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異世界は手遅れだ!  作者: ゆーじ
もう手遅れ!
6/21

2-1:戦力が足りない

この章から遊んでいきます

 目が覚めるともう外は明るくなっていた。

 広臣は眠気が襲って来るのを振り払いながらもそもそと布団から這い出る。


 ここはセベルの屋敷の一室。二階の部屋はほとんどが空き部屋らしく、その中の一室を貸してもらっていた。小さな部屋だが、一人用なら申し分のない広さ。

 空き部屋とは思えないくらい片付いていたが、こまめに掃除されているのだろう。


 昨晩はセベルに言いたようにからかわれてこの部屋に逃げ込んだ広臣はセベルに復讐を誓いながら眠りに就いた。思っていたより疲れがたまっていたのか、気づいたら朝ということだ。


 備え付けの机の上に置いてある腕時計を確認すると、6時を少し回ったところだった。異世界でも生活リズムは変わらず、まあこんなものだろうと腕時計を左腕につける。


 1階に降りると、もうユノアが朝食をつくっていた。

 広臣を見つけると笑顔でお辞儀をする。


「おはようございます。朝ごはんもう出来ましたのでどうぞ」


「おはよう。いただくよ」


 朝起きるの早いなと思いつつ席につく。

 それにしても、エプロン姿でキッチンに立つユノアはまるで新婚の主婦のような錯覚を受ける。

 ぼーっとユノアを眺めつつ朝食のトーストとベーコンエッグを食べる。


 適当な会話を済ませて庭に出ると、セベルが庭の花の手入れをしていた。

 がたいに似合わずこんなことをしているのかと少し引くがこれも習慣らしいが、スーツ姿でやるようなものなのか。

 広臣に気づいたセベルは相変わらずよくわからない表情である。


「よう、好色男」


「やっぱりお前は一度殺したほうが良さそうだ。花の肥料にしてやるから殴らせろ」


「ははは。朝から冗談がキツイな小僧は」


 9割ほど本気なのだが。

 このセベルという男は人が良さそうに見えるのは外見だけで、中身はこんなもの。この世界でまともな人はユノアしかいないのかと頭が痛くなる。


 この男と話をしていてもストレスが溜まる一方だ。

 広臣は不機嫌そうに屋敷の門へ向かう。


 セナとの集合時間にはまだまだ余裕があるのだが散歩がしたかった。

 まだこの街をよく見ていないからある程度の地理を把握しておきたかった。


 一日やそこらでは歩ききれないため近場だけでも何があるか確認しておいてもいいだろう。やはり無駄なほど酒場がある。

 それに昼間というのに酔いつぶれた奴らが多い。

 昨日はよく見ていなかったが、人々の活気は感じられるがどことなく暗い雰囲気も感じられた。いつ魔王軍が侵略してくるかわからない状況だから精神的にもやられるのだろう。


 武器屋、八百屋、酒場、よくわからない怪しい店などなど、どれも似たような中に目を張る建物があった。

 協会だ。なかなかに立派な教会の上には時計台があり、腕時計はその時計台の時刻より数分進んでいた。

 何の宗派とかには興味もないため中に入ることもない。



 そして気が付くともう昼前の時間だった。

 今いる場所から昨日のカフェまではそう遠くない。しかし、相手を待たせるのも気が引けたため早足で向かう。


 カフェの前に付くと同時にセナが現れた。


「よっ! 昨日ぶり。じゃあ早速行こうか」


「ああ。だがクエストというのは?」


「うん。もうクエスト取っておいたよ。こういうクエストは酒場とかで簡単に受けれるから。報酬とかはギルドホールいかないとダメだけどね」


 そのシステムはよくわからないが、セナのほうが詳しいからあとで聞いておこうと思う。

 どんなクエストなのか聞きたかったが簡単なものと言っていたし、セナも魔法使いで心強いからいいだろう。


 まったくこの世界の最初の知り合いが魔法使いなどなんと運がいいのだと広臣は内心喜んでいた。






              ■




 昼下がりの街外れ。

 ここは森の近くにある畑なのだが、最近森からくる猪のせいで畑が荒らされているようだ。どこの世界でも猪というものは危険でしかも迷惑なことは多いようだ。

 その猪の討伐という、まあクエストとしては駆け出しがするようなクエストなのだが。



「あああああああああああああああっ! 死ぬっ! 死んでしまう! 助けてくれ!」


 泣き叫ぶように広臣が声を張り上げる。

 その猪に追いかけられて叫んでいる広臣を見てセナは笑い転げていた。


「なにヒロオミ猪と遊んでるの。ちょ、笑いすぎてお腹痛いから」


「笑ってないではやく助けろ魔法使い!」


 いくらあの攻撃力があるからといっても自分の体格よりも大きい猪など怖くて逃げることしかできない。

 こんなもの一般人の広臣がそのまま突進されたらどうなることか。


 猪とはこんなに早いのかと驚愕する。その速度で牙にでも刺さったら本当に死んでしまう。


 未だに腹を抱えて笑っているセナに腹が立ち、セナの方向へ進路を変える。

 それに気づいたセナは顔を青ざめた。


「ちょっと! こっち来ないでよ!」


「やかましい! どうにかしてみろ!」



 もう無我夢中で逃げる広臣はイチかバチかで横っ飛びの状態で猪を避ける。そのままターゲットをセナに変えた猪はまっすぐ走っていく。


 よし! と広臣は心の中でガッツポーズ。


 セナは慌てて走り出した。


「ヒロオミ! これ死ぬ奴だって! どうにかしてよ! ねえっ、こっち向いてってば!」


「魔法使いだろお前。そいつくらい楽勝だろう」


 涙目で必死に訴えるセナがかわいそうに見えてくるが、よく考えたら高位の魔法使いだからなんてことはないだろう。

 もしかしたらここで始めて魔法が見れるのではないかと期待を持っていた。


 涙を浮かべているセナが吹っ切れたように立ち止まり振り向いた。


「わかったわ! 魔法使いの力を見せてあげる。こんな猪相手じゃないよ!」


 そして向かってくる猪にむかって呪文を唱え始めた。それは短いもので直ぐに終わりセナは叫ぶ。

 

「『ホーリー』!!」


 何の技かわからないがすごいものかも知れないと目を凝らす。



「…………」


「………………何も起きないではないか!」


 すずまり帰る場に広臣の叫び声。


「失敗か……」


 悟ったような遠い目でセナが呟いた。

 そんな失敗するような魔法を使うなと叫びたかったがそれどころではない。

 もうセナの目の前には猪がいるのだ。


 セナもそれに気がついて避けようとする。


「きゃあっ!? え、ちょ、引っかかったああああああああああああああああああああああああっ! これ死ぬやつだ!」


 セナのマントが猪の牙に引っかかってそのまま引きずられている。

 広臣も焦って助けに行こうとするがどうにもできない。


 数分間引きずり回されてやっとマントが破れた。



「うわわあああっ。死んだと思った! 助けてよお。うぅ」


 泥まみれで傷だらけのセナが泣きじゃくっていた。猪から逃げるように二人は畑から離れる。

 まさかこの魔法使い使えないんじゃないか。


「お前。失敗するような魔法なんか使うな!」


「逆に成功する魔法なんて知らない!」


「もしかしてお前魔法使えないのか!? それで魔法使いなんて名乗ってたのか! なにが大船に乗ったつもりでいなさいだ! そんなコスプレは見てくれだけか!」


「た、確かに魔法は使えないけどそんなに言わなくてもいいじゃない! ヒロオミだってなんか俺様キャラで強そうにしてるくせに逃げ回ってるだけじゃん!」


「俺がいつ戦えると言った! そもそも魔法が使えないなら魔法使いなどと名乗るな紛らわしい!」



「うるさい! 女の子に酷いこと言ってるとヒロオミも魔法の使えない魔法使いになるんだよ!」


「やかましい! しばき倒すぞコスプレ女」


 なにが魔法使いだ! そんな30越してもなんとやらな魔法使いになどなりたくない。

 よき考えるとやはりこの世界にも魔法など存在しないんじゃないかと思えてくる。

 セナに至っては反省もせず首を絞めてくる。


 こんなの詐欺師ではないか。騙されたような気がしてならない。


「もういい。あとは好きにやってくれ」


 そう言い、セナを振りほどく。

 付き合ってられん。と悪態をつくのだが、これからどうしたものかとまたも頭が痛くなる。



「待って! クエスト断念したら違約金払わないといけないの」


「知るか。クエストを頼んだのはお前だ」


「昨日奢ったのに?」


「うっ。その分はまた後日返す」


「今日じゃないとだめ。男のくせして一文無しとか恥ずかしいよ! というか、なんで今日もお金持ってないのよ」


「一文無しで悪かったな! ………今回だけだからな。俺がついていくと約束したのも非があるしな」


 そうは言うものも、このなんちゃって魔法使いと一緒ではあの猪を討伐できるとは思えない。

 広臣の攻撃を当てることができるなら別だが、それより恐怖が上回って攻撃どころではない。


 せめて動きを止めてくれるならなんとかとどめをさせるかもしれないが、このコスプレ魔法使いでは何もできないだろう。


「そうだ。セナが囮としてあの猪に食われている時に俺が倒す作戦でいこう」


「冗談は顔だけにしてよね。まじめに考えてよ」


「冗談言ってる顔に見えるか?」


「じょ、冗談だよね!? なんで笑顔なの? ねえ。怖いんだけど。なんで肩掴むの。痛いっ! ほんとに!? むりむりむりむり!」


 セナが涙目でジタバタ暴れ始めるので広臣は仕方なく肩を掴む手を離してやる。


「もちろん冗談だ」


「嘘っ! 今本気でわたしを囮にしようとしてたでしょ!」


 と、そんな冗談を言っている場合ではないのだ。

 このクエストはクリアできなかったら違約金を払わないといけない。そして日が経つにつれて報酬も減ってしまうらしいのだ。


 どうせなら少しでもお金が稼げるなら急いだほうがいい。

 どんな作戦を考えてもこの二人では無理だとしか思えない。


 罠を張るにも、時間がかかるしあの猪がそう簡単に罠をつくる時間をくれるとは思わない。

 二人で正面から狩るにも、正直まったく勝てるビジョンが見えない。


 あの猪はというと、我が物顔で畑を掘り返している。

 普通猪は警戒心が強いもので、人がいたら逃げるものだと思っていたのだがどうやら異世界の猪は図太いようだ。


 こんな初期中の初期の雑魚キャラのようなものに負けていてはこれから何をするにも自信がもてない気がする。広臣は未だ涙目のセナに向き直る


「とにかくだ! 協力者でもなにか強い装備でもいい。打開策がないと何もできんぞ」


 セナは少し考えたような仕草をしたが、すぐに困ったような表情になる。


「装備買うお金がまずないしね。協力者っていっても、今から街に戻って協力者募集してたら日が暮れちゃうよ」


「そうだな……。だれかこの近くでギルドメンバーはいないものか。ああこの際だれでも構わん」


「なんか投げやりになってない? ん、あの人とかは?」


 そういってセナが指さした方向には、一つの人影。

 森の方からこちらへ歩いてきている男がいた。


 なんていうタイミングだと喜ぶが、その人が本当に戦力になりそうか確認しないといけない。

 その男はひょろりとした頼りがいのなさそうな体格だが、袴のような着物の腰の帯にかけている刀に目が行く。もしかしたら剣士なのかもしれない。


 糸のように細い目で、長い髪は後ろで結ばれている。その姿はひとりの孤高な武士を連想させる。背中に何やら大きなかごを背負っている。


 セナがあっと声をあげた。


「あの人、キスケさんだ」


「なんだ知り合いなのか。運がいいな。なら手伝ってくれる可能性も大きい」


「うん。あの人、とても有名な剣士の弟子らしくてめちゃくちゃ強いかも!」


「おお。それは頼りがいのある奴がきたものだ。名の売れたやつなのか」


「いや、アパートが同じなだけ」


「……そうか」


 なんにしろ、有名じゃなかろうと剣士だ。しかも有名な剣士の弟子とならば、そこそこの腕は期待できる。あの猪くらい簡単に倒せるだろう。

 根本的に2人の問題を解決してくれるならこの際他人任せでも構わない。


 歩いてくるキスケという男もこちらのセナに気づいたのか軽く手を上げて挨拶をした。


「セナさんお久しぶりですなあ。今日もスリムながらエロい太ももが一段と輝いてますね」


「キスケさん久しぶり。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけどいいかな?」


 おい、そのセクハラ発言はスルーしてもいいのか。

 このキスケも変わり者の空気がしてくる。


 キスケはまだ何も内容を聞かされてもいないのに頷く。


「ええ。僕にできることなら腕や足がもがれようと手伝いますよ。……と、そちらの殿方はどちら様でしょうか」


 キスケの細目がさらに細められてキッと広臣に視線が向けられる。


 まず突っ込みどころが多いのだが、それは置いておいていいだろう。変人なのだろう。

 近くで見ると、腕の筋肉も引き締まっている。頬や手には痛々しい剣の切り傷。それてちらりと見えた手のひらには大きく硬くなってしまったタコ。


 今まで出会った人とは違い、体格からは想像のできない存在感と独特の空気が思わず身を震わせた。


 なるほど、これが本物の戦士というものなのか。

 おそらく熟練の剣士だろう。いくらの修羅場を超えてきたここまで存在感で圧倒できるというのだろう。


「この人はヒロオミ。わたし達と違って一般人で弱いけど勘弁してね」


「おい。適当な事を言うな」


 ほう、と手を顎についてキスケはヒロオミを観察するように見る。

 そして納得したように「ふむ」と手を下ろした。

 相変わらずの細目と無表情で何を考えているのかわからない。


 そしてしばしの間を開けて言う。


「なるほど確かに頼りがいのなさそうな男ですね。脆弱という言葉がよく似合う。でも気を落とさないでください。今は亡き師は言っていました。"男は腕っ節だけが大切なんじゃない。大切なのは心だ"と」


「こいつはもしかして俺を馬鹿にしているのか」


「お、落ち着いて。悪気はないと思うから」


 俺はいたって健康な体つきだ。脆弱などという言葉とは正反対だ。

 そう言ってやりたいが、キスケからすれば広臣も脆弱なのだろう。


 キスケにクエストで遠目に見える猪を狩らないといけないことを伝えると、相変わらず表情を崩さずに言う。


「僕は無駄な殺生はしないんです」


 なんてぬかすキスケに広臣は「なら剣士などやめてしまえ」と言おうとしたが、機嫌を悪くしてしまってはだめだろうとなんとか押しとどまる。


「どうか力を貸してくれませんか」


 広臣がそう頼むと、キスケはまた手を顎につけ考えたような様子を見せる。


「今は亡き師が言っていました"人に頼みごとをする時には誠意が必要だ。まずは膝をつき頭を地面にこすりつける"と」


「セナ、こいつ一回殴ってもいいだろうか」


「悪気はないはずだからこらえて! キスケさん、私からも頼めない?」


「わかりました。いいでしょう」


 セナに対して即答するキスケに広臣はジト目になる。


「なぜセナにだけ素直なんだ」


「今は亡き師が言っていました"女性の頼みは断るな"と」


 これ以上は何も言うまい。

 こいつと会話していたらつい本気で殴ってしまいそうだ。


 しかし、その風貌は歴戦の剣士そのもの。

 猪へ歩みを進めるキスケの姿は戦に向かう戦士だ。


 あの猪も近づくキスケに気づいたのか警戒しはじめた。そしてキスケは刀を抜いて構える。

 何とも言えない緊迫した空気につつまれる。たかが猪相手というのが残念だ。


 猪が大きく地を蹴り、駆ける。その先にはキスケ。

 迫り来る猪に対してキスケは憮然とした表情で迎え撃つ。


「あああっ!」


 キスケが猛烈馬勢いで走る猪にクリンヒットし、盛大に吹き飛ばされた。


「おい待て! 思いっきり吹き飛ばされたぞ! 今までの前座はなんだったんだ!」


 よろめきながら戻ってきたキスケは弱々しい印象しか残っていない。

 剣士だったのだろう。俺の評価を返してくれ。


「今は亡き師が言っていた"全ての動物の命は平等。それを傷つけるべからず"と」


「ならもう剣士などやめてしまえ! 刀など持つな! というか、そのさっきから適当なこと言ってる師匠を連れてこい。もう一度亡き者にしてくれる!」


 おかしいだろう! なぜまともな奴がいないんだ。この無能なコスプレ二人を前に怒りしかわいてこない。



「もういい。お前らのようなやつらには頼らん」


 人の期待を裏切るのも大概にしておいてほしい。

 ここまで持ち上げておいてどれほどのひどい有様なんだ。


 そもそもあれは本当に猪なのか。猪とはとても臆病かつ警戒心の強い生き物だ。普通こんな昼間から畑を荒らしに来ないし、人間を見つけても逃げるはずなのだが。猪も学習能力の高い賢い生き物だ。


 なるほど。人間など取るに足らん相手だということか。


 上等だ。あいつの修正は、弱点はなんだ。あの猪などこんなふてぶてしくしているが所詮は猪だ。


「セナ。そのマントを貸せ」


「え、いやよ。ボロボロだけどこれでもこの服装はわたしのアイデンティティだから」


「つべこべ言わず貸せ! 魔法使いでもないお前には必要ないだろう!」


 無理やりマントを剥ぎ取ると泣きながら広臣をぽかぽかと叩き始める。このコスプレになんのアイデンティティが隠されているというのだ。

 このまま猪に馬鹿にされたまま逃げ帰るなど屈辱でしかない。RPGの最初の敵のスライムにやられるなどありえない。広臣自身、自分は負けず嫌いなことを自覚している。


 そんな性格ゆえ、引くべきところで引かずに痛い目を見ることも多い。しかしそれで後悔はしたことはない。たとえ引くべきとこだとしてそこで引いてしまえば楽になるかもしれないのだろう。

 だがそれでは楽しくない。ただそれだけだ。


 これはゲームではなく現実。しかしなぜこんなところで躓いているのだ。

 広臣は自分をむち打ち気合を入れると、あの猪へと対峙する。


 向こうもこちらに反応し、警戒心からか目線をそらそうとしない。


 来ないというならこちらからだ。

 広臣が駆け出すと同時に猪も動く。このまま行けば吹き飛ばされてしまいだろう。

 広臣は手に包めてあったマントを投げるようにして勢いよく開いた。


「よしっ」


 猪は急ブレーキをかけるように止まろうとする。目の前に視界を覆うものがいきなり現れて驚いたのだろう。もともと臆病な生き物である猪はそういうものには怯えるものだ。

 異世界の猪ということでもしそのまま突撃してきたら広臣はキスケの二の舞になっていただろうが、これは予想通り成功だ。


「くらえ!」


 勢いを失った猪へえぐるようなローキックをかます。

 広臣自身も驚くくらい、巨体の猪が吹き飛ぶ。

 10メートルくらい宙を舞い、そこから数メートル跳ねると猪はもう動かなくなっていた。


「どうだ! 俺はやれば出来るんだ!」


 つまらないことかもしれないが、喜びを隠せない。

 広臣に近づくセナも涙は消え、笑顔だ。

 そしてその笑顔から飛び出した発言に広臣はもう喜びなどという感情は消え失せるのだった。


「やった! ようやく一体だね!」


 ………ようやく一体?

 こんなに苦労したのが馬鹿らしというものだ。



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