その86.だぁぁぁぁぁあ!
構造神か……。
授業中、先生の目を盗んで携帯で調べてみたが、検索結果は関係ないものばかり。
創造神で調べてみるとそれはもう多く引っかかるんだがな。
構造神って一体どんな奴なんだ?
名前からして、構造をどうにかするような奴?
今回は原稿という構造でも変えた結果、現実がこうなったと?
うーん、漠然としすぎて今一ピンとこない。
「お、お悩み……?」
珍しくノアが話しかけてきた。
いいのか? 授業中だぞ? いや、いいか。俺と違って勉強が出来るんだ、多少こっそり話をして授業を受けずともこいつの学力には何ら影響などない。
「まあな。ノアさ、構造神って知ってる?」
何でも知ってるお前なら、
「こ、構造神? 創造神ではなく?」
「ああ、構造神」
「……は、初耳」
「やっぱり解らんよなあ」
「ご、ごめんなさい」
「いやいや、謝らなくても」
もじもじとするなよ、萌えるだろ。
そんでもってさっきから横でニヤついてる薫は何を言いたいんだおい。
前の席に座る真夜は俺達が何を話してるのか気にしてるような落ち着きのなさ。
「そ、その、構造神というのは、いるの?」
「ああ、いる。今起きている事に関係してるかもしれない」
「じゃあ……」
ノアは真夜を一瞥。
俺は彼女の無言の問いに頷いた。
「か、神様を相手にする、の?」
「といってもな、今は他にも敵がいるからさ……先ずはそいつらをどうするかだ」
「ぞ、蔵曾さんは?」
「あいつも動いてくれてる、だから心配はしなくてもいい……多分」
「そ、それなら……」
ほっと胸を撫で下ろすノア。
俺の事を心配してくれてたんだな。
ここでは言えないけど、あんまり真夜との絡みで頬膨らますなよ? 頼むから。
こういう時はそうだな、どうするのが一番か……。
俺は薫を見た。
薫はノートに何やら書いて見せてくる。
『そこでキス』
後で薫をぶちのめそう。
真夜に見られるとこれまた面倒な事になりかねない、真夜がこっちの様子を伺ってないのを確認。
先生が黒板にチョークを走らせ、皆がそれを見た瞬間に俺は――
「はぅ!?」
ノアの頭を撫でてやった。
「心配してくれてありがとよ」
ノアの。
……ノアの顔が、見る見るうちに真っ赤になった。
それはもう沸騰したやかん顔負けなくらいに。
「わ、わわ、私は、そ、そのっ……!」
おいおいっ! 声がでかい!
「そこっ! 何を騒いでるんだ!」
「ひゃーー!」
ちょっ、何故叫んだ!?
「ど、どうした!?」
先生も驚いてるじゃないかっ。
「な、なんでも、ありませんっ!」
周りから集まる視線。
そんでもって、ごく自然と皆が思うは“忍野がノア様に何かしやがった”である。
殺意を集めてしまっている、俺の評価はまた見る見るうちに落下していくわけで。
休み時間になるや生徒達はまだ顔を赤くしてるノアに駆け寄っていき、俺は追いやられてぼっちに。
「あんた、ノア様に何かしたの!?」
ついでに面倒な人が来た。
豊中さんは状況を即時に把握し、廊下へと引っ張って尋問開始だ。
「な、何もしてない!」
「はぁあん? 絶対嘘。だってあんなに顔真っ赤になってる。セクハラでもしたんでしょ」
「君は俺がそんな事する人間だと思ってるのか!?」
「うん」
「すんなりと頷くなよ! 傷つく!」
俺のその印象、払拭すべきだ。
「そうだよっ! 浩太郎はそんな奴じゃないさぁ!」
「あんた……真夜、だっけ?」
「ええ、そう。そういう貴方は誰だっけ!?」
そういえば初対面。
いやあ内心ビクビクですよ。
恐れを知らない真夜は腕を組んで豊中さんと張り合い上等な態度。
俺ならそんな態度絶対に出来ないぜっ。
「フンッ、ノア様親衛隊の一人よ」
ファンクラブから親衛隊に昇格したの!?
「んもぅ、皆ノアちゃんにべったりねっ! 確かに可愛いしマジ天使って感じだから仕方ないけど!」
「わ、解ってるじゃない……! ノア様マジ天使」
天使なのは君だろ。
態度は悪魔だけど。
「兎に角、浩太郎はそんなセクハラとかするような奴じゃないから、乱暴は止めてっ!」
「お前、浩太郎の事が好きなの?」
うーん、そこでそんな質問しちゃうかぁ。
「えっ!? はっ!? ふっ!?」
不意打ちだったのか、真夜は俺を見て、ノアのように顔を真っ赤にして、口篭った。
「ふーん、そうなんだ」
まるで悪魔の笑顔で、真夜をにやにやと嘗め回すような視線で見ていく豊中さん。
「い、いや、あのっ! だぁぁぁぁぁあ!」
廊下を走って行ってしまった。
「面白い奴ね。あれが原稿から出てきたヒロインだっけ?」
「……そうだよ」
「ヒロインってやっぱり主人公に好意を寄せてるのかしらねえ」
っぽいね、あの様子だとそれもその好意はかなり大きいもの。
「実は、気になって調べてたのよね」
「調べてた?」
「あの子について。私はあの馬鹿と違ってちゃんと調べるのよ」
それは助かるな。
しかし蔵曾よ、お前天使にあの馬鹿呼ばわりされてるんだから少しは汚名返上すべく頑張れよな。
つっても今頃は長波先生のおかげで読書に熱中してるかねえ……。
「是非聞かせて」
「……」
どうしてか、豊中さんは口を閉ざした。
腕を組んで、何かを待っている様子。
何を待ってる?
……ちらっと見たのはノア。
「……今度の昼休み、二人で食事する時間を設けよう」
「よろしい」
毎回こんなの続いたらいつしかノアの一日の大半が豊中さんと一緒にいるようになってしまうのではないか。
「先ずあの子の自宅、あんたの家の近くで普通の一軒屋なんだけど本来は中島夫妻が住んでたの」
「もしかして物語の影響で今は……?」
「そう、木崎になってて夫妻の娘としてあの子が混ざった感じ。中島夫妻は五歳の女の子がいて、その子の姉って事になってたわ」
「中島さんかあ、あんまり面識無かったなぁ」
物語によっておそらくは娘の友人として面識があるようにされてしまってるであろうが。
「今のところその家族には悪い影響も出てないわ」
「それは良かった。そういや、蔵曾が言ってたんだけどさ、今回の件を引き起こしたの……構造神って奴だとか」
「……構造神?」
豊中さんの表情が、驚愕に染まった。
「それ、ほんとなの?」
ここだけ重たい雰囲気になってきた。
「さ、さあ……まだはっきりとは言えないけどそうだとしたら、目的は立ち位置だとも言ってたぞ」
「……ふうん。確かにそれなら、あの力に私ですら何もできなかったのが納得できるわね。予想以上にヤバいかも」
「マジで?」
「マジで」
ノアが近くにいるのに彼女がそんなに真面目な顔をする事態となるとそれはそれはヤバそう。
「神様を相手にするとはねえ、お前も大変ね」
他人事のように思わないでどうか協力して欲しいな。
「そんな情けない顔しないでよ、どーせあの馬鹿がいるから安心でしょ」
「かもしれないけどさあ……」
「ドンと構えていればいいじゃない、気にしすぎ」
じゃあね、と彼女はノアのところへ行ってしまった。
ドンと構えていればといってもなあ。




