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異世界は手遅れだ!  作者: ゆーじ
もう手遅れ!
3/21

1-1:異世界は詰みかけている

 いきなり視界が暗転したことに広臣は慌てていた。


 あたりには明かりが存在せず、手に持つ携帯電話だけが広臣を照らしていた。

 そして次に感じかのは鼻を突くような嫌な臭い。

 今まで感じた臭いの中でも吐き気を催すような、まるで魚とか動物の肉が腐って乾いたような……。かといって我慢できないほどでもないような臭い。

 尻餅をついたような体制の広臣は左手に何か触れたのを感じてスマートフォンの画面を向けて照らした。


「うわああああああああああああっ!」


 白骨化した人間の死体だった。

 訳も分からずその白骨から離れた。手元にあるスマートフォンが薄明るくあたりを照らしているだけでもう何も見えない。

 暗闇と死体を目の当たりにして、恐怖が増幅していく。


 現状の把握ができない。つい先程まで自室でいたはずだ。

 それがいきなりこの状況だ。理解しろという方がおかしい。


 自分が崩れていくような感覚に襲われて吐き気を催す。その吐き気を言葉に出すように叫ぶ。


「どこで間違えた!!?」


 何もおかしいことはしていなかったはずだ。力が全身から抜けていく感覚にすら恐怖を感じた。

 ふと手に握られた携帯電話に目を向けると、画面は通話中。

 その画面には『あなたの女神さま』なんてふざけ倒した文字。

 今の絶望的な状況にこのふざけた文面など精神を逆なでされているようなものだ。


 そうだ、こいつのせいだ。すべてこのふざけた奴のせい。

 ついさっきまでこんなふざけた状況じゃなかったんだ。


 広臣は蒸しかえるような怒りを抑えて携帯電話を耳に添えた。


「異世界ですよ!? どうです? 楽しめそうですか?」


 広臣の気持ちなどいざ知らずといった声にこのまま携帯電話を握りつぶしてやろうかと思った。

 しかし、人の声がするのだ。絶望的な状況だからか広臣はそれだけで少し救われるような気持ちになる。


「異世界と言ったな。ここはどこなんだ? なんでもいい情報をくれ」


 広臣は震える声をなんとか絞り出すのが精一杯だった。


「あなたは今、先程までいた世界とは別の世界にいます」

 電話口の相手はそんな広臣を宥めるように優しい声で答えた。


「別の世界ということは異世界か? 冗談はよしてくれ。何が何だかさっぱりだ」

「わたくしから説明することは全て事実でございます。それにあなたはアンケートに答えてくれましたよね?」

「あのふざけたアンケートか。それがどうした」

「あのアンケートはあの時間にネットサーフィンしている方にランダムで送らせてもらいました。その中の一人があなたです」

「そうだが、なら他の人たちはどうなったんだ」


 電話口の相手は声だけでも微笑んでいるのが分かる。そんな優しいい声だったからか広臣も落ち着きを取り戻していた。

 こいつの言うことは信用できないと広臣は慎重に状況を判断しようとした。


「まず、あのアンケートは何だったんだ」

「あれは異世界へ行くにあたっての欲しい能力とかのアンケートです。他の方たちは何も起こっておりません。メール確認されましたか? あなたは当選されたのです。それに広臣様はあのアンケートに一時間以上の時間を使って考えてくださいました。わたくしもそれに感動して広臣様を選んだのです」


「ま、待て! 俺はそんな一生懸命書いていないぞ! それに異世界に行きたいなどいつ誰が言った!」


 あの妄想的な文章に一時間もかけていたのは本当だったが、照れ隠しでそう言った。


「あら。異世界にご招待する趣旨を書き忘れていましたね。まあ、そのことはいいでしょう」

「良くないわ! 何を言っている一番大切なことだろう! しかも閉じれないページなど悪質すぎるだろう」

「あのページですか? 確かに閉じるボタンは押せませんけど、戻るボタンなら押せましたよ?」

「え? ほんとか?」


 思い返してみると確かに戻るボタンを押していなかった気もする。

 なぜそんな簡単なことに気づけなたったのだ!

 軽く自己嫌悪に陥るが気を取り戻す。


「でもだな。俺には異世界へ行きたい願望などないんだ。すぐに戻してもらおうか」

「それは困りましたね。戻れるのは戻れるのですが……」

「どうした早く言え」

「今すぐには不可能です。この世界にはノウスフィアスと呼ばれる神殿があるのですが、そこに足を運んでもらえれば元の世界へ戻れると思います」

「ならそこへ連れて行ってくれ」

「そこは神聖な地でして、そこまでのテレポートは原則禁止となっていますので、ご自分で向かってください」


 何を言っているんだこいつはと思った。原則禁止? この状況で原則とか言っている場合じゃないだろう。

 この通話相手は女神さまとか名乗っている。それが本当ならそんなこと容易いだろうに。


「それに、現状としては芳しくないのでございます。宏臣様がすぐに異世界へのジャンプボタンを押していたならこんなことには」

「どういうことだ。今の状況に何の関係がある」

「そのですね。広臣様の暮らす世界とこの世界では時間の流れが違いまして、広臣様の世界の一日はこちらの世界の約一年なのです。こちらの世界で召喚が行われてから広臣様はあちらの世界で三日生活しました。その三日はこちらの世界で言う三年。その間に魔王軍が人間を侵略し出しまして……」


「い、今魔王とか言ったか!? やはりすぐ帰らせてくれ! それに、もしかしてそこの白骨化した仏さんは俺が来るのをここで三年も待っていたのか」


 感じたことのない罪悪感に広臣は苦悶する。


「すでに人類の国土の8割が侵略されました」

「うわあああああああああああああああっ! もういい! もういいから! 十分異世界楽しんだから帰らせてくれ! 8割とか滅亡寸前じゃないか!」

「そうですか! 楽しんでいただけて何よりです」


 嬉しそうに弾む声に皮肉も通じないのかこいつはとうんざりする。

 

「とにかくだ! ここから出してくれ! こんな空間にいたらそれこそ頭だおかしくなりそうだ」

「はい。かしこまりました。それでは近くの街へテレポートさせますね」

「え? ちょっと待て。近くの町とはそのノウスなんちゃらという神殿の近くか!?」


 その訴えも虚しく、足元に見たこともない幾何学的な紋章が浮かび上がる。

 淡い光を放つそれが強い光になった時には視界がぶれるように変化した。



 

                  ■



 光を感じた。随分と久しぶりに強い光を感じ気がする。

 目を細める。

 鼻にはあの悪臭も感じられなかった。


「ここは……」


 辺はあの真っ暗な空間とは違い、緑あふれる草原だった。少し離れた場所には町らしきものも見える。どうやら本当にテレポートが行われたらしい。

 本当に電話相手は女神さまだったりするのだろうか。


「もしもし。お前は一体何者なんだ」


 返事はない。

 電話画面を確認するとすでに通話は終了していた。


「こいつ。なんだこの微妙に使えない女神は……」


 それよりまずは現状把握だと、あたりを見渡す。

 生き物らしいものは見えない。ただっ広い草原のようだ。

 自分も五体満足。持ち物は腕時計と携帯電話くらいだ。服装もいつものカジュアルな服。

 そしてだ、あのなんちゃって女神さまの言葉に魔王とか言っていたがもし本当に魔王とかがいるのならこの世界はファンタジー世界のように魔物とか命の危険にさらされるようなものもいると考えたほうがいい。

 それならこんな人気の少ないところでいつまでもいるのはあまりよろしくない。


 広臣はただの一般人なのだ。たとえ少し人より運動神経が良かったとしても野生生物に勝てるわけがない。

 何かしらの生きる術として能力をくれてもよかったじゃないかと悪態をつきたくなるところで思い出した。


「――あのアンケート。もしかしてな」


 あのアンケートに書いた能力がもし本当に授かっているのならどうだろうか。

 広臣は今更あのアンケートを書き直さなかったら良かったと後悔した。


 あのアンケートに何を書いたか記憶を振り返る。


「誰でも一撃で倒せるくらいの強さ……」


 そんなことを書いた覚えがある。だとしたらもしかしてめちゃくちゃ強くないか。


「ものは試しだ」


 もう訳のわからないことばかり起こっているのだ。少しくらい自分に有利な方向に物事が進んでくれてもいいだろうと思う。

 広臣はすぐそばにあった地面から50センチくらい突き出した岩を見つける。

 本気で蹴ってしまってもし何の能力もなかったら足を痛めて終わりだ。

 広臣はその岩を少し強めの力で蹴りつける。


 ドゴッと岩が砕けた。


 自分でも言葉が出ないくらい驚いた。岩が砕けたのだ。

 それに足は不思議と何の痛みもなかった。


 もしかしたら恐ろしい能力を持っているのかもしれない。

 広臣は自分に少し恐ろしく思いながら、にやけてしまっているのに気がついて深呼吸。


「まさかこんな能力とわな。ゲームは苦労してクリアするのが楽しいのだがたまにはこれもいいだろう」


 いい気になりながら広臣は街へ向けて歩き出した。



 街は中世な感じではなく西部劇に出てきそうな、あまり技術的に進んだ印象はなかった。ほとんどが木造建築で清楚なイメージもないくらい小汚い。この世界がどの程度進歩しているかはわからないが、首都ほどのいい場所でもないだろう。


 ただ活気は感じられた。

 そこら中に人はいる。軒並みに売店があり、人々の暮らしが盛んであるとわかり広臣は少なからず安心した。


 しかし安心していい状況ではない。何しろ情報が全くない。お金もまったくもっていない。

 それに一人で知らない土地というのが一番堪えた。心細い気持ちを抑えながら一番に何をすべきか試行錯誤を繰り返していた。

 こういうRPGゲームはよくやった。まずは酒場とかで情報収集とかべたなことだが、そういった飲食店に入ったものの何も注文せずに出て行くとか失礼じゃないかといった思いもあり、なかなか実行に移せないでいる。


(何か簡単にお金を稼ぐ方法でもあればいいんだが)


 物語の主人公とはこの場から冒険をしようとか思うのだろうか。そうなら自分は場違いじゃないかと思いながら歩く。

 この場所は酒場が多いのか、ごつい体型のおっさんや昼間から酔いつぶれて隅の方で寝ている人までいる。本当に魔王が人類を滅ぼそうとしていうのかと思うくらいのんびりしている。

 もう生きるのを諦めてしまっているのだろうか。


 広臣はそろそろ歩き疲れてきたところで、人だかりができているのを見つけた。

 興味もありその人だかりに近づくと、男の吠えるような声とともに若い男の声が響く。


「ゴウセル15連勝!! だれかこの男を倒せる猛者はいないのかあ! ただいま賞金は20万センス! この金をもって行く奴は誰だ!」


 そんな芝居がかった声にあたりはよりいっそう盛り上がりを見せる。

 


 広臣は小走りで人だかりの一人のおじさんに近づいた。


「これは何をやってるんですか?」


 振り向いたおじさんは外見は人の良さそうな顔をしている。筋肉隆々とした引き締まった肉体にピチピチのシャツ。その上からエプロンのようなものを着ている。どこかの屋台の店主だろう格好だった。


「あれはな、腕相撲だ。一回1万センスで挑戦できて勝つとあの積み上がった賞金がもらえるわけだ」

「なるほどな」


 懇切丁寧に説明してくれたおじさんに礼を入れる。

 なるほどこれはチャンスだ。

 先程自分の力を試してきたところだ。あの後も何度かあの馬鹿力を試したがなかなかのものだった。

 ただ、まだ手加減に自信がなく、人相手に使っていいものなのかと心配になる。


「なんだ坊主。もしかして挑戦しようってか?」


 そんな考えるような仕草をしていたのを見てか、おじさんは笑いながらそういう。そして坊主と言われるような年齢でもない。

 異世界のおっさんは礼儀も知らないのかとムッとなる。


「そいつはどれほど強いんだ」

「強いもなにもあいつに力で勝てる奴なんてそうそういないさ。あのゴウセルってやつは最近ゴールドランクになってここらでは有名な腕っ節のあるやつさ」

「そうか、面白い」

「お、おい! まじでやるのかよ。やめとけって」


 このおじさんが言っていたなんたらランクとやらは理解していない。

 しかし広臣は十分すぎる勝機があった。

 人ごみを分けて無理やり進む。


「他に挑戦者はいないのかーっ! ゴウセルの賞金はもう24万センスだ!」


 その司会を務めているであろう声に反応するように人ごみの中で「お前いけよ」だとか「無理だって」だとひそひそと盛り上がっているようだ。

 人ごみを向けて最前列まで出て行くと、一つのテーブルを挟んだ向こうに先ほどのおじさんなど細身に見えるほど巨体の大男が鎮座していた。

 座っていてもわかるほど大きい。立ち上がれば身長は2メートルを越えるだろう大男に広臣は思わず後ずさる。


 あれほどの力があってもなぜか勝てるビジョンが見えない。

 腕を組んで座るゴウセルだろう男はしごくつまらなそうにしていた。張り合いのある相手がいないのだろう。


 ゴウセルはスキンヘッドの頭をかいてため息をついている。


「もっとマシな奴ないねえのか。なんなら指一本で相手してやってもいいぞ」


 なんて挑発も虚しく、だれも挑戦者は現れなかった。


(どうするか、まず掛金もないがこのまま調子に乗らせておくのも癪だ。あたりの奴らも完全にビビっているしな)


「そこの若いお兄さんなんてどうですか! どう? 挑戦してみない?」


 タイミングよくか視界の若い男が広臣に指をさして言う。

 それに便乗したように周りの人だかりがいっそう盛り上がる。


「やっちまえ兄ちゃん。どうせ無理だろうけど!」

「応援するぜ! まあ無理だろうけど!」

「やってみなきゃわかんねえぜ兄ちゃん! 無理だろうけど!」

「無理だろうけど頑張れ!」


「揃いも揃ってなんなんだお前らは! 挑戦しないのなら少しは応援しろ!」


 こいつらは後で全員土に返してやる。


「ほら挑戦者だ。掛金はないが、これでも構わんか?」


 そう言って腕時計を見せる。

 この技術もたいして進んでなさそうな感じ、そしてこれだけの人だかりのなかでもだれも腕時計をつけていないことから、この世界に存在しないものもしくは高級な品だろう。

 司会の人の顔が曇るがそれも一瞬で営業スマイルに戻る。


「いいでしょう! では椅子に腰掛けてください!」


 なるほどわかりやすい。

 腕時計は高級なものだろう。


「待て。俺はこんな高級なものだ。たかだか24万センスで相手など甚だ不平等だろう」


 もちろんブラフだ。この腕時計がどれほどの値段かなど知らない。

 そこでようやくゴウセルが反応した。


「兄ちゃん。そんなものここで賭けるようなことはやめたほうがいいぜ。盗まれないように大事にしまっときな」


 かかった。どうやら相当のものだろう。

 表情からして厚意としてそう注意してくれているのはとても嬉しいことだが、広臣はここで引くわけにはいかない。

 このチャンスを無碍にするほど馬鹿ではない。


「なんだ? もしかして俺に負けることを考えて保身的になってるのか? 図体はでかいようだが肝っ玉は大したことないようだ」

「なに?」


 わざと挑発する言葉を言うとゴウセルはわかりやすく反応した。

 ゴウセルは額に血管を浮かばせるも冷静なようだった。しかし勝負人としての火が付いたのか懐からジャラジャラとなる小袋を取り出して机に置く。


「なかなか血の気の多い兄ちゃんが来たもんだ。いいだろうこれでどうだ金貨50枚。50万センスある。そこの金と合わせて74万センスだ悪くないだろう。その時計がいくらの値段か俺には予想もつかんがこれが俺の今の全財産だ」


 思わずにやける。うまくいきすぎだ。

 周りの集まった人だかりがここ一番と盛り上がり、気分が高揚するのを覚える。

 広臣の笑みを肯定ととったのかゴウセルは豪快に笑う。


「はっはっは。こんな挑発を受けたのは久しぶりだ! ここまで盛り上げたんだ。手加減はしないからな」

「いいだろう。その心意気受け取った。ここまでお膳立てしてやったんだ」


 広臣がにやりと笑うとゴウセルも嬉しそうに笑う。

 司会の男が慌てたようにしているがゴウセルとこのような予定も話し合っていなかったのだろう。


「なななんと! このチャレンジャーは今までと違うぞ! それではルール説明だ。ルールは簡単! 魔法の使用は無し! 腕っ節のみの腕相撲だ!」


 ここぞとばかりにテンションを上げている司会者は席に着いた広臣とゴウセルを交互に見る。そして両者の手を持ち互いに握らせる。


 観客からすればこの体格から見てゴウセルと広臣は二倍以上の差がある。誰も広臣が勝てるとなど思っていないだろうが、とても緊迫した雰囲気に息を呑む。

 ゴウセル自身も油断という文字は存在しないというくらい真剣な表情になっている。


 そして司会者が大きく息を吸い込む。

「レディー、ファイッ!!」


 そして火蓋は落とされた。




                ■




 四木広臣は困っていた。


 あの腕相撲の結果はというと圧勝だった。広臣はうまく力加減を調整できず、ゴウセルの手ごと机を破壊してしまった。

 その人並み外れた出来事にあたりからは魔法を使っただろうと避難が殺到した。当然まともな人の力で机など簡単に破壊できないだろう。

 しかしそこで助け舟を出したのは誰でもないゴウセルだった。


 ゴウセルは広臣が魔法を使っていなかった事を説明し、これ以上広臣を攻めるのは俺自身の侮辱とまで言い放った。

 広臣はゴウセルの男気に関心して言葉も出なかった。


 そして賞金を頂いたのだったが、周りの視線が妙に痛かったことで居てもいられなかったので広臣は逃げるようにそこを離れたのだった。


 広臣はもうそのことについては割り切ったのだが。


(尾行されてる。……というか隠れる気はあるのか)


 困っている原因として、あの腕相撲の後からずっと誰かに付け回されいてるのだ。しかも、それは尾行とは到底言えない雑さに広臣は困惑していた。


 広臣が振り向くとその影はささっと物陰に身を潜める。その姿はいかにも魔法使いですと主張するようなつばの広く三角の黒い帽子と、黒の長いローブである。


(いや、体はみ出てるが)


 この拙い尾行をいつまでも続けられると精神衛生上よろしくない。

 気づかないならまだしも、ここまでわかりやすいと逆に疲れる。


 金に余裕ができたことで心にも少し余裕ができた。それでもするべきことはたくさんある。

 広臣はもう精神的に疲れていたのがあり、まず宿屋を探していた。


 そして宿に入ってしまえばこの煩わしい視線からも逃れると思っていたのだが、まずこの世界の文字が読めないことに気がついた。そこに気づいてから、なぜ言葉は通じるのかわからなかった。


 広臣は文字が読めないのでどこがどういう店なのかいまいち掴めなかった。

 宿を探そうにもどれが宿なのかわからない。そんな本末転倒なことになっていることに気がついてどうしようもなくさまよっているのだった。



 相談できる人でもいればもっと落ち着けるだろうが、ここに知り合いなどいない。

 広臣といえば、まだここは異世界ではないのではないかと思考を張り巡らせていたのだが、見たこともない文字に、まるでゲームの世界に迷い込んだような人々の服装などここが異世界だと信じざる負えなくなってきた。

 そして一番気になっていることといえば、先ほどの腕相撲の際、ルールとして魔法を禁止すると名言されていた。


 魔法である。ほんとにそんなもの存在するのかと広臣は内心ワクワクする気持ちを抑えきれなかった。

 そしてその魔法が本当にあるならもしかして自分も使えるのだはないかとそんなことを考えていると、ここは異世界で間違いないのじゃないかと思えてきたのだった。



 そして想像は好奇心へ変わっていく。

 魔法が見たい。そして魔法を使ってみたい。こんなもの憧れないで何が男か。


 かといっても魔法など使い方もわからない。そしてこの街に入ってもう2時間以上は経っているだろうが未だに魔法らしきそれは見受けられなかった。

 考えられるとするのは、魔法はこの世界においても特別なもので誰でも使えるわけではない、または歩いているだけでは魔法と触れ合う機会はないのかもしれない。

 まず、魔法という定義もよくわからない。本当にファンタジー世界のように火を操ったり空を飛んだりできるとは限らない。つまり見てわかるようなものではない可能性もある。


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