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一級珈琲師神谷の最高傑作  作者: みたらし男子
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血塗られた始まり(ブラッディ・ゼロ):上司の召集

どーも、甘党だけど辛党。

みたらしです。


八月が近付くにつれて更に暑くなりましたね。

こんな時、私は冷たいアイスとか辛いラーメンが食べたくなります。

暑い中に辛いもの食べたいなんて………私だけですかね?


まぁ、そんな話は置いておいて、話の方をどうぞ。

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯


任務の途中で訪れた国会議事堂の正門の目の前を通り過ぎ、どこか近寄りがたい雰囲気のある警視庁の本部がそろそろ近付いてきたあたりに差し掛かる。


先程銃撃戦が繰り広げられた場所から遠ざかったためか人通りも普段通りで特に変わりはない。


日本人の危機感の無さに頭を痛めているのはどうやら特殊衛生兵われわれだけではないらしく、ここに来るまでに国会議事堂方面に向かう何台かのパトカーとすれ違った。


おそらくは先ほどの追跡時の発砲音を聞いた人の通報によるものだろう。


「テロ対策課も大変そうだな………」


現場に赴くパトカー達を横目に俺は独り言ちた。


勿論向こうから呼ばれればそちらへ行くし情報提供も惜しまないつもりではある。


しかしこっちにも組織があって上司の用事を反故にする訳にもいかない。


それに今はなるべく目立たないように歩きで先程綾女と別れた場所を目指しているところだった。


引き返すには遅すぎた。


彼らが呼ばれた案件に恐らく関わったであろう特殊衛生兵として多少の罪悪感はあるが、そもそも職業が違うのだからどうしようもない面がある。


…………………………。


綾女………つまり特殊衛生兵日本支部の局長からの招集命令もあり一応警備の任務からは解かれた。


否………ほとんど抜けたてここにきた様な訳だが、あの不気味な男の存在が頭を離れることはない。


自分から脅威が遠ざかったとは言え、当事者でもある俺はあの男を無視することなど決してできなかった。


相手が属しているであろう謎の組織を考えるにつけても。


常軌を逸したあの男の能力を鑑みるにしても。


……………。


もちろん個人的な理由にもしても、だ。


やつは一体何者なんだ………?


桜田門への道のりは遠く、その足取りは鉛の如く重い。


俺は疑問の答えを探し求める。


その疑問の答えは考えたところで出てくるものではないのにもかかわらず。


あの男を逃してしまったと言う罪悪感を紛らわす為に姑息に自己防衛として考え事に逃げているのだろうと頭では理解できる。


だが理解する事と行動を起こす事は必ずしもイコールではないと言うのもまた事実。


あの状況下において上司の綾女からの命令に応じた様に、あの時に既にあったはずの俺の理解は追跡するという行動には繋がらなかった。


綾女からの召集を無視してあの男を追わなかった事は………本当に正しい判断だったのだろうか。


……………。


疑問は募る。


後悔も増す。


その割りに答えは一つも出てこない。


分かり切っていた事だが結局この考え事は暗礁に乗り上げるだけであった。


…………………………。


底の無い思考の海に潜っていた俺は、指定された桜田門の目の前に来るように言われていたのを忘れて通り過ぎようとしていた。


そんな時どこからか聞き覚えのある女性の声が耳に届いた。


「………あら…?遅かったですわね?」


落ち着き払ったメゾ・ソプラノ。


その声にふと振り返ると黒く艶々した綺麗な長髪を後ろに縛り編み込んでいる女性が見えた。


彼女はどこを目指しているかも忘れ下を向いて歩く俺を目指してゆっくりと歩み寄る。


まあ………精神的に参っている今の俺がその人が一体誰なのかと言うのを認識できたのかと問われればなんとも言い難い。


見る者を魅了する綺麗な黒い瞳が俺を射抜いた。


「一茶、おかえりなさい。……………?」


その言葉を聞いてやっと声の主が自分の上司の綾女であると思い出す始末。


我ながら混乱しているにも歩道がある。


「………あ゛ー…意外に早かったですね綾女さん………」


いつもの無茶振りをしてくる上司の言葉にすら頭が追いつかず呆然として全然口が回らない。


「……………………」


普段とは違い不自然に静かな俺の様子を訝しく思ったのか、綾女は黒水晶の瞳でじっと俺の目を見詰める。


俺の心情を読み取っているのだろうが読まれている俺にその自覚はない。


気が付けばギリシア神話のメデューサの眼を見てしまったかの如く彼女の目を見たまま動けなくなっていた。


…………………………。


見詰め合ってから数十秒が過ぎ、彼女は何かを感じ取ったのか短く嘆息して呟いた。


「ふぅ……………動かないで?」


そして呟くや否や唐突にどちらからも手が届くくらい距離を詰めた。


先の読めない彼女の行動に俺はたじろいで半歩程後退する。


「………………え……?」


「えい」


彼女の両の手がスッと動いたかと思ったら、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。


…………………………。


……………。


どうやら顔を両手で挟まれうにうにと揉まれているらしい。


…………………………。


俺の顔はパンの生地とかじゃないのだが。


「…ぅむ……………………何すんですか……?」


「………元気は…出たかしら…?」


声のした方に少し困った様な表情をした彼女の顔があった。


……………?


心配……とは少し違う、俺の知らない感情を宿した目をしていた。


「……………。まぁ………多少は…」


「……ふふふ。良かったわ~」


心ここにあらずではあったが俺の返事を聞いて彼女はいつも通りのテンションに戻った。


綾女は色白で綺麗な肌をした掌を重ねて上品にはにかみ、バレエの要領でくるりと片足で回ってゆっくりと歩き出した。


……………。


「一茶?早くこちらに来なさい。置いて行きますわよ?」


少し離れたところでこちらを振り返った。


どこか妖艶さを含んだ彼女の微笑みは、さながら女狐のそれであると俺は思う。


「…………はぁ………。また命令ですか?」


「ええ。もちろん」


ニコニコ笑いながら職権を最大限振るう上司と、その上司の命令に従うしか無い悲しい部下の分かりやすい図であった。


そんな二人が歩くこの都市の空は清々しい日本晴れであった。


彼女が俺を呼んだ理由はさて置き、先を歩く綾女の背をえっちらおっちら追て行く。


わざわざ綾女が俺に押し付ける案件だ。きっと碌でも無い事に違いない。


そんな失礼な予想を立てながら。

いかがでしたでしょうか。


読んでくださりありがとうございます。

楽しんでいただけたのなら嬉しいです。


まだまだ暑くなると思いますが、身体を壊さないように気を付けて下さいね。


それではまた次回。

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