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一級珈琲師神谷の最高傑作  作者: みたらし男子
9/16

血塗られた始まり(ブラッディ・ゼロ):怪しげな男2

どーも、めげない しょげない ドラゲナイ。

みたらしです。


さて………お気付きの方はおられると思いますが……再び始まってしまいました、改編回シリーズでございます……。

「みたらし、おい。またなのか?」ですって?

………許せ、サスケ。


無駄話もなんですからこれくらいにします。


お話のほう、どうぞ。

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯


急なコールだったのでもう少し待つつもりで電話をかけたが、すぐに繋がったので助かった。


『…もしもし一茶。そっちの様子はどうだい?』


「よう神谷………ちょっといいか…?………………っ…」


余りにも薄い人の気配を後ろに感じた。


例えるならそれは煙の様な、はたまた霧の様な希薄極まる気配だった。


そんな取るに足らない気配に意識を向ける事になったのか。


それは微かな既視感と、それを感じた直後に背中のある一点に感じたくない類いの違和感を感じたからである。


後ろから漂う酷く無機質なそれの臭いは、海風に当たって錆びた鉄と職業柄よく嗅ぐ硝煙を混ぜたものに似ていた。


…………………………。


嫌な汗が頬を伝う。


………金属だ。金属製の物体を突き付けられている。


背中に押し付けられた感じから察するに、やや潰れた円柱の形状のものと思われた。


この状況を言葉で聞いただけだとしても誰もが薄々予想は出来るだろう。


……おいおい………まさか拳銃……?……嘘だろ?


背骨の少し脇に丁寧に添える様にして突き付けられたそれは恐らく銃口で間違いない。


普段の服装(防弾装備)ならばそんじょそこらの拳銃の銃弾程度ならば通さない。


だが運命の女神と言うのは悪戯好きなのか、今日の………それもこの作戦に限ってかなりの軽装だ。くそったれ。


銃口の角度から弾道を推測するに銃弾の向かう先にあるのは俺の心臓の辺り。


加えて今は神谷との通話中。


下手な事を言えば即座に心臓のど真ん中に風穴を空けられるだろう事は容易に想像が着く。


………こいつは……まじで死ぬだろ……。


自分が今置かれている状況を再認識するだけで頭を抱えたくなった。


撃たれた後の自分の姿が容易に想像できてしまい泣きたくなった。


言うまでもなく最悪の状況である。


………………………………。


さっさと立ち去っていく報道陣を無意識に眺めながら、なんとかこの絶体絶命の状況の打破すべく今持てる知識やら経験やらを総動員させて策を練る。


しかしながら俺の貧相な頭脳がいくら頑張ったところで、いい解決策が思い浮かぶ筈がなかった。


このまま電話で知らせようにも撃たれたり気絶させられたらそれまでだ。


舌打ちでもしたい気分だ。


この状況………生還は絶望的だ。


十中八九死ぬしかない。


死への道しか残されていない静かな脅迫に、窮した俺は思わず視線を落とした。


………ん…?


するとその視線の先にある物の存在に気が付いた。


それは極度の緊張で殆ど感覚の麻痺した右手に頼もしい重みを感じさせていた。


初めは分からなかったが徐々に何なのか認識が追い付いてくる。


無慈悲な鉄塊。


殺意の権化。


……………拳……銃……。


トレンチコートに突っ込んだ俺の右手にはH&K P2000がしっかりと握られていたのだ。


妄想や幻覚では決してない。


厳然とした事実としてそこにあった。


…………………………。


音を立てない様に指で探ってみると、セーフティも外れている様だった。



―――――いつでも撃てる。



その拳銃の存在が静かに強烈な衝撃を俺の心にもたらした。


心臓が一際大きく跳ねる。


……………。


こうなれば形勢逆転も可能だ。


右手が今コートの中で拳銃を握っている事に後ろの相手が気付いていない。


唯一にして最大のアドバンテージ。


このチャンスをみすみす無駄にしてなるものか………!


思わぬ幸運が暗い発想が掻き立てられる。


油断している隙に反撃出来るのではないか?



―――――いや、あるいはそのまま殺す事も。



「…………………………」


気が付けば邪悪に口角が上がっている。


はたから見れば、真っ黒な服装も相まって実に不気味に思える事だろう。


どちらが不審者か分からなくなりそうである。


…………………………。


これが危険な賭けだと言うのは自分でも分かっている。


気付かれてしまえばそれこそ一貫の終わりだ。


………だが撃てたなら―――――。



『……一茶…』



…………………………。


神谷の声が暗い思考の海を泳いでいた俺を現実に引っ張り戻す。


暗闇のトンネルから明るい外に出た時の様に周りの景色が白くぼやけて見える。


ちゃんと言葉が出てくるか不安になったが、呼び掛けに何とか返事だけはする事が出来た。


「………あ゛ー…悪い…。暑いからぼーっとしてたぜ」


いつもの調子を装ってぼやく。


電話越しに聞こえる神谷の声が俺のやるべき事を再認識させた。


…………………………。


今すべき事は敵への報復ではない。


ましてや相手を殺す事でも無い。


いかにして襲撃者の存在を神谷達に知らせるかと言う事。その為の不意打ち。


これが最優先事項である。


運命の女神が俺に託したのはその為の銃と機会なのだろう。


場合によっては命に変えてでもやらねばならない。


仲間に危機を伝える事の方が復讐だ何だよりも大事な事であるべきだ。


祖国の危機に立ち上がるのはどこの国の軍人であったとしても当たり前であった筈だ。


…ちっ…何考えてたんだ俺………。


暗い発想は取れたので考えが広がった気はするが、一方周りの状況は相変わらずである。


どうにかして伝えられる様に、後ろの奴に気付かれない手掛かりを少しでも残さなければならない。


そう考えていた矢先。


『…………返事はいい。……一茶…リラックスだ…(小声)。……早く帰れそうかい…?』


命に代えて俺が伝える迄もなく、彼は俺が何者かに脅されているのに気が付いた様だった。


顔の見えない状況にも関わらず仲間の危機的状況を察するとは。


………流石神谷。相変わらずとんでもない男だ。


人生最後の会話になるかも知れない相手に対して俺は素直に感心した。


「…………んー…いや何……これと言って変なこたー起きなかったし………っつーかこう言うのって終わったら帰ってもいいものなのかよ?」


『……………議員達は……?(小声)』


「……とっくの昔に車の中だぜ?今は………どこだかな」


『……ふーむ。そうか……』


俺が出せる当たり障りの無い情報を聞いて、思案顔で腕を組んでいるだろう姿が目に浮かぶ。


さらにその顔をしながらコーヒーカップ片手に考え事をしている神谷の姿は面白い程絵になる。


場合によっては二流の男性モデルの写真集よりも売れそうな気さえする。


神谷はそんな英国紳士を日本に持ってきた感じの才色兼備な男だった。


………………………………………。


それにしても………。


拳銃を所持して圧倒的優位に立ちこちらの会話の一部も聞こえているにも関わらず、一向に命令やら会話内容に指図をしてこない。


後ろの奴は一体何を考えているのだろうか。


正体不明の敵を相手取るのは不気味で仕方がない。


特殊衛生兵が持つ情報が目当てならば、現在ホールドアップしている俺をそのまま脅せば済む話だ。


まぁ、自衛隊で言うところの二等兵クラスが持っている情報なんてたかが知れているから、そんな奴をわざわざ脅す意味が殆ど無いと考えている可能性も高いが………。


………あるいは……銃の存在に気付かれたか………?


いや………なら何で何のアクションも無いんだ………?


さっきの奴と言い、後ろのこいつと言い……一体何がしたいんだ……?


答えの無い疑問は募るばかりだ。


『……………まぁ、そちらの状況は何となく分かったよ(小声)』


「…そうか……?」


断片的な情報だけで何かを理解するとは恐れ入る。


『……一茶…タイミングは任せるよ……(小声)』


「…………え゛……?」


まさか唐突に状況打開の一手の肝心要の部分を任されるとは思わなかった。


まぁ、危機的な状況なことに変わりはないし上司の命令とあらば完遂する他有るまい。


『………そうだ一茶』


ここで神谷は後ろに立つ敵にも聞こえる声のボリュームで話し掛けてきた。


「…何だよ…?」


『……帰る時にさっきまで君が話をしていた人……あの人を連れて来て欲しいんだけど…』


……………………………。


突然何を言い出すかと思い焦ったが、ただ単に鷹見局長を連れて来いとの事だった。


生きていたらあるいは出来るかも知れないが、仮に生き延びたとしても設けたくない会談の席だ。


何せ綾女が面倒な会話をし始めないとも限らないから。


「…………正気か……?あれを……?」


あ゛、やべ。素が出ちまった………。


彼女に対する感想がちょっぴり口をついて出て来てしまったが聞かなかった事にして頂きたい。


何せあの上司(ひと)は怒ると恐いから。


人からその事が伝わった時が中でも一番恐ろしいから。


「ま、待て…!今のは聞かなかった事に………!」


『……は…ははは。まぁ…黙っておくよ』


「ありがとうございます……。まじで助かります………」


『それより、その君を恐れさせている彼女…連れては来れるのかい…?』


「……………どうだろ……。考えるまでもねーが、あの人毎日馬車馬宜しくお仕事してるからなー………」


唐突な何の脈絡も無く始まった会話だったが、神谷が俺に銃を撃ちやすいタイミングを作ってくれているのに気が付いた。


いや、“気が付く”と言う言葉は適切ではない。



―――――不思議と神谷の考えている事が何となく分かるのだ。



相手の思い描いた事がダイレクトに脳内へ流れ込んでくる様な感じと言うのが喩えで言えば一番近い。


こんな不可思議な感覚は生まれて初めてだった。


そして恐らく彼が考えている事はこの“銃”を後ろに向けて撃ち、その後に確保………だと思われた。


…………………………。


だが、ただでさえ難易度が高い上に、あの人間離れした射撃センスを持った神谷が考えてやろうとしている事だ。


俺に……やれるのか……?


頭に疑問符が浮かぶ。



『…それでも頼む』



戸惑う暇すら与えぬ様に間髪入れずに神谷が言う。


躊躇すんなって…言うのか………?


短い“頼む”の一言に“躊躇するな”と言う意味が含まれている気がした。


………………けっ……。ああ……分かった。やってやるよ……!


次に俺が話始めた時が、神谷であったら引き金を引くであろう瞬間だ。


深呼吸でもしたいところだがそうも言っていられない。


自分の台詞に至る迄の間にゆっくりと銃口を移動させる。


何ビビってんだ俺…!覚悟決めろ…!


俺に後ろは見えずとも、その銃口は後ろに立つ人物を睨みつけた。


いかがでしたでしょうか。


ちょっとの間だけ上げていた『血塗られた始まり2』をぶつ切りにしたやつの一つです。

なので別段新しい話と言う訳でもないんですが、楽しめていただけたのなら嬉しいです。


それではまた次回に。

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