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一級珈琲師神谷の最高傑作  作者: みたらし男子
4/16

バー・ミニッツ襲撃事件3

どーも、みたらしです。


改編回も四回目となりました。←(誇れねー)

「みたらしの改編……、いい加減、なげー」だって?

私も同じ気持ちですよ……。トホホですよ、全く。


それでも読んでくれてる方って、本当に優しいですね。

正直、みたらし泣きそうです。(嬉しくて)


そいじゃ、お話の方どうぞ。

○●○●○●○●○●○●逃げの一手○●○●○●○●○●○●


●●●神谷 薫●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


板状の電子機器を片手に持ちながら歩いて行く人達を見ると、皆淀んだ目をしているのに気付かされる。


最近では眼鏡の様な物や、ホログラムディスクが出てくる腕時計タイプの物も普及し初めている。


言わずと知れた世界有数の先進国、日本の首都は東京である。

時計の針は十時を回ったところだ。


夜明けまではまだ七時間以上はあるだろう。


………………………………………。


駅に程近いスクランブル交差点が見えてきた所で、俺は多数の追跡者の存在を認知した。


人数は最低でも五人。


道に設置されたミラーに映った追跡者達の姿は、皆両手が空いていた。


…………無手……か……。


したがって相手の武器は携帯性に優れたものである可能性が非常に高い。


拳銃およびナイフ、圧縮式注射器、スタンガン、またはそれに準ずる何かといったところだろう。


まあ、こんな人混みの中でショットガンだのマシンガンだのを持っていると言うのも考え辛いが。


歩行者用信号が点滅し始め、人の流れが滞り、やがて止まった。


……ん?近付いてこないのか………?


相手のとる不可解な行動に疑問を覚えつつも、俺は状況を整理した。


艶々したブラウンの髪を冬の風に靡かせて俺の隣に立ち、何やらニコニコしているラテン系ドイツ人女性のアマンダの方を横目で見る。


相変わらず溜め息が出る程の白人美女なのだが。


「神谷〜。昔みたいに迷子にならないでね〜?」


これには俺も呆気にとられた。


緊急事態において、この上無いほどに呑気な台詞である。


外は冬だと言うのに、彼女の頭の中は春なのだろうか。


「……おいおい…。流石に自分の国だから迷わないって…」


気付いているのかいないのか。


はたまた阿呆か馬鹿なのか。


俺達の直ぐ後ろには敵がいるというのに、この女からは危機感と言うものがまるで感じられない。


彼女に敵の存在を知らせる為にはどうすればいいのだろうか。


…………………。


頭を捻って、何とか案を三つ程絞り出した。


案一。例えば手話で知らせるとしよう。


これならば、手話を心得ているとも限らない追跡者達に気付かれる事無く、彼女に敵の存在を知らせる事が出来る。


だが、ここで一つ問題が発生した。


……あ。…アマンダって…手話…出来ないんだったっけ……。


確かに追跡者達が手話を心得ているとも限らないが、それは同時にアマンダにも適用されうる事でもある訳で。


根本的な問題により、手話による伝達は却下となった。


ぐっ……な、ならば…!


案二。普通に話して知らせるのならどうだ。


これならば、小声で話せば聞かれる心配も少ない上、敢えて人気の無い所に場所を移動して、つけてきた敵を二人で共闘して掃討する事も可能である。


だが、またしても問題が発覚した。


……あ。…アマンダって……今、銃持って無いんだっけ……。


バー・ミニッツにいた時に気付いた事なのだが、彼女は帯銃していない。


何故帯銃していないのかと言いたくもなるが、それで何かが良くなるものでもない。


襲い来る銃弾群を巧くかわして戦闘の素人を守りつつ、複数の敵を相手取って戦うにも流石に限度と言うものがある。


と言うか、ほぼ不可能と言っていい。


悲しきかな。普通に話して戦うのも没となる。


いよいよ本格的に打つ手が無くなってきた。


さて…どうするか……。


心中で俺は唸った。


最後に一つだけ案が有るが……。


正直に言うと、これは個人的に抵抗が有りあまりとりたくない方法だった。


だが、この方法ならば丸腰の彼女が余計なリスクを背負わずに済むし、運が良ければ俺も戦闘に巻き込まれない可能性まで有る。


素晴らしい。まさに一石二鳥だ。


くっ……仕方無いか…。


背に腹は変えられないので、俺はこの作戦を行動に移した。


この時の俺が最早半ばやけくそだったのは、言わぬが花と言うやつである。


「ひゃっ…!?///な、え?なあに…?………いきなりどうしたの…神谷……?///」


こう言う台詞を言われるので好きではない。


何故なら、何処かの誰かに何やら不名誉な邪推をされてる様な気がしてならないからである。


先に言っておく。


断じて違うと!!


―――――案三。俺はカップルの振りをしてアマンダの手を握り、そのまま敵が巻くまで逃げる事にしたのだ―――――!!


出来る限り誤解の無いように言わせてもらえば、俺は彼女の手を握っただけなのである!!


女性的で軟らかなアマンダの手から、トクン、トクンと心臓の鼓動が少し速くなったのが伝わってきた。


前振り無しでこう言う事をされたのだから無理もないか。


冬直前らしい冷たい夜の風で冷えてしまっていたのか、彼女の頬は少し赤くなってしまっている。


「しっ……」


「………んっ…///」


赤面しながら慌てるアマンダに笑い掛けながら人差し指で制し、耳元で「少し急ごうか」と小さく呟く。


アマンダは耳が相当弱いらしく、肩が一瞬ビクッと跳ねた。


目も少しとろんとしていて、耳まで心なしか淡い赤に染まっている。


……まあ、今はそんな詳細でどうでもいい情報は置いておくとして……。


「どうやら人気者らしいからな……アマンダは…」


「ふ…え…///?」


小首を傾げるアマンダ。


彼女は恍惚とした顔と不思議そうな顔を混ぜたような表情をしたが、言葉の意味を理解し終わる前に手を握ったまま走り出した。


―――――疾駆。


それは、終わりの見えない逃走の始まり。


道路を猛然と走っている車達の間を紙一重で通り抜ける。


その場に居合わせた女性の悲鳴。


周囲で同様に信号待ちをしている人達が一気にどよめいた。


だがその混乱の中、新に後ろの方が騒がしくなり始めた。


………来たか…!


見なくとも、大体の察しはついた。


後ろの方で起こった騒ぎは、いきなり車道に突っ込んでいったアマンダと俺を見た結果ではない筈だ。


恐らく、黒服達が人混みを掻き分けながらターゲットを見失うまいと慌てて追いかけて来ているのだ。


―――――追跡。


それは、腹を空かせた肉食動物達の血生臭い狩りの始まり。


……………………………………。


だがこちらもプロだ。そう易々と殺られるつもりはない。


街灯の淡いオレンジの光に照らし出された影達を踏みつけて駆ける内に、俺は無償に楽しくなった。


アドレナリンによるものかも知れないし、この仕事をしている内に頭のネジが数本外れてしまったのかも知れない。



―――――どこへ逃げる?



その問いが俺に突き付けられる。


比喩ではない、命懸けの逃走劇の幕開けだ。


「ね、ねえ!?どうしたの!?って言うかあいつら何なのよ!?」


突然の遁走に、堪らず彼女は尋ねた。


「どう見ても熱烈なファン………って感じではないね。心当たりは……?」


「っ………!分からないわ……。神谷は…?」


………アマンダ…………。何か知っているのか………。


「…………恨みなら山ほど買ってるよ…。不本意だけど…これは職業柄仕方ない…」


「じゃあ、逃げ切れるの!?」


「うーん…………逃げきるつもりだけど……、追い付かれたら撃退するしかないだろうな…。多分…ね」


「うっ、うえぇーっ!?」


繋いだ手をからアマンダの焦りと混乱が犇々と伝わってくる。


「ははは。今度何か言う事聞くから……それで許してくれ」


情けない話だが、ウインクをしてアマンダに謝っておく。


「も、もうっ!!絶対だよ!?言い訳無しだからね!?」


「意外に信用が無いんだね……俺…」


「仕方ないじゃない!!私からしたら今のあなたも唯の泣き虫神谷だもの!!」


………アマンダには敵わないな……。


追跡者達は次々に横切って行く複数の車両に阻まれ立ち往生しているようだが、決して油断は出来ない。


少しでも長く、奴等から距離をとりたいところだ。


不意に吹いた冷たい北風が逃げ回る俺達二人を笑う様に、鼓舞する様に、背中を押した気がした。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


アマンダが見付けた広めの駐車場に隠れて休んでいる時、“不自然”と言う言葉が頭をちらついていた。


あれからかれこれ十五分以上も襲撃者達の視界に入らないように走っている。


「…解せないな……」


この状況を奇妙に思った俺は、誰にも聞こえないくらい小さい声で静かに一人ごちた。


アマンダと共に追っ手の魔手をかわし、縫い針の如く街行く人々の間を縫い逃げ回ってきた。


その筈なのだが、相手は俺達を見失ってもなお執拗に追って来ているらしく一行に巻いてくれる気配はない。


―――――まるで、俺達の居場所が分かっているかの様に―――――。


その言葉に思い至った時、恐ろしい推理が急速に組み立てられていった。


―――――まさか本当に…俺達の居場所が…分かっているのか……?


だがそこで俺の思考は停止を余儀無くされた。


「っ……!?」


不意に、胸ポケットにしまっているスマホが震え出したのだ。

この状況下だ。


………不自然だ…。余りにも……。


横目で液晶画面を睨み、メールを確認する。


―――――メールの送り主は。


えっ……モカ…?


なんと理由は全く思い当たらないのだが、一昨日からずっとご機嫌斜めでまともに口も聞いてくれない筈のモカだった。


この危険極まる状況の中でではあるが、これには純粋に驚いた。


だが、俺はモカのメールの内容を見てまた驚かされた。


彼女から送られてきたメールの本文には、こう書かれていた。


“兄貴、忙しい時にごめんね。


今、兄貴を狙ってるスナイパーを見付けたの。


ビルの上にいたけど、逮捕したから安心して?


それと、この間は本当にごめんなさい。変なこと言っちゃって……。


私…兄貴とちゃんと話しがしたい。


今追って来てる敵を全部倒しても絶対に油断しないで…!!


私も出来る限り早く兄貴の援護に行くから……だから………絶対に死なないでよね。


ビクトリア・Q・モカ”


………モカ……。


いつも強気で意地っ張りで、純粋でお転婆なモカからこんなネガティブな文面のメールが来るとは思っていなかった。


それに正直”スナイパー“という文字が目に入った時はゾッとした。


もしもモカがその事に気が付いていなかったとしたら……。


考えたくもないが、俺達の頭には風穴を穿たれていた事だろう。


……だが、モカのメールの内容と現状を照らし合わせた時一つの疑問が浮かび上がってきた。


それは“何故、わざわざ刺客を二手に別れてアマンダを狙ったか”だ。


こんな人混みの中での暗殺任務なのだから、ビルの建物にスナイパーが潜んで狙っていた事は頷ける。


だとするならば、わざわざ隙だらけな俺達を余計に警戒させるような事を……強いては追跡者達をアマンダに差し向ける必要は有ったのだろうか?


………いや…………。


俺が敵ならば、まずそんな効率の悪い事はしない。無意味に警戒させる上に時間の無駄だ。


件のスナイパーによる狙撃のみでも十分過ぎる程事足りる。


逆にあの追跡者達による囲い込みでもいい。


若しくは一般人に扮してこの人混みの中でナイフを突き立てるのもいいだろう。


他にもバー・ミニッツであれば毒殺、ホテルの一室をつきとめたのなら爆弾を仕掛ける等で仕留める筈だ。


…………一体…どうして………?


すると、遠くの曲がり角から人が現れた。


そして俺達二人を視界に捉えるなり、後ろにいるであろう仲間に向かって叫び出した。


「………!!いたぞっ、追え!!逃がすなっ!!」


忌まわしい事に、追跡者達は早くも俺達を見つけ出したのだ。


―――――何っ…!?もう来たのか…!?


モカに返信する暇も無く、スマートフォンをポケットに突っ込んだ。


迫り来る黒服達を視界の端に入れつつ、隣で座って休んでいたアマンダの手を引いて立たせる。


俺は焦りながら疲労困憊の様子の彼女に訊いた。


「……アマンダ、もう少し走れるか…?」


「ど、どうにか……!」


「………強い娘だ…。よし、走るぞ!!」


そして、柔い彼女の手を引き走り出そうとした。


だが、突然アマンダは俺の手を引っ張り返し、その場から一歩も動こうとしなかった。


「アマンダどうした…!?大丈…」


振り返ると彼女と眼が合った。


………あ……。


それは、優しくも強い、儚くも可憐な覚悟の眼差しだった。


その眼を見た時、俺は核心した。


……アマンダ…。君は……俺を守ろうとしているのか………?



―――――その為ならば死すら辞さない。



そんな彼女の強固な意志を見ている様だ。


それを考慮した上で、追い詰められた彼女がこう言った行動に出ると言う事は。



―――――アマンダは二重スパイをしている……!?



この仮定が俺の中で、新たな推理を紡ぎ出す。


もし俺の推理が正しければバー・ミニッツ襲撃事件と今追いかけてきている黒服達は同じグループで、彼女は追跡者達のクライアントに何等かの接触を受けて脅しをかけられているか、偶然知ってしまった可能性が高い。


彼女の眼から察するに、アマンダは事前に「神谷を消す」とでも知らされていたのだろう。


そこから判断して、追跡者達の依頼人が狙っているターゲットはアマンダなどではなく俺であると考えていい。


さらに、彼女の行動はこうもとれる。


俺達が今いるこの人気の少ないパーキング……つまり暗殺作戦の要所を敵殲滅の狙撃ポイントに選び、元々持たされていた発信器を使って誘い込んだ。


だがアマンダはその作戦を成功に導く為の狙撃手が、今現在モカによって拘束されているのを知らないのだ。


くっ…………非常に厄介だな……。


今から逃げようにも、後ろから風穴を開けられるのが落ちである。


こうなってしまえば、もう後には退けない。


一か八か、今ここで交戦する以外に方法は無いようだ。


彼女の手を強引に引っ張り、ダンスの様にクルリと立ち位置を一瞬で入れ替えて、その勢いに乗ったまま初めに突っ込んできた奴のみぞおちに掌底を喰らわせる。


「ぐっはっ…!?」


不意打ちではあったが深く入り、相手を一撃でダウンさせた。


だが、後の四人は仲間が一人倒されている事に全く動揺せずに飛び掛かってきた。


………かなりの訓練を受けた傭兵か…………。


次は二人同時にナイフを振りかざし、それぞれ右頸動脈、左大腿動脈を狙ってきた。


どちらも急所。まともに喰らえば死ぬのも時間の問題となる。


足への攻撃はどうにかいなしたが、もう片方は防ぎ切れなかった。


急所から軌道がずれた斬撃が、俺の右頬の肌を捉えた。


斬られた時特有の熱い感覚が走り、パッと赤い液体が飛び散る。


「くっ……!?」


痛みに眼を瞑りそうになるが堪えて、その後ろに控えている二人の拳銃から放たれた銃弾を体捌きだけでかわす。


銃弾はアーマーピアスらしく防弾コートの裾を貫き、近くに駐車されていたカローラのフロントガラスに着弾した。


耳障りな警報が夜の街に響く。


「…悪いな……」


射撃を避けた時のスピードを生かしてナイフを持つ一人に切迫し、胸に肘打ちを喰らわせて吹っ飛ばす。


飛ばされた男は拳銃を持っている奴と派手にぶつかり転がった。


流石に直ぐに起きては来れまい。


もう一人の拳銃持ちは接近戦では分が悪いと視て遠くから銃を撃つが、俺は横に走ってそれらを避ける。


そして走った先にいるナイフ持ち武器を奪って遠くに蹴り飛ばし首を締める。


仲間を盾にされた拳銃持ちが撃てずにいた時には、俺の右手は既にガバメントを握り拳銃持ちが手にした黒い鉄塊を冷静に見詰めていた。


俺は拘束している奴を締め落とし、引き金に掛かる指に力を込める。


銃弾は金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音を響かせながら、相手の持っていた銃を破壊した。


「ぐあっ!?」


男は砕けた銃の破片で右手を切り血を流して痛そうに小さく呻いていたが、何を血迷ったか左手にナイフを握って突進してきた。


これは……格闘術じゃない……。


これがただのタックルだと見切った俺は、気絶したナイフ持ちを横に転がして巴投げを掛ける。


男はそのまま壁に激突して伸びてしまった。


技を掛ける途中で見えた男の顔は、いきなり宙を舞った為だかは知らんが青ざめていたように思う。


一通り攻撃を加えたので、アマンダを連れて逃げようとしたのだが。


―――――アマンダが…いない……!?


暗い駐車場の中を見渡すが、それらしい人影は見当たらない。


無事でいてくれ…!!


祈れば祈る程、苦い不安が心に募る。


すると背後で、最初に倒れていた奴が動いた。


誰かに銃を突き付けられる感覚がした。


「動くなよ?神谷……」


声の方向を振り向くと、男に銃口を向けられて立ち竦んでいるアマンダの姿があった。


来る筈もない仲間の狙撃を待っていたアマンダは、簡単に人質にとられてしまっていた。


―――――しまったっ…!!


俺の感情を読み取ったのか、男は“してやったり”と言わんばかりの憎たらしい顔でニタニタと笑いこう続けた。


「大人しくしてろ。でないとこいつの脳みそ……この場でぶちまけるぜェ?」


決してはったり等と言う生易しいものではないのだろう。


ましてや相手は傭兵だ。


傭兵は金さえ積まれればどんな汚れ仕事もやる、言わば“何でも屋”だ。


しかも、こいつ等の雇い主は恐らく“俺を始末しろ”と命じているのだ。


確実に彼等はこの任務を完遂しようとするだろう。


確かに早撃ちならば彼女の危機を切り抜けられるかもしれない。


しかしその後、残りの三人によってこちらは袋叩きの憂き目に遭うだろう。


かと言って俺が大人しく投降したところで、奴等は何の躊躇いも無く俺を殺す筈である。


そうなったら……、アマンダはどうなる……?


恐らくはクライアントに口封じされるだろう。


俺を狙うと知らされている追跡者は、同時に自分の事も消そうとしている。


彼女はそれに気付いていないのだろう。


いや、気付いていても彼女にはスナイパーがいる。


それも、相当腕の立つスナイパーが。


だが彼女は、作戦の要であるスナイパーが無力化されているのを知らない。


―――――不味い!!


俺は焦った。


彼女は完全に油断している。


こうなったら玉砕覚悟でガバメントを抜こうかと思っていたその時、ポケットのスマートフォンが震えた。


それは、まるで心に響く福音の様に。


“…兄貴…絶対に死なないでよね…”


モカの言葉が頭の中で何度も反芻される。


……そうだ…。


俺は…死ねない…。


まだ死ねないんだ…!!


諦めかけていた俺の心を、寸でのところでモカの言葉が救った。


一人で戦っていると思っていた。


だが、違った。


俺は一人じゃない。


それが分かった時、俺の中で新たな力が湧いてくる感じがした。


ありがとう…モカ…。


気付かれないようポケットの中で画面を見ずにロックを解除し、“スナイパーは仲間”と送った。


モカ……気付いてくれ……。


心の中で祈り、そして今自分しか出来ない事をやろうと俺も動き出す。


それは、モカとスナイパーが準備するまでの時間稼ぎだ。


交渉…もとい演技次第でそれは可能である。


……………よし……。


覚悟を決めて敢えて鼻につく言い方で会話を切り出す。


「じゃあ、これも立派な仕事だからなぁ。悪く思うなよ?………死ね、か―――――」


「―――――おい、あんた……少し待てよ……。俺と取り引きしないか……?」


「…………あぁ…?」


虚を突かれた様に男は応えた。


振り返った男の表情は、明らかに怪訝そうなものだった。


「取り引きだ?」


「……ああ。そうだ」


俺は男を真似て憎たらしく、挑発的に笑う。


男の口の端が微かに動いた。


「何の取り引きだ…?」


この隊のリーダーとおぼしき男は取り引きにかなり興味を示している。


……いける。


「ぷ……はっはっはっはっは……。そんな事も分からないのかい…?取引と言ったらこれしか無いだろう…?………ビジネスだよ。ビジネス……。マネーの事さ……君達も好きだろう?」


人質をとられているのは俺だがここで尊大な態度で男を嘲り、立場が逆だと錯覚させる。


こちらは平常心を装い有りもしない交渉を続けて支援が来るまでの時間を出来るだけ稼ぎ、準備が完了し次第敵を掃討する寸法だ。


「ビジネス………?マネー……だと………?」


「……俺達を逃がしてくれるのなら………金をくれてやると言っているんだ。………それに、傭兵は国の軍じゃない…………。なら、クライアントにはいくらでも言い訳出来るだろ……?」


俺の話しに反応した様に男の肩がピクリと動いた。


興味津々と言ってもいいだろう。


電灯に照らされた男の顔を見た限りでは、この傭兵部隊は中国、ミャンマー、モンゴル、チベット、この辺りのアジア人部隊と視て間違いない。


未だに紛争が続いている地域の傭兵と言う事は、当然目的は生活費と最新鋭の強力な武器を買う為のマネーだ。


そこで俺は思い切った事を言って揺さぶりを掛けてみる。


「うーん……そうだな……。今のクライアントの1.5……いや…2倍の額……でどうだ…?」


……ゴクリ…。


男は生唾を呑んだ。


彼等の反応からしてクライアントが支払った額は、相当高かったらしい事が簡単にうかがえる。


恐らくどこかの国のお偉方か、はたまた有名な団体か。


どんな奴等にせよ、かかった火の粉は払うだけ…………………ん…?


俺が思案し終わり男の様子に意識を移すと、男は夢見心地と言った顔(?)で何故か空を見上げてボーッとし始めた。


この男……。よく今まで殺されなかったな……。


心底思った。


「………………おい……。おい…あんた…………。………俺の話……聞いているのか………?」


「…………へっ…!?やあぁ……!、いや、き、聞いている…!!」


よだれ垂らして相当阿呆な顔(→(^q^)こんな顔)になっていた様な気もするが……。


絶対に嘘だが指摘する義理もメリットもない。


ここは彼の無様さに目を瞑ろう。


俺は気を取り直して最終決断をこの男に迫る。


「さあ……………あんたはどうするんだよ………?俺達を逃がして大金を手に入れるか……………。それとも…俺達を消して、そこそこの額の金で満足するか………。まあ、俺達の内どちらかを殺した時点でそれは叶わなくなるけどね…………。よく考えてから答えを出すといい」


こんなはったりが相手に通用するかは分からないが、こうなった以上はやるしかないのだ。


………頼むぞモカ……!間に合ってくれ……!


時間は稼げるだけ稼いだ。


後はモカとスナイパーを待って祈るしかない。


俺の取引内容を聞いた傭兵の男は、どう解釈したのかとても嫌らしい顔でニタッと笑った。


「……残念だったなぁ…?お前の男…、別にお前が死んでもいいんだとさ」


「………………」


動揺を誘うつもりだったのだろうが、アマンダは一行に口を閉ざしている。


初対面で、しかも自分達の命を狙っている奴にそこまで打ち解けて話せるとも思えないが……。


「……ケッ…。しかとかよ。…つまらねぇ女だ………」


大層つまらなそうに言うと、男は徐に拳銃のセーフティを外した。


「あーあ…、流石の俺も今のは傷付いたぜ……?」


「………………」


アマンダは全く応じない。


「……ふんっ…………優先順位は違うが……」


真っ黒なグローブに握られた鉄の塊は、微かに身動ぎして射撃対象の女にその視線を向けた。


「この距離だ。俺じゃなくても外せねーなー?」


これ見よがしに俺に目配せして銃を構え直した。


目測でだが弾道予測をした俺は戦慄した。


―――――狙いはアマンダの頭か……!!


俺は反射的に手を伸ばし、彼女の名を叫んだ。


「アマンダ!!」


“逃げろ!!”と言う言葉は、非情にも轟いた銃声に掻き消されてしまうのだった。


いかがですか。


やっと長かった改編にも終わりが見えて来ました。

この改編ばっかの文章を読んでくれてる方、私めっちゃ感謝してます。


話に関しては全然続きますし、失踪するつもりないですので気になさらずにいて大丈夫ですよ。


それでは、また次回でお会いしましょう。

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