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その91.サヨナラ!

「豊中さんいないの珍しいな」

 休み時間になると集まってくる取り巻き、その中にいつも必ずいるあの人の姿を今日は一度も見ていない。

「や、休み?」

 ノアも心配しているようだ。

「なのかな?」

 ノアは取り巻きに聞いてみるも、皆首を横に振って「そういえば今日いないね」といった様子。

 まあいっか。

 それよりも、だ。

 俺は一度廊下に出て、窓辺でポケットから一枚の原稿を取り出した。



 放課後、浩太郎は真夜と帰路に着いていた。

 互いに妙な違和感を覚えていた、誰かに見られているようなその感覚――双子が近くにいるのではといつもよりも警戒心が高まった。

「ど、どうかしたの?」

 しかし共に歩く友人達にはそんな警戒心を感づかれてはならない、いつものように振舞うとした。

「なんでもないよ」

「そう! なんでもないのさー!」

 真夜はその明るく活発な様子ではいるが内心はおそらく緊張しているはず。

 足を進めるたびにその違和感は高まっていく。

 近くにいる気がしてなら



 原稿は半分だけだった、それどころか書きかけだ。

 続きが気になって仕方が無いな……。

 宮坂さんがもう半分を持ってたりしないかな?

 昼休みにでも会いにいってみるか。

 この原稿を読んでもらって感想も聞きたいしな。

 そんでもって昼休み、俺は屋上で早々と昼食を食べてすぐに宮坂さんのもとへと向かうとした。

 いやあね、こうして早々と動かんと真夜がついてくるからね。

 てかついてきてるしっ。

「浩太郎ー! どこ行くのー!」

「なんでもないからノア達といろよ」

「ご飯あたしも食べちゃったし!」

 俺に合わせて食う速度速めたんだろっ。

「いつ何があるか解らないし!」

 まあそうですけども。

 さてこういう困った時は……。

「薫!」

「あいさー!」

「なっ!? か、薫ちゃん!?」

 困った時には薫を呼ぶのが一番、屋上から出る時に薫に一瞬目を合わせていた。

 何かあったら頼むっていう合図でな。

 真夜が追いかけたのを見て薫もついてきてくれたおかげで、まあしかし……真夜にはそれなりに悪いとは思ってはいるが逃げるとしようっ。


「サヨナラ!」


 爆発四散はしません。


「アイエエエ! ニンジャ!? ナンデ!?」

 流石薫だぜ。


「二人とも何の会話してるの!?」

 そんな混乱に塗れてもらって、その間にさっと曲がり角へ。

 うん、ものすごくごり押しだった気がしたけど何とか逃げれたな。

 それにしても宮坂さんはいつもどこで昼食を摂ってるのかな?

 屋上にはいないし、大抵は食堂?

 教室もあり得るな。

 先ずは食堂だ。

 この時間はやっぱり混むなあ。

 人ごみが嫌だから食堂は利用しないんだよね。

 屋上でのんびり飯を食う、それが俺には何よりも最高な昼食だ。

 今はノアや豊中さんや、それに真夜も参加して前よりもにぎやかになったもんだぜ。

「いない、か……」

 食堂を二週もした。

 食券を買うわけでもなく、席に座るわけでもない俺の行為はなにやら不思議がられているが気にしないでもらいたいものだ。

 やっぱり教室に行くのが一番かなあ。

 けど他のクラスの教室に行くのってちょっとさ、まだ慣れないんだよね……。

「行ってみるか……」

 このままだと食堂をぐるぐる回る不審者になりかねない。

 そもそも彼女のクラスに行けば早かったんだよ、俺の馬鹿めっ。

 教室の空いた扉。

 中には生徒は数人、しかも女子ばかり。

 なんてこったい女子ばかり。

 そわそわしながら、教室の入り口へ近づく。

「あの……」

 声が小さかったようで、誰の耳にも届いていない。

 とりあえず教室を一瞥……。

「いないな……」

 ならば彼女が何処に行ったのか、心当たりがありそうな女子生徒に聞いてみるとしよう。

 近くには二人の女子生徒が楽しそうに話をしてるけど、うーむ、こういうのって声をかけ辛い。

 一人だったらさあ、いいんだよ、一人なら。

 二人だとちょっとね、勇気がいるんだ。

「あの……」

「はい?」

 女子生徒二人分の視線を浴びる。

 若干口篭りそうになったが、こらえて口を開いた。

「宮坂さん、いないかな?」

「あ、あの子? あの子なら昼休みにすぐ出てったわよ?」

「出てった? 何処に行ったかは解る?」

 二人とも顔を見合わせて、後に俺を見て首を横に振った。

 困ったな……次はどこを探そう。

「いつもは教室でご飯食べてるのにねえー」

「今日は外に食べに行ったのかしら?」

「でも弁当置いたままだよ?」

「あ、ほんとだ」

 視線の先には、弁当が置かれた机。

 おそらくその席が宮坂さんの席と思われる。 

 弁当箱は開きかけていて、今から食べるぞという彼女の仕草が想像できる。

 ……ん?

 弁当箱の蓋、その上に紙が置いてある。

 見覚えのある横長、B4サイズのそれは――原稿用紙?

「ちょっと失礼して」

「どぞどぞ」

 二人とも構わず昼食と談笑に。

 ささっと宮坂さんの席に移動した。

 原稿用紙が気になる……。

 半開きの弁当箱、うーむ……鮭、磯辺焼きにオクラ、白身フライにはタルタルソース、ご飯はノリが乗っている、和風だなっ。

 ってこの弁当はいいとして!

 原稿用紙を手に取った。

 何が書かれてる?

 宮坂さんが弁当も食べずにすぐに教室から出て行ったわけがここに書かれている気がする。



 双子はすぐ近くにいた。

 双子は茂みの中に隠れて、四つの眼で周囲を観察していた。

「どうする?」

「どうしよう?」

 屋上での襲撃は失敗に終わった――次の作戦は考えてはいる、がしかし……未だに浮き足立った計画の実行、実行に移していいものかを考えていた。

「あいつと知り合いの奴、どこかにいないかな姉さん」

「私も探しているところよ妹よ」

 二人は茂みから茂みへと移動し、巧みに昼休みという生徒達が活発に動く次官であっても見つからずにいた。

「……姉さん、あの女」

「弟よ、私も気づいたわ」

 眼鏡を掛けた少女が学校の入り口から出てきたのを双子は目撃した。

 距離はおよそ七メートル、気づかれてはいないが眼鏡の少女は何かを探している様子だった。

 思いがけない僥倖。

 以前あの少女にいいようにされたが二人で奇襲すれば絶対に捕まえられる、双子は人質とする対象を決めて、人気が無くなる時をじっくりと狙いつつ影から少女に近づいていった。



「み、宮坂さん……!」

 俺はすぐに教室から出た。

 この原稿からすると、彼女は外に出ている、学生玄関からか? あそこの近くは木々がいくつかあってやや茂っているもちらほらとある。

 そこに双子がいたとして、宮坂さんを偶然目撃、彼女を人質にとって俺をおびき出すってか?

 そこへ、紙飛行機がどこからか飛んできた。

 俺のほうへ真っ直ぐ向かっている。

「……なんだ?」

 何か羽根の部分に書いてある。

 読め? だって?

 紙飛行機を開いてみるとそこには、


 女は連れ去ったのでー、真夜と共に私達の元へ来てちょうだいな。

 場所は言わずとも、気配で探知できるでしょー。てことでよろしく。


 ちくしょうっ!

 驟雨の如く何かやらかしては消えるの繰り返しな奴らだ、できれば事が起きる前に宮坂さんを助け出したいが……!

 先ず、外に出て拳を強く握るはめになったのは、どうしてか昼休みだってのに学生玄関前は閑散としており、人っ子一人いなかった。

 今日は不思議と広場で飯を食う生徒はいないらしい。

 こんな場所だ、“誰か一人連れ去られたって”気づきはしないだろう。

 近くにいやしないかと探してはみたが、宮坂さんの姿はどこにもない……やはり、もう既に連れ去られたか……?

 おそらく真夜もそわそわしてるはず、双子の気配を感づけるからな。

 どうする……?

 真夜と合流して双子探しか?

 物語的にそういう流れなのかこれは。

 ……駄目だ、俺にはもう選択肢は無い気がする。

 宮坂さんは既に連れ去られた、その時点で俺は彼女を真夜と一緒に取り返すという流れに乗って、物語を完結まで向かわなければならないのだろう。

 一度引き返して、俺は一度引き離した真夜を探すとした。

 きっとすぐに見つかるはずだ。

 現実で起きているのは宮坂さんの物語。

 話はスムーズに進むはず。

「浩太郎っ」

 ほらね。

「あのね、また双子の気配がしたんだっ!」

「……なあ、この前知り合った宮坂さん、覚えてるよな?」

「えっ? う、うん、勿論」

「双子に連れ去られた」

「な、ほ、本当に!?」

「……ああ」

 さっきの紙を見せてやった。

 真夜は今にも破りそうな勢いだったがこらえて目付きを鋭くさせる。

「咲凪を探さなきゃ……」

「心当たりは?」

「いえ、でも浩太郎の血を吸って感知能力を高めれば……」

 なるほどな。

「じゃあ、外に出るか……!」

「うん! 宮坂さん、助けなくちゃ!」

 真夜ってさあ、本当にいい子だよな。

 少し話しただけの人であっても、古い友人かのように全力で助け出そうとしてる。

 宮坂さん、君の考えた登場人物は最高だ。

 後からやってきたのは薫とノアだった。いきなり走り出した真夜を追いかけた結果といった感じ。

「浩太郎っ」

「おお、二人とも。悪いが俺達ちょっと早退する」

「え、そ、早退……?」

 ノア、そんな悲しそうな顔するなって。

「厄介事か?」

「厄介事だ」

 俺と真夜を中心とした物語だ。

 二人は巻き込めない。

「先生に言っておいてくれ」

「う、うん……」

「浩太郎、行こうっ!」

 真夜は踵を返して既に足を進めていた。

 俺も同じく踵を返すも、後ろをちらりと見て悲しそうなままのノアに、どうしようもなく足を止めてまた足は引き返してしまった。

 急がなきゃならないってのに、これだよ。

「ノア、落ち着いたらどっか遊びに行くか」

「え、ほ、本当?」

「ああ、だから今は我慢して待ってろ」

 見る見るうちに表情が明るくなっていきやがる。

 もう大丈夫だな?

 お前に悲しい顔させたらお前を慕ってくれる人も悲しむからな。

 学校では皆に笑顔を振り撒いて明るくしてやれ。

 特に豊中さんにはなっ。

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