バー・ミニッツ襲撃事件5
どーも、みたらしです。
今回はちょっと短いですね。
……と言うか、やっと新しい所にこれました。
うーむ、実に感慨深い。
読者の皆さん、こんな未熟な文書を読んでくれてありがとうございます。
いや~、ここまで来るのにリアル一年かかるとは…。
聞き始めた当時は私も思ってませんでしたよ。
まぁ、それは置いておいて、どうぞ。
○●○●○●○●○●○●エピローグ○●○●○●○●○●○●
●●●ジョージ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
例の”大阪のテーマパークでの狙撃の後に捕まる”と言う前代未聞の依頼の直後、俺は東京まで車で移送されこの狭苦しいブタ箱に押し込まれている。
東京都に新設された日本警察庁兼特殊刑務所、その内部第五独房棟の一室である。
「っつつつ……」
鈍く響く痛みで動くのが億劫になる。
金髪のお嬢ちゃんに殴られた背中が痛む、警察病院にも行ったがどうやら右の甲骨にひびが入っていたそうだ。
どんだけ強い力でやったらここが折れんだよ……。
「おい、新入りのあんちゃん。あんた………何やらかしたんだ?」
右斜め向かいから低い声がした。
「………ああ……?俺に言ってんのか…?」
「そうだ。他に誰がいんだよ?」
「まぁ……………そうだな。大した事ぁ無い。殺しでだ」
「そうか……殺しか……。でもあんた、見た所…………相当な手練れだろ?そう簡単に捕まるとは思えないぞ?」
「ほーう?」
「…………徒手に……チャカに……………。あんちゃん…もしかしてどっかの国のスパイか?」
向かいの牢に繋がれている元ジャパニーズマフィアとおぼしきスキンヘッドの男は、俺の持つ技術を一目で見抜いて見せた。
素性を見破るのはともかく、どうやら人の才能だの能力だのを見抜く目はかなり鋭いらしい。
これには少々驚かされた。
大きな組織において人材発掘の役割に向いていそうな奴だった。
「はぁ…007じゃあるめぇし。……仮にそうだとしたら尚更言うわけねぇだろ?」
「…………違いねぇ…。悪いなぁ、言い辛い事訊いて」
謝罪をするなんて律儀なマフィアである。
「いや、いいさ…。それに……ここに居る連中なんて…大概がそんなものだろ…?」
「……はぁ…。それこそ…………もっともだ…」
厳つさを増大させる為にあるような顔の縫い後を擦る男は、ばつが悪そうに言った。
過去に何かあるような言い方だったが、訊いてきた事を謝らせた手前こちらから訊ねる訳にもいかない。
それを知ったところでこれから先何かがどうなる事も無いのだが。
「まぁ、何かあったら言ってくれや。同じ囚人の好みだからな」
「……………フッ……そうだな。…よろしく……」
「はっはっはっ。こちらこそ」
この男とは良い酒が飲めそうだ。
外に出られたら、だが。
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ここに来てから二日たった。
そろそろこの無機質なだけの独房も飽きてきた。
………煙草が…吸いてぇ……。
暇を持て余してぼんやりとしていると、普段よりずいぶんと大きい足音が近付いてきた。
………………………………………。
不機嫌を顔に張り付けた厳めしい看守がこちらに歩いてきた。
その後ろにはたくましい男が二人ピッシリと並んでいる。これだけでも威圧感は抜群だ。
そしてその男達は堅固な格子戸越しに俺の前に仁王立ちした。
苛ついているらしい一番小さな看守の男の意識は、痛いほどこちらに向けられている。
………………………………………。
………ん……………?
だがいくら待っても男は要件を話そうとしない。
ある人曰く、日本人ならば何も言わずともこの程度の事は“察する”のだそうだ。
まるでエスパー民族だ。
生憎、俺は日本人ではないので知ったことではないのだが。
「………………何だ…?煙草でもくれるのか?」
男は頭に手を当ててこれ見よがしに大きなため息をついた。
罪人で、しかも捕まって独房の中にいる俺にこれ以上どうしろと言うのだろうか。
「……………………」
確かに礼儀正しいが、中々要件を言わない癖に自分の事を分かってもらおうとする。
だからこの手の日本人は嫌いなのだ。
仕方なく、郷に従う形で俺は尋ねた。
「……要件は…?」
看守は「やっと気付いたか」とでも言いたそうな嫌味な顔をして口を開いた。
「…………出なさい……。釈放だ」
「………………」
唐突も良いところだが、拘束されてから僅か三日足らずでここを出る事になった。
近くに居たジャパニーズマフィアの男は俺を快く送り出してくれた。
俺が会ったジャパニーズマフィアはとても義理堅かった。
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唯歩くだけで周囲からの冷たい視線が磁石の様に集まってくる。
………鬱陶しい。
警察からすれば、人喰いの猛獣を首輪も付けずにを外に放つ行為だ。
出来る事なら俺の様な殺人鬼は、死ぬまでここにぶち込んどきたいところだろう。
当たり前だ。世間もそうに決まっている。
………………………………………。
当事者の俺ですら予測不能だったこのイレギュラーには、一つ思い当たる節がある。
「………あの爺さんか…」
恐らくは俺のクライアントである”ロマノフ”。
あの男の政治的圧力によるものだろう。
流石はドイツの初代一級麦酒師……と言ったところか。
もっとも、その肩書きも政府のお偉方と一悶着あってもう無くなったらしいのだが。
………………………………………。
「荷物は受付の婦警から受け取れ」
相変わらずの嫌味顔の看守に従い、荷物を受け取りに歩く。
仕事道具が入ったゴルフバッグを背負い刑務所を後にしようとしたところ、突如ヒステリックな悲鳴が響いた。
「………?」
直ちに数名訓練を積んだ警官が拳銃を構えて現れた。
血だらけの男が建物に入ってきたのだ。
「………くそっ……!!あいつらがっ……!!全員殺られたっ……!!」
「わ、………渡辺警部…!?一体どうしたんですか!?」
若いポリスが倒れかけた男を駆け寄って支えた。
「あの三人組が……目の前で佐々木を……うぐっ…」
「落ち着いて下さい…!」
「……出鱈目だ…。拘束されてた筈の奴らが……俺以外皆殺しにしてパトカー奪って逃げやがった」
「皆殺し……!?とっ…とにかく、救急車っ…!救急車呼んで…!!警部しっかりっ……!!」
………………………………………。
「…………何だ……?」
どうやらあのポリスは何らかの事件に遭ったらしい。
盗み聞きした話の内容からして俺には関係の無い事だった。だが……。
……胸騒ぎがする…。
何が崩れ落ちる様な、言い知れない焦燥感が心の底に起こった。
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早く手続きを済ませ外に出たかったが、件の男が騒ぎを起こしたので救急車で運ばれていった後になった。
いい迷惑だぜ……全く……。
刑務所のエントランスホールを抜けてちょっと歩いた所に、一台のマーリーブラウンのマイバッハが停められていたのだ。
「…………………………あれは確か……………」
持ち主を思い出す前に中年のドライバーがドアを丁寧に開き、俺を豪華な車内に招き入れた。
「…………………………」
そこにはシャンパングラスを片手に、防弾スーツ姿をした初老の男が悠々と座席に座っている。
それは例の人物、Mr.ダニエル・ロマノフだった。
「………………あんたの差し金か……?」
言いながらふかふかのソファと化したシートにどっかり腰を下ろす。
「………差し金とは人聞きの悪い…。この国の警察機関のトップと少し相談をしただけだよ」
静かにグラスをテーブルの上に置き、柔和な顔で足を組み直した。
この男の胡散臭さは老獪な政治家と並ぶ。
「……………まぁ良いさ。俺には何の関係も無い事だ。ここを出してくれた事に感謝こそすれ……それだけだ」
「全くもって君らしい」
「フンッ…………で、依頼があるから俺を外に出したんだろ?次は何をさせるつもりだ?」
「フフッ……話が早くて助かるよ」
エンジンをふかしたままだった車がゆっくりと走り出す。
白い顎髭を軽く撫でてからゆっくりと話始めた。
「………近年……世界中でテロが頻繁に起こっているのを知っているね……?」
「愚問だな。そんな事はCNNが腐るほどテレビで流してるだろ。現代人ならそれを知らずにいる事の方が難しい」
「ふーむ……それもそうだね。………ではこの国の……日本のテロリストの存在は……分かるね……?」
「………ああ……あの組織になりきれてない、ふざけた名前の武装集団か……。それが……?」
「……まだ表沙汰にはなっていない事だが………最近になって、再び動きが活発になってきている…」
「……インスタントが近々暴れる……と…?」
俺の問にダニエルは徐に頷いた。
その顔には険しさが滲み出ているとはっきり分かる。
今回も今回で相当危険なのだろう事は伺えた。
「……それを止めて来て欲しい……と…?」
「…………いいや、今回は違う。………出来るならそうしてもらいたい所だったが………」
「?」
まるで懺悔でもするように黒っぽい目を伏せ、灰色の髭を左手で撫でた。
「……………インスタント……いや、世界中のテロの裏で暗躍している…大国規模の非政府組織がいる」
「……………………ほーう?」
それは眉唾だ。
「……テロの裏で蠢く奴等から、娘を……アマンダ達を守ってやって欲しい」
「……………………。報酬は…?」
「150,000アメリカドル」
「―――――おい、Mr.ダニエル」
「……何だね…?」
「行けと言うのなら仕事はするが……。正直に言わせてもらう。無駄金使うのはあんたの為にならないぞ」
「……………」
「そもそも、そんな大規模な組織があると言えるだけの証拠はあるのか?」
曲がり形にも世界中を飛び回って来た殺し屋だ。
先々でその国の暗部を覗いてきたと言う自信がある。
その経験からすればこの情報は信憑性が極めて低いと判断せざるを得ないのだ。
「娘さんを思うあまり、現実と妄想の区別がついてないんじゃないのか?」
「……………」
証拠の提示を求められたダニエルは少し考え、いくらかやつれた様子で口を開いた。
「………………英国の…女王陛下直属の特殊衛生兵の内二人が死亡………三人が瀕死で見付かった」
「………何…?」
「……緊急手術中、意識を取り戻した葡萄酒師フィリップ・ドレイクによれば”極秘任務の最中に、仲間と同じ顔をした連中に襲われた“……だそうだ」
………………………………………。
「……国籍は…?」
「………不明だ…」
「なら狙いは…?」
「……………それも不明だ…」
「…………………マフィアでも、テロリストでも……ましてやどこかの国のスパイでも無い………。何だそいつらは…?」
「……………今はまだ分からない。現在英国と同盟関係にある我が国も情報を集めてはいるが……手掛かりが少ない上…こちらからは迂闊に手が出せないのが現状だ………」
信号の所に差し掛かったのか車が静に止まり、グラスに残っていた液体が波紋を作る。
「…………見事に八方塞がりかよ…」
ダニエルは苦々しげにシャンパンで口を濡らした。
「そこで……だ。どうなるか分からないこの状況の中において自由に動けるのは……」
「……俺の様なアウトロー……って事か………」
難しそうに腕を組んだ彼は我が意を得たりと言った様子で頷いた。
元だとしても誇り高き麦酒師だ。彼はこの状況が忌々しいと思っているに違いない。
「…………やれやれ……。とんだクライアントだな……あんたは」
「こうでなければこのご時世、生きてはいけないよジョージ君」
「………俺をジョージと呼ぶな」
「…何故かな…………?」
「………理由なんて…どうでもいいだろう」
「……そこまであの通り名が嫌いかね…?」
「ああ、嫌いだな。反吐が出る。そもそも俺に名前はない」
「なら……何と呼べばいいのかね?名無しのヒットマン君……?」
「…………………チッ………。もう勝手にしろ……」
「…フフッ………じゃあ、この件は任せる………。戦闘方法もキミに任せるよ…」
「……………」
「死神ジョージ君」
その言葉を聞いた頃にはカーテンの隙間から夕焼けに照らされた目的地が見えて来ていた。
それはインスタントの襲撃目標であると同時に、謎多き巨大組織を誘き出す餌でもあった。
いかがですか。
今回でミニッツ襲撃篇は終わりで、次回から晴れて次の篇になります。
………最後の所が改編どころか変更の騒ぎになっているのは気のせいではないですよ。
ごめんなさい。
続きはまだまだ全然書きますからね。
相変わらず不定期な予定ですが。
それでは、また。