その83.あの原稿の作者
校内に逃げ込んでの、一階まで走ってので運動不足二人組は肩を上下に動かしていた。
校内にはやはり入ってこないようだ、人目を避けるとして、少しでもチャンスがあれば先ほどのように襲ってくるのは大変なもんだ。
自分の部屋で一人になっている時に襲ってきやしないだろうな。
「双子は、またどこかに潜んで、近いうちにまた襲ってくると思います」
ようやく息を整えられた宮坂さん。
「そっか……ふう、物語的にしばらくこんな展開が続くの?」
「は、はい……」
原稿を読んでみるとする。
今ならゆっくり読めるからな。
双子は左右に散り、浩太郎は少しずつ距離を詰められていった。
追い詰められるのも時間の問題、二対一という優位さを存分に発揮されると、戦闘経験など無い彼にはどうしようも無かった。
ナイフが振られ、腕にかすり傷を受ける――よろめいて転び、状況は最悪。
「くくっ、この少しの血だけでも、力が湧いてくるわ」
「姉さん、僕も舐めたいっ!」
「いいわよ弟よ」
余裕を見せる双子だが、そこから隙が生じるなどという事も無く、浩太郎はどうする事も出来なかった。
「もっと血が欲しいわ」
「頂こう!」
双子がナイフを高らかに振り上げた。
「くそっ……!」
そのまま、振り下ろされた時、目の前に何かが覆いかぶさった。
「「なっ!?」」
双子の声が聞こえてくる。
驚愕に満ちた声が。
「大丈夫?」
何かとは。
……それは、真夜だった。
ナイフはどう止められたのか――というと、彼女が身を挺して背中に受けたのだ。
「真夜……?」
「私は大丈夫、浩太郎の血をもらえれば、傷は回復するから」
「わ、解った!」
ふーん。
今回はこういう展開になるはずだったようだ。
しかし宮坂さんが双子を撃退してくれたおかげでこの展開は起きなかったが、何はともあれ真夜に痛い思いをさせなくて済んで良かった。
宮坂さんさあ、ヒロインの背中にナイフをぶっ刺す展開を軽く書いてるけど今後もこういう痛い場面用意してないよな?
そういう展開は勘弁してほしいぜ……。
けど彼女がいると敵の情報が掴めて頼りになる。
「真夜に何度か血を飲ませて、そのたびに彼女が強くなっていって撃退するというのが、本来の筋書きでして……」
「原稿とかなり違う展開になっちまったな」
「そ、そうですね……」
「次の展開は解る?」
「次は、双子を撃退して、彼女の怪我がまだ完全ではなく一時見知ってる病院へ行くはずです」
けど……真夜は怪我をしなかった。
これでは今後の展開が大きく変わるだろうな。
「そこでまた秘血の話になって、二人は街の外に出て秘血について調べて、双子と再び交戦、なのですが……」
「そうなる展開が無くなった今、君ならさあ、この後の展開はどう変える?」
「私なら、ですか?」
作者だし。
彼女は顎に手を置いて考えはじめた。
その真剣な眼差し、そこはかとなく作者っぽい貫禄を感じられる。
「一度間を置いて、その後はどうにかして人質にとって貴方をおびき寄せて血を狙ったりとか、しますかね……」
「現実にならなきゃいいなぁ……」
「どうであれ、主人公も真夜さん無しでやれるところを見せる場面は用意するかとっ!」
俺はやれるとしてもやりたくない。
働きたくないでござる、働いたら負けだと思ってる。
「浩太郎っ!」
そこへ駆け寄ってきたのは真夜だった。
心配そうな表情、後々についてくるノアと薫も同様だ。
「あのねっ、ちょっと気配を感じて……」
「気配? ああ、双子?」
「そうなの……」
「それなら心配いらないよ、彼女が撃退してくれた」
「えっ?」
俺の隣にいるのは君を作った張本人だよ。
彼女と真夜が視線を交差させ、宮坂さんは会釈。
「み、宮坂加奈子です……」
「木崎真夜です……って双子を撃退したって何者!?」
「な、何者と申されましても、ですね、えっと、その、うーんと……」
口篭り始めたらこりゃあ話はすんなりと進まなそうだ。
「説明し辛い事情があるんだよ」
「そ、そうなんです……はい、説明……し辛い事情が、ええ、ありまして」
最後当たりは尻すぼみで俺以外には聞こえているかどうか。
「てなわけで双子の心配は一先ず大丈夫っ」
「そ、そう……?」
ささ、帰りましょうか。
皆で帰れば怖くないってもんよ。
「私は方向が逆ですので、ここでっ」
校門を出てすぐに、宮坂さんは俺達の帰路から外れる事になった。
「一人で大丈夫?」
「ええ、平気だと……思います」
大丈夫かなぁ……。
よし、ここはあれだ。
「送っていくよ」
「じゃああたしも!」
「わ、私も……」
「俺も!」
なんでっ!?
結局全員ついてきた。
ノアと薫はご丁寧に自己紹介していたり。
「私にそこまでしなくても、いいと思います……」
普段はこんな大人数で帰るというのは少ないのかな、縮こまってしまってこれじゃあ送るっていうよりも囲むだ。
「まあいいじゃん、折角だし。真夜に色々聞いてみたりは?」
「あ、は、はいっ! 沢山質問がっ」
「ん? あたしに?」
少し話しただけで宮坂さんは笑顔。
うんうん、自分の考えた登場人物と会話できるなんて最高だろうな。
「こ、浩太郎君……」
ひそひそと、耳元で心配そうに囁くはノア。
「どうした?」
「さっき、真夜さんが何かに反応したように、駆けていったの……浩太郎君は、大丈夫、だった?」
「ああ、敵に襲われたけど無事さ」
「敵かあ、浩太郎はいつも大変そうだな! 俺は脇役ってとこかな? 襲われないよな?」
「襲われないんじゃない? よかったなこんちくしょう」
となれば心配事もなく帰り道も軽い足取りで気楽だろうよ。
俺は襲われるかもっていう不安を抱える日々なのにさ。
どうしてこうも貧乏くじばっか引くかなあ……?
「浩太郎君、む、無理しないでねっ?」
服の端っこをつまんでくる。
ノアのそういうところはものすごく、いい。
なんていうか、いいよね。
萌える。
「おうよっ。何かあったら蔵曾に助けを求めるさ」
それに真夜もついてるしな。
そんな真夜はというと、宮坂さんの質問攻めに一つ一つすばやく答えていっていた。
何度かこそこそと何か耳元で質問する宮坂さんに、驚いた顔でこそこそと返答する真夜。
二人だけにしか――というより登場人物以外、作者にしか知らないような質問を交わしているような気がする。
「浩太郎、この子……何者? あたしの正体とか、詳しく知ってるんだけどっ?」
「さあね、ものすごく物知りな子だっていうのは解ってる。敵じゃないから安心して」
作者だとは言えないよな。
先ず彼女達が自分がどのような存在なのかを知っていいものなのか。
宮坂さんの想像によって生まれ、どういうわけか現実に現れてしまった彼女達。
それを知ったら、どう思う?
「そうです、私は敵じゃありませんっ」
「吸血者、でもないようね」
「普通の人間ですっ」
「ふうん……」
一体何者なのか、じろじろと全身くまなく見ているけれど解るわけもないよなあ。
「み、宮坂さんもまた、変化させられた人……?」
念のためか、耳元で囁いてくれたのはありがたいよノア。
「いや、そうじゃなさそうなんだ……。今回は蔵曾は絡んでないっぽい」
「でも何者なんだ?」
二人は今日突然行動を共にした宮坂さんが気になるご様子。
俺もな、彼女とは知り合って間もないんだ、詳しくは説明できんぜ。
「あの原稿の作者」
「「作者?」」
「なんだけど、現実にしたのはまた別の奴っぽい」
複雑になってくる。
その第三者を探さなければな。
それも手がかり無しで、だ。
ああ、一つだけあった。
蔵曾は心当たりがあるって言ってたな。
あいつに何とかしてもらうしかないかなぁ。
「――皆さん、わざわざ送っていただいてありがとうございますっ」
宮坂さんを無事に家まで何事も無く送れてちょっとした安堵を得られた。
「じゃあまた、何かあったら」
「はいっ、すぐに報告しに行きますっ」
「一応アドレスとか、交換しあう?」
「あっ、解りましたっ。私も今後のために、それがいいと思います」
うーむ。
交換し合ってる中、後ろから感じるは妙な視線。
気のせいかな? 気のせいだな? 気のせいだよね?
にしても宮坂さんのの家、かなりでかいな。
庭付き一戸建て、車が数台入るような大きな車庫、育ちもよさそうだ。
彼女は何度も頭を下げて家に入っていった。
帰路につくとしよう、ここから家に帰るのは中々時間が掛かるな。
「いやーお腹ぺこぺこだよー!」
「ああ、早く帰ろう」
最近気になってるのだが。
真夜が俺の隣に引っ付くと、ノアの様子がどうもこう……ピリピリしてる気がする。
「ノア」
「ん?」
「どうかした?」
「別に?」
その固まった笑顔、どうにかしてくれないかな?
「なあなあ浩太郎っ」
「何?」
薫はぐいっと俺を引っ張って囁いてきた。
「ノアさ、嫉妬してるんじゃね?」
「嫉妬?」
「だってよぉ、真夜ってお前にべったりじゃん。はたから見りゃあいちゃつかれてる感じで面白くねーだろ?」
まあ、そうかもな。
「でも俺にどうしろと? 真夜に離れろとでも?」
「いんや、別に俺はどうしろとかは言わないけど、女ってもんは複雑なんだよ」
そのようだ。
「今は俺がフォローしてやってもいいぞ。今度奢ってくれるなら」
ものすごく悪巧みを考えていそうな笑顔だな薫。
「よろしく頼むよ」
「ちゃんとお前も後でノアに声掛けてやれよ?」
くくくっと笑いやがる。
俺と真夜、それにノアの様子を見て面白がってるなこの野郎。




