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異世界は手遅れだ!  作者: ゆーじ
もう手遅れ!
8/21

2-3:戦力が足りない

 その林といえば、ちょくちょくと手入れされているのか、無造作に生えている草などは短くされていた。


 所々にはそこまで大きくない石畳もぽつぽつと置かれている。埋められているというよりかは置かれていると言うのがあっている。

 軽く足で小突くと動きそうだ。



 木も無駄な枝は切り揃えられていて、自然な感じは見受けられなかった。そして足元にはたくさんの花が咲き誇っていた。

 花の名前はわからないが、綺麗な花が多い。別に花を愛でるような女々しい趣味はないが、久しぶりに見た安らかな場所に心が落ち着くような気分になる。


花を踏まないようになるべく石畳の上を歩く。


 そういえば、先客がいたなと思っているの、その人影が木の陰に見えた。


 別に盗み見るつもりもなかったが、なんか雰囲気的に声もかけづらく、ゆっくり後ろから近づくようなかたちになってしまう。


 その女性は後ろ姿だが、美しい金髪で腰まで流されている。しゃがんでいるから地面につきそうだ。


 花を見ているのだろうか、こちらには気づいていない。


「えっ」


 よく見ると足元には剣が置かれていた。まさかこんな優雅な人がそんな物騒なものを持っているとも思うまい。


 声を掛けようと思ったが、なにか面倒なことになりそうな第六感が警鐘をなりしていたため、ここはもう帰る事にする。


 広臣は後ずさるとパキっと踏まれた木の枝が折れる心地よい音が耳に響き渡った。

 なんてベタな! と自分を呪う。


 その音にその女性が振り向いたと思った瞬間、風が吹いた気がした。と、同時に目の前にはもうその女性がいた。


 何も見えなかった。何が起きたのか理解しようと3秒ほど止まっていると、首元に剣が据えられているのに目がいって、ひやりと体が真から冷めていくのを感じた。


「何者だ」


 凛とした短い言葉だった。しかしそれに含まれる言葉の重みに息を飲んで答えられなかった。そしてそこでやっと彼女が誰だか理解した。

 仰々しい鎧を纏っていなくて印象ががらりと変わったせいで気づくのが遅れた。その立ち姿は肌着で、スラリとした体のラインが女性らしさを誇張していた。


 その広臣を鋭く見据える彼女――エマ・キャヴァンディッシュは依然、澄んだ

瞳で広臣をまったくの隙も見せずに続ける。


「私の魔力感知にかからず近づくとは大した奴だ。只者ではあるまい」


 魔力感知? なんのことだ説明しろ。と言ってやりたいのだが、下手なことを言うとそのまま首と胴体が離れてしまいそうなので口を紡ぐ。

 別の事を考えろ。

 そもそもなんで彼女は広臣に剣を向けているのか。


「あ、あの。その前にその剣を下ろしてはくれないか」


「それはできんな。見た目は小汚いが、相当な手練の可能性は拭えない」


 誰が小汚いだ。そしてこいつは誰かに命でも狙われているのか。発想が物騒すぎるだろう。


「……俺は一般人だ。魔法とやらも使えないし、ただこの林が気になって来ただけだ」


「む。確かに魔力は感じないな。こちらも疑って悪かった。すまないな」


 そう言うとエマは剣を下ろして先ほどの射抜くような視線も嘘のように消えていた。

 人に剣を向けておいてその程度の謝罪なのかとテキサスクローバーホールドでもくらわせてやりたいが、それをすると首と胴体が離れてしまう。

 ちなみにテキサスクローバーホールドとはマックマウントを取って相手の足を持ち逆海老反りさせるプロレス技である。



 なにかやり返したい気持ちがあるが、首と胴体が健康でいられる範囲で言ってやりたい。


「花でも愛でていたのか」


 これはただの感想。この凛とした姿のエマはそんな女の子らしい事をしているような印象は受けないのだが。

 その呟きにも似た言葉に、予想以上にエマは反応した。


「べべ、別にそんな花を愛でていたわけでは! そんなここは沢山花が咲いているから、この街に来るたびにここで花を愛でているわけではないっ!!」


 どうやらここで花を愛でていて、この街に来るたびにここで花を愛でているらしい。


 顔を赤らめて必死に否定するエマを見て思わず笑ってしまう。いい意味で印象が変わった。

 あの鎧をまとっていた騎士としての姿とは似てもにつかない。


「わ、笑うな! 別にそんな女の子らしい趣味はない! 私は騎士なのだ! 人々を守る象徴として強く、凛々しい姿でいなくてはならないんだ。そんな私が女の子らしいなどありえん」


「わかったよ。そういうことにしておこう」



 エマはまだ何か言いたげだったが、これ以上追求はしない宏臣に何も言わなかった。


「それにしても君は何者なのだ。これでも私は国家直属の騎士だ。その私に気づかれないで簡単に近づけるなんて信じられん」


「何者と言われても……。猪にすら苦戦するただの一般人だが」


 猪? と首をかしげるエマに広臣は何でもないと続ける。

 それより、とても大物と出会ってしまった。この際少しでも友好を深めておきたいし、顔見知りくらいの関係になっても損はないだろう。



「キャバンディッシュさんは――」


「――長いだろう。エマでいい。それに『さん』などいらない」


 予想外に向こうもこちらに興味を示していてくれたらしい。これは良い誤算だ。


「エマは騎士だろう。さっき街を騎士軍団が歩いているのを見てな。この街に来たということは、魔王軍がこの街に近づいているという認識で間違いなないか?」


「ほう。ちゃんと頭の回るやつもこの街にいたのか。君は――」


「――広臣でいい」


 ふっと彼女は笑う。


「ヒロオミはこの街の住人なのか? 確かにこの街に魔王軍の一部が攻めてくるという情報がはいっている。しかし混乱を抑えるためにまだ好評はされていないがな」


「昨日この街に来たばかりだ。親切な人に住まわせてもらているがな。それにしてもそんな情報教えてもいいのか? 俺が周りにバラしてしまったも知らんぞ」



「そんな人にバラして回すような奴には見えないな。まあ、バラしてしまってもみんなそんな曖昧な情報信じないだろう」



 確かにそうだなと呟く。

 1人の男がそんなことを言っても誰も信じないし、まあ魔王軍なんていつ攻めてきてもおかしくないから、笑って飛ばされるだろう。



 もちろん、そんなこと誰にも言うつもりはない。感のいいやつは気づいていることだろうし。



「正直俺は魔族とやらも魔物とやらの見たことはないんだが。……なんだ、勝てるのか?」


「無論だな。こちら100の騎士と50の魔導隊、1000人の歩兵がいる。10000の魔物など敵ではない。魔族が厄介だがそんなもの私が全て屠ろう」


「随分な自身だな。花を愛でている年頃の女の子とは思えん」



「な、何を言う! だから花など……!」


 それほど花の件が恥ずかしいのかエマは必死に否定する。

 なぜそんなに恥ずかしがるのか。騎士として刺すような尖った雰囲気ながら、花が好きというギャップというのもいいものだと思うのだが。



 エマは紛らわすように軽く咳払いをする。


「騎士は凛々しく、そして強くなければいけない。決して女の子のような弱々しい趣味など持つべきではないのだ」


「あー、うん」


「ちゃんと聞け! まったく君は私の事を知っておきながら物怖じしないな」


「なぜ同年代の女子に物怖じする必要がある。それに剣を向けられたときは腰が抜ける思いだったがな」



「そのことは本当に悪かった……。自分で言うのもなんだが、この副騎士団長という立場になってからは、少し畏怖の念を感じたり、どこか打算的な会話をされてだな」


 困ったように言うエマは頭をかく。

 確かにそうなんだろう。有名人となればそれなりの苦労がかかるのは当たり前のことである。

 しかもこの若さで高い位置を築いてしまえば、嫉妬や好奇の視線は拭えないだろう。



 広臣は少し口角を上げてエマに言う。


「まあ、そうだな。俺も打算的な考えがないわけではない」


 そう言うとエマはあらかさまに残念な表情になる。

 そんなことは知らんと、広臣は続ける。


「まあ、エマに出会ったのもここに俺が来たのももちろん偶然だ。だがちょっと考えがあってだな」


「なんだ。私を利用する考えなら帰らせてもらうぞ」


「いや、ちょっとしたお願いがあるんだ。簡単に聞いてくれとは言わないさ。簡単なゲームをしてくれて俺が勝ったらお願いを聞いてもらいたい」



 エマは目を細めた。それでこちらにどんなメリットがあるのだと言いたいのだろう。広臣はその事を踏まえて続けて言う。


「お前はつまり自分に利益はないと言いたいんだろう。俺が負けたら、お前の感知に気づかれずに近づけた理由を踏まえた俺の情報をなんでも教えてやろう」



 エマが先程から広臣に興味を持っていたのはとっくに気が付いていた。プライドが高そうなやつだ、そうそう断らないだろう。



「まあ、受けてやってもいいだろう。ルールとやらは?」


「そうだな。じゃあこうしよう。ある範囲から俺が3回の攻撃でエマをその範囲から落とすことができたら俺の勝ちだ。逆に3回目の攻撃でその範囲から落とすことができなかったら俺の負け。引き分けならお互いの要求を飲むことにしようか」



「引き分けなどあるのか……」


「引き分けね。特別にそちらさんが降参するって言うなら引き分けにしてやってもいい」



 その言葉にエマは表情を曇らせた。挑発されていると、甘く見られていると思っているのだろう。


「ちゃんとこの状況を把握しているのか? 私はこれでも副騎士団長だ。実質の国のナンバー2の戦力だぞ。どうやら君のことを買いかぶっていたようだな」



 おもむろなきつい言葉に広臣はいたずらな笑みで返す。


「それも承知の上さ。さあ、好きなとこを陣取りな。大きさは、1メートル四方以内で頼む」



「ふんっ。随分と自信があるようだ」


 そう言いながらエマは近くの石畳の上に立った。

 大きさは50cm四方くらいで、人一人が立てるくらいである。


「そんな狭いところでいいのか?」


「かまわん。どうせ攻撃など当たりはせんだろうからな」


「そりゃ、勝ち目はなさそうだ」


 そう、冗談交じりに言う。広臣にはここぞとないチャンスだった。

 相手は油断しきっている。どうせ一般人に負けることなどないとタカをくくっているのだろう。



「最後にルール確認だ。魔法の使用は禁止でいいな? そしてエマはその石畳から落ちたら負けだ。俺は3回の攻撃でエマを落とせなかったら負け。エマは降参すれば引き分けだ。武器の使用は禁止。エマは俺に対する攻撃もなしだ。もちろん回避するために受け流したりするのはかまわん。何か質問は?」



「いいだろう。私が勝てばお前のことを、ヒロオミが勝てばそのちょっとしたお願い事だな」



 広臣はまたも笑顔で返す。

 確かにこの勝負前のエマの姿は先程までの女の子のようか可愛らしさは感じられず、戦士のそれだった。

 全くの隙もない。まともに攻撃しても全てよけられるだろう。


 エマは最後に。と付け足した。


「私は嘘が嫌いでな。この勝負の前に魔法をかけさせてもらう。お互いの要求に強制力を持たすための魔法だ。ここでの敗者は絶対的に要求を飲まなくてはならない」


「それでも飲まないっていたらどうなる?」


「魔法の効果で死ぬだろう」


「お、おい。まじか」


「嘘だ」


「おい、嘘は嫌いだと言っていなかったか」


「知らん」


「…………」


「まあ死にはせん。ただ凄まじい強迫観念がくるだろう。それに耐えてもタンスの角に足の小指をぶつけたくらいの痛みが慢性的に起こるくらいか」



 それはそれはなんとも恐ろしい魔法だ。考えただけでむずむずする。



「いいだろう。そのくらいの魔法なら」


「了承は得たぞ」


 そう言うと、エマは何やら聞こえないくらいの声で呪文を唱えた。

 すると体がほんのり暖かくなるのを感じる。これが魔法を受けた感覚なのかと実感する。


「準備はいい。いいつでもかかってこい」


 エマはそう言い身構える。

 エマは勝てる自信しかなかった。これでもこの若さで、実力のみで騎士団へ入り、そしてすでに副騎士団を勤めていることに少なからず自尊しているのだ。

 自分の力に慢心しているつもりは無い。だがどう考えても魔法もなしで一般人に負けるようなことはありえない。


 外見からしてもこの広臣という男は武術師でも屈強な戦士でもない。

 確かに体つきは引き締まってはいるが、少しばかり運動神経の良いくらいだろう。


 この程度で勝てるとでも思っているのだろうか。エマは甘く見られているという怒りを通り越して失笑する。


 エマは騎士団の中でも防御力に関しては随一だった。その防御力というのはただ単に硬いというわけではない。その瞬発力と反射神経ゆえ、回避力は尋常ではない。


 この男が10人いて一気に攻めてこようが全ての攻撃を避けきることだってたやすいだろう。


 広臣の表情はいたって余裕がある。

 一体どのような作戦があるというのか、エマにはわからない。考えても、何も奥の手でもあるようには見えない。


 エマは深く考えるのをやめる。そうだ、もともと考えることは苦手だ。頭など使わず、目の前からくるものを全て捌けばいいだけなのだ。

 そのを可能にする能力をエマは持っている。


 大丈夫だ。と彼女は言い聞かせた。



 そして広臣が動いた。



(下段の蹴り……!)


 エマはそれを予想出来ていた。狭い範囲から落とせばいいだけだ。足元を狙って、空中に浮いているところでも追い打ちをかける算段だろう。


 なんて単純なんだと嘆息しつつ小さいジャンプで躱す。そして追い打ちが来ても受け流す、いや躱せるように空中でも全く油断はしなかった。



 広臣は素早く次の行動に移った。


(右のストレート……。いやフェイントだ。またも下段の蹴り?)



 広臣はすべて動き読まれていることに気がついていた。エマのその副騎士団長という称号は伊達ではないことに内心冷や汗をかいていた。

 しかし、甘い。


 ドコっという音を立てたかと思うと、その場にエマは攻撃を受けずに着地していた。

 何がしたいんだと思っていると、広臣が笑顔で言った。



「はい。俺の勝ちだな」






              ■





「そ、そんなの反則ではないか! 石畳を蹴り飛ばすなんて……」


「ルールは石畳から落とせたら勝ちで、石畳を動かしてはいけないなんてルールはなかったがな」



 うぐぐ、とエマは唸る。

 広臣はあの場でエマには攻撃を入れずに石畳を蹴った。その力で石畳は綺麗に飛んでいってしまった。そうして石畳ではないところに着地したエマは敗者となったのである。



「こ、こんな負けは認められない……」


「往生際が悪いな騎士さん。負けは負けだ」



「くっ。そもそも私があの石畳の上を取らなかったら勝算はなかっただろう」


「勝算もなにも、俺はエマがあの石畳の上を陣取ると計算して勝負をしかけたんだがな」


「なぜそんなことがわかるんだ。あんなものただの気まぐれだ」


「どうだかな。足元には花だらけだ。あんなふうに花を愛でる趣味があるエマが花を踏んでしまうリスクを避けるために石畳の上に移動するなんてわかっていたさ」



 エマは驚きを隠せなかった。ただ話をしているだけでここまで観察されていたのかと。そしてそれだけじゃない。あの挑発するような口調はわざと指示した範囲より狭い場所に移動させる作戦だ。


 広臣はプライドが高そうなエマはハンデなど馬鹿にされるのが許せず、完膚なきまでに勝利しようとわざと狭い範囲の石畳を選んでくるのも読んでいた。


 おかげで簡単に石畳を吹き飛ばせた。



「というかな、これはどう転ぼうが俺の一人勝ちだったんだ」


「? どういうことだ」


「俺はもともと引き分けでもいいと思っていた。だから挑発のつもり半分、そして引き分けに持っていいくための半分の意味があったのさ」


「ま、まて。引き分けなどありえん。私が降参するとでも――」


「――してたな。俺はあの石畳のことも読まれていてどうにかクリアされたとしたら、3発目の攻撃を撃つきはなかったんだ。そうだな、帰るつもりでいた」



 エマはポカンとした表情になり、意味がわからないと怪訝に言う。


「帰るだと? それではヒロオミの負けではないのか」


「いや違う。ルールとして俺は3発目で決めれなかった時点で負け。エマはその範囲から出た時点で負け。俺が帰ろうが何をしようが攻撃を放つまで勝負は終わらない。エマはその場に永遠といないと負けになるということだな。降参するまで勝負は終わらない。まあ、こんな子供だましなんて石畳のことに気づくような相手には使えないけどな。今度からはもっとよくルールを決めることだな」



 エマはそこまで言われてやっと理解した。しかしこんなもの認められるのか。屁理屈の塊のようなことを言われて素直に引き下がれない。

 しかし、屁理屈でも広臣の言うことには一理あった。すべてはうまく転がされ、ルールもちゃんと明確にしなかった自分自身に非があると。



 それよりも、エマは悔しさで拳を強く握り締めた。簡単なものとは言え、勝負に負けてしまった。しかも油断はなかった。完膚なきまでにやられてしまった。


 勝負に負けるなど今まであっただろうか。少なくとも、騎士団に入ってからは負け知らずだった。それなのにただの一般人に……。


 広臣はあざ笑うように言う。


「どうせ相手が一般人だからとタカをくくってたんだろう。バカバカしい。今回のお前の敗因はルールを明確にしなかったことでも、周りを見ていなかったことでもない」


 広臣はエマを見据える。エマはそのただならぬ空気と責めるような視線に思わず目を背けた。

 そんなエマに広臣は続ける。


「お前の敗因は、己の強さに慢心し、相手をよく見ていなかったことだ。ただの一般人だとでも思っていたか? 相手と能力の差で勝てるとでも思ったか。相手の存在をきちんと見ないから足元をすくわれるんだ」



 己の力に慢心? エマはそんなこと思ってもいなかったはずだが、広臣の言うことに何も返すことができない自分が情けなかった。

 心のどこかで確かに広臣を下に見下して、その存在について考えていなかった。ただの一般人だと、舐めてかかっていた。



 そして、この少年は一体何ものなのだと疑問が沸く。こんなに簡単にしてやられるなど思いもしなかった。

 そして驚くべきはその観察力だ。まるで操られるように誘導され、性格も行動も読まれていた。勝負を仕掛けられた時点でエマは負けていたのだ。



「ヒロオミ、君は何者なんだ」


「それは俺に勝ったら教えてやる」


 そうか、とエマは笑う。


「まったく大した奴だ。うちの騎士団にそれほど頭の回るやつが欲しいところだ」


「まあ、俺は天才だからな」


「は、はあ」


 エマが少し引いたようなしぐさを見せる。


 そして今日のところはこれで終わりにして、明日にお願い事を聞いてもらうことにした。

 午前中は騎士団の訓練があるらしいが、午後からなら大丈夫とのことだ。


 なぜか少し嬉しそうに帰っていったエマに首をかしげる。どこに喜ぶようなことがあったのか。


「さて、帰るか」


 なんて独り言をいうのは緊張から解かれたからだろう。

 あんな大物相手によくここまで饒舌に喋れたものだと自画自賛する。


 どっと疲れが貯まるのが感じた。早く帰って夕食を食べて寝てしまいたい気分だった。



 空を見上げると、朱色を通り越して紫色になっていた。すぐに真っ暗になってしまうだろう。


 広臣は足早に帰路についた。


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