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その97.神様がラノベ作家を目指した件について

「感動的悲劇的! 素晴らしい茶番をありがとー!」


 すぐにでも殴りかかろうと思った。

 けれど、蔵曾は俺の前に立ちはだかって阻止。

 ああ、解ってるさ。

 俺は無力だ、一時の感情に任せて飛び掛ったところで何もできな事くらい。

「その顔が見たかった。僕は今実に満足してるよー!」

 こいつの目的は……ただ、俺が悲しむ様子と、激昂する様子を見たかっただけだったんだ。

 そのために宮坂さんを巻き込んで、真夜や双子の咲と凪を現実へと呼び出し、消しさった。

 反吐が出るくらい、胸糞悪いクソ野郎に初めて会った。

「さーて、帰りますかー」

「逃げられると思ってる?」

「思ってるよー。君の力は強大だけど、僕の力だって君には負けない。君が結界を張って僕を逃がさないようにしようとも、僕は一箇所だけ力が及ばない場所を用意してるんだ。いやー全体ならまだしも一箇所に集中すれば君の力はなんとかなるのさー、ふひはっ」

 更に、構造神は指を鳴らすと蔵曾が倒した少女が赤く点灯し始めた。

「あとねえ、それ爆発するから。僕の力で君からの干渉は受け付けない構造だ、受け付けられたとしても、間に合わない。君の力にあがなう為に何週間も構造を重ねたんだから」

 構造神は跳躍して壁へと引っ付いた。

 重力がそこを起点としているかのように、彼は壁を歩いて天井へと向かっていっていた。

 まるでマジックでも見ているかのような光景、口をぽっかり開けている場合ではないと――後ろでジジジジと音を立てはじめた爆弾が教えてくれる。

「ぞ、蔵曾! どうするんだよ!?」

「これを、何とかする」

「どうやるんだ!?」

「えっと」

「考えてねえのかよ!」

「創造神はアドリブに弱いなー」

 天井にたどり着いて逆さまになったまま俺達を見て構造神は笑っていた。

「頑張ってねー」

 蔵曾が青い光を放つも、天井のその部分だけは弾かれて効かず。

「や、やばっ、やばいですっ」

「わ、解ってるよ!」

 宮坂さんは目の前でぐるぐる回ってしまうほどの狼狽っぷり。

 俺も一緒に回ってどうにか考えたいがいやいや待て待て落ち着いて!


「あんたの力以外ならいいのね」


 入り口から、誰かがやってきた。

 聞き覚えのある声――ああ、もう、本当にほっとする。

「と、豊中さん?」

「何よ」

 左腕は負傷しているようで、三角巾で固定されており、頭部や足には包帯が巻かれているも、豊中さんは……生きていたのだ。

「豊中」

「穴が事前に開くように結界の構造を変える力をあそこだけ使ってたようね」

 見上げる天井、赤い光がかすかに見える。

「少し、殴り辛いけど」

 すると、豊中さんは今にも爆発しそうな少女に近づいていった。

 少女と例えていいのかすら危うい外見だが、この場合は爆弾と呼んだほうがよさそうかな?

「ジバくまで、五秒」

「ご、五秒!?」

 少女がそう言う。

「ごごご、五秒です!」

 宮坂さんはもう俺の足に引っ付いて今にも泣き喚きそうな勢いだ。

「豊中」

「避難しなくていいわ」

 ――豊中さんはその瞬間に、少女を蹴り上げた。

 拳を構えて、天井へめがけてその拳をめり込ませる。

 風圧があたりを震えさせた。

 少女は、天井の穴へとまっすぐ吹き飛ばされ、空へと舞い上がっていく。

「はい、これでよし。ていうか、こんな事しなくてもあんたならどうにか出来たでしょ?」

「……多分、いや、出来た、余裕だった」

 嘘つけ。

 そしてその瞬間、轟音が空から降り注いだ。

「うぉおおお!?」

 天井がいくつか崩れるも蔵曾が両手を重ねて青い光を放出して破片を阻止。

「命中したかしら」

「そうだと嬉しい」

 まるでゴルフをして、いいとこにボールが落ちたか遠くで確認するゴルファーとキャディのよう。

「豊中、心配した」

「そりゃどうも。左手の骨が折れて足は打撲、頭部は切り傷に背中は火傷したくらいの軽傷よ」

 人はそれを重傷と言うのだが。

「隠れていれば相手は油断してがさつな作戦で行ってくれると思ったけど、予想通り。ここら一帯は包囲されてる、あいつは捕まえられるわ」

「どうだろう」

「別に捕まえられなくてもいい、この街から追い出せればそれでいいわ」

「うん」

 二人とも踵を返して、豊中さんは一仕事終えたぜと言いたげなため息をついて入り口へ向かった。

「ほら、あんたらは帰った帰った」

「豊中さんマジ天使」

「ふんっ」

 照れなのか、こっちを向きはしなかった。

「宮坂さん、大丈夫?」

 未だに俺の足にへばりついたままの彼女。

「腰が、抜けて……」

 無理も無い。

 俺もよく腰が抜けなかったものだ。

「じゃあ俺の背中に」

「す、すみません……」

 外に出るとすっかり日が暮れており、すぐ目の前には何かが倒れていた。

「ふひ、はっ」

 全身黒こげのそれは、どこかで見覚えがある。

 見ていてとってもすっきりするな、しばらく観察するのもいい。

「ホールインワンだったようね」

「ナイス」

 蔵曾と豊中さんは嬉しそうにハイタッチ。

「今シーズンは上り調子になりそうね」

「ホールインワン賞のお肉はウェルダンでご提供」

「ゲス臭さが焦げたおかげでいい香りになったわね」

 思わず笑っちまう。

「じゃあ、こいつ持ち帰るとしましょうか」

「構造神、獲ったどー」

 某番組を彷彿とさせるけどやめなさいな。

 構造神の扱いは実に雑で、蔵曾は彼の足を掴んで引きずったまま連れて行っていた。

「ざまぁ」

「ざまぁ」

「ざまぁ」

「ざまぁ……」

 右から順番にざまぁの掛け声。

 ちなみに最後のざまぁは宮坂さん。



 後日。

 いつもの日常が戻ってきた。

 とはいえ、蔵曾達が俺の日常を土足でずかずか入り込んで滅茶苦茶にするような日常に慣れてしまった結果、いつもの日常と言わざるをえなくなっただけなのだがね。

 とりあえず、確認した事。

 中島さんのお宅の表札はちゃんと元に戻っていて、当然真夜も……いない。

 みつばちゃんは朝からお母さんとどこかお買い物かな? 手を引いてもらって丁度俺の前を通りかかった。

 じっと俺の顔を見て足を止めるみつばちゃん。

「どうしたのみつば」

「ううんと……」

 口をへの字にして呻るも、何も浮かんでこなかったようでみつばちゃんは行ってしまった。

 かすかに、記憶が残っていたのかもしれない。

 俺と真夜と一緒に遊んだ記憶が……。

 蔵曾の力によって変化させられた者、つまり俺達と……それに加えて構造神の力によって影響を受けた者――宮坂さんくらいしか、真夜の事は憶えていない。

「あっ」

 暇つぶしに街へと向かう俺だったが、道中――宮坂さんと遭遇した。

 どうしたんだろ、ここらは宮坂さんの行動範囲外な場所だと思うのだが。

「ど、どうもです……」

「どっか、用事?」

「いえ……ただ、もしかしたら、とか、思ったりして」

「もしかしたら、というと?」

 答えは解っているから、聞くのは野暮ってもんだが。

「真夜、いないかなって……」

「そっか」

 自然と互いに肩を並べて街へと向かった。

 俺も、そのうち後ろからあいつが元気溌剌な感じで声を掛けてくれるんじゃないかって、ここ数日はずっと思ってたり。

「……すみません」

 その謝罪は、唐突に涙を流してしまった事によるものらしい。

「いや……」

 むしろ俺がその涙を誘ってしまったんじゃないか、これは。

「私、物語……書きます。彼女が幸せになれるような、物語を……」

「いつか読ませてくれよな」

「はい、それで、ですね。主人公の名前、あなたの名前をお借りしてもいいですか?」

「俺の?」

 小さく彼女は頷いた。

 この申し出、断るわけにもいかんだろうよ。

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます」

 それから少し歩いて、彼女とはすぐ別れた。

 今すぐにでも書こうっていう気持ちからか、早足気味。

 蔵曾に見せてやりたいもんだぜ、彼女の意欲をさあ。

 俺は街について、いつもの待ち合わせ場所の付近で足を止めた。

「真夜……」

 確認した事、そのもう一つは、蔵曾の力で真夜は復活できないかという事。

 真夜はここにいない時点でお察しなんだが、それは無理な話だった。

 真夜というまったく別の存在を作る事は出来るが、それは真夜であって真夜じゃない。

 真夜という形をした生物でしかなく、そして無闇に命を作る事だけはしないと、蔵曾には断られた。

 まあ確かに、作ってもらったとしても、その真夜は……違うのだから意味は無い。

「やっほー」

 ……人ごみに紛れてやってきた一人の少年。

 構造神はどうなったのか、聞いてみたのだけれどどうやらあいつは逃げ出したらしい。

「……構造神」

 そんでもって、目の前には構造神がいる。

 元気そうに現れやがった。

「僕だよー」

「そう身構えないで、力を消耗して今は無力だよー」

「とはいっても……な」

「まあまあー。今日はちょっとしたご挨拶に来たんだ」

「ご挨拶?」

 にこにこした顔を崩さず、再度口を開く。

「いやー、ちょっとこの街にいると皆に目をつけられちゃうし、居心地が悪いから街から離れるよー」

「そりゃあありがたいな、最後に一発殴らせろ」

「いやいやちょっとそれは嫌――ぷぎゃっ」

 通行人の目が集中しているが、構うもんか。

 思い切り俺は構造神の頬に拳をぶち込んでやり、倒れそうになったこいつの胸倉を掴んで建物の壁に押し付けた。

「ふ、ひはっ……痛いなー。気は済んだ、かなー?」

「全然」

 最後に一発と言わず、数発って言えばよかったな。

 それなら限りは無く、俺の気が済むまで殴れる。

「君達人間はいつだってそうだ、感情に身を任せちゃう」

「そうだな、もう一発くらいいいか?」

「しかしそれも美しいものだねー。人間という構造は最高だよー」

「最高だな、うん、お前を豊中さんにでも突き出すとするか」

「それは無理かなー。無力とは言ってもね、君から逃げられるくらいの力はあるよー」

 すると、掴んでいた襟がまるでこんにゃくのようにぬるりと滑って手の平からすり抜けた。

「拘束は無理だよー。じゃあ僕は行くから。行こう、コヤス」

 コヤス、と呼ばれた女性はいつの間にか俺の後ろにいた。

「うおっ!? って、お前……この前の……」

 蔵曾と戦って、しかも最後は爆発したあの少女……何故生きてる?

 生気が感じられないその目、彼女はじっとそんな目で俺を見てくる。

 まるで等身大の人形と対峙している気分だ。

「蔵曾によろしく言っておいてねー、ばいばーい」

「失礼します」

 踵を返す構造神、そして深々と頭を下げるコヤス。

 彼女が俺の前にいるだけで、構造神に突っかかろうっていう気分が大いに殺がれてしまった。

 去り行く二人をただただ見送るしかなく、二人の姿を捉えられなくなったところで俺は……逆方向へと足を進めた。

「まあ、いいか……」

 構造神が逃げ出したのはもう蔵曾達は知っている、街中にいたよって報告したところできっと構造神は捕まらない。

 報告しに行っても時既に遅しなのだ。わざわざ報告する必要は無いな。

 というわけで。

 落ち込んでいても仕方が無いわけで。

 さあて。 

 実は今日は、ノアと二人きりで遊ぶために家を出たのだ。

 俺の気持ちを明るくしてくれるのを願って歩数を重ねる。

 いつになるか解らんが、きっと俺の疲弊した心が取り除かれた頃に、真夜の物語を読めると思う。

 その時が、あいつとの再会になる。

 それまでは、胸に仕舞っておくとしよう。

 あいつとの物語という日々、それも……悪くは無かったなあ……。

「浩太郎」

「おお、蔵曾。さっき構造神いたぞ」

「知ってる」

「追わなくていいの?」

「逃げ足が速い、追うのは無駄」

 そうかい。

 仲間もいるようだしなあ、捕まえられるかもっていう期待はするだけ無駄ってもんだな。

 俺はあいつを一発殴れたから多少はすっきりしていていい、二度と来るなってんだ。

「今日はどこかに?」

「ノアとデート、羨ましいだろ」

「是非取材させてもらう」

「ついてくんなよ!」

「これもラノベのため」

「くっ……」

 蔵祖から逃げようにも絶対にこいつはついてくる、こうなったら諦めるしかないか……。

「……出てくるなよ」

「遠くで観察する」

「ならよろしい」

 まあいいさ、これでお前の意欲や執筆が進むのなら。

 一先ずは今日を楽しむとしよう。

 神様がラノベ作家を目指すようなこのご時勢、まったく……退屈な日常から実に楽しい日常になったもんだ。

 辛い事もあったけど、今があるからきっと、耐えられている。

「観察もいいけど、早く書けよな」

「明日から頑張る」

「今日頑張れ」


 神様がラノベ作家を目指した件について、本日も神様は観察ばかりで執筆無し、と。


若干、ここで終わり? なところがあったり。

一先ず。はい、一先ずですが神様がラノベ作家を目指した件について。はここで完結とさせていただきます。

今までご愛読ありがとうございました、また暫くは精進すべく文章を練る作業へと戻ります。ではでは!

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