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その82.どっちがどっちだ!

 屋上で宮坂加奈子と話をしていた浩太郎。

 しかし二人のもとには何かが近づいていた。

 二人の意識は原稿に集中されており、頭の中には文章しか入っていない。

 当然、気配も何も感じることは出来ず、二人は何かが近づく音を聞き取れずにいた。

「音……?」

 浩太郎はその一文を読んで、あたりを見回した。


「音……?」

 まさに原稿と同じ行動を取っていた。

 しかし音なんて聞こえてこないぞ……?

 宮坂さんも周りを見るが物音一つさえ聞こえない。

 何かが近づいている、何かというより誰か、だ。

 俺に用があるとしたら、考えられるは双子の咲凪。

「多分、マズい。ここから離れようか……」

「そ、それがいいですね……」

 俺達は恐る恐るに席を立って、出口まで向かった。

 原稿はまだ続きがあるけど、続きを読むより今はここを離れるのが優先だ。

 すると――音が聞こえた。

 硬い物を削るような音が、一定のリズムで聞こえてくる。

「こ、この音は……?」

「ヤバい、絶対ヤバい! 走れ!」

 出口まではすぐだ、校内に入っちまえば少しは安心できる。

 相手も人目について騒ぎを起こすような事はしないだろう。


「こっちは通れないよぉ?」


 出口の扉が、ゆっくりと閉められた。

 その影にいたのは……あの双子の片割れだ。

「な、凪……?」

「おや? どこかで会った?」

「えっと、そのっ……」

 会ったというか、知ってたというか。

 なんていったって彼女は君達を作った張本人だからなっ。

「私もいるよ、どうもどうも」

「さ、咲っ!?」

「おや? 私も知ってるの?」

 口篭るしかない宮坂さん。

 しかし、マズい……非常にマズい。

 校内への出口を防がれてしかも挟み撃ち。

 屋上では誰かに助けを呼ぶことも出来ない。

 何故に屋上へこいつらが現れたのか、よく見てみるとナイフと手には石や砂っぽいのがついていた。

 まさかとは思うがな、さっきの硬い物を削るような音は学校の壁をナイフと素手でよじ登ってたんじゃないだろうな。

 誰かに見られてたらそれだけでパニックものだぜ?

 そんなヘマをするような奴らではなさそうだがね。

「弟よ、あの子知ってる?」

「いいや知らないよ姉さん、でも僕達は知られてるみたい」

「有名人になっちゃったのかしら?」

「それだったら嬉しいね!」

 陽気な会話だ。

「そういえば一目で私達を見分けてなかった?」

「偶然かもしれないよ、あっ、そうだ! こっちに来て姉さん」

「弟よ、何を考えているのか姉さん解っちゃった」

「流石姉さん!」

 姉のほうが近づき、二人は並んで、

「君! 目を閉じて!」

 唐突な要求。

「えっ? あ、は、はいっ……」

 この状況で素直に従うなよ……。

「シャッフル!!」

 互いにものすごい速度で左右へ交差し合って、それからは手をとりあってぐるぐると回っていた。

 いかん、どっちがどっちかもう解らん。

 どっちがどっちでも別にどうでも良いがな。

「「はい! 目を開けて! どっちがどっちだ!」」

 宮坂さんは二人を見て、それは数秒も経たずに、

「右が咲で、左が凪、ですよね?」

「すごーい!」

「すごいすごーい!」

 拍手されて、頭を掻いて照れている宮坂さんを見て、これは何のコーナーなんだ? と心の中で俺は呆れていた。

「てなわけで」

「……どういうわけで?」

 咲凪はナイフを構えた。

「「その血を貰うっ!」」

 そんな流れになるとは思ったけど脈絡が無さ過ぎる!

 近づいてくる咲凪を、俺は宮坂さんを連れて逃げるわけだが絶対にこれは……逃げきれん。

「ふ、双子は横移動に弱いです! 飛び上がったらその方向に対して直角に横移動してください!」

「ほ、ほんとか?」

「信じてください!」

 飛び上がる咲凪、それを見て俺は彼女の言う通り横移動すると、簡単に攻撃を避けられた。

「姉さん、意外と動けるねこいつ!」

「油断しちゃいけないわね、弟よ」

 二人の会話、その間に――

「飛び掛りが失敗したら次は近づいてナイフを振ってきます、縦ではなく横なので、目の前に来たらしゃがんで足払いしてくださいっ!」

「解った!」

 咲凪はナイフを構えなおして、

「何を話してるのかなあ!」

 あっという間に距離を詰めてくる、その瞬間に俺はしゃがむと空を斬る音が聞こえた。

 頭の上をナイフが通り過ぎたらしい。

 冷や汗をかいて、心臓が弾けるほどの脈動をする中、四本の足に俺は思い切り蹴る勢いで足払いをした。

 二人はナイフを振ったばかりで足元は不安定だ、おかげで勢いよく倒れた。

「うぐぐ……姉さん、こいつ意外とやるよ!?」

「弟よ、これは誤算!」

 更には起き上がったところで宮坂さんが動いた。

「み、宮坂さん!?」

「あれを見てくださいっ」

「「ん?」」

 宮坂さんは唐突に空を指差した。

 顔を上げる双子、俺も同じ方向を見てみるも雲が漂う普通の空。

 ……?

 皆が頭上にクエスチョンマークを浮かべた。

「えいっ」

 その隙をついて、宮坂さんは片方を突き飛ばしていた。

 空には何も無く、見事に引っかかった双子(と俺)は宮坂さんの咄嗟の行動に対応できず反応が遅れた。

「あだっ!」

「なっ!? くっ!」

 よろめくや二人の上着に手を伸ばし、包帯を取ると足に巻きつけた。

「わわわっ!?」

 何処に何があるのか、こいつらがどんな性格かも熟知していると赤子に等しいって奴だな。

 宮坂さんは力が無くとも知識という武器で相手を圧倒していた。

「双子は包帯が不足していて大事にしてるので無闇には切れません、結びは硬くしておいたので時間を稼げると思いますっ」

 さっきまで頼りなかった彼女が今や頼りがいのある子になったな。

「さ、流石作者だなっ」

「逃げましょう!」

「お、おう! 逃げるか!」

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