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一級珈琲師神谷の最高傑作  作者: みたらし男子
7/16

血塗られた始まり(ブラッディ・ゼロ):一茶の上司

どーも、みたらしです。


いきなりですが、またまた投稿遅れてごめんなさい。

※最早お約束になってる。


これ書いてたら思いの外盛り上がって……気が付けば長引いちゃってました。


あはは……あれですね。時間がたつの早くてヤバいですね。

まぁ、早く書けない私が悪いんですけど……。


それは捨て置き、どうぞ。

●頭脳派上司と悪乗り部下●


◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯


至って日本的で控え目な高貴さが漂う町並みが目の前に広がっている。


東京は千代田区、国会議事堂付近にいる。


若しくは皇居の近くでもあり外務省の目の前か。


念のため丈の長い黒のトレンチコートの裏にH&K P2000を一丁とマガジンも三つ程隠し持ってはいるが、今日に限って防弾装備は身に付けていない。


見ての通り至って軽装だ。


危険は危険だが実に動きやすい。


特に相手が経験を積んだスナイパーなら撃たれた時点で大体死ぬから、防御に徹してもさして意味はない。


どこかの”白い死神“さんよろしく、狙撃兵とは相手取ったら厄介な兵種である。


………あ、俺も同類か……。


「…………えーと……?千代田区ら辺は…………清々しい位にいい天気だなー。正にピクニック日和だ」


『…了解……』


スマホを通して男の爽やかそうな声が聞こえる。


先々週渋谷区で起きた襲撃事件の被害を最小限に食い止めた男、一級珈琲師神谷 薫だ。


今は彼等と共に行動している。


と言うのも、神谷の師弟関係(?)に当たる部下のビクトリア・Q・モカが“一緒に行動しないか”と提案したからだ。


その提案に上司のアマンダが同意して今に至る。


後神谷は実際の所爽やか系である。


「………なあ神谷…?」


『…ん?なんだい?』


「……いや……お偉方が一向に建物から出て来ねーんだが……何か知ってるか?」


『…それはこれから知らせるつもりだったんだ…。予定ではもう終わる筈だったんだけど、中で会議が長引いているみたいでね……』


「はぁ……。いい歳したオッサン、オバサンの癖に長話とか………やる事なす事女子高生みてーだな。なあ、そう思わねーか?」


『…ははは………。まあ、兎も角それによって予定変更で四十分程延長された』


「………え…?まじで………?」


『…まじだよ。引き続きその辺りの警戒を頼む』


「…………あいよ………」


分かってはいたが意外に押しが強い男だ。


無茶振りに関してはアマンダとは別の俺の上司といい勝負をしている。


その無茶振り神谷との定時連絡を済ませて、また町を適当にぶらぶらと歩き出す。


………………………………………。


この格好でさっきの怠そうな連絡をしているが決してサボりでは無いのだ。


これに関しては勘違いしてもらって大いに結構。


いや、そう思われていなければ今回の依頼はこなせない。



―――――私服での防衛任務。



何故こんな格好をしているのかと言うと”一般人に紛れて日本の国会議員等を狙う奴がいないか炙り出して、もし居たら仕留めろ“と言う依頼だからである。


楽ではないが難しくもない任務。


俺の様な新参者にはちょうどいい腕試しだ。


まぁ、俺は狙撃が中心なんだがな……。


………………………………………。


……………てな訳で。


私服を纏ってここに来る事になったのだが………。


観光客と同じ様に私服……とはいえお洒落に全く興味が無い俺が持っている服等たかが知れている。


良くても、よくある動きやすい藍色のストレッチジーンズ。因みに市民の味方ユニクロだ。


悪くて、結構ヤンチャしてる系のイケイケな兄ちゃんが着てる様な革ジャンと言う塩梅。ちょこちょこ改造されているのが目立つ。


後者に関しては何故持っているのか自分でも分からない。


きっと覚えていないだけで、先輩からの押し付け品だろう。


それを知ったビクトリアに今朝「真っ昼間なんだからこれじゃ逆に目立つに決まってるじゃない!!」と叱咤されたのだ。


返す言葉もない。全くその通りだ。


………………………………………。


そしてそれから数時間たって今に至る。


………一つ気が付いた事がある。


この時期にしては珍しい事に、上を見上げれば容赦の無い日本晴れが広がっているのだ。


黒い服が太陽光を余すことなく吸収しようと頑張っている。


こら、そこ。葉っぱじゃねーんだから無駄に光を吸収せんでよろしい。


更に珍しく十一月上旬の筈なのだが、殆ど無風状態なので少々暑い。


「これ…完全にチョイスミスったよな………」


季節外れの日光にジリジリと辛うじて見えている項の辺りを焼かれながら後悔した。


今さら遅いかもしれないが、何着か黒くない服を新しく買っておけば良かった。


そして俺が辿り着いた結論は”服の選び方は天気予報で考えて、自分に合うかで決めた方がいい“だ。


そんな誰でも分かるどうでも良い結論に至った所で不意に後ろから声をかけられた。


「…………あの…」



それは、聞いていて心地好いメゾ・ソプラノの声だった。



「……………」


「……あのう……」


「……………」


「……そこのあなた…」


「!?」


折角無視してたのに、まさか手まで掴んで来るなんて。


他に人いないの?


どうでもいいが、柔に触れられた感じではやや俺より体温は高いらしい。


「……はい…?………人違いでは…?」


「…いえ…そうではなくて……」


「………?」


………………………………………。


「その……わたくし、この町に来るのが初めてで…………。もしよろしければ、道を教えて頂けませんか……?」


長く伸びているであろう黒髪を上の方で編み込んでいる色白な女性。


グレーのロングコートを羽織り、胸の辺りに十字の編み模様の入った首まであるクリーム色のセーターと真っ黒なスキニー、洒落た真っ黒のロングブーツを合わせている。


ギリギリ睫毛に当たる位の所で一直線に切り揃えられた前髪の一部を、縦に蛍光色のピンクに染めているのが特徴的だった。


……………どこかで見覚えがある。


「すいません……ちょっと急いでて……」


「…………見ていて……暇そうでしたので声をかけたのですけれど………」


「………ぐっ……」


中々痛い所を突いてくるな………。


まさか自分の演技が仇となるとは思わなかった。


俺の素人演技、そんなに完成度高かったか………?


「……少しでいいんです……。ダメ……でしょうか………?」


………………………………………。


……無理だ。この女しつこい。


どうしても振り切れそうになかったので仕方無く…そう、本当に仕方無く彼女の抱えている問題に手を出す。


「…………それくらいならまぁ……構いませんけど。………実際どこまでなんですか…?」


「…ええと………」


スッと俺のすぐ隣にやって来て手首の白い腕輪からホログラムディスプレイを出現させた。


そこにはこの都市の地図が映し出され、現在地が赤く点滅するターゲットマーカーの様なもので標されている。


彼女が身に付けている腕輪は、8年程前に結ばれた日米共同開発計画の一環で作られた便利アイテムの一つで”エレクトロ・ホログラム・バングル“と名付けられた新型の携帯端末だ。


因みに今年の夏から販売を開始しているが、定価で179,000円とかなり値段がお高いので手が届く人間は限られる。


気になる機能としては、まぁ……スマートフォンの画面を空中に移して輪っかにしたような程度なので俺は今後の改良に期待する。後は値下げも。


「……ここなのですが…」


彼女はおずおずと言った様子で自分の目的地を指差した。


結構この地図見やすいじゃねーか……これ見ながら進めば良いのに………。


ブルジョワ階級で機械音痴と思われる女性に対して、俺は素直にそう思った。


「……そこなら……この道を真っ直ぐ行って二つ目の交差点を左に曲がった先にありますよ」


「まあ、ありがとう」


「…じゃあ、俺はこれで………」


「……あの、待って下さい…」


「……………はい……?」


振り替えると今度は彼女の手は服の裾を掴んでいた。


用も済んだのに一体何だと言うのだろうか。


まぁ、おおよその察しは付くが。


「あの………何か…お礼をさせて下さい……」


うわー……ひっじょーに嫌な予感がする。


いや、これは最早確信に近い。


「………いや、いいですよ」


「……そんな事言わずに、これを―――――」


ライムグリーンのトートバックから引き抜かれたそれは、ギラリと光る銀色の刃の輝きだった。


お礼とは真逆の凶刃の贈り物。


目測で刃渡りは11~15㎝。市販のペティーナイフだ。



―――――まぁ、案の定だな。



白刃が通るであろう空間を予測して振るわれる前にそれを握る右手を左手で掴み、その勢いを横に流しながら左脇に引っ張り寄せて切迫する。


その直後、腰のホルスターにしまわれているであろう拳銃に延びた左手もギリギリで掴む。


…………油断も隙も無いっつの……。


「―――――だーかーらー、いらねぇっつってんだろーが、こんのくそ上司……!」


「あらあら、可愛い部下の仕事ぶりを見に来たのですよ?あなたも少しは喜んではどう?」


物静かそうな雰囲気だった女性の態度が、同一人物かと疑いたくなる程ガラッと一変する。


「その可愛い部下の仕事邪魔しに来てんのはどこの誰なのか、鏡の前に立ってよーく考えては頂けませんかねー?(怒)」


「そんな悪い人いないわよ?一茶の見間違いじゃないかしら?」


この女の事を何も知らない男性なら一発で落ちる類いの日本晴れの笑顔を盾に、大胆にも白を切った。


「くっ………殴りたい、この笑顔……」


「そんな事言っても、あなたがそんな真似をする様な乱暴者じゃないって事位……わたくしは知ってますよ…?」


「……………///」


このアマ……!


次から次へと口の減らない女である。


声をかけられた時からこうなるとは思ってたんだ………。


日本で十七番目の一級茶師にして現特殊衛生兵日本支局局長である鷹見 綾女(たかみ あやめ)。


つまりは俺の上司にあたる人物。


世界中で最も人員が多い特殊衛生兵が茶師だが、彼女はその中でもずば抜けた推理力と人並み外れた冷静さを兼ね備えた女性だ。


彼女自身の才能と前局長の推薦もあり、ちょうど去年の6月に歴代最年少の18歳で局長の役職に就任したのだ。


……………で。


この奇襲紛いの行動についてだが………。


本人は“茶目っ気”と言って済ませているが、どう考えても度を越していると俺は思う。


だって、これ絶対危ないもん。


一歩間違えたら確実に流血沙汰だもん。


下手すりゃどっちか死んじゃうもん。


しかしこの傍迷惑な“茶目っ気”も元々戦闘が得意でない彼女の攻撃だ。


いくら俺が弱い方とはいえ、彼女の動きが見えていればどうと言う事はない。


彼女の手首をいつもと同じ様に捻って小振りのナイフを放させる。


金属がコンクリートに当たった音が小さく響いた。


「…………あらっ………。一茶ったら……毎回容赦が無いわねぇ……ったたた」


「うわー。得物持ってる奴にだけはぜってー言われたくない台詞……」


「だって……部下が仕事をしているのか時たま監督する事も、わたくしの仕事の一つですもの~」


…………………………………………。


……………。


役職が上がれば上がるだけデスクワークが増えてくる。


それをこなした上でのこの監督だ。


俺も良い上司を持ったものである。


少し誇らしい。


仕事に対する熱意の違いをかなり感じるが、それでもこれだけは言っておかなければなるまい。


「……はぁ………。仕事熱心なのは尊敬しますけど……休む事だって大事なんですから……たまには身体を休めて下さいよ……」


「……………わたくしを…心配してくれるの……?」


「……………。そんなの……当たり前じゃないですか」


「………そうなの……///」


「上司のヘマの後始末とか、他国にいる時に面倒事で引っ張り戻されんのはまっぴら御免ですからねー」


「……………………ふぅ……恥ずかしがらないで素直に“心配だ”って言ってくれればいいですのに……」


彼女は隠していた心を見透かした様に言った。


「……………///」


これも彼女特有の推理で導き出された結論なのだろうが、割りと本心に近い所を的確に言い当ててくる。


そしてこれが素だから余計にたちが悪いのだ。


俺にとって厄介極まりない女なのである。


「………そんな事より一茶?仕事はあとどの程度で終われますか?」


「……はぁ………///………今、上に報告しなきゃいけねー位の妨害を受けてますからねー。正直、どのくらいで終われるかなんて分かったもんじゃないですが?」


「あら、わたくしに報告ですか?」


「…………考えてみたら俺の上司でもあったんでしたね……。なら知ってるんじゃ?」


「そうですよ?あなたの事で知らない事は無いと言っても過言ではない程知ってますわ」


「さらっと怖いこと言わないでくれませんか!?」


「ふふふ」


「否定しない!?」


「なので………もうそろそろで終わると思って来たのですが……」


どうやら俺が受けた依頼の情報は筒抜k………持っているらしいので、とりあえず遠目に見えている国会議事堂を顎をしゃくる。


「……………あ゛ー…それはですねー。あの中でお話しが思いの外盛り上がってるのか知りませんが、思いっきり長引いてるらしいので…未だにここら辺をパトロールしてるんですよ」


「あらあら…………議員さん達……もういい歳をしているのに、女子高生の様に長話をしているのね~」


「……この人、さっきの俺と同じ様な事言ってるよ……………」


「……………あら、そうなの……?わたくし達、意外に似ているのかも知れないわね~?///」


「///…………笑えねー冗談は止してくれませんか……?上司への不快感が募る一方なんですけど……?」


「そんな寂しい事言わなくてもいいじゃない。あなたに襲われた体で叫びますわよ?」


「そんな事したら洒落にならねー上に世界中を巻き込んだ未曾有の大問題に発展しかねませんよ!?同業者とお互いの未来の為にまじで止めてくれませんか!?」


「あらあら、冗談に決まっているじゃない」


「“有言実行”があんたの座右の銘だからおちおち笑ってられねーんでしょ!?」


たった一年半前にこの役職についたにもかかわらず、彼女のその行動力によって引き起こされたと言われる事件は思い出すだけで軽く十は越える。


……………。


それだけの前例があるから何を言われても全く冗談に聞こえない。


困ったものである。


頭痛までしてきた。


「わたくしも冗談を言う事位ありますわよ?」


「だから…信用ならねーんですって……」


と奇妙な言い合いをしていると俺にとっての背後、綾女にとって真正面から複数の靴音が聞こえてきた。


それらは綾女と俺から十数メートル程距離をおいて立ち止まり、視線や意識をこちらに向けて話し出した。


それは三人分の女性の声だった。


「ちょっと…!見て見てあれ、こんなところで大胆ね…!」


「うわ、ホントだ…!ハグしてる…!何かのドラマみたい…!」


「実際、映画の撮影とかだったりして…!」


「え!?え!?でもカメラマンとか居ないよ!?」


「じゃあホントにカップル…!?スゲー…!」


耳障りな内容の言葉が鼓膜を叩く。


………………………………………。


……………面倒なのが来やがった………。


せめて俺達に聞こえない様にしゃべってほしい。


この危うい均衡を保ったまま膠着状態に陥っている綾女と俺が、どうやら遠目には抱き合っている様に見えるらしい。


迷惑過ぎる勘違いだ。


「…あのっ…………一茶……?///」


声のする方に視線を下げていくと、珍しく女らしく恥じらっている上司の真っ赤な顔があった。


かなりの至近距離で目が合うので、俺も綾女も耐えられずにバッとほぼ同時に目を反らす。


かわ………っ!?///


とてもではないがこちらも恥ずかしくて彼女を直視出来そうにない。


太古の昔から女性のこう言った表情には世の男を魅了する何かがあると俺は思う。


……………って、そんな事考えてる場合じゃない。


何でもいいから受け答えをしなくては。


と言うより一刻も早くここから立ち去らなければ………!


「………は…い……。何……ですか……?///」


「……………一時休戦にしない………かしら……?///」


「………あ゛ー……///これには珍しく同意見です…///」


お互いの意見の一致もあって、その場で彼女の手を放した。


私服だからまだ良かったものの誤解もいいところだ。


マスコミ関係者にばれたら面倒なんてものじゃ済まされない位怠い未来が訪れるだろう。


そして俺達は出来るだけ目立たない様に一旦この場を離れる事になるのだった。


◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯


………………………………………。


……………で。


「…結局こうなるのか……」


「……?………一茶?」


「いえ、清々しい位何でもありませんよ」


「あら、そうなの……?」


「そうなんです」


どうやら過程は違えど結末は一緒と言う事らしい。


神々に対してクレームと言う概念が通用するのなら今すぐにでもそれをしたい所だ。


国会議事堂近辺での会議の防衛をしていたのだが、先程茶目っ気をはっきしてきた(奇襲してきた)俺の上司鷹見 綾女と行動を共にする事になった。


今は二人並んで千代田区を巡回している。


ずいぶんと数奇な運命だな、おい。


まぁ、こっちの方が何故か一人の時よりも周りに溶け込めるからメリットが多いと言えば多いのだが。


……………。


………………………………………。


それにしても………だ。


俺といても守りきれねーぞ………?分かってんのか?


もし仮に戦闘になったとしてどっかの神谷みたいに綾女を守れるかと言われれば………はっきり言って出来る気がしない。


そうで無くとも素より俺の兵種は狙撃手スナイパーだ。


多少の近接戦闘は行えたとしても、やはり越えられない一線はある。


情けないと自分でも思うが実力が足りないのだ。



―――――それは、圧倒的に。



………くそ………。


やり場の無い自虐的な怒りが起きた。



―――――何故出来ないのだ、と。



そんな俺の荒み気味の心境を知ってか知らずか、綾女の柔らかな手がポンポンと肩を叩いた。


「一茶?さっきからスマホが鳴っていますわよ?」


……………。


知らなかったようだ。


何かそんなドラマチックな感じの展開をちょっと期待しちゃったじゃねーかよ、ちくしょう……!


まぁそんな事があったところで極度の面倒臭がりであるこの俺と口達者で女狐みたいな上司の綾女の間で何かが起こる事など、鮪が群れを成して川に上って行く確率位あり得ない話だ。


それは捨て置き………。気を取り直して。


「………どーも……。………はい?」


『…一茶?今どこにいるんだい?』


電話の相手は知っての通りパーフェクト・ヒューマン神谷である。


彼は柄にもなく少し焦った様子で訊いてきた。


「………あ゛?場所だ?今は…………ちょうど桜田門を通り過ぎたとこだな…。何かあったのか?」


『…ああ………急遽会議が終わるらしいから、国会議事堂の前に来くれ。10分以内だ』


「10分以内?………走れば……まぁ、間に合う位か。………りょーかい。今すぐ行く」


「あら、お仕事の電話?」


「そうですよー。これから国会議事堂までランニングです。……えーと………その靴で走れます?」


「……多分……無理ですわね」


「残念。ここで大人しくお留守番ですねー(笑顔)」


「……仕方ないわね~……」


とても残念そうだ。


そんなに来たいのかよ……。


少し呆れ気味に腕を組んで考えて込んでいる綾女を見ていると、何か良からぬ事でも思い付いたのか悪戯っぽく笑って言い出した。


「じゃあ……ふふふ///早く帰って来るのよ一茶?寄り道しちゃ駄目よ~?」


「………はぁ………。はーい。分かったよーママー(棒)」


「…………何だか……わたくしが求めてたものと近いのですけれど……違いますわね……?」


「何求めてたか知りませんけど、それがどーでもいい事だってのは分かります」


再び眉を八の字にした残念フェイスに戻る綾女。


「わたくしからしたら結構重要ですわよ?」


重要なのかよ。


「これは失敬」


「全くですわ~」


『………え?……えーと?そこに居るのは……?………まさかとは思うけど……同僚だったりするのかな……?』


この阿保寸劇に何か思い当たる節でもあるのか、ちょっとした問題に頭を痛める様な声音だった。


まぁ、混乱するのも無理もない。


だってやってた本人の俺も分からんし。


「ああ、同僚っつーか……直属じゃねーけど俺の上司だ。……これでも俺の上司の中では一番偉い人なんだぜ?」


「一茶~?”これでも“ってどういう事なのかしら~?」


禍々しいオーラ紛いのものを纏い、凍り付きそうな黒い目を細めて笑っている。


この女はビクトリアとはまた別ベクトルの怖さを持っているだろう。


『………ああ……。何となく分かったよ……』


何となく分かっちゃうのかよ………。


呆れた様子で納得した様に言う神谷。


少しかわいそうな気がした。神谷も綾女も。


「……そうか……………で、その上司がおっかない顔で見てくるし……神谷、とりあえず行ってくる」


『………了解。なるべく目立たない様に頼むよ』


「………あいよ……」


手早く通話を切っておっかない笑顔の綾女に向き直る。


大きな黒い瞳が不思議そうに俺を見た。


「………?あら、何かしら?」


………………………………………。


ゆっくりとこちらに向き直り小さく小首を傾げた。


色々と甘い人だからと言っても、流石にこれは調子に乗りすぎた。


それに一応上司だしな……。


「えーと………、はしゃいでしまって……すいませんでした……」


俺は柄にもなく頭を下げた。


「…………………ふぅ………。ん~………そうね~……じゃあ、罰として………」


「…………」


「無傷でここに戻って来なさい?」


………………………………………。


優しく目を細めて子供を諭す様に言った。


一瞬驚いたが、彼女らしいと言えば彼女らしい答えだった。


「………はぁ……」


まぁ、どうなるにせよ上司からの命令だ。


部下のそれに俺は従うしかねーし……彼女が言う様に、どこでも平和が一番だろ?


「………りょーかい…」


……………。


やっぱりいい上司を持ったものである。


心の底からそう思った。


俺は彼女からは見えない様にフッと笑って、ゆっくりと来た方向に向けて走り出した。


いかがですか。


やったー。やっと進めたよっ、私っ!

みたらしちょいちょい感動してます。


ふおー!やべー!

みたらしかなりはしゃいでます。


………おほん…。


次回の投稿予定としましては、3月中に一つ出せたら良い方……ですね。


「また遅いのかよ」「みたらし、ペース遅いよ…」だって?

認めます。だって実際問題私の投稿ペース遅いもん。


まぁ、まだ結構長く続くので気長に待ってやって下さい。


それでは、また今度。

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