その79.真夜パワー、注入~!
最初の休み時間、俺はすぐに豊中さんのもとへと駆けていった。
「はぁあん? 何?」
これだよ。
「はぁあん? 何? じゃないよっ、昨日あの、襲われたんだ……」
勢いで彼女のところへ着たが、他の生徒達に俺の抱える事情を聞かれるわけにはいかないわけで、最後あたりはやや声を細めての発言。
「男に? それは……ごめん……。その、大丈夫?」
「男じゃねぇよ! なんで目を逸らすんだよっ!」
何を想像しやがったんだおい!
「ネットではそういう系も意外と人気らしいじゃない、良かったわね」
「良くないしそういう系って何なのか説明してくれるかな!?」
「はぁあん? セクハラ? 殺すわよ?」
世知辛い。
「それはいいとしてさ、昨日蔵曾に会えなかったんだけど、豊中さんは会ったり、した?」
「会ってないわ、あんたの後をつけてたし」
「そうなんだ? だったら助けに入ってくれたっていいじゃん……」
「見失ってだるくなったからすぐ帰ったわ」
「そうですか……」
少しは探してくれればいいのに。
廊下へと移動する豊中さんに俺はついていき、再び話を続けた。
教室では話し辛い、そういう意味で教室を出たのだろうと察する。
「けれど妙な力が働いていたのは感じたわ」
「妙な力、というと?」
「少なくとも私にはどうも出来ない力」
天使である豊中さんでもどうも出来ないと言わせるその妙な力とやら、やっぱり蔵曾が……?
「そして、あの馬鹿の力では無いのは感じ取れた」
「……じゃあ、第三者が?」
そうなると話は一気に複雑になるな。
この立ち位置に関する敵からの攻撃が一番に考えられる。
そして真夜もその敵の一人かもしれないという疑いが生じてくるわけだが……。
豊中さんは腕を組んで吐息を漏らし、窓辺に凭れた。
「でしょうね。それも原稿に書かれた内容を現実にするほどの力」
「それってものすごくやばくない? 蔵曾レベルじゃないの?」
「そうかもしれないわね、あんたも気をつけなさい」
「ああ、気をつけまくってる。とりあえず蔵曾に相談したいんだけど、連絡してくれない?」
豊中さんは露骨に嫌そうな顔をした。
「めんどくさっ」
「頼むよ! 今度ノアと二人きりで帰れるよう取り繕うから!」
「任せなさい」
おうふ、すぐに釣れた。
「昼休みにでもすぐにあいつのとこに行ってくるわ」
「流石だぜっ」
豊中さんの気だるそうな顔は一瞬で消えうせ、やる気に満ち溢れていた。
このまま俺の抱えている問題も解決して欲しいものだ。
教室に戻ると、真夜は昨日と変わらぬ明るい雰囲気でクラスメイトを笑わせていた。
休み時間になるたびにこうも盛り上がりがあると睡眠不足で少しでも眠りたいっていう生徒達が少しかわいそうだぜ。
「あっ、浩太郎っ! どこ行ってたんよもう~」
昨日、あんな事があっても彼女は表に出さない。
出すとすれば、二人きりの時だ。
今日の朝だって「昨日は、色々と、ごめんねっ」と謝ってきたのだ、また二人きりになればそれなりにあの原稿の物語の流れを聞けるかもしれない。
二人きりを狙うとして、どういう時がいいかというとやっぱり帰り道かなぁ。
「ほんとお前っていつも元気だな」
「元気が一番よっ! 浩太郎にも分けてあげるぜ! えいやっ!」
すると。
……すると、真夜はぎゅっと抱きついてきた。
本人は素でやっているつもりかもしれないが、ちょっと、ちょっと待ちなさいな!
女性との付き合いに疎い高校生がこんな事されたら、あれやろぉぉぉお!?
「うっ、ちょっ!?」
「真夜パワー、注入~!」
ぎゅ~っと抱きしめてくる。
そんでもって、ノアがじっとこっちを見て、引きつった笑みを浮かべていた。
ちょっと、その笑み……少し怖いんだけど……。
「どうだっ!」
「どうにもっ!」
引き剥がす。
こいつ、スキンシップが外国人並みだっ(挨拶がてらハグする外人的な)。
「真夜ってこーたろーと仲いいよねー」
群がる女子生徒の一人が俺達のやりとりを見て不思議そうに呟いていた。
「うんうん」
「幼馴染ってそんなに仲いいものなの?」
「私、気になります!」
今変なのが混じってなかった?
「浩太郎とはもう子供の頃からこうしていちゃこらよ!」
ピシッ。
何の音かと思ったらノアが手に持っていたシャーペンが軋む音だった。
そろそろその笑み止めない?
もしかして怒ってる? 俺……なんかしたかな?
「二人ともさあ、幼馴染っていう関係を飛び越えたりはしないの?」
誰が言ったか解らんが、もし特定できていたら俺はそいつに肩パンでもしていたと思う。
「ど、どうかねぇ~!」
一瞬、戸惑いを見せる真夜。
「どう、なのかな?」
さっきから俺をじっと見るノア。
「どうなのかねぇ! ぶはっ!」
そんな俺達の様子を見て噴出す薫。
薫……この光景を眺めて楽しんでるよね? お前は後で絶対肩パンするからな?
豊中さんはちゃんと動いてくれるのか。
不安にはなったが、彼女はちゃんと昼休みになるや真っ直ぐ学生玄関へ向かって外に出て行ったと同じクラスの生徒が言っていたので俺は安心した。
これであとは蔵曾を待つのみだ。
抱えている問題がどうであれ、あいつのデタラメな力でぱぱっと解決!
……解決、したら彼女――真夜はどうなるんだ?
消える……のか?
今日も屋上で昼食をと、皆を陽気に誘って階段を上がる真夜。
彼女を見て、俺は足を止めてしばらくその背中を見つめた。
「んっ? 浩太郎、早く行こうよ!」
「あ、ああ……」
阿呆な声を漏らして俺は、彼女を追いかけるとした。




