その90.私、気になります!
放課後がやってきた。
今日はノア様と一緒に帰りたいけど止めておこう。
色々と考えてみた、ああ、私なりに、私ならではの、私だからこその思考で。
一番手っ取り早いのはあの双子を始末することだ。
裏で手を引いている奴が構造神だとしたらの話であり、双子がその刺客だったらという曖昧な段階での決断ではある。
宮坂の原稿を元に相手は原稿を忍野へ拾わせるというくだらない演出を起こして、現実を歪めている。
こういう皮肉れた発想で現実をクソ以下に思っているような行いをする奴は……やはり、構造神……と決め付けていいかもしれない。
あいつは一足す一はと問いかけたら3.14159265259と答えるくらいに捻くれてるから、立ち位置を奪うってだけでそれはもうひねくれた行動を起こすに違いないのだ。
双子はどこにいるのかは調べ済みだ、思い切って双子を始末してこの騒動は終了とさせたいものね。
街中。
流石に夕方は人が多い。
その他には怪異がいくつか混ざっている程度。
やはり忍野の立ち位置は有効、有能とも言える。
それなりにコントロールは出来ているのだから、凶悪な怪異や神成らず、吸血鬼に不死者といった奴らは表に出てこれないでいる。
ちょっとした現実へのセキリュティソフトね。
しかしあの原稿……それに登場するものに関しては立ち位置をすり抜けているのは気になるわ……。
木崎真夜、忍野から見せてもらった原稿によると吸血者、吸血鬼とは少し違うようだけど、そういった類の連中が忍野の世界観に入ってきてしまっている。
根本が原稿によるものだからかもしれないが。
次々と入ってこられないように、今のうちに私がやるしかないようね。
「とか思ったけど、誰かしら貴方」
「これより先に進む場合、貴方を害と見なす」
「会話の仕方、解る?」
……音も無くいきなり現れた。
気配というものが感じさせない奇妙な雰囲気。
それよりもこの先に進む場合、私を害と見なすって? 喧嘩でも売ってるのかしらこの子。
見たところただの学生にしか見えないけれど……人外というのは雰囲気を隠しきれないものね。
「あのね、貴方には用は無いの」
「これより先に進む場合、貴方を害と見なす」
この子は馬鹿なのかしら?
やれやれ、困ったものね。
この細道を抜けたすぐ先に双子がいる。
地上から通るにはこの道しか無い、他は意図的にふさがれていた形跡があったからね。
ならばこの左右に立ち並ぶ建物の屋上から伝っていくか――となるけれど、目立ちすぎるわ。
一番無難なのは地上、とても簡単に済ませられるはずだったのに、何なのかしらこの子。
「双子に近づく事は許されない、命令により貴方は要注意人物」
「あらそう、そういう事」
誰かに命令を受けている。
さあて誰かしら?
「原稿のように、双子は最後まで生きていないといけません」
「ふうん、じゃあ貴方が双子の代わりに噛ませ犬として出てくれば?」
「これ以上原稿に反した物語の進行は許されません」
「はぁあん? 敷かれたレールの上をただ進むだけの人生に意味などないのよっ! なぁんちゃって」
ちょっとしたジョーク。
けれどムカつくくらいに反応が無い。
私を見ているのだけど、見ていないような……この子にはどうしてか生気というものが感じられない。
そういえば昔に、似たような奴と闘った事があったわね、そいつとそっくりだわ。
「話からして、貴方……構造神の手下ってとこ?」
「あの方に拾われました、だから仕えます」
単純な頭脳の持ち主ね。
あっさり構造神との繋がりを吐いちゃうなんて。
構造神は少しはそういうのは隠せって教えなかったのかしら?
「貴方、名前は?」
「001TKK」
「はぁあん……? ここは家電量販店だっけ?」
私にはただの街中のわき道にしか見えないのだけれど。
それともあれかしら、今のはこの子のギャグだったりする? それならここで笑っておくべき?
あらやだ、笑おうとしてもつまらなすぎて笑えない、ごめんなさいね。
「皆はコヤスと呼びます」
「じゃあコヤス、どうしたらどいてくれるかしら?」
「私を倒したら、それは結果的にどくという事と同等のものになります」
「単純な答えで助かるわ」
グローブを取り出して、装着。
相手はどう動く?
情報が少なすぎる、用心すべきね。
「一つご質問が」
「何よ」
「どうして飛行はしないのですか? 襲撃するにあたって、最も最適だったのは空から飛行して屋上へ降り立つ事だったと思われます。徒歩での移動も非効率かと」
「あーそれね……どうしよう、教えたくないわあ」
「私、気になります!」
どこで録音したのか、いきなりアニメ声で喋ってきた。
若干、この子の正体が何なのか感づいてはいたけど、やっぱりそうなのね。
そういう《機能》を持った奴ね、“あっち”から来た奴らの一人、それも厄介な奴らの“初期型”。
「空、飛べないの」
「天使なのに?」
「天使なのにね」
別にもう飛びたいという気持ちも無い。
治してもらうのは簡単だ、あの方がいるから。
けれども私は片翼にこだわりをもってるのでね。
「さあて、やりますか」
「戦闘モードに入ります。左手、実弾装填ミニガン、右手、ブレード」
機械音が発生した。
あの体……機械で出来てるのね、それも何か妙な力と融合してる。
ロボットの変形を現実で見れるなんて眼福、普通じゃ見れないわよね、CG無しだとこう……違和感なくスムーズな感じっ。
銃口が六つついたものになったけど……ああいうの見覚えあるわ。
どこで見たかしら。
ああ、映画だったわ。
ターミ○ーターっていう映画でシュ○ちゃんがぶっ放してた気がするわ、ああいうの一度やってみたいわね。
右手のは妙ね、変化したのは人差し指と中指、それが光沢あるナイフ状へと変化して伸びていった。
刃は広くなって、ええ、確かにブレードになってる。
なるほど。
この子はこういう存在のようね。
「撃ちます」
ミニガンが動作を始めた、装填はしているのかしら。
いえ、難しく考える必要は無いわね。装填されているのでしょうね。
放たれる銃弾は地面を抉って着弾が近くなっていった。
さて。
一秒間に何発発射されてるか解らないけれど、もはや連射音が一つの音のように繋がって聞こえるほどの連射――このグローブで全て弾けるかしら。
ううん、無理ね。
一先ずは横移動。
壁を蹴って、反対の壁へ渡っての繰り返し。
「はぁあん……容赦ないわね」
私のいた場所は一瞬で蜂の巣だ。
それにこの爆音、もう双子を追いかけようとしても音を聞いてその場から離れてるかもしれない。
「最初の命令を完了しました」
「あーやられた……」
この子、私を通さないのが目的じゃなく、私と戦闘して双子に異変を知らせるのが目的ね。
「まあいいわ!」
「次の命令、遂行します」
壁を蹴っての跳躍、瞬時に距離をつめればミニガンは撃てないでしょう。
何発か掠めてきているけれど、空気の揺れと音、それに存在を感知できる私は、異物の存在も場所は解る。
左下、左、左上、頭部へめがけての射撃。
一発は避け、次の二発はワンツーパンチ。
残った最後は避けて動きにぶれを生じさせるより――
ガチンッ。
「……そのような防御をする方は、初めてです」
「でひょうね、熱つっ!」
ちょっと舌で触っちゃった。
銃弾を噛んで受け止めるのはいいとして、これって熱を帯びてるんだったわね! 熱いわ! 忍野を殴りたくなるくらいの熱さだったわ!
「近距離、ミニガンをブレードに変換」
……便利なものね。
彼女の左手はまた変形、二刀流のスタイルに早変わり。
左手をフォークにすれば巨大なステーキを難なく食事できたわね。
接近戦もこの子は得意らしい。
ブレードは左手側のだけやや短い、近距離用が左手側、右手側は中距離用ね。
けどっ――左手一本で連打は防げるのかしら?
「おらぁー!」
連打でブレードを弾き、上体を低くして懐に入った。
そこでくるのは左手側のブレード、深く入りすぎず、スウェーでそれをかわし終えてから一歩踏み込んだ。
そこでやるのは、ボディへ渾身の一撃。
拳がめり込むが、その音……。
まるで鉄を叩いたような音だった。
上方へ吹き飛ぶコヤス。
顔色一つも変えていない、どれほどのダメージを負ったのか把握できないわね……。
「せえのっと!」
落下したところでもう一度――次は顔面に拳をぶち込んでやり、建物に叩きつけてやった。
顔はもっと硬いようね。
私の拳が少し痺れてる、中身は鉄? いいえ、それ以上の肩さを持つ物質ね……。
少なくともこの世界ではありえないもの。
「いかがかしら?」
普通の人間なら既に死んでる。
人外なら意識が飛んでる。
こいつはどう?
「内部破損、三十パーセント。指定対象の危険度の上昇」
「それはどーも」
すっと立ち上がってきた。
ご丁寧に自分のダメージをパーセントで教えてくれるのは助かるわ。
「戦闘システム、書き換え、対応できるモードへ移行」
「はぁあん? 対応できる、ですって?」
両手を広げて、ブレードを縮めている。
普通の手に戻ったかと思いきや、拳を握ると手の甲からブレードが五枚出現。
あっ、何かあれも何かの映画で見たわ。
X-○enにあんなのいたわね。
早く新作出ないかしら。
「行きます」
構える。
途端に、さっきとは比べ物にならないほどの加速。
目で――追うのがやっとねっ。
「痛っ……!」
背中を斬られた、傷は浅いけれど、拳を振っても空を切るだけ。
私の周りを旋回してその最中に斬っていたのね。
捕まえるとしよう――
「無駄」
「うっ……くうっ……!?」
目でも追いつけない速さではない、位置は解るけど、手を伸ばした瞬間、腕は数回も斬りつけられていた。
厄介……。
このわき道の横幅は大体四メートル、左右には建物が立ち並んでいて、この建物もこの子の足場の一つになってる。
旋回から、建物を走って渡って後方へと回り込むまで約一秒半、それに対応して拳を振るまでこちらは二秒。
僅かながら、相手に先手を取らせてしまっている。
もっと早く動くか、足を封じる何かが必要ね……。
「閃撃、閃撃、閃撃」
「……痛いわねえこのアマァ!」
制服は使い物にならなくなっちゃった。
一つ一つの傷は浅いけど、時折急所を狙おうとしてくるのがまた厄介。
じゃあ、こうしよう――
「閃――」
「はぁあん?」
「後退」
「捕まえた」
急所を狙ってくる時は少しだけ深く踏み込んでくる。
避けるより、こっちから突っ込んで左腕を差し出してみる。
すると、腕に深く突き刺さって、その瞬間に足を踏みつければご覧の通り――こいつは動けない。
「いっちょ、吹き飛びな!」
足を踏み潰して、今じゃあ最もムカつく顔に拳をぶち込んでやった。
「アガ、カ……」
「おー痛痛」
左腕に三つくらい穴が開いたけど問題はない、すぐ治癒できる。
けれど今はしない、壁にめり込んだこいつを油断せずに警戒しなくちゃね。
「セン、カい」
「まだ動けるの? 頑丈ねえ」
足も潰してやったおかげでさっきよりは遅いわね。
「そろそろ大人しくしなさい……よぉっと!!」
地面を思い切り殴りつけて、破片という弾を飛散させた。
逃げられるほどの加速はもう持ってはいまい。
破片がいくつか当たる音が聞こえた、後ろからだ。
よろめいたのか、振り向いてみると後ろ側の建物に肩を引っ付けて動かなくなっていた。
ギギギといった音をたててこっちを向いてくる、はぁあん怖い怖い。
距離をつめるとしよう。
もう動けまい、このままの状態で連れて行く。
「バックアップ、完リョう」
「はぁあん?」
何ですって?
「おい、ちょ――」
すると――後方から、何かが飛んできた。
何? 足に何か絡まってる、地面に繋がれちゃった?
後ろにも誰かいる? そんな馬鹿な。
「ジバくまで、五秒」
よたよたと、私に抱きついてきた。
「四秒」
ああ、もう。
天使って本当に大変。
「三秒」
あの馬鹿につきあうからこういう目に合うのよね。
「二秒」
双子は忍野とあの馬鹿に任せておけばよかったものを。
「一秒」
私も世話好きなところあるものだ。
「ゼロ」
ノア様のためのから揚げ、今日は――
* * * *
『本日夕方、平輪街中央通りにて爆発があり、建物四棟が爆発により出火し、現在街は騒然としております、爆発の原因はまだ解っておりません』
「あら、さっきすっごい音したのこれかしら?」
お茶をすすりながら母さんは窓の外を一瞥していた。
そういやさっき、ものすごい爆音が聞こえてきたなあ。
建物四棟って相当規模が大きいんじゃないか?
「ガス爆発かな?」
「テロだったら怖いわねえ……」
「流石にこんな街を狙うテロなんてありえないさ」
「まあ、そうよねっ。ささ、夕食の準備しなくちゃ!」
ただの事故さ、そうに違いない。
……嫌な予感がするけど、気のせいであって欲しいものだ。




