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一級珈琲師神谷の最高傑作  作者: みたらし男子
1/16

始まりとは甘いもの

どーも。お久しぶりです。みたらしです。


えー…。まぁ…長らく(約1年)待たせてしまったので忘れてる人が大多数だと思われますが、めげずに改編してみました(改編前の宣言通り)。


少し(?)休んでたからといって「何っ…!?文章力が上がっている…だと…!?」みたいなことは有り得ませんので、いや、物理的にも能力的にも。なので、そこに関しては母なる海の様に寛大で生暖かい目でみていただきたいです。はい。


内容自体はあまり変わってない筈(読者視点とは言ってない)なので、「はじめから読むの面倒」とか「時間がもったいないわ」と思う方は新しいところからでも読んでもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。

○●○●○●○●○●○●プロローグ○●○●○●○●○●○●


●●●○○ ○○○●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


古びた喫茶店で一人の男が呟いた。


「…まあまあ…ですね」


手にしたアンティークの白いコーヒーカップをゆっくりと傾け口を濡らした男はまた口を開いた。


「ですが…初めてにしては上出来です」


それは、師が弟子の成長を喜ぶが、それでもその道のりは長く、そして進むに連れて険しいものになっていくと伝える様な、簡単には喜べないささやかなる称賛だった。


そう言った彼を見ながら初級珈琲師試験の受験者である彼女は深々とお辞儀して「ありがとうございますっ」と言った。


彼はそれを見て、脳裏によく知る少女の姿を思った。


男の名は神谷 薫。世界に13人しかいない一級珈琲師の一人にして、日本で三人目の一級国家珈琲師の資格を持つ男である。


その男は徐にカップをテーブルに置き、代金を払うと黒い外套を翻して立ち去った。


店内に一人残された国家珈琲師受験者の少女は、コーヒーカップの下に洒落た模様の入った小さなカードが挟まっていたことに気が付く。


「…?……これは……」


それは、彼直筆の初級珈琲師試験の合格証明書であった。


それを見て、彼女は改めて実感した。


今、ついさっきまで目の前にいた彼は本物の一級珈琲師だったのだな。と。


店の出入口から鳴るベルの音を聞いた彼女は、アルミのトレーを胸に抱き短い吐息を漏らすのだった。


○●○●○●○●○●始まりとは甘いもの○●○●○●○●○●


●●●神谷 薫●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


珈琲師抜擢試験の試験官の仕事を終え、ようやく帰路につく。


時刻は既に6時を回り、徐々に肌寒くなり始めた。


ふと何気無く少しコンビニの方をを見ていると、三十代前半くらいのサラリーマンがコンビニからアイスを買って出てくるところだった。


「………」


何か買って帰った方が、モカは喜ぶだろうか…。


……はっ…!?いかんいかん、師匠なのに弟子を甘やかしてどうする!?


歩きながらそんなどうでもいい類いの葛藤に苦しんでいるところで、胸ポケットのスマートフォンが震えた。


けたたましく鳴る着信音に嫌々ながら応えてやると、異国生まれの珈琲師の流暢だが極めて不可解な内容の日本語が聞こえてきた。分かりきっていた事ではあるが。


『もしもし、あなたー?元気ー?』


「………モカ…。俺に妻は居ないはずだが?」


ビクトリア・Q・モカ。


現在15歳の彼女は俺と今世界中を一緒に旅をしているロシア生まれの女の子で、若冠13歳にして世界最年少の一級珈琲師に成った天才美少女である。


恐らくモカが俺を慕ってくれているのは、ロシアにいた頃育ての親から逃げて来て行き場所が無かった彼女を…………俺が…引き取ったからだと思う。


実を言うと俺が12歳で見習い珈琲師だった時、そんな身寄りが無かった当時10歳のモカが不憫に思われたので珈琲師の見習いという体で弟子にしたのだ。


それ以来俺は彼女と一緒に旅をしている。


行く先々でコーヒーに興味を示す彼女に、俺は先生に学んだばかりの技術や知識を全て教え込んだ。


『ちぇー、何だよ兄貴、ノリ悪い…。ちょっとぐらいいいじゃん!!たまには私と遊んでよね!?』


「生憎だが、俺はそんな唐突に不可解極まりない無茶なノリを強要してくる妹なんて知らないよ…」


『も〜……じゃあ遊ばなくてもいいから……その、でっ、デートしよ!?い、一緒に何処かのお店に行ってコーヒー飲も!!…ね………!?』


?いつもの彼女より少しぎこちない上に、支離滅裂な気がするが。


「ん………ああ。そうだな」


…………………………。


どうやら、それどころではなくなってしまったらしい。


相槌を打ったところで、後ろの電柱に明らかに殺意を持った人の気配が現れたのを俺は察知した。


「……ちょっと急な仕事が入ったけど、終わったら一緒に行こうか」


『……絶対だよ?絶対だからね……!?』


この様子だ。電話越しにモカも気が付いた様だな。


「…ふぅ……当たり前だ」


『……よしっ………!じゃあ…兄貴…………怪我…しないでね………?』


「ははは、気を付けるよ」ここで俺は通話を切って、ホルスターの中で黒色に輝いているガバメントに手を伸ばす。


手が冷たい殺意の形状をとった金属に触れ、次第に俺の心の波が凪いで静かになって行く。




―――――そして、心の揺れは完全なゼロと成る。




彼女がここまで心配するのも無理は無い。


反珈琲連合……否珈琲師をはじめとした特殊衛生兵をよしとしない民間左翼団体。


俺たちはそれらの組織をこう呼んでいる。



簡易革命インスタント



それらの過激派によるテロ活動を阻止してコーヒーを始めとする趣向飲料を振舞ったりし平和を世界にもたらす。


つまりそれは悪を摘み取り幸せを拡げることでもある。


それこそが一級国家珈琲師に求められる真の仕事であった。


…………………………。


襲撃者もといテロリストが勢い良く飛び出した。


人数は読み通り一人。


路上駐車の車のミラーに映る男は拳銃、黒星を手にしていた。


粗雑と言えど銃は銃。侮ってはいけない。


ほんの数年前まで、日本の民間人が銃を持つ事は無かったというのに。


全く、物騒な世の中になったものである。


振り向き様構えられた黒い銃の銃口は、洗練された美しいの軌跡を描いてその銃の急所を正確に見据えていた。


「―――――味わえ」


漆黒の拳銃から放たれた鉛弾が悪を貫く。


街に流れる風の香りに火薬の臭いが混ざったのは次の瞬間だった。


●●●ビクトリア・Q・モカ●●●●●●●●●●●●●●●●


カランコロンとアイスコーヒーに浮かぶ氷を金色のスプーンでかき混ぜながら私は冷静に尋ねた。


「ふーん……。じゃあ、そいつ、ただ依頼されただけだったの?」


「ああ。入院中の彼の様子からして、十中八九そうだろうね」


「……兄貴って、命狙われているっていうのに…全然余裕よね」


これは断じて皮肉などではない。


私の恩人でもある一級珈琲師神谷は珈琲師としての腕だけでなく、拳銃による通常射撃は勿論のこと早打ちでも正確無比な射撃が可能と言う人間離れした射撃術も身につけている。


一級珈琲師は通常キラーライセンスをもっているものだが、彼がそれを行使したのを私は一度も見たことがない。



―――――実弾で確実に生け捕る。



彼は実際に今回の奇襲事件でも実行犯を負傷はさせたものの殺してはいない。


つまり彼は敵に情けをかけられるほど強いのだ。


「ははは、これでも苦戦しているんだけどな」


神谷はコーヒーカップ片手に苦笑した。


私は呆れるのみだった。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


今日は私がじゃんけんに勝ったので、兄貴に奢ってもらい店を出た。


こう言う勝負の時だけ何故か彼は弱いのだ。


少しだけ勝った様な気がする。


「あ〜あ〜。せっかく久し振りのデートだからもっと高いの頼めばよかったかなぁ〜」


「……おいおい。勘弁してくれよモカ…」


兄貴はこっちをゆっくりと振り向いて分かりやすく困った顔をした。


私はそれを見てニヤリと笑って返す。


………やっぱりいいなぁ…こういうの…。


兄貴をいじっているので余裕そうに見えるかもしれないが、内心、私は頭から湯気が出て来そうなほど緊張している。


あぁ……待って、ヤバいヤバいヤバい……ヘ、変に…にやける…。


そろそろ表情筋の方が限界だったので、一気に話題を反らす。


「じっ、ジョーダンだよ、ジョーダン!!さっ、USJってトコに連れてってくれるんでしょ?」


「まあ、そうだが…。おい、他の人の迷惑になるからあんまりはしゃぐなよ」


「……はぁーい……」


緊張と恥ずかしさの余り兄貴より数歩先に歩いていた私は、カクカクした動きで彼の隣に戻った。


はぁ…。また、兄貴に怒られちゃったな…。


ちょっと落ち込み気味になった私は少し俯いて歩き出した。


すると不意に隣から兄貴の温かい右手が私の左手を包んだ。


心臓が一際大きな音をたてた。


「っううえっ!?///兄貴っ!?てってて、手ぇにぎっ…!?なっ、ななな、な…!?///」


あまりに唐突なので驚いて変な声が出てしまった。


自分の鼓動がいつもより大きく聞こえる。


顔が熱い。


どうしよう、どうしよう、どうしよう…!………とりあえず、落ち着いて…訊いてみよう…。


「……な……何…?///」


………少しくらい…期待しても……いい……のかな……?///


私の問いかけに、半秒程思案顔になっていた兄貴は柔和な笑みを浮かべて口を開いた。


「?何って、モカは昔から方向音痴だから、迷子にならないようにって」



……………………………。



「………へ…?」


「?…どうかしたか?モカ」


………つまり、兄貴は……私を子供扱いした…と………。


あー、はい。これにはカッチーンっときた。


思った時には体が動いていた。


「……兄貴っ…!!」


「ん?」


私は彼の右手を思い切りグイッと引っ張り、成長中の自分の胸に押し当てた。


「なっ、ちょっ!?お、おいっ…!?モカ、何してっ……!?///」


今度は兄貴が変な声を上げる番だ。珍しく顔も赤くなっている。


離れようと静かに抗議する兄貴の手を押さえ付け、顔どうしの距離を切迫させた。


視線が絡む。


吐息がかかる。


時間の流れが遅くなる。


ああう…。兄貴との距離が…近いっ…!!


勿論、緊張はしている。でも、これだけは言わなくちゃ私の気が済まないから。


一つ、息を吸って。


「わ…私だって…成長してるのよ……?子供扱いはしないでっ……!!///」


自分では見ることは出来ないが、今の私の顔は今世紀最高に赤くなっているだろう。


そんな見るに耐えないであろう私に対して彼は。


「………悪いな、モカ…。子供扱いして…」


素直に、私を一人の女性として認めて謝ってくれた。


嬉しい……。


私も素直にそう感じた。


「わ…分かればいいのよ…分かれば…///」


「………おほん……。じゃあ…俺も一つ言わせてくれないか」


「…何?///」


「………その…何だ。モカ……?………そろそろ…”手”を離してくれないか……?」


「”手”…?」


彼に言われて、右腕に視線を下ろすと。


―――――私の胸を、鷲掴みにしている―――――!!?


※自分で押し付けていることに気付いていません。


気が付いた頃には反射的に一本背負いをしていた。


「きっ、きゃああああっ!!///」


「うえあああああ!?」


兄貴は硬いアスファルトの地面に背中から叩き付けられ、痛々しい鈍い音を響かせるのだった。


後に彼は「人生で最もあの世が近く感じた瞬間ベスト5には……間違いなく入っていると思うよ」と語っている。


●●●神谷 薫●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


俺とモカは無事(俺を除く)USJにたどり着き、色々なアトラクションやイベントに参加した。


今これを言ったところで言い訳にしかならないが。……参加は……そう…。参加は…したんだ。


心臓を模した結構趣味の悪いペンダントを首から下げた金髪美少女が、実に味気なさそうな表情を顔に張り付けて喋り出した。


「……ねぇ兄貴……、これ…意外につまらなかったね…」


「………まぁ……職業柄こう言う風になるアトラクションもある………って事なのかな……?」


ここのスタッフ達には悪いが、恐らくモカのこれは本心なのだろう。


ハロウィン限定らしいゾンビから追いかけられると言う夜のイベントらしいのだが……。



―――――誤算だった。



俺もモカも職業柄見えない人の位置や相手が次にとる行動が分かるので、お化け屋敷を筆頭とするこの手のアミューズメント施設は全くと言って良いほど楽しめなかったのだ。


……安易にこのアトラクションを選んだのは…失敗だったか…。


そんなことを思っている俺の心情を読み取ったのかモカが話しかけてきた。


「…あぁ〜…でっ、でも、私は今日スゴく楽しかったよ!?その……兄貴と一緒だったし……?」


なぐさめとしか思えない言葉が耳に入って、俺は女性に気を使わせてしまったと言う罪悪感で非常に胸が苦しくなる。


「…そうか…ありがとうモカ」


「……じ、じゃあ、速くホテル行きましょ?汗かいたから私シャワー浴びたいし……その…兄貴と…緒の…ッドで……その……既…事実…………やっぱり…若…故の過……」


彼女は黒いシャツの胸元を摘まんでヒラヒラとさせた後、俯きつつ小声で呟いた。


最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかったが。


「?………まあ、そうだね。疲れたし、俺も早く寝たいかな」


彼女はガバッと満面の笑みを称えた顔を上げ、「速く速くぅ〜」と嬉しそうに俺の腕を引っ張って行った。


ははは。モカ、ホテルの場所は逆だぞ?


俺は心中で笑った。


ほんの少しだけ、たまには寄り道もいい気がした。


この時、遠くから若い二人の男女を見る目があったのを、誰も知らなかった。


無論、俺でさえ。


●●●ビクトリア・Q・モカ●●●●●●●●●●●●●●●●


悪趣味としか言い様がない禍々しい柄のケースに入った、これまた毒々しい色のお菓子をお土産として同僚の人達に買い、兄貴が予約をとっていたホテルに向かって歩を進める。


少し肌寒さを感じる秋の夜風が、私の感情をなだめる様に頬を撫でた。


まあ、それが収まればの話だが。


「もうっ…兄貴、あの時私に言ってくれれば良かったのにさぁ…」


「余りにも迷いが無い様子だったからついね。…それに、道草も悪くなかったよ」


ははは、と笑って彼は私に上着を被せた。


彼の温度が私を優しく包み込む。


「…あ、アリ…ガト…。兄貴…」


鼓動が心なしか少し速くなった気がした。


緊張で紅くなったのを気取られないように、被せられた上着に顔を埋めると。


「モカは優しいな」


彼は呟いた。


「そ、そんなの…あ、当たり前でしょ…?」


だって、私はアナタを一番愛してるんだから。


口にする直前、吐息となった愛の言葉達が空気に融けていく。


「………俺はモカと一緒にいれて…すごく楽しい」


横を歩く兄貴が立ち止まり急にそんなことを言ったので、流石に驚いて振り返らされてしまう。


「…………え…?い、いきなり何よ…///」


私はそっぽを向いた兄貴を見詰めたまま、どうしていいのか分からなくなった。


兄貴…私は……。


「だから……モカを死なせたくないっ!!」


次の瞬間、私は彼に抱えられて空を跳んでいた。

私達が空中にいる時、遠くから私達が耳慣れた類いの軽い破裂音が耳に届いた。


それは、命を穿つ鉄の鳴き声。


銃声―――――!?


つまり、私達は今。


狙撃されている―――――!?


衝撃が彼の体を大きく揺らし、直後神谷は小さく呻いた。


防弾チョッキを着ていたのが幸いしたが、神谷を襲った銃弾は正確に彼に着弾した。


彼は地面に足が着くなり、猛スピードでアスファルトを蹴って路地裏に滑り込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁっ……くっ……一体いつから……!?」


息を切らせた神谷は愛銃ガバメントを取り出して言った。


「…クソッ……相手はスナイパーか……。少し分が悪いが…やるしかない。距離は約500m…恐らくあの茶色のビルの屋上だ。防弾チョッキを貫けなかったことからして、アーマーピアスは持っていないと判断。……モカ、あいつを捕まえる……ぞ」


早急に判明した情報をまとめ、状況説明を終えた彼の視線は何も出来なかった私を射ぬいた。


「……兄貴…ゴメンっ…ホントにゴメンっ…!!私がもっとちゃんと周りに気を配っていれば…こんなことには…」


「…モカ……」


私の頬を涙がつたいコンクリートの地面に落ちた。


コーヒーに関しての知識が有ってたとしても、実戦では私は無力だった。役立たずだった。


神谷がこの場にいなければ、私はとうに死体になっていた筈だ。


訓練ならまだしもこれは実戦。


向けられるのは本物の殺意。


それなのに、私は彼に、神谷に助けられた。


言葉にならない後悔が胸を満たしていく。


溢れる涙でどんどん視界が歪んでいく。


「……だから…他の珈琲師を呼んであいつを―――ぅきゃっ…!?」


私が言葉を言い終える前に、神谷は優しく、そして強く私を抱き締めた。


驚いて最初は抵抗したものの、やがて力を抜いて瞼を閉じて彼に身を任せた。


……兄…貴…。


早鐘の様に早くなった私の鼓動が兄貴に伝わっているとか思うと、私は無性に恥ずかしく思えた。


緊急時だと言うのに、夢の様に幸せな時間だった。


ずっとこうしていたいと思った。


だが幸せな時間というのはは呆気なく過ぎさってしまう。


私が名残惜しい顔をしていると、彼は赤面しながらも私を真っ直ぐ見詰めて口を開いた。


「俺のパートナーはモカ、君だけだ」


「……っ…でも」


いくら兄貴に励まされても私は自信が、勇気が出なかった。


自信を出そうとすると、いつもロシアにいた頃の忌まわしきトラウマが蘇って邪魔をする。


過去と言う名の化け物が、嘲笑う様に言った。


“―――――邪魔ね。ビクトリアが―――――”


“―――――使える子だったらもっと楽だったのに―――――”


「……おほん…」


兄貴は私の悪夢を追い払う様に咳払いをして喋り始めた。


「…あに…き…?」


「………よく聞いてくれ…」


彼は意を決した様に息を吸い、少し経ってから話し出した。


「……モカ、その……俺には…君が必要だ///」


「―――っ///」


「俺の自慢の…最高のパートナーだ///」


「…ぁ………の……///」


「君は今も成長してるんだろ?」


「…………うん…」


「なら…君は……会って間も無い君よりも…十秒前の君よりも……絶対に強い筈だ」


「……………」


いつも私は兄貴に、神谷に励まされてばかりだと感じて、少し悔しくなった。


よくこんな恥ずかしい台詞を真剣に言えるなとも思った。


でもそれは真面目で、恥ずかしくて、今の私に必要な強い言葉だった。


そして、その真面目で、恥ずかしくて、強い彼の言葉は今にも消えそうだった勇気の炎を、大きな火炎へと再び燃え上げさせた。


「…ぁ…兄貴ぃ…」


彼の強い優しさが嬉しかった。


私の弱い心が優しさに包まれて、思わず嗚咽が漏れそうになった。


「だから……モカ」


「………?」


私の頭を撫でた彼はニヒルに笑って呟いた。


「さあ、あいつに俺の最高のパートナーの成長を自慢しに行かなきゃね」


彼がそう言った時。


「グスッ……うん…」


もう私の中に迷いは無かった。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


私達は二手に別れてビルに浸入した。


神谷は西側、私は東側である。


私はスチェッキンを取り出して警戒しつつ、音をたてない様に階段を登る。


この旧ソ連製の拳銃は、フルオート射撃ができ、単発に切り替えれば精密な射撃も出来るという頼もしい武器だ。


実戦の冷たい空気が首筋を舐める。


15階を通り過ぎた辺りで人の気配を感じ取った。


―――――ここだ。ここにいる。


部屋にいる人の数は二人。場所は18階。


どうやらあの襲撃者は屋上から降りて、ゲリラ戦に持ち込むつもりらしい。


私は意を決し鉄の扉を音をたてずに押し開けて、4メートルほど部屋の壁を伝って進んで行く。


すると、そこには二人の男がいるのが見えた。


手前にいる方の一人の男は立っていて、寝そべっているもう一人の男を罵倒しなが踏みにじっていた。


何と言っているかは分からない。ロシア語でも、日本語でもない言語だ。


一体何語なのかは分からないが、その様子からとても機嫌が悪そうに聞こえる。


闇に馴れてきた目で見ると踏みつけられていたのが、神谷だと分かった。


………っ!!


今すぐにでも助けに行きたかったが、彼は手話で“逮捕先決”と言って私を制した。


っ……分かったよ神谷。


息を殺し心中で神谷に言って、物陰から彼の合図を待った。


…………………………今だ!!


彼の立てた作戦は即席だというのに、鮮やかそのものだった。


まず同時に二人で別に動いて狙われた方が囮になり、ビル付近から隣のビルに狙撃手の気を反らす。


その隙にどちらかがスナイパーのいるビルに一気に入り込む。


狙撃手なら直ぐに二人いない事に気が付く。


スナイパーは待ち伏せか逃走をしなければならなくなるので、逃走する場合は囮役が外から逃走ルートを塞ぎロープ等で降りてきたところを確保する。迎撃するつもりなら突入役が罠等に気をつけながら速やかにスナイパーを無力化する。


どちらに転んでもそう簡単には逃げれない。


作戦は実行に移され、スナイパーは私を狙った。


その場で神谷が突入し、結果としてスナイパーは迎撃体制に入った。


さらにスナイパーに離脱の意志が無いと思われる場合、二人で無力化する事になっていた。


そして今がその時だ。


合図の直後、私は物陰から飛び出してスナイパーの背後から近付いた。


音も無く背後から右甲骨を正拳で打ち砕く。


メリメリと音をたてて筋肉の中の分厚い骨が割れる感触が、右拳介してを伝わってくる。


「ぐおっうっ………!?」


背後からの突然の襲撃に伸びてきた左手をぱしっと掴み、合気の要領で引っ張り回しそのまま豪快に腹這いの状態に投げ転がす。


その左手は掴んだまま後ろに回してスナイパーの背中に馬乗りになり、銃口を後頭部に押し付ける。


「動くな!!国家珈琲師権限により、あなたを逮捕する!!」


そして、今回も彼は犯人を殺すことなく捕まえたのだった。


「……動けるか………よ……」


その断末魔にも似た言葉を残してスナイパーは気絶した。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


今日の私はどこかおかしい。自分でも分かる。


「…ふぅ……」


曇った鏡を手で拭い、そこに映っている自分の姿を見ながら考える。


兄貴は私を最高のパートナーだって言っていたが、結局私の事は好きなのだろうか。


だとしたら、兄貴は私を受け入れてくれるだろうか。


………もしそうなら……これから兄貴を、支え続けられるだろうか。


等々兄貴のことばかり考えつつ、白いバスタオルに手を伸ばす。


シャワーを浴び終えバスローブを羽織った私がバスルームを出ると、ソファーの上で寛いでいる兄貴の後ろ姿が目に入った。


彼は芳ばしいコーヒーが入った白磁の器を右手に、ちらとこちらを見てまた前に向き直った。


恐らくアメリカンコーヒーだろうと分かったが今の私はそれどころではない。


ホテルの中で兄貴と二人きりというこの状況が、私を言い様の無い変な気持ちにさせていくのだ。


まぁ、そう言う類いのホテルではなくここはただのビジネスホテルなのだが。


悶々と不健全な事を考えているとそれを知らない彼は唐突に私の名前を呼んだ。


「……モカ…?」


「へっ!?なっ、なな…何…?」


白熱した思考ではまともに話すことすらも儘ならない。全く困ったものだ。


トニックシャンプーの香りをさせた彼が白磁の器ををテーブルの上に置いて言った。


「…さっきの狙撃事件の犯人、君がいなかったら…きっと逮捕は出来なかった。……ありがとう」



―――――ドキン



ああ、胸が高鳴る。


彼が言ったお礼の言葉がただ純粋に嬉しかった。


私は…やっぱり神谷が好きだ。彼を愛している。


この胸の高鳴りは私にそれをより明確に実感させた。


そしてそれが分かって………また嬉しくなる。


どんな時でも恋人に対して想いを伝えるには勇気がいる。私はそう思う。


でも私は………彼に、兄貴に、神谷に、過去を打ち破るだけの力と、想いを伝える為の勇気をもらった―――――そんな気がした。


―――――だから。私の我が儘に、お礼も兼ねて。


「………ふふ〜ん♪…じゃあ……さ。………兄貴…キス…して?」


私はいたずらっぽく笑って彼の近くで目を瞑り、彼が受け入れるのを待った。

いかがですか。

いやまあ、「休んでたのに加筆と書き方変えただけかよ!」みたいな気がしなくもないですが。その辺はモカちゃん曰く成長期なんで許してやってください。(みたらしを)

……ふぅ……にしても、あれですね。

久々だったけど、文章書くのってやっぱり楽しいですね。


これからも……。あ……、まだ改編が終わりきってない。


改編が終わり次第新しい章が始められますので「えー?まだ改編続くのー?おせーよー作者仕事しろよ」みたいな方は………あれだ。待っててくれると助かりますねっ!!私としては!!


えーと、改めて心機一転してまた書いていきますので気軽に読んでいただけたら嬉しいです。


それでは。また次の時に。

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