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螺旋上の赤  作者: 黒船
3/9

第3章 別れの理由




――カランカラン


「いらっしゃいませ!何名様ですか?」


ここのお店は大学の近くということもあって、店員もお客も殆ど学生ばかりだ。


実際、入って直ぐに接客に出てきた子も同じ大学に通うバイトの子である。


「って、凛じゃないのさ。」


「やっ、バイト大変だね!」


同じ英文科の零ちゃん。


「ちょっとこないだ出た課題が終わらなくてね……。

 花奈に解らないところを教えて貰おうと思ってさー。」


「どうせまた写すだけじゃないのかい?

 花奈も大変だねぇ。」


「カッカッカ!」と言わんばかりに笑う零ちゃんは姉御肌のサッパリした子。

良い子ではあるんだけど、その代わりあまり話しをオブラートに包めない。

包めないというか、ワザと包んでいないのかもしれないが。


私はそんな裏表の無い所に好感が持てたので、会って間も無く友人関係を築くことが出来た。

半年を過ぎた今では、中々の仲良しであると自負している。


「零ちゃんは余裕ありそうですな……もしかして終わってる?」


「そりゃそうさ、アンタじゃないんだから。

 あの課題は先週に出されたものだろう?流石に終わってるよ。」


零ちゃん、何気にハイスペック。

将来はアメリカで一旗上げてやると豪語するだけある。


「今は昼時も過ぎたし空いてるから、好きなとこ座って良いだろ。

 店内も静かだし、ゆっくり課題やっていきな――っと。」


うちらの相手をそこそこに、他のお客さんのオーダー取りに行っちゃった。


「さて花奈。何処に座ろうか?」


「うーん、端っこの方がのんびり出来そうだから、あの辺りが良いかな?」


入り口から一番遠い、角の何席か空いている所を指した。


「オッケ、私は飲み物持ってくから花奈先生は先に座ってて下され。」


「よきにはからえー。」


花奈先生は可憐な微笑みを振りまいて席の確保へ。

飲み物運びくらいは私目にお任せあれ。お世話になっていますからね。





課題を進め始めて2時間が過ぎた頃。

ふと店内を見渡すと、私たちの回り以外はほぼ満席だった事に気付いた。

遠くの席では卒論が終わったのか、先輩達がクリスマスの予定について話しているのが聞こえる。

卒業パーティでもするのだろうか。


私はこの課題が終わらないとクリスマスもお正月も来ない。

格差を感じるばかりだ。


「花奈様、お待たせ致しました。ご所望の紅茶でございます。」


執事風にドリンクバーで汲んだ紅茶を置き、今日のVIPをもてなす。


「ふふっ、ありがと。」


ふんわりした花開く様な微笑みには、女の私でも少しトキメいてしまう。


(さて、続きを始めますか!)


純白のレポート用紙を広げ、みるみるレポートを進めていく。

花奈先生のレポートを参考にしつつ。


あくまで参考であり、丸写しではない。

語尾とかはちゃんと変えているし、倒置法や反復法も交えている。

課題である英作文の文面には一部の隙も無い。完璧である。


当人は本気でそう思っているが、英文科の課題に倒置法や反復法を使っているのである。

丸写しでは無い感を無理矢理出そうとしているため、支離滅裂な文章になってきてしまってはいるが、内容は何とか伝わるので及第点は貰える……だろう。多分。


カリカリ……。


カリカリ……。


猛烈にレポートを進める私を、花奈はなぜか楽しそうに眺めている。

そんな時間がしばらく続いたとき、レストランに新しい客が来た。


カランカラン…


騒がしい数人がレストランに入ってきた。



「そうなのよ~。信じられなくない?」


「えっ…それマジ?!」


「それはないわ~。」


騒がしい集団は大声で話しながら、唯一空いていた私たちの隣の席に座ってきた。





(むぅ、レポートあと少しなのに……集中出来ない。)


「あれ~?花奈じゃん!!」


その騒がしい集団は花奈を知っているらしかった。


「瑠依ちゃん、こんばんわー。」


花奈とは何の接点もなさそうな少し派手な集団を花奈も知っていたらしい。


(瑠依……どこかで聞いたような……?)


あー、ああっ!


(キス魔プレイボーイの元カノ!)


「何してんの~?」


「今日は友達のレポートを手伝ってるんだよ。」


「そっか。そういや英文科はうちらとは違って、課題とか多いんだっけ?

 そういや同じ選択授業にも先週レポート課題出てたっけ、今度みせてよね~。」


(花奈はそっちでもレポート見せてるのか……。あんな感じ悪い奴らに見せる必要なんてないのに。)


人の振り見て我が振り直せとはよく言ったものである。


瑠依達はもう、こちらに興味も無いようで自分たちの話に戻った。


「花奈……いつもごめんね。迷惑かけちゃってさぁ。」


これからはあんなやつらみたいにはならないと心に決めつつ、英文の転載……オマージュ……を再開した。


しかしお隣様、声がでかい。

五月蠅くてレポートが全然進まない。


「そう言えば瑠依~、何で髪切ったのよ?前の長い方が可愛かったのにさー。」


かなりどうでも良い話を隣でガヤガヤされる、こちらの気持にもなっていただきたい。

課題やっているって、さっき花奈も言っていただろうが。


「あのムカつく元彼のせい。」


イライラした口調で瑠依が言い放った。


(あのムカつく元彼……ヤツか?)


「あいつが短くしろって言ってきたのよね~。

 ショートじゃないと付き合う気ないわ。だってさ。

 仕方なく切ったけど全然似合わないし……マジ最悪。

 しかもさぁ、仕草とか言葉使いとかにも凄い五月蠅いんだよ。

 あいつカッコいいから、嫌々ながらもとりあえず言う事聞いてたんだけどさ~。

 そしたら、こないだ一方的に『やっぱりお前じゃない、別れる。』だってさ。」


(うーん、それは流石に酷いな……って、私もソイツのターゲット疑いがあるんだった。)


「私から告白したけどさ~……流石に仕草とかまで指図されるはキツくない?」


(お可愛そうに……。

 私は絶対にそうはならない!坂で少しドキドキしただけ……。

 キスで少しドキドキしただけ……急にキスされたんだから仕方ない。

 ――ってあれ?ドキドキしかしてない?)


「別れ話の時に食い下がったのね。でも一言。

 『お前じゃなかった。』だってさ!意味分からなくない?」


(どんな俺様なんだ……様は飽きたから捨てたんだろ?

 それで、次は私かよ。酷いフリ方した後にすぐ私にあんなことして……。

 そんなヤツに唇を奪われちゃうなんて……。)


 色んな思いが心を巡り、胸が苦しくなった。


「花奈……ごめん、今日はもう帰るね。」


「え?凛ちゃん、どうしたの?まだ課題途中じゃ……。」


「ごめんね。今日はちょっと気分が乗らなくなっちゃって。

 アレックスも探しに行きたいし。会計、ここに置いておくから。」


「凛ちゃん!?」


そそくさと荷物を纏めてレストランを飛び出した。



(花奈ごめんね……でも私どうして良いか分かんないよ。)


イライラと、何故かわからない苦しさを堪えて自転車を漕ぎ出す。

時刻はもう黄昏時。辺りは暗くなり始めていた。


キコキコ……


キコキコ……


うつむき、足元をカサカサと音を立て通り過ぎていく落ち葉を見ながら。

寒空の下、家への帰路につく。


はぁ……っ。


すっかり冷たくなった手を吐息で温める。


耳も痛くてたまらない。


アレックスも無くしちゃったし、今日はもう踏んだり蹴ったりだ。

本当にツイてない。


そろそろ転んだ坂に着く。


(多分もう無いだろうなぁ。)


キコキコ……


(頂上付近だったからそろそろだと思うんだけど……。)


自転車を止めて、坂の頂上付近を見回す。


街灯が点っているお蔭で、地面は良く見える。


歩道には見当たらない。

車道も見たがそれらしきものは見つからなかった。


しゃがんでみたりして探してみたものの、暗くなった黄昏時にキーホルダー1つを探すのは至難の業だ。


(うーむ、もしかすると橋の下かなぁ。)


とりあえず覗き込んでみる。

この下に落ちてたら浅い川とはいえ、もう流されてしまっていて見つからないだろう。


歩道とは打って変わり、下の川辺は暗くてよく見えない。


(うん……?なんだ?)


川の中で何かが動いている。

ハッキリとは見えないが、何かが動いているのは間違いない。


(――人?この寒い中、川に人が?)


欄干から身を乗り出して川辺を凝視する。


このクソ寒い中、日も暮れた時分に川に入るような変わったヤツ。

それは『神山 有』だった。


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