その67.オウルエイス萌え~
「あとはどこにいるか、だな」
核に触れずとも足を踏み入れればその土地の核を支配できる――それがアルヴさんの持つ立ち位置、この街に一度来たのははっきりとしている、しかしその後の行き先が不明だ。
「様子を伺って潜むならここへ来る途中の森」
「見た感じ広いぜあそこ、遠くを見ても森しかなかったじゃん」
「おそらく今の人獣族の領土ではエルフへの魔力の共有権は停止されている、オウルエイスに魔力の吸収をしてもらいながら動けばいい、魔力が吸収されればそこはエルフの領土、つまりアルヴが近くにいる」
そういう探し方もあるか。
そうだよな、もし領土を好きに支配できるのなら潜むにしてもその土地の領土を支配するしな。
「では、い、行きましょう……」
彼女は震えた声で呟いて立ち上がった。
無理もない。
いくら止めにいくとはいえ、これからするのは反逆でしかないのだから。
「ここは我々の領土、でしたね……」
すると、全身に光を帯びるやオウルエイスさんの耳は縮まり、髪の色は黒へと染まって人間そっくり容姿になった。
最初に会った時と同じ容姿だ。
顔も目や鼻、口が僅かに変化している。
オウルエイスさんの面影を残した人間の出来上がりだ、服装も変えれば皆には解るまい。
準備も済んで、俺達は外に出た。
肌に伝わる緊張感、兵士達が集まっている。
街の住民達は窓からその様子を伺い、俺達を含む人類や他の種族は外にはほとんど出歩いていなかった。
人獣族はそれぞれ武器を取り、通り過ぎる際に聞き耳を立てていると耳に入った情報は、統治者のワルバがこの街に到着し次第、エルフの国に出向くとか。
「一日でこうも緊張感漂う街になるとはな」
「この街の領土全ての共有権、変えられていたら今頃さらにパニック」
「相手はそれをいつでもできるもんなあ……」
「共有権大事、守らなければならない」
いつそれが変えられるかも解らないから、不安になるな。
「全ては私のせいです、すみません……」
「オウルエイスさんは命令されてしかたなくやっただけでしょ?」
「オウルエイス、反省」
蔵曾は彼女の頭にチョップをくらわせた、身長が足りなくて小さな跳躍を必要としたのが笑える。
場を和ませるための行動だったであろうが、
「うっ、ううっ……本当に、本当に申し訳ございません……」
号泣を引き起こした。
蔵曾は――どうしよう、と言いたげに俺を見てきやがる。
まったくお前は……。
とりあえず蔵曾の頭にチョップを食らわせるとしよう。
「痛い」
「オウルエイスさん、落ち着いてっ。周りから怪しまれるからっ」
なんか彼女達に挟まれて、片方の女性に泣かれると二股の修羅場みたいで周りから妙な視線を浴びてるわけでっ。
「保身のために皆様を騙してしまい、あげくこのような事態も引き起こしてしまって……ぐすっ、すみません……」
「俺があんたと同じ立場なら俺だってそうするさ、仕方なかった――それで済まそうよ」
「シカタナイネッ」
いきなりガチムチなレスリング兄貴の口調で言うなこの野郎。
「思えば私は我が身可愛さ故に従うばかりの日々でした……」
「エルフ社会は大変」
「はい、自分の地位を高めるには先ず貴族様のご機嫌を取り、アルヴ様へ近づき、次にアルヴ様のご期待に沿えるよう立ち振る舞わなければなりません」
「今回、浩太郎を連れ出すのも、アルヴへのご機嫌取り?」
「そう、ですね……はい、その通りです。私は、浩太郎様を利用して、アルヴ様に貢献して自分の保身を固めたかったのです……」
また泣きそうになるオウルエイスさん。
まいったなあ、こういう時どうすればいいのか解らん。
女性への接し方には如何せん疎いんだよ俺は。
「浩太郎様を、近くの街へと連れて行き、城へ戻る道は我々が、サンヴァルギからの攻撃と偽って退路を断ったのです……」
マジですか。
……あの森が黒煙を渦巻いた騒動、それすらも彼女たちの仕業だった――ようだ。
俺を異世界へ留めるためにそこまでしていたのかよ。
……まあ、そこまでする必要が、価値が……あったんだな。
その結果がこれだもの。
「私は最低です……」
「けど、皆に慕われている。オウルエイス、良い人」
「良い人なんかじゃ、ありませんよ……最低で最悪、それが私です」
「今朝、普通なら貴方に人獣族が押し寄せたらただでは済まなかった、けど貴方は無傷」
言われて、彼女が傷を一つも負っていないのに気づいた。
戦争参加を強引に吹っかけた相手の種族が目の前にいた、それなのに誰も彼女に暴行を働こうとした人物はいなかったのだ。
皆が怒り狂っていた、人獣族はエルフに対して憎悪を抱き、今にも爆発寸前なのにも関わらず、だ。
「……たまたまです」
「オウルエイスさんは愛されてる、うん、つまりオウルエイス萌えという効果だな」
「オウルエイス萌え~」
「も、萌え!?」
「日本文化、その一つである萌えだ」
「そう、萌え」
「聞いた事はありますが……」
オウルエイスさんなら萌えは知っているはずだ。
「わ、私に萌える要素なんて、ありませんよ!」
「そういう仕草、萌える」
「萌え」
赤いペンキでもぶつけられたかのように彼女の顔は真っ赤になった。
萌えますなあ。
「異世界、エルフ、イコール、萌え」
「その方程式は正しいな、いつだって日本では異世界のエルフは萌え対象だ、異世界って設定が無くともエルフってだけで萌え対象なのさ」
「日本人はエルフが好きなのですか……?」
俺達は頷いた。
つまり、俺と蔵曾は少なくともエルフが好きという証明である。
あの横に伸びた耳とかさあ、青かったり赤かったり、それぞれだけど綺麗な瞳とかさあ、女性のエルフって何故か誰もがスタイルいいし見てて眼福ものだぜ。
「い、行きましょうっ!」
照れてる照れてる。
足早に先へ進む彼女に、俺達は微笑を浮かべてついていった。
街の入り口、そこへ到着したならば目の前に広がるのは森、丘への道は真っ直ぐに伸びているが人気は無い。
この森のどこかにアルヴさんは潜んでおり、人獣族の様子を伺っていると思われる。
「オウルエイスなら、どこに潜む?」
「……私なら、魔法を使わずとも街の様子を伺える場所に、でしょうか。領土を支配できているのならば魔物などの危険は多少無視できるかと」
「そう、なら山に近い場所。街を見渡せるくらいの高さのある場所、そこが濃厚」
「しかしそうとは限りませんよ……?」
「オウルエイスは頭が良い、エルフの長も然り。考える事は似ている」
と、言われてもオウルエイスさんは困りましたねと言いたげに眉毛を下向きに弧を描かせた。
「あとは何か、ある?」
「そう、ですね……現状からして、人獣族が近場にいれば警戒対象かと。しかし使者の可能性も踏まえて一度接触を図るかもしれません。私なら半日を使って人獣族の行動範囲に陣地を構えます」
「解った。人獣族に化ける」
「化ける?」
俺は首を捻った。
「それは魔法による擬装ですか? しかし魔法を使用しては感知されますが……?」
「魔法を使わなければいい」
「ど、どうやって……?」
あー、そう。
そういう事。
蔵曾、お前、魔法を使わないであのでたらめな力で俺達を人獣族に化けさせるつもりだな?
「こう」
蔵曾は両手を俺達へ突き出した。
両手には青い光、それは放たれて俺達を包み込んだ。
「猫耳、犬耳萌え」
オウルエイスさんの頭には猫耳が生え、頬には三つのひげ、爪はとがって尻尾が尻あたりから伸びてきた。
人獣の完成だ。
「な、なっ!?」
「見た目だけ、変えた」
俺にも同様にその光に包まれた。
体の異変は感じている。
頭部と、手足を主にな。
「……俺は犬耳か」
「萌える」
「うるさい」
鏡があったらちょっと見てみたいかも。
なんかさ、尻尾のあたりに力を込めると左右に揺れる感触があるんだよ。
「喜んでる?」
「喜んでねえよ! 動かしてみてるだけだよ!」
何を?
そりゃあ生えた尻尾だよ!
「可愛い」
「お前もな」
蔵曾もちゃっかり人獣に。
元々フードには猫耳が生えていたけど、フードを取っても猫耳。
お前はもうそのままでいいんじゃない? 素顔も見れて可愛いぞ。
「ぞ、蔵曾様の力は本当に理解が出来ません……仙人とは神様の持つ力に匹敵するものなのでしょうか?」
「そう」
神様の力なんだけどね。
偽りの仙人であって。
「どう? 人獣は」
「落ち着きませんっ」
でしょうね。
オウルエイスさんは似合いすぎて写メ取りたぜ。
携帯電話を取り出したけど充電を一切してなかったから電池切れ、もし写メできてたら待ち受け画面即決だったね。
「もふさせて」
「も、もふっ!?」
「おいおい蔵曾、もふってる場合じゃねえぞ」
「……残念」
蔵曾は続けて光を放ち、俺達の服装は白を貴重とした服装となった。
胸には妙な模様が施されている。
「これは……」
「人獣族の使いの者、服装を真似た」
「ならエルフに見つかったら使いと思われるわけだ」
「長のもとまで案内してもらう」
うまくいくといいが、うまくいかなかったとしても蔵曾はうまく乗り切るほどの力を持っている。
チートとしか言えないぜ蔵曾よ。
「浩太郎」
「なんだ」
「物語を書く場合、猫耳っ娘入れたい」
「いいんじゃね? 猫耳っ娘も好きだぜ」
「猫耳っ娘は日本の素晴らしい文化の一つですね」
「激しく同意、是非登場させたい」
オウルエイスさん、文化というよりそれは萌え要素かな。
「蔵曾様は物語を書くのが趣味なのです?」
「そう。将来は大物ラノベ作家」
なれたらいいね。
今頃お前と同じく作家を目指している人達は文章を見直したり、どのような表現が的確で皆に読みやすく伝わるか、どんな話が面白いかと試行錯誤している頃だぜ?
その中には誰も異世界で観光する奴なんかいやしない。
断言できる。
絶対にいやしない!
「ラノベはいいですね、私もあちらの世界に滞在中は読んでおりました」
「どんなラノベが好み?」
「学園もの、ですね。こちらには学園というものがなかったので、その学園という空間での恋愛というのは非常に新鮮で楽しめました」
「学園もので、猫耳っ娘を取り入れてみよう」
「書き終えたら是非読みたいです!」
どういう物語を書くつもりだおい。
その話はさておきだ。
今は和気藹々としていられる時間ではない。
俺は生えた尻尾で蔵曾の腰に打撃を与えた。
「その使い方、萌え」
「拳骨かチョップのほうが良かったか?」
「やめて」
猫耳をぱたりと伏せて、蔵曾は両手を頭に当てた。
ほら、さっさと行くぞ。




