送られてくるってことですからね。ということに気が付くのはこれからちょっと先のことで、それでも私は一人ぼっちの霊界で、向こうからあいつが色々な物を文通で送ってくれんじゃないかとこの時めちゃくちゃ期待してたし、とっても嬉しかったことを今でも明細に記憶している。


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