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その70.いや知らんけど。

「これにて問題解決、ってわけにもいかないよな……」

「当然」

 この場にいるエルフ達は抵抗もせず、一箇所に集まって縮こまっていた。

 エルフ達はオウルエイスさんへと視線を集中させ、彼女は俺達へ指示を仰ぐ視線を向けていた。

 真っ白に燃え尽きたアルヴさんを抱いて。

「後は人獣族」

「急いで戻って領土を返して、その後はどうする……?」

「さあ」

「さあって……」

 それから。

 馬車には揺られるもオウルエイスさんは同席していない。

 彼女は森で陣を組んでいたエルフ達を呼び寄せて一箇所にまとめる仕事が残されている。

 エルフの統治者代理といったところだ。

 ちなみにこの馬車を操作しているエルフはオウルエイスさんを慕っており、前からアルヴさんは気に入らなかったとか。

 アルヴ政権を粉々に砕いてくれたお礼に、喜んで街まで送ってくれるそうだ。

 アルヴさんのやり方を気に入らなかった連中は多い。

 けど表に出せないのは、アルヴさんが相当な権力を持っていたからであり、今後は残ったアルヴさん側の奴らをどうするかがエルフの課題になるのかな。

 ……それも課題にすらならないか。

 蔵曾は言っていたよな。


 害となる貴族は排除しておくから。


 ――と。

 エルフ側の問題は蔵曾の介入で全て解決しそうだ。

 馬車が動き出して数分、魔馬はやっぱり早いな、そろそろ街に着きそうだ。 

 途端に――馬車は前のめりで停止した。

「おおぅ!?」

 座ったのが後ろ側の座席なのが不運。

 俺は勢いよく前に吹っ飛んで、蔵曾の太ももに顔を突っ込ませた。

「ダイナミックセクハラ」

「うぐっ……! わ、わざとじゃない!」

「とか言って、触りたかったんじゃ? どスケベむっつり浩太郎」

 俺は怒りの笑みを浮かべて握りこぶしを作った。

「遺言はそれだけか?」

「嘘、ごめんなさい、調子こいた」

「よろしい」

 蔵曾は置いといて。

「あの、何かありました……?」

 俺は騎手側の小窓を開けるとエルフは引きつった表情で俺を見て、前方を指差した。

 指先からその先へ、俺はゆっくりとなぞってみると先ず見えたのは人獣――一人ではなく、二人でもなく、複数というには多く、大勢というのが正しい表現のほどの、数。

 今からエルフの国に攻め入ると言わんばかりの態勢と雰囲気に思わず唾を飲んだ。

 蔵曾は小窓だというのに強引に俺の頬に頬を引っ付けて小窓を覗き込み、状況を確認した。

 おい、ぎゅーっと頬を寄せてくるな、そりゃあ小窓だが俺が何も覗けなくなるだろ。

「出る」

 ただ一言、蔵曾は呟いて馬車を降りた。

「あ、あんたっ! マズいよ!」

 迫る軍隊に一人で行ったら、そりゃあ誰もが命を捨てる行為だと引き止めるであろうが、俺だけは引き止めない。

 ――解っている。

 こいつが――蔵曾はたとえ地獄のような戦場であっても、傷一つ負わずに学校の帰り道を鼻歌歌いながら帰るがの如く無事でいられると。

 人獣族達は馬車を見て足を止め、前方には複数の兵士が弓矢を構えていた。

 いつでも攻撃の準備は出来ているという合図でもある。

 俺は馬車を降りて蔵曾の少し後ろを歩き、騎手には影で隠れているようにと指示しておいた。

 この状況、どこに隠れようとも変わりはしなさそうだが、一応ね。

 蔵曾は怯まず歩み寄り、それに対して一人――蔵曾へと歩み寄った。

「エルフの使いか?」

「違う」

「ならば、何用でこの道を通っている? 戦地と化しているこの道を、だ」

 言わばこの道は戦場のど真ん中、それを俺達は何食わぬ顔で通っているのだから疑われるのは当然だ。

「エルフの長、アルヴはその座を降りた。これからアルヴが不正に奪った人獣族の領土を返しに行く」

「……待たれよ」

「待つ、その代わり、貴方達はフェルアルビオネへの侵攻を止めて欲しい」

 返答は無かった。

 しかし、人獣族は誰もが顔を見合わせて、一歩たりとも進む者はいなかった。

 蔵曾の目の前には弓を構える兵士が数十、後ろには剣に手をかける者が数十、さらにその後ろには斧を構える者もいる――だが蔵曾は臆する様子も無く、只管待ち、俺は蔵曾の後ろでそわそわしている。

 間違ってでも弓矢を飛ばさないでくれよ?

 暫し待つと、エルゥゴさんがやってきた。

 元騎馬隊隊長という肩書きは兵士達には今でも影響力があり、皆が場所を空けている。

「どうなった?」

 彼は聞く、先ほど蔵曾の言葉は既に耳に入っているであろうが、確認のためかもしれない。

「解決した、領土は人獣に返され戦争には参加しなくていい。今までのフェルアルビオネは崩壊しつつある」

「本当か……?」

「オウルエイスに聞くといい。これからは彼女がエルフの長となる」

「……だが、納得できない事が多すぎる」

「今は納得しなくていい、理解もしなくていい、私がするのは領土を返還し、フェルアルビオネの政権を全て雲散霧消させ、互いの種族が歩み寄る手助け。それが終わってから、ゆっくりとまた疑問に抱き、考えて。答えはしない、けど」

 つまり。

 疑問点については今は考えるな、後で考えろって事?

 回答はあくまでもしないのかよ、人獣族は皆質問したがってるに違いないぞ。ここでいっそ会見でも開いたらどうだ?

「奪われた領土の核、もしくは核の近くの土地に案内して欲しい」

「……案内しよう」

 エルゥゴさんは兵士達へ右手を上げると皆は武器を下ろし、戦闘態勢は解除された。


 エルフを街に入れるのは危険――そう判断され、騎手のエルフは一度オウルエイスさんのもとへ戻る事になった。

 ではこの馬車の騎手は?

 ――エルゥゴさんである。

「なあ蔵曾」

「何」

「思ったんだが、俺さ……別にいてもいなくても変わらなくね?」

 これまで敵に襲われたり、種族達のいさかいに巻き込まれたりとしたけれど……どれも解決したのは蔵曾だ。

 この後も馬車で俺はすやすやと寝息を立てていようとも人獣族の問題は蔵曾が解決してしまう。

「そんな事ない」

「なんでだよ」

「浩太郎がいなかったら私のやる気は皆無」

「……そうっすか」

 俺はお前のお守りかよ、必勝祈願とでもおでこに書いておけばもっとやる気起きる?

 ついでにやる気を出すのなら早く物語を書こうぜ、この世界に来てメモを取るばっかでさあ、そろそろお前は何か書いてみたほうがいいと思うんだ。

 などといった長文の文句を頭の中で呟いて、俺はため息をついて窓枠に肘をついた。

「そう落ち込まないで。対して役にも立ってないし、影は薄い、これといって主人公のモデルとしてメモする事も無かったけど」

「さらりと俺の心をえぐるのやめろ」

「しかし物語を作る上で時には主人公よりも他の登場人物を注目されるという演出もいいのでは?」

「知らねえよ」

「最強チートヒロイン」

「いつからお前はヒロインになった?」

「ヒロインとして立候補」

「……はんっ」

 道端のどうでもいい石ころを見るかのような目で、鼻で笑ってやった。

「ぐぬぬ……」

 ぽこぽこ俺の肩を叩いてきたが街に到着するまで構わず俺は舐めきった表情を維持した。

 馬車を降りるや出迎えたのは人獣族の兵団。

 狼やら狐やら鳥やら、トカゲっぽいのもいて人獣大特集な光景だった。

「一応、この広場が核の近くの土地だ」

「十分」

 すると、蔵曾は右手を地面へとつけた。

 誰もが彼女に視線を寄せている、何をしているのか、何をするつもりなのか、と。

 こんな少女に何が出来る?

 中には呆れた表情で見ている奴もいた。

 促されてはいないが、自然と沈黙が漂っており、この沈黙では小声でも耳に入ってくる。


 ――あんな小娘に何が出来る? たかが人類にエルフの防壁魔法を解除させるつもりか?


 言いたい放題の小言だが、皆に言いたいぜ。こいつはこの中で誰よりも小さくて見た目はか弱そうな少女だけど、この中で誰よりも強いってね。

 すると蔵曾の全身は青白く光り、地面へと広がっていった。

 その発光は数秒だけ。

 すっと立ち上がり、これで終わり? と皆が首を傾げて顔を合わせていた。

「防壁、消した。領土も今は誰にも核が支配されていない状態に戻した。核の支配を人獣族統治者が行えば、ここは人獣族の領土に戻る」

 淡々と説明して、蔵曾は馬車に乗り込んだ。

 ざわついている、本当にこんなにも、いとも容易くあっさりと終わってしまうなんて、誰も予想していなかった。

 俺だってそうだ。

 これから人獣族のお偉いさんと会ったり話したりして、核にでも案内されて大規模な儀式みたいなのをやった後にやっと人獣族の領土になるもんだと思っていたのに。


 蔵曾がやったのはどうだ?


 地面に触れて、発光して終わり。

 蛍の観察じゃないんだから、もっと何かそれなりにファンタジー要素のある演出とか無いの?

 例えば詠唱とかさ、エルフはちゃんと詠唱してたぜ? ファンタジーだぜ?

 蔵曾、お前が今やったのはファンタジー要素は発光くらいでさあ、拍子抜けもいいとこだ。

「……らしいよ」

「……今、城で確認させるとする」

 互いに、これはどう反応していいのやらと苦笑いしか浮かばない。

 数十分後には、慌てて人獣族の使いが俺達の前へとやってきた。

 何故使いか解ったって? そりゃあ白を貴重とした服装――俺達が一度この人達と同じ服装になったからだぜ。

「核の支配が終わりました、領土は我々のものです」

「それはよかった」

「アルブ様が是非お会いしたいと申しておりますが」

 俺と、蔵曾を見てくるがちょっと見るのやめてくれよ。

 俺は何もしちゃあいないんだから。

「これから私はフェルアルビオネの処理をする、暇は無い。人獣族は問題解決したのだから武装解除、今後のフェルアルビオネはオウルエイスが統治者。まだ知らぬ事が多いから、人獣族――エルゥゴが、手を貸してあげて」

「何故俺が」

「軍を抜けて、種族間の親睦を深めて、共有権ではなく、本当の共有を望んだ貴方だからこそ、適役」

「……ふん」

 蔵曾は一体どれほど調べたのだろう。

 俺の知らない情報がどんどん出ている、エルゥゴさんがどのような人物なのか、軍を抜けた理由はなんだったのか、どれも初耳だ。

 調べて解った時点で少しは教えてくれたってよくない?

「ついでに、フェルアルヴィオネまで送って。まだ契約期間中、なら」

「契約は切れていない」

「エルゥゴ様、王にはなんと申せば……」

「エルフの問題を処理してくるから忙しいと伝えておけ」

「しかし……」

「俺は軍人ではなく馬車の騎手だ、仕事をさせてくれ」

 エルゥゴさんってかっこいいねえ。

「他の偉い連中がそのうち帰ってくる、そいつらから指示を仰げ。俺は行く」


 途中でオウルエイスさんを拾い、魔馬でかっ飛ばしたおかげでフェルアルヴィオネには予定よりも早く到着した。

 他のエルフ達は魔法によって集団での飛行移動で俺達に遅れはしつつもちゃんとついてきていた。

 アルヴさんは未だに放心状態、団扇のようなもので扇がれていた。

 あれからもうすでに一日が経過しているが気がつくのはいつになるやら。

「アルヴと繋がっていた悪い貴族をぶっ飛ばしてくる」

「……いってらっしゃい」

 誰も止めはしなかった。

 聞くに、貴族は誰もが魔法力が高く、強力な魔法を使えるらしいが、蔵曾へ直接魔法を放った彼らはたとえどのような魔法であっても貴族に蔵曾が倒されはしないと確信している。

 俺だってそうだ。

 この先はやらせの格闘試合を見るのと同じくらい、蔵曾には勝利が確定されている。

 ここでただ待つ。

 俺達はそれだけでいい。


 そして。


 一時間も満たずに、フェルアルヴィオネ政権は崩壊し、城にいた貴族達の半数が城の前で縛り付けられた。


 アルヴを利用して思いのままに国を動かしていた者、他の種族と繋がりを持ち、こちらの領土で得られる食料などを秘密裏に売りさばく者、アルヴの暗殺を企てていた者、力による支配を企てようとしていた者、そういった奴らだ。

 しかし、悪い貴族ばかりではない。

 世のためにと日々この種族を良き方向へと導くべく奮闘していた貴族もいた、彼らは城でアルヴが破れたと知って反乱を起こそうとした者達に拘束されていたらしい。

 無事で何よりだ。

 解き放ってやるとオウルエイスさんに駆け寄って互いに身を案じていた。

 やはり、貴族の中でもオウルエイスさんは慕われているようだ。

 統治者は彼女が適役なのだろう。

 こういうのはあれだろ?

 力を持っているからって国を管理できない、人々と分かち合える人、思いやりの心を持つ人、そういったものが必要なんじゃないかな。

 いや知らんけど。

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