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その71.ただの人間には興味ありません。

 一件落着って事で、さあ帰ろうか蔵曾――と行きたいところだったのだが。

 エルフは二日三日、どたばたとした城の整理やらで忙しくて子供の相手が出来ずにいて、それほど役には立っていない俺に白羽の矢が立った結果、俺は子供達に俺の住む世界について話してやる日が続いた。

 つまり、延長である。

 まあいいか、別にもう焦る事もないんだ。

 蔵曾はというと、この世界――ノリアルをどのくらい知ってるのかは知らないが、エルフをまとめてこれからどうすべきか、どのような方針で行くべきかとオウルエイスさんと貴族らに話し、一番の問題である機械国家サンヴァルギについても日が暮れるまでの話し合いをしていたり。

 一日、一週間じゃ話し合いは終わらなそうだ。

 エルフの国は問題が山積みになっており、エルフの国を支えていた土台は既に崩壊寸前だったのだ。

 拘束されていた貴族達は誰もが他国や遠方への逃亡を既に用意していたために、別に崩壊したら逃げるだけという思考がこの国を駄目にしていたそうだ。

 今日は話し合いは無いため、俺の隣には腕を組んでこの国の事について真剣に考え込んでいる蔵曾がいる。

「いい物語が、書けそう」

 違った。

 ラノベについて考えていただけだったようだ。

 そうそう。

 アルヴさんなんだけど、あれからね、相当荒れまくってさ。

「蔵曾、浩太郎! 今すぐ死になさい!」

 広間を歩いていると物陰から飛び出してきた幼女――アルヴさんは両手を前に突き出して魔法の詠唱を始めた。

「うぉっ!?」

 そんでもって、


 ――ボフンッ。


 黒い煙幕に包まれた。

「ア、アルヴ様……! 駄目ですよっ、まだ魔法をうまく練る回路が安定していないのですから!」 

 そこへ現れたのはオウルエイスさん。

 真っ黒になった彼女の頬を丁寧にハンカチで拭いていた。

「ええい! 触るなこの裏切り者め!」

「も、申し訳ございません……」

 アルヴさんは小さいながらも態度は前よりでかくなったな。

 小さくなったとはいえ、彼女に変わらぬ態度でオウルエイスさんは接しているけど、今はあんたのほうが偉いんだからもっと威張ってもいいんじゃない?

「お前も! お前も! お前も! 死んでしまえー!」

「……アルヴ」

「はふっ!?」

 蔵曾がすいっと音を立てずに彼女へ接近。

「悪い心を維持したままだと、成長でいない」

「はうあっ!?」

 二、三歩後ずさりして、唇を噛んで悔しそうに表情を歪めて、

「ううう……!」

 アルヴさんは蔵曾を睨みつけて、文句を噛み殺していた。

 あれから。

 彼女の処遇に関してはオウルエイスさんと残った貴族らが話し合い、一生拘束すべきとも出たが、オウルエイスさんはそれをさせなかったのだ。

 今もアルヴさんへの、他のエルフから向けられる視線は冷たく厳しい。

「ぐぅ! 何を見てるの貴様達!」

 それに苛立ちをぶつける彼女だが、

「ア、アルヴ様、落ち着いてくださいっ!」

 彼女とオウルエイスさんだけ立場は変わっていないのかな。

 オウルエイスさんは必死になだめ、アルヴさんの怒りはオウルエイスさんへ。

「うるさい! 私の座を奪った○○○がー!」

 自主規制入ります。

「うっ……も、申し訳ございません……しかしこれもアルヴ様のためでありまして……」

「貴様のような○○○が肩で風を切って歩けるとはエルフも終わったも同然よ! この○○○めぇ!」

「アルヴ」

「ひゃぃ!?」

 蔵曾の声を聞くだけでオウルエイスさんは飛び上がった。

 音を聞いたら動く置物を彷彿とさせるな。

 昔あったよね? あのわさわさ動くフラワー。

「悪い心」

「…………わ、私が悪うございました」

「よろしい。その意気」

 それでも蔵曾への睨みは変わらず。

「アルヴ様っ、目付きがっ!」

「あっ」

 言われて目つきは怒気を纏わない少女らしい目付きにはなったが付け焼刃にもほどがある、その苦笑い……見ててこっちが辛い。

 けどまあ、自業自得なのでいいよね。


 今夜は夕食会が開かれる。

 領土を不法に支配して混乱を呼んでからまだ日が浅く、しかしそれなのにこうして人獣族と人類種、それに海種に土賢といった面子が揃う夕食会が行えたのはオウルエイスさんの働きあってこそだった。

 だが完全に警戒が解かれたわけではない。

 付き添う兵士は数人、待機する兵士は外に数百、エルフの城周辺は明かりでいっぱいだった。

 統治者の命が危ぶまれるような問題が起きればこの城は一気に戦場と化す――起きれば、だがな。

「今日は集まってくださり、ありがとうございます」

 円卓には豪華な食事が広がっていた。

 どれもエルフの豊かな土地で得られる食材ばかりだ。舌鼓を打つ事間違いない、俺が保障するぜ。

 それぞれの統治者がアルヴさんに視線を向けていたが、その視線はむしろ″こいつがアルヴ?″と言いたげなものばかり。

 国を傾け、崩壊を招こうとした人物が夕食会に同席しているのはふつうなら考えられないが、これもオウルエイスさんの希望を叶えての事だった。

「ふんっ」

 アルヴさんは居心地悪そうに眉間のしわを深めていたが。

 そんでもって俺は目の前に広がるご馳走を頂いてにんまりとし、話し合いはそれぞれでやってくれという姿勢だ。

 だって話に入っても俺がやった事といえば地面をぶん殴ったくらいだからな。

 それにほんと美味いんだよこの世界の食べ物は。

 聞き耳だけは立てておくとする。

 大抵が奪われた領土を奪い返した蔵曾の手腕について、どのような方法を用いたのかという話題になったが、蔵曾は答えはしなった。

「その方が領土奪還の手助けをしてくれたと聞くが」

「そ、そうですね……」

「その方法、是非聞きたいものだ」

 特に被害を受けた人獣族の、やたら長く艶やかな鬣を持つライオンというか、その赤と銀の毛が入り混じった毛並みの神々しさから神様なのではないかと錯覚してしまうワルバさんは質問を繰り返すも、オウルエイスさんとエルゥゴさんが巧みに話を逸らしていた。

「これといって特殊な方法ではございません、むしろ皆の協力あってこその作戦を練って行動したまでです」

「だが、領土の核に触れずに領土を奪ったとも聞くのだが」

「ワルバ様、皆興奮しておりました故、中には少々混乱気味の話もあったでしょう」

「ふむ……」

 他の種族達も興味津々だが、立ち位置については知られてはいけない――オウルエイスさんにこの話の流れは任せるとしよう。

「けっ、立ち位置をばらして混乱させちまえ。ばーか」

 アルヴさんはブツブツと文句を呟いていたがそのたびに蔵曾は、

「悪い心」

「……うっ」

 彼女を諭していた。

 蔵曾の教育はしっかりと響いてくれると嬉しいね。

「我らの種族は、一度エルフの強行軍によって脅かされたが、今は……安心してよろしいのかな?」

 ワルバさんはオウルエイスさんではなく、蔵曾へ問いかけた。

 人獣族を救ってくれた彼女はもはや英雄扱いだ。

 それに対して、話の中にそれほどオウルエイスは入れずにいた。

 それはアルヴさんが引き起こした騒動によって底につきかけていた信頼が底を貫いたほかならない。

「私はエルフの統治者ではない」

 蔵曾は、オウルエイスさんへと質問を向けさせた。

 ワルバさんは少々戸惑ったが、視線を変えて笑顔を作って質問に答えるよう待っていた。

「……エルフの中でも他種の領土を奪い取り、それを利用して脅し、機会国家サンヴァルギへの侵攻へと利用するような方々は既にフェルアルヴィオネ政権からご退場願いました」

「そうか。だが、信用と信頼は未だに無いに等しい」

「私達はこれから少しずつ取り戻していこうと思います」

 オウルエイスさんは立ち上がって深く頭を下げた。

「これからのエルフは皆様へ今までのご無礼の謝罪をし、罪を償い、皆様への助けとなるよう尽す所存でございます。皆様を盾にしての平和は無くし、我々が盾になる平和を守っていきます」

 続けて、

「それのみならず、エルフの持つ領土一部をそれぞれの種族へ譲渡し、市場の潤いと交流を深めたく思います。更には我々の持つ魔法知識を皆様に教えるべく、その講習や訓練の場を設けたいのですが、どうでしょうか……? 言うならば、エルフの力の共有権をしたいのです」

「な、何を馬鹿な事をぉ!」

 とアルヴさんは言うも蔵曾がさっと口を塞いで黙らせた。

「むぐぐ……」

「悪い心」

「うう……」

 うーん、懐かないやんちゃな猫のしつけを見ている気分。

「そこまでしていただけるとは、な……」

 ワルバさんは他の種族代表とそれぞれ顔を合わせた。

 人類種統治者は三十代の男性で、無表情。

 だがしかし、静かに頷いて肯定。

 海種統治者は女性で、足は魚の鰭がついており、椅子は水槽に沈められた変わったものだったが、彼女は鰭を上下させて笑顔――肯定と思っていいようだ。

 土賢の髭を蓄えたおじさんはさっきから肉を頬張ってばかりでよく解らんが肯定とみていいんじゃないかな。

「改めて、和平のために同盟を組みたいのです。我々エルフが今まで行ってきた行為は今すぐこの場で許されるとは思っておりません。がしかし、いつかまたこのような夕食会が出来ればと、心から思います」

 彼女の言葉に反対する者はいなかった。

 アルヴさんは面白くなさそうに頬を膨らませていたけど。

「だが、我々を陥れようとした首謀者は許されないのだ、が」

 ぎくりっ――とアルヴさんの肩が上下した。

「そうだ、人獣族のみならず、我々人類族の領土、シートレンも被害を少なからず受けている。エルフが街に居座り、半ば占拠しようとしていたのだからな」

 そんな事までしていたのかと、俺達はアルヴさんを見ると、彼女は舌打ちをして反省の色は見せない様子。

「悪い心」

「申し訳ございませんでした!」

 蔵曾の発言が終えるや、彼女は深々と頭を下げてテーブルへ額を擦りつけた。

「悪い事、企てすぎ。一生幼女」

「すみませんすみません! 皆様! 魔が差したのです! もう絶対にやりません! 今後はオウルエイスが政治に関わりますのでどうか!」

 何度も頭を下げて、悔しそうに蔵曾をにらみつけていた。

「エルフの長期出入り禁止も覚悟しております」

 そのための書類も既に用意済みで、皆に配っていた。

「そして処罰に関しては、全て私が受ける所存でございます。処罰の内容に関しましても皆様方に全て委ねます」

「オ、オウルエイス……」

 エルフの罪を一人で受ける。

 そして内容も全て任せるなんて……。

 しかし……その書類を受け取った者は誰一人としていなかった。

「今回、死者は一人も出ていない。一度領土を奪われたもののすぐに帰ってきた、人獣族の被害は無い」

 ここはオウルエイスさんに免じてと、言いたげに。

「この書類は必要あるまい」

 彼女の信頼がエルフを支えている。

 やはりオウルエイスさんはエルフの統治者としてふさわしいのであろう。

「今回の件、人類種が関わっていたと聞くが、そのお二方、紹介をしていただけませぬか? 妙な力により、領土に触れて支配するという手続きも取らずに支配できたと、聞いたが」

 そこへ、人類種統治者――名前はなんだったっけ? ミツネグ、とか言ったかな?

 彼は問うも、意外とこれは回答に難しい質問だ。

「えっと……」

 オウルエイスさんも口篭っていた。

「ふはっ、私が答えてやもごごごご!?」

 アルヴさんがそれをみて面白そうに口走りそうになったが後ろで構えていた兵士が口を塞いだ。

 皆彼女の扱いが解ってきたね。

 前なら考えられなかったな、アルヴさんの口を塞ごうとする兵士の存在なんてさ。

「ぶはっ、か、彼らは――」

「仙人」

 言葉を挟んで、蔵曾が言う。

 お前さ、まだ仙人設定貫くの?

「せんにん?」

「え、ええ! 不思議な力を使えるのです!」

「ぼはぁ! そ、そい――もごご!?」

 その疑問を答えてやるぜとアルヴさんは頑張るが今や一人の兵士にすら敵わない模様。

「仙人」

「……ふむ、そのような種族、が?」

 コントのような光景にも関わらず、事情を汲んでくれたのか深くは聞かないでくれた。

 異世界から来た――それはあくまでも隠し通すという暗黙の了解に従うとした。

「そう」

「種族の名称は仙人種? なのかな?」

「地球人」

「ちきゅうじん? ほう、聞かない種族だ」

「見た目は人類種と同じ、けど色々と違う」

「違うのはお前だけだろ」

 口を挟んだ。

 だってさ、そうだろう? 地球人が蔵曾と同じなら今頃地球は大変な事になってるぜ?

「私の名前は箕狩野蔵曾、そして彼が忍野浩太郎。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人――」

「てぇい!」

 蔵曾の頭にチョップをかました。

 こういう場であっちの世界のネタは無しの方向で。

「うぐぐ……」

 痛そう、ざまあみろ。

 異世界人の存在は未だに混乱を帯びている種族達に教えるのは時期的に避けておきたい――オウルエイスさんはおそらくそう考えているに違いなく、俺も自分が異世界から来たというのは秘密にしておいた。

 ちなみに。

 アルヴさんは暴走しそうだったので数分後には兵士に連れられて行ってしまった。

 エルフはすっかりと変わったな。

 前は城にエルフの姿は皆無だったが今はエルフ達が自由に利用しているんだよね。

 聞くに城は貴族と兵士、部下以外は出入り禁止だったらしい。

 今思えば城には異常にエルフ少なかったもんななあ。

「彼も、仙人?」

「そう」

 違うと大声で叫びたい。

「……まあ」

「我々と似た姿だが、特殊な魔力回路を持っていたり、身体能力が高いとかかね?」

「……そうですね」

 愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 話は次第に政治へと移り、雰囲気は誠に和やか。


 今夜の夕食会は大成功だった。

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