その69.チート乙でございます!
蔵曾に敵う奴は異世界にもいないなこれは。
なんといっても神様だし。
「え、んっ? んんっ? ちょ……」
よほどの精鋭を集めたのかもしれないが、紙相撲で指を相手にして弾かれたかのような吹き飛び方に、アルヴさんは言葉を失っていた。
蔵曾はゆっくりと歩き出す。
「魔法師部隊、まだいるでしょう!? や、やりなさい!」
後方にいた複数のエルフにそう命令し、彼女は席を立った。
自分は安全な場所へ逃げるつもりかな。
魔法師部隊とやらに続いて、エルフの兵士がどこからか再び現れてアルヴさんを守るべく壁となって立ちはだかるも、それは薄っぺらな壁でしかない。
蔵曾は構わずに、直進。
俺も手伝ったほういいのかなぁと、右手を見てみると、鎧が自動で纏いついた。
ロボットの変形っぽくて見ているとかっこいい、クセになりそうだ。
まあ、それはいいとして。
蔵曾は再び手を叩くと青い光は人一人分を覆うくらいの大きさとなった。
更に右手の拳を握り、人差し指と中指をゆっくりと立てて、時計回りに指を振った。
様々な色の光線や、炎や、氷の矢や、雷といった魔法が蔵曾に降り注がれるも、
「ぞ、蔵曾様!?」
「心配しなくてもいいさ」
心配など杞憂でしかない。
「し、しかし……魔法師部隊の攻撃を一度に受けるのは……」
土煙が舞い上がった。
いやあ特撮顔負けの迫力、あっちの世界でこの爆発を再現するにはどれくらい火薬が必要になるかな。
蔵曾の姿が隠れてしまうも、風に乗って薄れていく土煙の中に、人影は何事も無かったかのように前進していた。
先ほど指を振っていたのは、衝撃によって吹き飛んだ土や石が俺達に飛ばないようにしていたようだ。
俺達に届く前に、それらは宙で停止し、磁石のように蔵曾へ引き寄せられて軽く回転し、ゆっくりと地面へ落ちた。
「す、すごい……」
「チート乙」
「ちーと?」
「ああいうのをあっちの世界ではチートって言うんだ、そんでもってそれを多用してる奴にはチート乙って言ってやるのがお約束なんだ」
「そうなのですか、蔵曾様……チート乙でございます!」
蔵曾がちらっと振り返って俺を睨んだ気がした。
別に間違った事言ってないぜ、チート乙だぜ。
「浩太郎、最初に吹き飛ばした兵士、起き上がる」
えっ、本当に?
俺はあたりを一瞥、それだけで起き上がる兵士は複数確認して、蔵曾へと視線を戻した。
「地面、思い切り叩いて。オウルエイスは抱き寄せて」
「だ、抱き寄せて?」
頷いて、蔵曾は前進。
どうする?
……兵士達は、起き上がる。
よろよろと覚束ない足取りだがそれぞれが落ちた武器を手に取り始めていた。
どうする?
……ここは一つ、やってみますか。
役に立っていないと痛いほど理解している自分だ、少しは俺もやれるってのを見せてやるさっ!
といっても、蔵曾から貰った力で、だがな!
「オウルエイスさん!」
彼女を引き寄せた、抱き寄せ……るとしよう、勢いにまかせて。
俺は右手を振り上げると、右手はプシンッと――空気を噴出するような音が聞こえた。
このまま振り下ろすとしよう。
思いっきり、ね。
全力で殴った事は今まで一度も無かったかもしれない。
殴る事に対して俺は気弱なのだ。
相手は地面、それなら気弱にならなくてもいい。
俺は拳を振り下ろした。
まるでスポンジのように拳はめり込み、亀裂を生じ、光を放ち、周囲へと轟音を響かせて広がっていった。
俺の足元を中心として波紋でも起きているかのようだ。
兵士達は立ち上がって早々に再び吹き飛ばされ、気がつくとクレーターの中心に俺とオウルエイスさんがいた。
「こ、浩太郎様……すごい、です」
口をぽっかりと開けた彼女は、どう言っていいのか解らずもはやすごいの一言で片付けてしまうしかなかった。
俺とてそうだ。
心の中ではすごいな、と呆けてしまっている。
「浩太郎」
「な、何だよ……?」
「チート乙」
「うるさい」
さっきのおかえしか?
何気に青い光をまとっている蔵曾は飛び散った土や石は全て防御していた。
蔵曾の奥にいる魔法師部隊と兵士達は俺の一撃に全員が青ざめており、アルヴさんは恐怖に表情を歪ませていた。
「や、やるのです! ほら、貴方達! 攻撃しなさい!」
一切攻撃を受け付けない蔵曾にどうやれと? と皆の表情は絶望に侵食され始めていた。
ご愁傷様としか言いようがない。
蔵曾は前進する。
兵士達は各々が武器を振り下ろすも当然届かず、
「どいて」
吹き飛ばされるのを覚悟していた兵士達は蔵曾の言葉に、臆しつつも従って道を明けた。
魔法師部隊もそうだ、これ以上は無意味と悟って詠唱を止めてしまった。
それは実に賢明な判断だ。
「貴方達……! 攻撃を続けなさい!」
アルヴさんの命令には誰も従いはしなかった。
従ったとしても何一つとして結果は変わらない。
それを未だに悟っていない人物だけが声を荒げて、皆に命令をし、醜態を晒している。
「アルヴ、話をしよう」
「は、話す事など何も無いわ!」
「あれは今から三十六万……いや、一万四千年前だったか、まぁいい、私にとってはつい昨日の出来――」
「蔵曾ー、この世界にそのネタは通じないぞー」
「ふざけてるのですか!」
オウルエイスさんは魔法の詠唱を行っていた、ほら、怒らせちゃった。
魔法を発動するつもりなのかな? と、思いきや、目の前で爆炎が発生した。
「うおっ!?」
他の奴らと違って魔法の発動が早い、やはりエルフの長なだけあるな。
けどまあ、蔵曾にはそんなの関係ないけど。
「無駄」
「うっ……くっ!」
蔵曾の青い光はその消し炭にされてしまいそうな炎でさえ無効化してしまっていた。
アルヴさんは踵を返して逃走を図ろうとするも――
「もうやめましょう、アルヴ様が行おうとしているのは愚かな侵略です」
オウルエイスさんがその退路を遮断した。
「侵略するでゲソ」
蔵曾は俺だけに聞こえるよう小さく呟いた、ものすごくどうでもいい台詞を。
「某イカっぽい娘の台詞でシリアスムードぶち壊すの止めろ馬鹿」
「すまんでゲソ」
反省してないな、あとで拳骨をお見舞いしてやろう。
蔵曾はアルヴさんへとゆっくり近づき、俺もついていくとし、周囲には警戒心を怠らない。
いつこのエルフ達が襲ってくるかは解らない。
右腕は蔵曾から借りた力が宿っている、いつだって準備万端だ。
地面を殴って周囲を吹っ飛ばす役割なら買って出るぜ。
「オウルエイス、話すだけ無駄」
「し、しかし……」
「天精霊は昔からそうだった。貴族と王族による歪んだ思想が種族の枷となっていた」
――そうらしい。
うつむくエルフ達、蔵曾の言葉は確かなものであると認めていた。
「なんだって、言うの?」
アルヴさんはだらりと頭を垂れるも、間髪いれず蔵曾を睨みつけて言った。
その時、アルヴさんの何かが崩れた気がした。
「私は天精霊はもっとも優れている種族、種族の頂点に立ち、大大陸を支配し、この曖昧な世界をまとめる! 私はそのために動いているだけよ!」
「違う、貴方は自分の欲望のために動いている」
「はっ! 貴方に何が解るのよ! 領土はいつも変動する、種族はいつだって奪われる恐怖を抱いている、けど天精霊が全てを支配し、全ての種族を管理すればそんな心配も無くなるわ! この世界には神の代わり必要なのよ!」
「必要だとしても、それは貴方ではない」
蔵曾はばっさりと切り捨てる。
アルヴさんの目の前へと近寄り、更に続けた。
「天精霊族は魔法に関しては特化しているが、それは種族そのものの力が特化しているのではない」
「ち、違うわ! 私達は種族の中で――」
「おい」
ぐいっと、鼻と鼻がつきそうなくらいに距離を詰め、
「神がいないからって自分達が頂点だと勘違いしてないか? 調子に乗るんじゃない」
場の空気が凍りつくほどの威圧感、恐怖、迫力、戦慄、体が震える要素全てをミックスさせたような雰囲気が広がって包み込んだ。
「は、ひ……」
「時に」
いきなり俺を向く蔵曾、思わず肩が上下した。
「エルフ、異世界、猫耳、大事な要素が抜けてる気が、しない?」
「大事な要素?」
「幼女」
幼女。
幼女……?
えっと、この雰囲気で何を言う?
皆の目を点にさせて、何が言いたい?
苦笑いを浮かべて、しかしまあラノベなら幼女は何気に登場頻度は高いよなあと分析して、
「幼女はまあ……そうだな」
「うん、そう。物足りなさはこれ」
すると、蔵曾はアルヴさんへ両手をかざして青い光を放った。
「な、何をするつもり!?」
「罰」
変化させるのだ。
アルヴさんをどのように変化させるのか、俺へ振った会話から――まさかなとは思ったが、数秒後には解る話、じっと眺めるとする。
最初に変化が起こったのは、アルヴさんの身長だった。
見る見るうちに低くなり、手足も短くなっていく。
次に顔も小さくなり、徐々に体は縮まっていく。
ああ、つまり――幼くなっている。
「な、何を、するのッ!?」
声も既に変わっている、か細い幼女の声に。
「ア、アルヴ様……!?」
オウルエイスさんは戸惑って俺達とアルヴさんを交互に見つめてやや混乱気味。
着ていたドレスはそのままのようで、変化を終えたアルヴさんはぶかぶかのドレスを纏った幼女になっていた。
悪戯に母親のドレスを着た幼女のように。
「ひ、は、はへ?」
自分の体を見て、頬をペタペタと触り、全身の力が抜けてへたり込むアルヴさん。
「子供から、やり直して」
「へ? は……は? はい?」
「オウルエイス、貴方がエルフをまとめて。害となる貴族は排除しておくから」
「あの、ま、待って? ちょっと、わ、私はっ?」
「力の無い幼女はエルフの長になれない。無力へようこそ」
「は、へっ?」
瞬き二回、頭上にクエスチョンマークが数十個。
「貴方が成長するには、純粋な心、皆を思いやる心、正義の心を取り戻さなければならない。頑張って」
「は、は、ははっ……」
硬直し、すっかり幼女となり無力になったアルヴさんは、真っ白な灰のようになり頭を揺らしてこてんっ、と地面へ頭をつけた。
蔵曾はアルヴさんの頭に軽くチョップして手をつけたままにすると、彼女の体は再び青い光を宿し、何かが蔵曾の手に吸い込まれていった。
――おそらくは、立ち位置であろう。
「おしまい」
その言葉を聞いて、俺は安堵のため息をついた。




