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その72.ばっかもーん!

 長く滞在したもんだ。


 もうかれこれ一週間以上もこの世界にいる。

 いざ戻るとなるとさ、名残惜しいもんだね。

 それにこの世界の事情を知ると心配でなあ……。

 蔵曾と一緒に帰っていいものやら、悩んじまうぜ。

 一つの問題は解決したが、残っているのは――と湖の先にある都市を見た。

 蔵曾はいつだってこの問題を解決する事は出来るも、あえて手は出さないと言っていた。

 そのほうが彼らにとっていいのかもな。

 種族達の団結は本当の強さを得られるという理由で、さ。

「またいらしてくださいね、いつでも待ってます」

「オウルエイスも、こっちの世界にいつでも」

「こっちに来たら今度は俺達が観光案内してやるよ」

 蔵曾のアパートに行って部屋の中滅茶苦茶にしようぜ。

「ええ、今はエルフのために手が離せない日々ですが、いつかそちらの世界へ是非お伺いします!」

 互いに笑顔を向け合う中、

「……ふんっ」

 アルヴさんは影から俺達を覗いて睨んでいた。

 そんな彼女の襟を掴んで宙ぶらりんにして運ぶはエルゥゴさん。

「は、離せっ! この犬っころが!」

「アルヴ」

「はっ!?」

「一生幼女」

「す、すみませんでした……改心、します」

「うん、期待してる」

 楽しそうだな蔵曾。

「エルゥゴ、元気で」

「最初から最後まで不思議な奴だなあんた」

「こっちに遊びにきたら、馬車の運転よろしく」

「ああ、解った」

 馬車は無いぞ。

「元気でね、またいつか」

「ええ、またいつかお会いしましょう」

「ふんっ……」

 アルヴさんはぷいっとそっぽを向いてしまったが、

「アルヴ、またいつか」

「は、はい……」

 蔵曾の威圧で顔を戻させた。

 本来ならば異世界移動魔法を発動させるに数十人の精鋭魔法師が術式を組み、発動まで数十分を要するのだが、蔵曾一人でそれが可能なのだから神様ってのはすごいもんだぜ。

 こいつがこの世界に深い関わりを持っていると俺は確信している、いつか蔵曾の過去話を聞きたいもんだ。

 異世界を過ごして蔵曾への質問が山積みになったが、それらが消化されるのはいつになるかは解らないが。

 皆に見送られながら、青白い光に包まれ、彼女達と――城の最上階から広がる風景を目に焼き付けて、世界は暗転した。



 ……ものすごく長い時間が経過した――気がする。

「起きた?」

 重い瞼、何とか目を開けると、蔵曾の顔があった。

 九十度傾いている。

 蔵曾の後ろには青い空と風に靡く木の葉、横になっているがここはどこだ?

 しかも、蔵曾に膝枕をしてもらって。

「……戻ってきたのか」

「うん、そう」

 上体を起こした。

 見覚えのある公園だ、以前も来た事があったな。鬼全の奴がここに座ってたっけ。

「……異世界、どうだった?」

「悪くはなかったよ」

 ふと思い出して、携帯電話を開いた。

 電源は切っておいたから何とか蓄電は残っていた、日付だけ確認しよう。

 六月七日、土曜日か……およそ十日間の滞在とは自分でも驚きの旅行期間だぜ。気持ち的には十日よりも長く感じたもんだ。

 こっちはどうなっていたのかな、俺の代役とやらはちゃんとやっていたかが心配だ。

「インスピレーションは刺激された?」

「ものすごく。今なら書けそう」

「よし、書け。お前がどんな物語を書くのかものすごく興味があるぞ」

「ふふ、任せて」

 自信たっぷりだな。

 期待して待つとしよう。

「やはり猫耳や幼女は大切」

「漫画は意外と登場する頻度高いよな」

「私も猫耳フード、萌え?」

「萌えない」

「えっ」

 さあ帰ろうか。

「猫耳要素、幼女要素、神様要素」

「神様要素ってなんだよっ!」

「女の子の神様、萌え?」

「萌えない」

 土曜日だから学校には行かなくていいな、時刻は朝の十時前――あっと、電源切れた……。

「家に帰るか」

「ふむ、代役回収のため同行」

「代役はちゃんと俺を演じてくれてたか心配だよ」

「大丈夫、私が保証する」

「それはもっと心配だ……」

「失礼なっ」

 肩をぽこぽこ叩かれた。

「そういや、一つ気になったんだけど」

「何?」

 歩きながら、俺は何気なく聞いてみる。

「お前さ、異世界の神?」

 誤魔化されるんだろうなあ。

 期待はしていない。

 ただ誤魔化し方次第で俺は確信へと移れる。

「そう」

 あれ?

 ……素直だな。

「それが?」

「いや……なんでこっちの世界に来たのかなって」

「秘密」

 そこは秘密なんだ。

「……一身上の都合」

「なんだよその辞職届の理由みたいなコメントは」

 ふと頬に、蔵曾の人差し指が当たった。

 ぷにっと、軽くつつく程度、だがしかし……何なの!?

「その台詞、貰った」

 すぐさまメモ帳に書き込んだ。

 蔵曾のメモ帳はもうぼろぼろになっていた。

 彼女なりの頑張りが見られていいが、だからこそそろそろ書いてもよさそうだよな。

 俺はラノベ作家でもないしその担当でもない、けれど何となくだが色々と蔵曾は自分の書きたいものをメモ帳に溜め込んでいるのだ。

 それを吐き出したら現時点ではどんな物語が作るのか――それも創造神がだよ?


 気になるよね。


 楽しみだぜ。

 自宅に到着したはいいとして、普通に玄関から入りそうになったが、思えば中には俺に扮した人物がいるわけで、このまま家族のいる前で遭遇してしまったら果てしない混乱を呼び寄せるな。

「忍び込むか……」

「一つ、案がある」

「……聞こう」

 お前が力を使ってくれるのなら大賛成。

「先ず、中の様子を確認し、家族と代役が話しているところを見かけるとする」

「うんうん」

「代役が離れたら浩太郎は急いで接触」

「ほうほう」


「台詞は、″今ここに俺が通らなかったか!?″と言い、ばっかもーん! そいつがル○ンだぁ! と叫ぶ」


「なるほどチョップ!」

「ふぐひっ」

 思い切り頭にチョップしてやった。

 俺はあれか? 銭○のとっつぁんか?

 もういい、普通に入る。

 玄関をそっと開けて、聞き耳を立てながら俺は進んでいった。

 食器を洗う音――母さんは洗い場だ、テレビからは音声が流れてきている、父さんはテレビを見ていると思われる。

 問題は、代役も一緒にテレビを見ているか、だ。

「メタギアなう」

「静かにしろっ」

 放り投げるぞ。

 物陰から居間を一瞥、父さんがソファでテレビを見る後姿のみを確認。他は無し。

 よし、代役は俺の部屋、かな?

 靴もあるしな。

 階段を一段、また一段とそっと上がり、自分の部屋まで到着には数分を要した。普段なら数秒なのに、今日は緊張感付きで疲れたぜ。

 扉を開けて、中に入ると正座しながら本を読んでいる――俺がいた。

「あっ、お帰りなさいませ!」

「……ただいま」

「お疲れ」

 蔵曾を前にすると代役は頭を伏せて両手を床に置いた。

 おい、俺の姿でそんな態勢になるなこの野郎。

「ふふっ」

「お前今笑った?」

 笑いました? 笑いましたよね?

「失礼」

 何が失礼なの? 何に対して失礼だったの? ねえねえ?

「姿、戻して」

「はい!」

 すると右腕を左上へ、指先は真っ直ぐ伸ばして左腕は腰に添えて、

「変、身!」

「その変身の仕方やめろ」

 特撮的ポーズに意味は無いだろ絶対。


 ピカッ――!


 ……っとはいかず。

 ぼんやりとした淡い光が代役の体を包み込んだ。

 全身が発光するや、体は小さくなっていき、青い瞳の可愛らしい少女へと変化した。

 今更さ、驚きはしないぜ。

 俺が知らないだけでこういう奴らは周りに沢山いるんだよな。

 俺の世界観が働いてそいつらは介入しづらいだけでよ。

「あの、僕……浩太郎様をうまく演じれませんでした……」

 僕っ娘かっ! それは好印象だぞ俺的に。

「別にいい」

 なんでお前が言う。

「お疲れ様、またいつか頼むかも。外で待ってて」

「はいっ! 僅かな時間でも、男を磨いて待っております蔵曾様!」

 ……男を?

 すると窓を開けるや飛び出して、代役は行ってしまった。

 名前すら聞いていないが、それより男……を磨いて……?

「男の娘で僕っ娘、素晴らしい……」

 メモを取り始める蔵曾。

「男、なの……?」

「そう」

 さらりとした長い黒髪、小さな顔とぱっちりとした瞳、どこからどう見ても女の子だったのに。

 ちょっとした裏切られた気分に、俺は小さなため息をついた。

 それより気になるのは、演じれなかったという彼の言葉……。

「という事で。また今度」

「……おう」

 蔵曾も窓から出て行ってしまった。

 上履きを持って階段を上がってきていたのは気になっていたがそういう理由だったのね。



 後日談。

 俺はいつものように待ち合わせ場所へ向かっていた。

 うまく演じれなかったといってもさ、気にする程度ではないんじゃねえのかなあ。

 問題があったらそこは全力で誤魔化すとしよう。

 いたいた、久しぶりだぜ二人とも!

「おーい!」

 手を振って待ち合わせ場所にいるノアと薫のもとへ向かった。

 ……妙だな。

 二人とも、視線が冷たい。

「……どうもちっぱいです」

「浩太郎君……おはよう……」

「えっ、何?」

 俺は二人から、代役の振る舞いを詳しく聞いた。

 そして――


 その後、俺はあの代役をぶっ飛ばすべく蔵曾のアパートへ向かった。


これにて第三部、異世界編・完でございます。次は第四部となりますが、暫し休憩をいただきますm( )mすみません

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