その81.なんだかとてもファンタジー小説っぽくなりましたね……
昨日は双子の咲凪にも襲われなかったが、原稿も見つからず。
妙な力を使った主の他に、原稿の書き手がいるかもしれないという疑惑も浮上したが、どうすればいいのやら。
朝は真夜と一緒に登校して、待ち合わせ場所にてノアと薫と合流、二日前からこれが俺の朝となっている。
クラスはにぎやかになり、俺の席周辺は休み時間には更ににぎやか。
それほど悪くは無い日常だが、やはり敵が襲ってくるかもしれないという不安は大きな重石となって背中にずっしり乗っかっている。
さてさて。
それよりも気になる事がある。
今日はやけに視線を感じるのだ。
蔵曾かと思ったが、あいつは絶対に気配を感じさせないから違う。
明らかに、隠すつもりもない視線。
後ろを振り返れば必ず物陰へ隠れる小さな人陰が確認できて、追いかけようとすれば小さな足音が聞こえて遠くへ逃げてしまう。
尾行へたくそか! と叫びたくなるくらいに、雑な尾行をされている。
それが一日中続くと鬱陶しくなってくるもので、俺は放課後になるや深々とため息をついて席を立った。
「どうしたん?」
「いや、ちょっとね」
「ちょっとって何さぁ~! ん~? 言ってみなさいよ~!」
真夜は俺の頬に指を沈めてスキンシップ。
こうも積極的にされるとやっぱりちょっと照れてしまう。
「こ、浩太郎君……い、一緒に、帰らない?」
珍しいな、お前から誘ってくるなんて。
それにそんな誘いをしなくても互いに予定がなければいつも一緒に帰ってただろ。
しかし、今日は都合が悪いな。
「悪い、今日は用があってな」
「用?」
ずいっと、真夜が興味ありげに寄ってきた。
「ちょっとした用だ。だから皆先に帰っててくれ」
「でも、浩太郎を一人にするには……」
ああ、そうだったな……。
俺は秘血持ちって事になってるからなあ……一人になると敵が襲ってくる可能性があるわけだ。
困った設定だぜ。
俺は真夜の耳元で囁く。
「大丈夫だよ、いざとなった人ごみの中に逃げるさ。心配しなくても俺は俺なりに動ける」
「けどっ」
「もし襲われたら連絡する」
この会話は、一応物語的に皆には知られないようにしないといけないからな。
「私、校門で待ってるよ?」
「いいって。ノア達と一緒に帰りなよ」
「だって、心配なのよんっ!」
……どうしても待つつもりらしい。
何分、何十分掛かるか解らないのに。
「……じゃあ、待ってて」
「うんっ! 待ってる!」
「わ、私も、待ってる!」
「俺も待ってるぜぃ!」
何故か待ち人が増えた。
一つ。
俺の用というのはあのへたくそな尾行をしている人物を捕まえる事だ。
意味も無く校内を歩き、やはり感じる視線――よし、ついてきてるな。
心の中で笑って、歩数を重ねた。
こういう時は屋上に行くか。
階段を上って疲れさせて、屋上に誘ったら物陰から取り押さえる。
俺の作戦はこれだ。
階段を一段、一段上がって、耳を澄まして後方の足音を聞き取る。
一応、音は抑えているような感じはするが、それでも不器用なのか、俺に届くくらいの尾行。
距離はおよそ五メートルほど。
俺は屋上の扉を開けて、すぐに物陰へと隠れた。
「さあ、出て来い」
緊張してくるな。
相手は強力な力を使う敵かもしれない、そう、それが一番の問題だ。
学校内を歩き回れるとなると生徒か先生しかいない、相手が男だったら取り押さえるのも難しいよな……。
姿を確認してから考えるとしよう。
物陰から見ていると、屋上へ尾行者がやってきた。
屋上の吹く風に靡くのは――スカート。
女子生徒だ。
見た目はどうだ? 小柄、眼鏡、よし、俺でも取り押さえられるな!
彼女は周囲を見回している、俺を探しているようだ、尾行者で間違いない。
奥へと進む中、忍び足で後ろへ回って退路を遮断。
それから俺は話しかけるとした。
「あの」
「ひゃっ!?」
飛び上がられた。
そんなに驚かなくても……。
第一印象は無害、小動物、そんな感じ。
既に涙目で、触れたら号泣されそうなので近づかないでおいた。
「俺に何か用?」
「いえ、その、あの、うんと、うううっ……」
「ちょっ、落ち着いてっ!?」
今にも泣きそうになってる……。
「ごめんなさい……」
「ちょっと、一旦落ち着こうか!?」
近くのベンチまで誘導せざるを得ない。
敵意も無く、見るからに無力な少女を前にして、俺はそれが一番正しい選択だと判断した。
「ねえ、なんで俺を尾行してたの?」
「ひぐっ、き、気づいてたんです、か……?」
気づかないほうがおかしいだろ。
「あの、私……実は小説を書いておりまして……」
「へえ、そうなんだ。でもどうしてそれを俺に?」
「最近、原稿、拾いませんでした……?」
言いたい事は大体解った。
こいつ……もしかしてだけど。
「まさか君があの原稿を?」
「えっと、あの、はい、まあ、そう、なりますね……」
「おい、俺に何の恨みがあるのか知らんが今すぐ現実を元に戻してくれねえかな?」
「そ、そう言われましても! 私もどうしてこうなってるのか理解が出来ないんですよ! 小説を書き終えたと思ったら、いきなり原稿が無くなってて、変なメモが残されてて……」
「メモ?」
彼女は小さく頷いた。
強く問い詰めるとまた泣きそうなのが扱いに困る……。
「現実にするので、借りますって……」
うん、現実になったな。
おかげで俺の現実は滅茶苦茶になったわけだが。
これで書き手と、現実を変えた奴は別だと解ったな。
「学校に行ったら、私の書いた小説の登場人物とそっくりな人が貴方と一緒にいて……」
「一つ確認、君は俺をどうこうしようとは思ってないんだな?」
「する理由が無いです、それに名前すら知らない間柄ですから……」
そうだよね、お互いに接点もなく名前も知らないもんね。
「とりあえず自己紹介からしようか……俺は忍野浩太郎」
「わ、私は宮坂加奈子、です」
そんなにおどおどしなくていいんだよ。
こんなところ誰かに見られたらまるで俺が彼女をベンチに座らせて脅してるようにしか見えないから、誤解を招かないためにも、ね。
「同じ一年で合ってる、よね?」
「ええ、はい……今まで全然接点がありませんでしたけど」
「そうだね、驚くくらいなかったね」
廊下ですれ違う事すら無く、油断すると――
「……」
気まずい沈黙。
どうしよう、色々と話すべき事はあるんだが、どうも……重い雰囲気。
「あ、あのっ」
「何っ?」
「ど、どうして私の書いた小説が現実になったのでしょうか……」
「さあ、俺に聞かれても解らん」
「で、ですよね……」
うつむいて不安そうに両指を突きあう彼女。
先ずは落ち着かせなくちゃな。
彼女は非現実に混乱して不安定だ、少々ぶっ飛んだ話になるが、少しずつ受け入れさせるとするか……。
落ち着いてくれればそれでいい、話がしやすくなる。
「……君はさ、神様とか信じる?」
「か、神様ですか……?」
苦笑い。
あ、信じてないね?
「もしも神様とかそういう存在が本当にいて、こんな非現実的な事をしたとしたら……?」
「にわかには……信じられません」
「だろうね、いきなり言われても信じられないよな」
「忍野さんは、いると?」
「ああ」
それも俺の身近に。
だから今回の件も、非現実的とはいえ誰かが妙な力を使ったんだなと受け入れられる。
「だから神様を信じてる俺は、非現実を起こせる奴くらいいるだろうと思ってる。とりあえずは現実がこうなったんだ、受け入れなくちゃな」
「そのような考えも、確かにアリですよね……」
でも未だに疑心が心の中を縛ってるであろうね。
「小説書いてるんだろ、思考を柔らかくして考えようぜ」
「ええ、そ、そうですね……」
これで少しは彼女も落ち着いてくれるといいのだが。
「メモもあったんだ。誰かがやったのは確かだ」
「その誰かが、普通じゃない人、なのですよね……」
「もしかしたら神様かもな」
「なんだかとてもファンタジー小説っぽくなりましたね……」
「もうそうなり始めてる」
「あ、そ、そうでしたねっ」
とりあえず俺もベンチに座るとしよう。
「あのヒロイン――真夜は吸血者? だっけ?」
「ええ、そうですっ。主人公の血を守ってます、すごく強い設定ですっ」
「だね。もう双子に襲われてその強さはまじまじと見せてもらったよ」
深くため息をついた。
「えっ、ふ、双子にもう襲われたんですかっ!? ……双子は、どんな、感じでした?」
「どんな感じって……口調とか個性的だったなあ、性格は明るい感じだったけど、飛び回るわナイフを振り回すわで怖いったらありゃしないぜ」
「て、敵はやはりそれくらいのインパクトがないといけないと思います」
おかげで俺が被害を蒙っているわけだが。
「それとさ、君の小説の主人公が何故か俺になってるんだよね」
「えっ? あ、貴方に……?」
「だから敵に襲われたり、俺の血が秘血に何故かなってる」
「な、なんという……」
小さく――羨ましいです、と付け加えて言ったのはしっかり聞こえてるからなおい。
「しかし私の考えた主人公はどこに行ったのでしょうか?」
「さあね、消えちゃったんじゃない?」
「それは……残念です、彼も中々魅力的な主人公だったので」
すみませんね、魅力の欠片もない俺がその立場を奪っちゃって。
俺もできるならば主人公の役割を交代したいよ、もう既に蔵曾には主人公のモデルとして俺には役割があるんだ、そこに君の書いた物語の主人公もとなると俺はもはやどうしていいのか解らんぜ。
とりあえずは……。
「それより君の考えた物語の流れを教えて欲しいな」
「流れ、ですか」
「原稿が落ちてたからそれを読んで少し先は知れたんだけどさ、最近は原稿が見つからなくてね」
すると彼女はポケットをまさぐって、
「あ、私が拾ったから、でしょうか……」
一枚の原稿を取り出した。
「持ってんのかよ!」
「す、すみません……あの、さっき、拾いまして」
「じゃあ早速読もう!」
二人で読んでみるとしよう、じっくり、そう、じっくりと。




