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その7.オリーブオイルが似合うような顔つきにね。

 明くる日。

 俺はわずかな希望を抱いて鏡を見てみるもイケメンにはなっておらず、身長も伸びていなかった。

 いつもの地味な俺である。

 あのメモ帳女――箕狩野蔵曾に何かされた人同士では変化が把握できているのならば俺も何かされたんじゃないかとは思うも、外見的な変化は何も無い。

 内面的な変化は……さあ、どうだろうなあ。

 特に薫達は何も言ってなかったのでおそらく変化していない。

 でも皆の変化が分かる――もしかして蔵曾は″皆の変化が把握できるようになる″っていう変化を俺は与えられたんじゃないかと推測してみる。

「……いらねえ」

 ものすごく、いらねえ。

 そんな変化を与えられた場合、ではあるけど。

 学校へ向かう中、俺は蔵曾が近くにいやしないかと周囲に視線を配りつついつもの待ち合わせ場所へ。

「……ん?」

 なにが「……ん?」なのかというと。

 待ち合わせ場所に立っていたのは一人ではなく、二人。 

 しかも近くを通り過ぎる通行人達は皆が視線を奪われてしまっている。

 長い艶やかな黒髪が微風に靡き、それを手で押さえるその仕草――ノアの淑やかさが皆の心を射止めていた。

 視線が集中している、その中へ飛び込むのは少々抵抗があるな。

 隣にいる薫はやっぱり元男とあって気配りが足りないなあ。

 スカートが靡いても手で一切押さえようとしないからちょいちょい見えてるんだよね、パンツが。

 どこか男らしさがにじみ出てる、だからノアとは違ってあまりドキッとはしない。

 ……二人は何を話してるんだ?

 あいつらは昨日初めて言葉を交わしたというのにもう仲良くなってるように見えるのは気のせいか?

 このままここで見ていても仕方あるまい、合流しよう。

「浩太郎! おはよっ!」

「……おはよ」

 朝から元気だな薫は。

「お、お、おはっ、おはようっ」

 朝からなんか固いなノアは。

 三人で肩を並べて学校へ向かう――のだけど、どうして肩を並べると自然と二人は俺の左右に立つんだ?

 そのおかげで優越感を得られるが、昨日はあまり実感していなかった殺意を込めた視線がいくつも背中に突き刺さっているので冷や汗ものだ。

「そいやさ、昨日メモ帳女に会った」

「マジ!? 何かされた?」

「土足で家に入られてカレーを食べられた」

「ただの犯罪者じゃねーか」

 ほんとだよ。

「それ以外は?」

「さあね、俺のどこか変わったところとかあるか? あったら教えてくれ」

「ど、どこ、かな?」

 俺は朝自分で確認したけど変化は見当たらなかったがね。

 二人は俺の全身を隈なく見て、何も変わっていないと感じてか顔を見合わせて眉間にしわを寄せていた。

「……何も変わってないな」

「こ、浩太郎君は今のままがいいんじゃ、な、ないかな?」

「俺は長身できりっとした顔つきになりたい、オリーブオイルが似合うような顔つきにね。そんなかっこよさが欲しいんだ」

「別に今のままでもさあ、浩太郎は可愛いしいいんじゃない?」

「可愛いってなんだよ!」

「な、撫でて、いい?」

「やめろ馬鹿!」

 撫でていい? って聞きながら撫でてくるな!

 可愛いとか言われても複雑な気分だぜ……可愛いよりかっこいいと言われたい。

「まあいい……それより、あいつの名前が分かったんだ。箕狩野蔵曾っていうらしい」

「みかのう……」

「ぞうそ……?」

 言下に二人は声を揃えて「変な名前」と感想を一言。

 うん、俺も思う。

「偽名だろうよ」

「あ、案外ほんとに神様だったり、して」

 それを聞いて、長波先生の言っていた事を脳内で再生してみる。

 頭ごなしには否定できないから困る。

 非現実的な事をやってのける、簡単な言葉で片付けるには神様だからと言葉を付け足すだけでいい。

 いい……けど納得はあんまりできないよなあ。

 学校では昨日と変わらずノアと薫は生徒達の中心に立っていて、クラスはこいつら二人で回っている状態だった。

 クラスどころかその学年全体も、かな。廊下から投げられる視線はノアに集中されている。

 薫の人気も中々だがノアに比べれば少々届かない。

 クラスの雰囲気もがらりと変わったもんだ、前は小さなグループがいくつかできていてグループ内でしか会話してなかったのに、今やグループも消滅してノアと薫を取り囲む生徒達でまとめられている。

 これはこれで皆仲良くなっているから前よりいいね。

 俺の孤独は変わらないけど。

 ホームルームの時間となり、長波先生がハイテンションで教室に入ってくるのはしばらく苦笑いを浮かべてしまうね。

 そんな長波先生は壇上に手作りの箱を勢いよく置いて言った。


「今から席替えしましょう!」


 唐突。

 唐突過ぎて、生徒達は皆が一瞬沈黙して、互いに顔を見合わせてようやくざわついた。


「もう一ヶ月経ったし、そろそろ名簿順なんてくだらない席順は無しにするわよ! 箱の中に番号の書かれた紙があるから、紙を引いて席替えしてね!」


 そんな朝のホームルーム。

 授業一時間目が遅れる覚悟で席替えを行い、長波先生が用意した箱からクジを引いていく。

 黒板には席に番号が割り振られて書かれ、それぞれの視線から一番後ろの席を狙っていると思われる。

 俺もその一人だ。

 前はなんつーか先生と距離が近いのはいつも監視されているようで嫌だ。

 暇つぶしにノートに落書きしたらすぐに見つかりそうってのもある。

 クジを引く前に心の中でお祈り。


「よっとっ!」


 一番後ろになる番号は6、12、18、24、30、36。

 俺が引いたのは……。


「18だっ」


 小さくガッツポーズ。

 しかしながら、それ以降妙な事が起きた。


「じ、12、ですっ」


「24だ、やったぜっ」


 その後左右に座るとある生徒達のおかげで俺はまた、クラスから殺意の視線を送られる羽目となった。


 どういう席かって?


 右側にはノア、左側には薫。

 何か妙な手回しを感じる、絶対蔵曾が絡んでいるに違いない。

 そうじゃなきゃこんな席おかしい。

 蔵曾のあのわけのわからん力なら思い通りの席にするのも容易いはずだ。

 ……こうする事で新しい展開でも求めてるのか?

 休み時間になるとノアや薫に集まる女子生徒は、毎回俺を睨みつけてから話に入り、左右どちらかが俺に話しかけようとすれば、女子生徒の殺意も一緒に漂ってきて俺の肩身はとても狭くなった。

 安らぎの無い休み時間なんて嫌だ。


 この席は、ある意味でははずれかもしれない。


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