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88/97

その88.やっぱり小学生は最高だね。

 残りの授業を終えて後は帰るだけとなった放課後。

 今日は大人しく帰るとして、自宅付近になると真夜と二人きりにどうしてもなってしまうわけで。

 やたら口数が少なく、そわそわしている真夜。

 一体どうしたんだろう。

 とか、思っていた時、

「こ、浩太郎!」

「何だっ!?」

 いきなり彼女は口を開いた。


「き、今日、夕方、うちで、夕食でも、どうかなぁぁぁぁあ!」


「叫ばなくとも!」

「そ、そうだねっ! うははっ!」

 よほど勇気を振り絞ったのが見受けられる。

 予測されていた食事イベントとやらが発生したらしい。

 物語的にここは乗っておいたほうがいい?

 ……いいか、別に俺が危地に放り出されるわけではないのだから。

「別にいいよ」

「ほ、ほんと!?」

「ああ」

 ふと。

 ノアの顔が思い浮かんだ。

 俺の中の何か、一つの感情が、説明し難い感情がそうさせた。

「じゃあ、折角だから! あ、あたしの部屋で夕食まで遊んでいよう?」

「えっ、えっと……」

「だはは、駄目、かなっ」

 宮坂さん。

 君のヒロインってさあ、時々ものすごく女の子らしい仕草とか見せて、めちゃ可愛いよ。

「いや、いいよっ」

「よっしゃっ!」

 そんなわけで、夕食は彼女の家でと母さんに話すと、何故か親指を立てられた。

「いつの間にか女の子と知り合っちゃって! んもぅ浩太郎ったらぁ」

 そうだった。

 母さんも蔵曾によって変化を受けている、だから真夜の事は知らない。

 逆に真夜は母さんの事を知っている、この互いの差異は隠しておかなくてはな……。

「浩太郎、折角だからあたし挨拶をっ」

「いや、いいって、ほら! 行こう行こう!」

 強引にでもいい、隠すべき。

 俺は彼女の家へと向かうとした、本来は中島夫妻の家だが。

「あらぁ、浩太郎君じゃない!」

「ど、どうも……」

 中島さん――じゃなく、今は真夜のお母さん、だもんな。

 この人は俺の事を知っていて、俺はこの人の事を知らない、この互いの差異は感づかれないようにしなくては。

「今日は浩太郎、うちでご飯食べてくれるって!」

「まあ、嬉しいわ! ご馳走振舞っちゃうから期待しててねっ!」

 廊下の奥からは小さな顔が覗いていた。

 俺を真っ直ぐに見て、まるで憧れのヒーローでも見つけたかのような笑顔を浮かべて、少女は走ってきた。

「こうたろー」

「や、やあっ……」

 中島さんとこのお子さんだな、名前すら解らんが。


「まやー、こうたろーはどうしたのー?」

「みつばあ! 今日はうちで一緒にご飯食べてくれるんだよぉ!」 

 この子の名前はみつばでいいのかな?

「わー!」

 早く中に入れと言わんばかりに足に飛び掛ってきて引っ張ってくる。

「おわっとっ!?」

「あらあら、みつばは浩太郎君がお気に入りのようねえ」

 子供にはどう接すればいいのやら……これに関してはかなり疎いので戸惑うばかりだ。

「ごはんまであそぼー」

「じゃ、じゃあ、そうしようか?」

「みつばったら……仕方ないわねぇ」

 けれども可愛い妹にはそんな我侭も笑って許してしまう様子。

「まやーのへやでー」

「はいはいっ、ほら、よいしょしたげる!」

「よいしょー!」

 真夜はみつばを抱きかかえて二階へ。

 仲のいい姉妹だな。

 そんな流れで、さてさて。

 女の子の部屋にいるわけだが。

 どうしてこうも女の子の部屋というのは良い香りがするもんかねぇ。

 ああ、いや。

 蔵曾の部屋は埃っぽくて古本屋の香りがしたな。

 あいつは女とはいえ例外だ。

「とらんぷー」

「みつばはトランプ飽きないわねぇ……」

「おーし、トランプやろうかっ!」

 半ば勢いに任せている自分がいる。

「しんけーすいじゃくー」

「みつばあんた弱いのにそれ好きだなあもうっ!」

「まやーにきょーは勝つのっ!」

「やってみなさいよあははっ!」

 みつばちゃんが悔しそうに口をへの字にし、俺の膝をぽんぽん叩いてきた。

 何か言ってよって?

 うーん。

「今日は三人だからなっ、何が起こるか解らないし、みつば勝つかもよ!」

「ぬふふっ」

 嬉しそう。

「くくくっ」

 その対面で、真夜は不敵に笑う。

 この姉妹には負けられない戦いがあるようだ。


「でゅえるっ!」


「デュエルッ!」


「それゲーム違うから!」

 手札も無いしっ。

 気合を入れてカードをめくり合うも、幼い少女には神経衰弱はやはり難しいゲームだ、徐々に差が開いていくのは仕方が無かった。

「まやーがてかげんしないー」

「勝負に加減など不要なのさ! はっはっはっは!」

 楽しそうだなおい。

「まやーがいじわるー」

「さあどうした妹よ! 本気を出しなさい本気をぉ!」

「こうたろー、たすけてー!」

 俺に助けを求められてもな。

 助けられる事は何も無く、その結果、みつばちゃんの惨敗。

「はーっはっはっは!」

 高笑いする何とも大人げの無いヒロインがそこにいた。

 みつばちゃんは悔しそうに真夜を睨み、次はババ抜きで勝負と来た。

 これならまあ、いけるんじゃないか?

「みつばー、もしかしてさあ、ジョーカー持ってんじゃないのぉ?」

「しらないっ!」

「その顔は絶対持ってる!」

「しらないっ!」

 みつばちゃんかわいいなっ。

 ぷいっと顔を逸らして、子供らしさを抜群に発揮している。

 この子は将来素晴らしい美少女に育つぞきっと。

「ぬっふっふ~」

 真夜は残り三枚の手札、みつばちゃんからカードを引いて残り二枚となった。

「ぐぬぬ……」

 いいぐぬぬ顔だよみつばちゃん。

「さあ引いて、きっと手札減るはずさっ」

「こうたろーのはあんしんしてひけるー」

 嬉しいね、可愛いね、最高だねっ。

 しかし勘違いしないでもらいたいが、俺はロリコンでは無いからな?

 誰もが愛でたくはなるだろう? こういう可愛い少女は。


 やっぱり小学生は最高だね。


 俺の手札は残り一枚、あとは真夜から引くわけだがどちらかが俺の欲しいもの。

 枚数が少なくなるとジョーカーの押し付け合いになる、その前に抜け出せればいいのだがね。

「よっと……おっ、あがりっ」

「くー! 浩太郎が一番かぁ!」

「さすがこうたろー」

 残る二人の対決は如何に。

 にらみ合う二人。

 みつばちゃんの手札は二枚。

 真夜は一枚だ。

 みつばちゃんのどちらかがジョーカー、互いにジョーカーの押し付け合いになるか、それとも一発で決まるか……。

「どっちかなぁ……?」

「しらないっ」

「こっちかなぁ……?」

「しらないっ!」

 煽っていくぅ!

 にやついた顔でみつばちゃんの顔を舐めまわすように見る真夜。

「右にしようかなぁ……?」

「しらないっ!!」

「左にするか!」

「し、しらないっ!」

 その瞬間。

 その一瞬。

 しゅばっと。

 左のカードが抜かれた。

「あがりぃ! みつばの負け!」

「ううう……」

 ジョーカーを握り締めるみつばちゃんはものすごく可愛かったです、花丸。

「わーいみつばの負けぇ!」

「ぐぐぐ!」

 大人気ないなあ……。

「ばかぁ!」

 すっかり拗ねてしまったみつばちゃんは転がっていた小さなゴムボールを彼女に投げつけた。

「おっ、やったなぁ!」

 みつばちゃんの頭に投げ返す真夜。

「投げ返さなくてもっ!」

「この子には今から戦いの厳しさを教えなきゃいけないの!」

 つっても、互いに笑顔で戦いの厳しさじゃなく遊ぶ楽しさをみつばちゃんは教えてもらっていると思われるが。

「あっ、て事はこの子も……?」

 すると。

 ボールが頭に当たるも、それを拾おうともせず真夜の手が止まった。

「まやー?」

「私、実は養子だから、家族は普通なの」

「そ、そっか……」

 家族事情、宮坂さんからそこらの設定は聞いてなかったから解らなかった。

「浩太郎は硬く考えすぎっ!」

「ごめん……」

 確かに頭が硬かったかも。

「まやー? こうたろー?」

「なんでもないよー!」

「なんでもないぜ!」

「なんでもないならいいよー」

 みつばちゃんは俺達が笑顔を浮かべると釣られて笑顔。

 純粋無垢な子は和むね。

 そんな和みある雰囲気は夕食でも続いた。

 中島こと木崎一家の本日の夕食はカレーライスだ。

 みつばちゃんはカレーライスがよほど好きなのか、目を輝かせて今にも飛びつきそうだったが、真夜がそれを阻止した。

「うー」

「いただきますをちゃんと言わなきゃ!」

 両手を重ねてぎろりと一瞥。

 ぺたんと重ねて、

「いただきまふー」

「いただきまーす!」

 いやあ奥さん、この姉妹最高ですね、僕にください!

 食卓に座るは四人、聞くところによるとご主人は現在出張中だとか。

「いっぱいあるからモリモリ食べて頂戴ねっ」

「は、はいっ、いただきます!」

 腹の虫が早くしろと騒いでいやがる、こいつらをこのカレーで黙らせてやるとしますかっ。

 一口ぱくりと頂くや、中辛ながらもまろやかな味が口の中に広がった。

「お、おいしいですっ」

「嬉しいわぁ~、後乗せの具もあるからどんどん取っていってねっ」

 母さんもカレーをいつだったか作っていたけどそれと同じくらい、いや、こっちのほうが美味いかも!?

 それに後乗せの具、とか言ってたけど食卓の中央にはスライスされたゆで卵やラッキョウ、福神漬けに、刻んだ焼き肉?

「とんとろ~」

「と、豚トロ?」

 みつばちゃんが豚トロをひょいひょい皿へ移していった。

「そうだよー、意外と美味しいよっ! みつばが考えたんだ!」

「とんとろ~」

「俺も食べてみようかな?」

 カレーに乗せて、ご飯と一緒にぱくり。

「おお、うん、美味いな!」

「とんとろおいしいのー」

 こりゃあいい、今度うちでも豚トロ乗せよう。


「いやあ、今日は楽しかったよ」

「またきてねー」

「おうっ!」

 みつばちゃんは真夜に肩車されて笑顔で手を振ってくれた。

 和みますなあ……。

「じゃあ、また明日、何かあったらすぐに連絡してねぇ!」

「ああ、解った。またなっ」


 元からなのか、それとも真夜が原稿の影響で家族の一員になったからなのか、どうであれ……幸せそうな一家だった。

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